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スキマバイトアプリ『スキトル』で得た経験は、異世界ではチートスキルでした  作者: 黒木吼


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第4話 権利を勝ち取った仕事

 朝日の眩しさで目を覚ます。


 スキトルで時間を確認すると――午前5時24分。


「やばい。寝坊だよ」


 元の世界では、毎日朝5時に起きていた。


こんな状況でこそ、日課は崩さないほうが良い。


 俺は慌てて飛び起きた。


「イタタタ……」


 腰が痛い。


 首もこわばっている。


 昨夜は焚き火の近くの地面に、そのまま寝たからだろう。


 身体の節々が痛かった。


 周囲には、朝靄が薄くかかっている。


 とりあえず、顔でも洗ってサッパリするか。


 そう思って立ち上がろうとした瞬間――


「痛っ!」


 こんどは足に激痛が走った。


 昨日のデス・マラソンが、かなり堪えているらしい。


 そういえば、自然治癒がアップするスキルが付いていたはずだが。


 48歳の身体には相当なダメージだったらしい。


 頬の傷はほぼ完治している。


 俺はデイバッグからタオルを取り出し、脚を引きずりながら川へ向かった。


「バシャ、バシャ……」


 冷たい水が気持ちいい。


 そのまま顔を水につけ――


 ゴクゴクゴクッ。


 水を飲んだ。


 生水は大丈夫なのか?


 そんな心配をしていた、昨日までの俺をぶん殴りたい。


 水が美味い。


 ただの水が、だ。


 喉の渇きを潤す程度では足りず、かなりの量を飲んだ。


 おかげで腹はタプタプだ。


 ……そして当然。


 次に襲ってきたのは尿意だった。


「トイレ……」


 そこで、ふと思い出す。


 そうだ。


 この世界には、トイレがない。


 昨日は一度も用を足していなかった。


 ……してなかったよな?


 もしかして――。


 まあ、今は考えないでおこう。


 俺は適当な場所を探し、


「ふぅー……」


 用を済ませた。


 スッキリ。


 ……。


 ズボンとパンツを脱ぎ、水で洗う。


 ついでだ。


 ポロシャツも脱いで、一緒に洗う。


 腰にタオルを巻き、絞った衣類を木の枝に掛けて干した。


 これでよし。


 朝食は……ない。


 昨日仕留めたベリーイーターは、すでに腹の中だ。


 昨日ほどの飢餓感はないけど。


 だが、腹は減っている。


 食料を確保する必要があるな。


 その前に――。


 まずマップを開いた。


 表示されている魔物の位置を確認する。


「……あれ?」


 昨日はマップに表示されていた魔物のマークが、ほとんど消えている。


 残っているのは――一つだけ。


 俺は、そのマークをタップした。


『(派)ゴブリン・ファイターの討伐』


 とりあえず、スキトルも開いてみる。


『本日のお仕事の依頼』


 表示された依頼を確認すると、昨日あったコカトリスなどの依頼は消えていた。


 ほとんどの内容が一新されている。


 唯一、昨日から残っている仕事は、マップにマークがついているーー


『(派)ゴブリン・ファイターの討伐』


 これくらいか。


「……これ、昨日俺が最初にいた場所をうろついているみたいだな?」


 それにしても、依頼の更新条件が分からない。


 時間や日付で更新されるのか。


 それとも――。


 俺のマップに表示される範囲。


 その中にある「報酬の良い仕事」が、『募集中のお仕事』として表示されるのか。


 たぶん、後者だろうな。


 そして、いま表示されている『募集中のお仕事』の中に、一つ気になる依頼があった。


『ゴブリンの討伐』


『推奨レベル:1』


『時間制限:なし』


『場所:西南526m』


『報酬:住処の横穴(拠点)』


「……拠点?」


 住処の横穴。


 つまり――。


「住む場所ってことだよな?」


今日は、なにか寝床を作ろうかなと思っていたところに…。


なんか、都合が良すぎないか?


もしや監視されてるみたい?。


でも、まあいい、決まりだ。


 「不破和彦のお宅訪問!」


     ◇


 マップを確認しながら、目的地へ向かう。


 仕事はすでに受注済み。


 今日は、とりあえず様子を見るつもりだ。


 無理そうなら逃げる。


 それくらいの気持ちでいい。


 マップを見ながら進んでいると、目的地まであと少しになった。


 スキトルで確認する。


『場所:西南28m』


 かなり近い。


 ちなみに、スキトルの画面とマップは同時に表示できる。


 これは便利だ。


 イメージとしては、24インチのモニターを縦に二つ並べているような感じだ。


 俺は二つの画面を頻繁に見比べながら進んできた。


 だが――。


「……マップ、見づらいな」


 表示範囲が広いせいで、細かい部分が分からない。


 スケールバーも1km。


 これじゃ、目的地の詳しい状況までは把握できない。


 ……ん?


 某マップアプリみたいに、拡大とかできないのか?


 試しに画面を指で広げてみる。


 グイッ。


 グイーッ。


「……できるじゃん!」


 マップが拡大された。


 さらに拡大する。


 すると――。


 スケールバーが、なんと5mまで小さくなった。


 その瞬間。


 ポポポッ。


 マップ上に、緑色の丸いマークが浮かび上がった。


「なに、これ?」


 とりあえず、近くにある緑色の丸をタップする。


『マーシュきのこ』


『食用。美味しい』


「おお……」


 別のマークをタップ。


『ヒール草』


『薬草』


「……」


 いきなり情報量が多すぎて、俺の頭がフリーズした。


「これ……こんな情報まで分かるのか?」


 マップ。


 ちょっと使えないな、と思っていた過去の自分にドロップキックをかましたい。


 有用すぎる。


 どうやら、マップは拡大することで周囲の情報まで表示されるらしい。


 スケールバーが10m前後になると、周囲の有用な情報が表示されるようだ。


「……これなら、いけるかもしれない」


 俺はマップを見ながら、標的のゴブリンへ近づいていく。


 まずはスケールバーを50m程度にする。


 マップ上部に、ゴブリンを示す三角形のマークが表示されている。


 20mほどまで近づいたところで、さらに拡大。


 スケールバーを30mに。


 そこから、じわりじわりと距離を詰める。


 10m。


 さらに拡大。


 詳細なマップが表示された。


 周囲には、緑色の丸いマークしかない。


 そして――。


 洞窟のようなマーク。


 その中に、赤い三角形。


 ゴブリンだ。


 危険感知は……まだ反応していない。


 もう少し近づける。


 俺は木々に身を隠しながら、洞窟へ近づいた。


 5m。


 ここまで来たところで、マップを最大まで拡大する。


 すると、洞窟のマークが点滅した。


「……?」


 タップする。


 すると――。


「おお……」


 洞窟の内部まで、マップに表示された。


 どうやら、L字型になっているらしい。


 掘って作った穴だろう。


 突き当りまで3mほど。


 そこから折れて、さらに2mほど続いている。


 そして、その一番奥に――。


 赤い三角形。


 ゴブリンが一体。


 俺はしばらく、そのマークを見つめた。


 様子見で来た。


 本当なら、今日は戦うつもりなんてなかった。


 だが――。


 これは、千載一遇のチャンスなのかもしれない。


 敵は一体。


 しかも、こちらの存在に気づいていない。


 マップのおかげで、敵の位置は丸わかり。


 地形も分かっている。


 そして何より――。


 俺の土魔法を最大限に活かせる場所だ。


 条件が揃いすぎている。


 唯一の問題は――。


 俺が服を干したままだということ。


 つまり。


 腰のタオル一枚。


 ほぼ真っ裸だ。


「……まあ、いいか」


     ◇


作戦は決まった。


マッドフィールドのは相手が見えないと、発動できない。


まずはゴブリンを穴の奥からおびき出す。


 入り口付近で「マッドフィールド」をしかける。


 マッドフィールドにかかったのを、ストーンアローでしとめる。


 魔力はフルの15。


 いける。


 数度のイメトレをしたあとに覚悟を決めた。


 ……。


 穴の入口。


 2mくらいか。


 ……。


 まずは、誘い出すために穴の奥に手頃な木の枝を投げた。


…。


反応がない。


寝てるのか?


ちょうどこぶし大の石があったので、それを投げ込む。


「ゴツーン」


…。


静かだ。


こんどは入口付近までいき叫んでみることにする。


…。


「こんにちはー!」


「グアッ!」


 たぶん、人で言えば、「ウワッ」みたいな感じで奥から声が聞こえた。


 「ウォッ」


おれも、突然の反応に似たような声が出た。


あわてて、入口から距離をとろうと駆け出したとき、ゴツッ!背中に衝撃が走りつんのめる。


ドサッと前にこけた。


とっさに見るとさっき俺が穴に投げ込んだ石を投げ返したらしい。



 穴からゴブリンが飛び出してきた。


 やばい。


俺は立ち上がりざまに叫ぶ。


「マッドフィールド!」


 穴から1mくらい飛び出したところで、失速した。


 昨日見たゴブリンと全く同じ見た目。


 ゴブリン同士から見たら違いがわかるのかも識れないが。


 あの恐怖が蘇る。


 まったく同じ状況が恐怖に拍車をかける。


 なにかの皮を腰に巻いたゴブリン。


 マッドフィールドで動きを封じられて、発狂している様子。


 血走った目。


 それに映る、俺。


 たがいに、動けずに相対している。


 昨日と同じ状況。


 そう、俺もまた、自分のマッドフィールドの効果範囲に入ってしまったようだ。


 昨日のように。


 だが、違うこともある。


 俺は自分の能力を把握していること。


 ほぼ、真っ裸であること。


 タオル一枚。


 見た目はゴブリンの皮一枚とおなじ。


 同じ土俵にたつ宿命の1人と1匹。


 俺の頭はあの時のように熱くはなっていない。


 いたって、クールだ。


 スースーしやがる。


 スッと右手をゴブリンの頭へと向ける。


「ストーンアロー」


「バシュン!」


 糸の切れた人形のように、ゴブリンは崩れ落ちた。


 マッドフィールドの効果時間は10秒。


 まだ、魔法が解けていない。


 戦いの濃密な時間は、時の流れを遅く感じさせる。


 昨日と同じように。


 昨日と違うのは、結果を見届けられたこと。


 殺したという罪悪感は不思議とない。


 今の俺の心情を言葉にあらわすなら、この世界で生きるという、「権利を勝ち取った」。


 そんな感じかな。 




     ◇


 10秒が経過した。


 マッドフィールドが消える。


「ハァ…」


緊張が溶けてどっと疲れが押し寄せてくる。


 俺はスキトルを開いた。


「終了報告」


 タップ。


『ピロリン♪』


『報酬受取』


『住処の横穴を獲得しました』


これで、雨風をしのげる場所を手に入れたわけか。


『ピロリン♪』

『マップにて拠点として連携可能です』


「……」


 拠点として連携?


 俺はマップを開く。


 洞窟を示すマークに、「!」が点滅していた。


 タップする。


『住処の横穴を拠点と連携しますか?』


『YES/NO』


「…YES」


 タップした瞬間――。


 マップが、横穴の拡大画面へ切り替わった。


 そして、画面の下にはいくつもの項目が並んでいた。


『寝床 30P』


『照明 20P』


『収納 50P』


『調理設備 50P』


『風呂 30P』


『トイレ 30P』


『防衛設備 100P』


『畑 100P』


「……なんだ、これ?」


 試しに『寝床』をタップする。


『30Pを使用して、寝床を取得しますか?』


『所持拠点ポイント:50P』


「……50P?」


 いつの間にか、知らないポイントを持っている。


 さらに『拠点ポイント』の項目をタップする。


『拠点ポイントは、拠点の改装や強化に使用できます』


『ポイントは、魔物の討伐、仕事の達成などによって獲得できます』


「なるほど……」


 ゴブリンを二体倒したこと。


 そして、今回の仕事を達成したこと。


 その報酬として、50Pになったのだろうか。


 あるいは、最初のチュートリアルで貰ったポイントが、かなり大きかったのかもしれない。

ポイントの価値がイマイチ判らんな。


 どちらにしても――。


「慎重に選ばないとな」


 今持っているのは50P。


 俺は表示された項目を見比べる。


 寝床も欲しい。


 収納も欲しい。


 照明もあったほうがいい。


 でも――。


「やっぱり、調理設備かな」


 外で火を使うのは、雨が降ったら不便だ。


 それに、魔物は火を怖がらないのかもしれない。


 逆に、火を使っていることで寄ってくる可能性だってある。


「うん。これにしよう」


 俺は『調理設備』を選択した。


 持っている50Pを、全額投入する。


「ポチッとな」


 シュンッ!


「……え?」


 洞窟の入口に、何かが現れた。


 かまど……ではない。


「システムキッチン……?」


 バーナーが三つ。


 グリルまで付いている。


「すご……」


キッチンの収納を確認すると、調理器具、皿等、万能包丁に…このよくある調味料ケースに入っているのは…塩だ。


 まさか、こんな現代的で凄いものが出てくるとは思わなかった。


 ありがたい。


 本当にありがたい。


 ただし――。


「……なんで入口の真ん中なんだよ」


 キッチンが、洞窟の入口を見事に塞いでいる。


 押してみる。


 ……動かない。


 持ち上げようとしても、びくともしない。


「どうしろと?」


 俺はマップを開いた。


こんな、便利機能がこんな間抜けな感じで終わるわけがない!


 すると、洞窟のマップにキッチンを示すマークが追加されている。


「……もしや?」


 キッチンのマークをタップする。


『どこに移動しますか?』


「よし!」


 やっぱり動かせる。


 俺はキッチンを、L字になっている角の部分へ移動させる。


「おっ……いい感じ」


 入口を塞いでいたキッチンが、邪魔にならない場所へスッと収まった。


「何ということでしょう」


 思わず、某リフォーム番組のナレーションみたいな言葉が出た。


 これ、かなりすごいスキルじゃないか?


 ただ――。


「風呂も、欲しいな……」


 風呂には50P必要。


 そして、俺の拠点ポイントは0。


「……ポイ活、頑張らないとな」


 まさか異世界に来てまで、ポイ活をすることになるとは。


 なにはともあれ。


 新しい住処が決まった。


 俺は、もと来た川辺へ向かう。


 俺は干してある服とデイバッグ。


俺の唯一の持ち物を取りに、来た方向へともどっていった。

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