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スキマバイトアプリ『スキトル』で得た経験は、異世界ではチートスキルでした  作者: 黒木吼


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第3話 異世界で仕事!

ようやく、目が覚める。


悪い夢だった。

そう思った。


右の頬の痛みに顔をしかめながら、ゆっくりと体を起こす。

……頬の痛み?

右頬をさすると、ぬるりとした感触があった。


手を見る。

固まりかけた血がついた。


その瞬間。

目に入っていたのに、意識が認識していなかったものを見つめた。


ゴブリンの死体。

目の前に、横たわっている。


……いつからだろう。

気づき始めていた。


夢じゃない。

そんな気がしていた。


それを、改めて現実として突きつけてくる。


頬の痛みが。

目の前のゴブリンが。

この、理由の分からない世界が。


そういえば、電話でなんて言ってたっけ?

ズボンのポケットをポンポンと確かめる。


……スマホ、ない。


……。


……。


「……クソッ。……どうすればいいんだよ!」

ゴブリンを睨みながら吐き捨てる。


日の高さや周りの状況から察するに、気を失ってから、あまり時間は経っていないようだ。

そのまま、しばらく座り込んでいた。


……『スキトル』。

「ブォン」

声に反応して、『スキトル』の画面が現れる。


とりあえず、ここから現実に戻る手掛かりは、今のところ、この『スキトル』しか思い浮かばない。

画面を上から、じっくりと確認していった。


……レベルが2になっている。


【レベル:2】

体力:11/20[+5]

魔力:1/15[+5](!)

力:8[+3]

耐久:9[+3]

敏捷:6[+3]

知力:6[+3]


横についているプラスは、増加した分の数値かな?

体力は、最初より減っている。

これが0になったら……。

考えるのはやめよう。


魔力……1って。

それに、この「!」はなんだ?

「!」をタップする。


『魔力がなくなります。0になると意識が保てなくなるので注意してください』


……さっき気を失ったのは、このせいか。


魔法を連発して、魔力が枯渇した。

もし、ゴブリンを仕留める前だったら……。

今さらながら、身体が震える。


力とかも増えているが、これがどれくらい強くなったのかは分からない。


スキルは……変化なし。


とりあえず、【亜空間倉庫】の詳細を見てみる。


『右手で触れながら「収納」と言うと、亜空間へと収納されます。取り出す場合は「搬出」と言うと、左手から放出されます』


側に生えている草をむしる。

「収納」

草が右手に吸い込まれるように消えた。


すると、【亜空間倉庫】の横に、宝箱のようなマークがついた。

宝箱をタップする。


『「インベントリ」と唱えると、【亜空間倉庫】の収納状況が確認できる画面が開きます』


「……インベントリ」


横に5マス。

縦に3マス。

合計15マスの画面が出てきた。


その一番目に、草のマークみたいなイラスト。

イラストの右上には『×1』の表示がある。

同じ草を収納してみると、『×2』になった。

最高で『×5』。

1マスで同じものなら、5個まで収納できるようだ。


左手を出す。

「搬出」

シュンッ。

草が左手から現れた。


これ、どのくらいの大きさが収納できるんだろう?

後でまた、要検証だ。


次は【鑑定】。

物の名前など、いろいろな詳細が分かるらしい。

視界に入れて「鑑定」と言えばいいようだ。

とりあえず、さっきの草を見る。


「鑑定」

『草。食べられないこともない』

……微妙だな。


今度はゴブリンを見る。

「鑑定」

『ゴブリン。屍のようだ』


……あまり使えないような。


【マップ】

見た目は、スマホの某マップにそっくり。

だが、現在地を中心に5キロしか見えないらしい 。


【解体】

魔物や動物の解体が、上手く、早くなる。

チラリとゴブリンを見る。

……保留で。


最後のスキル、【思考加速】。

高速の予測と分析により、相手の動きが分かる。


そういや、ゴブリンの攻撃を無意識に防げたのは、このおかげだろうか?

まあ、防ぎきれずにガッツリやられたんだけども。


で、あとは……。

現実でも意味不明だった、獲得バッジ。

それが【EX《エクストラ》スキル・スキトル】に変わったのか。


こっちのほうが、意味は分かるな。

たぶん、今見ているこれだよね。

目の前に24インチのモニターを縦で見ているような、半透明の画面。

これが【EXスキル・スキトル】なんだろう。


【無遅刻無欠勤】

【多才な人材】


これ、本家『スキトル』のまんまだ?

さすがに、これは変換無理だったかな。


ダメ元で【無遅刻無欠勤】をタップする。


【無遅刻無欠勤】

『1時間の睡眠で体力、魔力が15%回復する。軽度の怪我や状態異常も回復する』


……なんですと?

あっちでは、意味不明だった称号《バッジ》が、すごい事になってる。

… 確かに睡眠って大切ですよね。

歳をとると、あまり寝られなくなってもくるんだけども。


気を取り直し【多才な人材】をタップする。


【多才な人材】

『多くのスキルを持てる。現在の最大所持数:10』


へー。 なんか、スキルをいろいろ獲得できるのか。

……スキル。

獲得。

なんか忘れて……。


あっちで使っていたスキマバイトアプリの『スキトル』とほぼ変わらない、このEXスキル『スキトル』。

ある画面――アプリでもあった『スキトル』での『仕事終了の報告』画面を呼び出した。


【ゴブリンの討伐】

その下にある【終了報告】をタップする。

すると【終了報告】が消え、代わりに【報酬受取】へと変わった。


うん?

これは初めて見る仕様だ。


【報酬受取】をタップする。

「ピロリン♪」

スキルの項目に、新しいスキルが表示された。


【生存本能】

『危険感知が鋭くなる。体力が50%を下回ると、力と敏捷が10%上昇する』


生き残るための慎重さ。

そして、火事場の馬鹿力と逃げ足。

今の私には、うってつけのスキルのようだ。

……まあ、どれくらい効果があるのかは分からないけど。


いつものクセで、新しい仕事の募集ページ『募集中のお仕事』を開く。


……仕事の募集がある。

【コカトリスの討伐】 推奨レベル:12

【とある魔術師の眠る洞窟の探索】 推奨レベル:20

【オークの討伐】 推奨レベル:8

【(派)ホブゴブリンの討伐】 推奨レベル:3

などなど。


さっきのゴブリンは、推奨レベルすら表示されない。

チュートリアル。

生きるか死ぬかの、紙一重の泥仕合だった。

それで、今レベル2。


一番低い依頼でも、推奨レベル3。

……これ、どうするの。

というか、このコカトリスってなんなの。

報酬が【石化耐性(スキル)】ってさ。

これ、絶対に石化攻撃してくるよね?

石化耐性がないとヤバいよね?

なんというか……。

ニワトリが先か、卵が先かみたいな報酬になってるよ。


こんなのが……。

【場所:北東4.2キロ先】

……にいるらしい。


あれ?

オークは……西3.6キロ。

んで、これが……。


「マップ!」

現在地を確認しようと、この某マップ激似のスキル【マップ】を開いた。

すると、マップに赤い三角のマークが点在していた。

……どうやら、スキトルで紹介されている仕事の魔物の位置を表示しているようだ。


トンネルみたいなマークは、洞窟かな?

なんという親切設計。

これを確認しながら逃げていけば、なんとかなりそうだな。


とりあえず、『スキトル』にある魔物たちから均等に離れることができる場所まで行こう。

ここは開けすぎていて危険だ。

チュートリアルのゴブリンから逃げ切れなかった 私に、ここで他の魔物から逃げ切る自信なんてない。

とにかく、今は見つからないことを最優先にしなければ。


私はデイバッグを拾い、南へ向かって歩き始めた。


     ◇

まず、マップに表示されている魔物を避ければなんとかなる作戦は、すぐに瓦解した。


ゾクリ。

前方から、嫌な感じが伝わってくる。


私は、そっと木の陰に身を隠した。

……ゴブリンがいる。

しゃがみ込み、何かを食べている。


そっと後ずさりして、距離を取る。

すると、嫌な感じが消えた。


……これは【生存本能】の危険感知の効果だろうか?

だとするなら、ゴブリンの脅威は、ここまで離れれば大丈夫ということか。


だが、用心に越したことはない。

私は小さな声で『スキトル』を呼び出した。


スキトルで募集されている、魔物の討伐ジョブを確認していく。


……いま見たゴブリンの依頼らしきものは、ない。

つまり――。

『スキトル』は、近隣にいるすべての魔物を掲載しているわけではない。


どうする?


だが――。

何が正解か分からない。

手探りの現状だ。

とりあえず、先に進んでみよう。


ゴブリンを大きく迂回し、慎重に目的の場所へ行くことにした。


     ◇


小さな川が流れている。


マップには表示されていなかったが、嬉しい誤算だった。

デイバッグに入れていた水筒の中身は、だいぶ減っていたから。


時間は、昼くらいだろうか。

目的の場所に、ようやくたどり着けた。

直線距離では2キロだったが、危険を察知しては避けて迂回することを繰り返したため、だいぶ時間がかかってしまった。


というか、この森……危険だらけじゃないか。

どれだけ迂回したんだよ。


「ぐぅー……」

腹減った。


とりあえず、デイバッグの中に入れてあった「おにぎり」を取り出した。


これ、一気に食べるべきか。

それとも、半分くらい取っておくか。

悩んだ末、一気に頬張る。


「イテッ」

口を開けると、頬の傷が痛んだ。

触ると、だいぶ瘡蓋になっているようだ。

短時間でここまで治るなんて。

これはレベルが上がった効果だろうか?


「ゴクン」


あれ?

おにぎりが消えた。

そう思うほど、あっという間に食べてしまった。


……足りなさすぎる。

こんなに食欲を覚えたのは、久しぶりだな。

歳をとると、食べる量もだいぶ減って、淡白なものを好むようになった。

だが、今はいくらでも食えそうな気がする。

脂っこいものもガッツリと。


どうなったんだ、私は。


レベルが上がって、体力などが上昇した。

そして、傷の治りも早い。

身体が、それらの変化のために栄養を欲しているのかもしれない。

異様な食欲を持て余してしまっている。


とりあえず、ここを拠点にして、食料でも探すとしよう。

まずは、水は側の川からとることにする。


生水は……って、そんなことを言っている場合でもないしな。

雨風を避けるところもほしい。


だが、まずは火をどうするか。

生水はまだしも、そのままの生肉、生魚は無理だ。

とりあえず、これが最優先事項か。


ーー。


木々の茂っているここなら、薪の調達は容易だった。

枯れた小枝や木を集め、小山になった。


デイバッグからカッターを取り出す。

よく枯れた一枝を削る。

薄く、かつお節みたいに。

……おかか、食べたい。


そして、太めの薪に窪みをつけて、木の棒をゴシゴシともんで摩擦で火をつける。

……のは、よくある話だよな。

んで、失敗するの。

ですが、伊達に歳を重ねてませんよ。


キラリと光った眼鏡を外す。

ここ数年前から老眼になった私の眼鏡は、遠近両用メガネ。

下側は老眼鏡になっている。

いわゆる、虫眼鏡とおんなじ感じ。

そう、これを使って……。

あの、あれ……太陽? だよね。

この太陽(仮)の光で、虫眼鏡(老眼鏡)着火ミッションを開始した。


「パチッ……パチパチ」


見事に火がついた。

額には、汗の玉が浮いている。

焚き火の熱さでではなく、冷や汗で。


まあ、なんとか上手くいったので良しとしよう。

あとは、消えないように……。


暑いな、今は初夏くらいの暑さか。

焚き火のそばにずっといるのは、いささか苦行だ。


川辺に移動した。

川幅は5メートルくらい。

とても澄んでいる。

流れは、結構あるかな。

深さは、底の石が見えるくらいなので、深くはなさそうだ。


魚影があちこちに見える。

その一つに、小石を放ってみた。


ぱっと、散る。

手で捕まえるのは無理だ。


「なんか、いい方法はないもんかね……」

『スキトル』を開いた。


土魔法。

あのとき、ゴブリンをなんとか倒せたのは、この魔法のおかげだ。

これからも、この魔法が文字通りの命綱となるだろう。


私は、知らなければならないことを、知る努力を少しずつ始めた。


【ストーンアロー】

消費魔力は1。

魔力が満タンで15だから、15発は撃てる計算だ。


だが、魔力が0になると意識がなくなる。

結果、14発が撃てる弾数だ。


現在の魔力の残りは……9か。

朝くらいに魔力が0になって気絶。


魔力1で意識が戻って、今が13時17分。

起きたのが朝9時くらいと仮定するなら……。


魔力は今のところ、30分くらいに1回復しているってことか。

今が13時17分と45秒……。


……改めて、こうやって見ると、本当にいろいろ分かることがある。

なにより、『スキトル』の一番右上に「時計」があったんだもん。


灯台下暗しって、よく言いますね。

人って、見ようとしないと見えないものが、本当にあるんだね。


とりあえず、一発いってみますか。

「ストーンアロー!」


7、8メートル先にある、太ももくらいの太さの木に向かって撃った。


「バチュン!」

すごい音がした。


近くに寄ってみる。

500円玉くらいの穴が穿たれている。

貫通していた。


……これ、威力上がってない?

レベルが上がると、威力も上がるみたいな?


魔力は8/15。

1減っている。


射程距離とか命中精度とか調べたいけど、魔力は温存しておきたい。

あと、これで川にいる魚を狙い撃てる気もしない。


次。

「マッドフィールド」

消費魔力は2。


対象は木でやったら、ちゃんと発動した。

木を中心にして、半径3メートルくらいが泥沼になった。

木は倒れない。

そんなに深く作用はしないのだろう。

発動時間は10秒くらい。


地面をポイントに定めても、発動した。

これ、罠かなんかにも使えるな。

これも、魚を取るのは無理そうだ。


あと、いろいろと調べたいけど、とりあえず食料問題をなんとかしないと。

この異常な空腹感を放置するのは、ヤバい気がする。


なんだかんだしていたら、16時03分。

空を見る。

だいぶ日も傾いている。

鳥も暗くなる前に巣へと帰るのに忙しそうだ。


……。


……。

……ふらりと立ち上がり、鳥を追っていった。


     ◇


追っていった鳥は途中で見失ったが、偶然にも違う鳥が木の枝で鳴いているのを見つけた。

鳩くらいの大きさだ。

色はオレンジ色かな。


……食べれるよね?

あっ、そうだ。


「鑑定」

『ベリーイーター』

『ワイルドベリーを好んで食べる』

『おいしい』


相変わらずのざっくりとした説明。

しかし、ベリーとか、あるのか。

そのことが知れただけでも、すごいスキルなのかもしれない。


鳥がこのあたりにいるなら、案外ベリーの群生地帯が付近にあるのかも。

ベリー探しを、やることリストに追加した。


ベリーイーターとの距離は15メートルくらいか。

魔力はさっき回復して11になっている。

なんかあったときのために、最低でも5くらいは残しておきたい。

今の私には、この魔法のみが戦う手段だ。

最高でも『ストーンアロー』を6発以内で仕留めないと。

5メートルくらいなら、当てられる感じはする。

10メートルは心もとないな。


ゆっくり鳥へと忍んでいく。

鳥は警戒心が薄いのか、楽に10メートルあたりまでは近づけた。

このまま、もう少し近づくべきか。

少し悩む。


そっと、右手をベリーイーターに向けた。


息を吸う。


ゆっくりと吐きながら、集中する。


息を止めて様子を見る。


…。


「……ストーンアロー」

囁くように吐き出す。


「バシュン!」

「パンッ!」


ベリーイーターの頭が吹き飛んだ。


ぼとり、と木から落ちる。


立ち上がり、残った息を吐き出した。

「ハー……ッ」


なんとか、夕食にはありつけそうだ。


     ◇


枝を足した。

「バチバチバチ」

木の乾きが少なかったのか、激しい音を立てて燃える。

濃い煙が上がる。


動物は火とか煙を嫌がるみたいな……そんな浅い知識だが、信用するしかない。

魔物が動物かって感じだが、そのうろ覚えの知識が正しいことを願うばかりだ。


「解体」スキル。

血抜き、羽をむしり、内臓を取り、木の串に刺す。

まるで、流れるように終わる。


あとは、びっくりした私が、これを火で炙るだけ。

スキル様々だ。


日はもう暮れている。

「ハーッ……」

ため息をつきながら、暮れた空を見上げると、月が二つ浮かんでいる。


信じられない一日だった。

まだ夢ではないかなっていう希望は持ってんだがな。


頬にまだ残っている痛みが……教えてくれてるんだ。

目を覚ませってさ。


「世界を救って」だったよね。

元の世界に戻るには、今いる世界を救わないといけない?

何から救うの?

疑問が疑問を呼ぶ。


考えても答えなんて出ないのは分かっている。

これから、どうしよう…。


肉はきつね色になり、獣脂を滴らせている。

とりあえず、この空腹を満たせば、いい考えも出るかな。


火からおろして、匂いを嗅ぐ。

匂いは良い。

焼き鳥屋の前を通ると漂ってくる、あの匂い。

ちょっと、かじる。


「ムシャ」

……。

「ムシャ、モシャ」

……。

「モシャ、モシャ、モシャ!」

無心で食べた。

旨い。

なんてもんじゃない。

こんな旨い鶏肉を食べたのは、初めてだ。

さっきまでの悩みは、吹っ飛んでいた。


「美味いー!」

どうしようもなく叫んだ。


「うまい、うまいよ」

こんなに、物事に感動することも最近はなかったな。


現実の世界じゃ、毎日が単調なことの繰り返しってのもあったんだけど。

……そんな、同じ繰り返しの毎日が、何かを麻痺させてたのかな。


不破和彦は泣きながら、食べていた。


読んでいただき、ありがとうございます!

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