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スキマバイトアプリ『スキトル』で得た経験は、異世界ではチートスキルでした  作者: 黒木吼


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第2話 夢でも仕事

これ、仕事の詳細ってどうなってるの?

ゴブリンを倒せなかったら、残業?


定時上がり希望なんですが?

夢だとわかってても、妥協はしませんよ?


【詳細内容】をタップする。


『ゴブリンの討伐。

時間制限:なし

場所:右後方、15メートル』


…ん?

……場所……右後方って。


『ゴブリンの討伐。

時間制限:なし

場所:右後方、14メートル』


あれ?

……近くなったけども。


寝っ転がって『スキトル』を見ていた私は、上体を起こした。


『スキトル』の画面下部にある【画面を閉じる】をタップする。

目の前に展開していた『スキトル』の画面が、シュンと消えた。


視界が開ける。

そして、右後方へと首を回した。


「ウワッ!」

「グギャッ!」


――それがいた。


色は苔緑色。

腰には、何かの皮を巻いている。

小さい形《なり》を尚《なお》も小さくして、こちらを凝視している。


見た目は子供。

頭は大人。

明晰夢ゴブリン!

……冗談はさておき。


そいつは気配を殺しながら、こちらを狙って近づいていたらしい。

見れば見るほど、醜悪さがあふれまくっている。


歯はすべてが犬歯のように尖っている。

爪も、遠目からでもわかるくらい長く尖っていた。


見つめ合う。

どうしよう?

向こうも動かず、こちらの動向を見ているようだ。


……戦う。

……逃げる。

ゲームで敵に遭遇したときも、こんな選択から始まったよな。

そんな考えが頭をよぎる。


これは夢だし、いっちょやったりますか!


ガバッと立ち上がり、ゴブリンと向き合う。


ゴブリンの獲物を狩ろうとする目には、殺気と獰猛さが宿っていた。


私は駆け出した。


ゴブリンとは逆方向へと。

逃げたのだ。


だって、怖いもの。

あれ、ちょっとした猛獣ですよ?

とある武術家が言ってましたもん。

人間は素手だと、本気のネコにすら勝てないって!


逃げたと見るや、ゴブリンはすぐに追ってきた。


ーー。


「ハァ……ハァ……」

あれから、かなりの時間が経ったように思える。

……たぶん、10分も経ってないだろう。

最初の猛ダッシュは数秒で尽き、すでに河川敷でダイエットのために走っている有閑マダムみたいになっている。


森に逃げ込もうと思った。

けど、あんなのがまだいたらと思うと怖くて、森に逃げるのはやめた。


そうなると必然的に、この木々に囲まれた、ぽっかりと空いている草っぱらをグルグルと逃げ回る形となった。


救いは、ゴブリンは走るのがそう速くないこと。

それと、頭が悪そうなこと。


ただ、諦める気配がまったくない。

夢なのに……横っ腹がすごく痛い。


48歳。

終わりの見えないマラソン。

早く夢から覚めて。


戦う……素手じゃ…絶対無理。


「ハフーッ……ヒューッ……ハヒューッ……」


もう駄目……。


そういや、デイバッグにカッター入れてたな。

アレで……無理か……。


もう考える気力も尽きかけてきている。


後ろを見る。

ゴブリンとの距離は、10メートルも離れていない。


すがる思いで、スキマバイトアプリ『スキトル』を開こうとした。

……が、どうやって開いたっけ?


そういや、叫んだときに出たよな?


とりあえず、叫んでみた。


「スキトルのばか……」


バカ野郎と言う前に、『ヴワン』とさっきの画面が開いた。

バカ野郎はいらないようだ。


前が見にくくなったが、もう何周も回ったお馴染みのランニングコース。

問題ない。


この夢の元凶。

(☆)マーク。


ここに、この夢を終わらせる何かがあると見た!

私は、残りすべての(☆)をタップしまくった。


『ピコン! ピコン! ……』


【亜空間倉庫】

【検品】Lv.19 (☆)→【鑑定】

【配達】Lv.28 (☆)→【マップ】

【農作業】Lv.21 (☆)→【土魔法】

【調理】Lv.2  (☆)→【解体】

【レジ】Lv.1  (☆)→【思考加速】


■獲得バッジ(☆)→EXスキル【スキトル】

【無遅刻無欠勤】

【多才な人材】


せわしなく表示された文字を目で追った。


……土魔法。

これだ!


どうやって使うんだ?

[土魔法]をタップする。


『土魔法が使えるようになる。 段階によって各土魔法を覚える』


【使用可能魔法】

「ストーンアロー」

「マッドフィールド」


「ストーンアロー」をタップすると、使い方が頭に流れ込んできた。


手を対象に向け、石の矢を射る魔法。

「ストーンアロー」と言うことで、魔法が発動する。


最大射程距離:20m

距離が離れるほど威力が減衰。


「マッドフィールド」

対象の地面に魔法の泥沼を発生させ、移動を阻害する。

発動射程:10m

効果範囲:半径3m

効果:自分のレベル以下は移動不可。自分のレベル以上は移動困難または効果なし。

持続時間:10秒


とりあえず、これでいい。

『スキトル』を閉じた。


そして、振り向きざまにゴブリンへと右手をかざす。


「ストーンアロー!」


右手から、本当に何かが発射された。

ポシュン!


走っていた俺がいきなり立ち止まって向き直ったことに驚き、ゴブリンも立ち止まった。

一筋の閃光が走る。


ゴブリンの右こめかみあたりに当たった。

「グアッ!」

とっさに押さえた手から、緑の液体がこぼれた。

あまりのリアルさに、呆然としてしまう。


「ガァーッ !」

ゴブリンは、先ほどの走りが嘘だったかのような俊敏さで迫ってきた。


もの凄いスピード近づいてくる。

私は…それを呆けた目で見ていた。


夢?

現実?


濃い獣臭が、ハッと私の意識を引き戻す。

無意識に右手で顔をガードした。


「ガツッ! ザシュッ!」

ガードした右手は、まるでバットか何かで殴られたのかと思うような衝撃を受ける。


その直後、右の頬に鋭い痛みが走った。


「あつっ!」

両手で頬を押さえる。


ポタリ、ポタリ。

赤い血が、手のひらからこぼれる。


ドクン、ドクン、ドクン。

痛みの音が聞こえる。


ゴブリンは、興奮と歓喜の目で私を見ている。


痛みと恐怖に吐きそうだ。


「ギャギャッ!」


組み付こうと飛びかかってきたゴブリンを、右手で押しのける。

その押しのけざまに叫んだ。


「ストーンアロー!」


「グギャッ!」


ゴブリンは、数メートル先に吹き飛んだ。

ゴブリンの左肩から、緑色の血が流れる。


だが、剥き出しになった目からは、殺意があふれている。


…。


もう、やめてくれ。

怖い。

近寄らないでくれ。


もういいよ。

早く、こんな悪夢から覚めてくれ。


ポタリ、ポタリ。

いまだに頬から血が止まらない。


これは……目から流れる大量の涙のせいなのか。


ゴブリンは三たび、飛びかかろうとジワリとにじり寄ってくる。


……「マッドフィールド」

ポツリと、つぶやくように口から漏れる。


だが、確かに魔法は発動された。


移動阻害魔法。


ゴブリンは、膝くらいまで地面に足が埋まり込む。

俺の三メートル先くらいで、理由もわからずに藻掻いている。


この魔法は、対象の周りの範囲にも効果を及ぼす魔法のようだ。

俺の足も埋まって動かない。


そのまま、ストンと腰を落とした。


疲れたよ。


もう、終わってくれよ。


右手をゴブリンに向ける。

ゴブリンの目に、恐怖が見えた。

「グゴァーーーー!」


「ストーンアロー……」

「ストーンアロー……」

「ストーンアロー……」


…。


「ストーンアロー……」

…。


「ストーンアロー!」


緑の血が飛び散る。

やがてピクリとも動かなくなった。


……死んだのかな?


……ズキン!

頬に受けた傷とは違う痛みが、頭を締め付ける。


意識が遠のいていく。


第2話も最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第3話は、明日21時ごろ投稿予定です。


引き続き、よろしくお願いします。

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