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神の代行者2  作者: 伊東 晶
幼少期編
10/11

幕間1 王剣談話

幕間なのに本編の倍近く長くなってしまったのはどういうことだ?(設定解説が長過ぎる)


「少し付き合え」


 ガルドから唐突にそう言われ、ラグナは彼と二人で酒を飲むことになった。


 場所は、王城の敷地内にある、行きつけのバーだ。頻度こそ少ないものの、ガルドが酒を飲むとなれば、必ずと言っていいほどここを利用している。


 王城の敷地内にある、ということからわかるように、ここのマスターはかなり信頼されている人物だ。


 彼はそもそも平民ではなく貴族出身で、現役の頃には大きな功績を残している。

 そんな彼は酒好きで、当時から落ち着いて飲める場所が欲しかったのだという。そして、子どもが育ち家督を譲ると、当時の国王に許可をもらい、今のバーを開業した。

 このバーのおかげで、貴族や王族も、ある程度は気を抜いて酒を嗜むことができるようになったという。


 ガルドもその一人だ。このバーが無ければ、外で飲むという選択肢は存在しなかっただろう。


「……我がベルスティアの勝利を祝って――乾杯」


「乾杯」


 二人はマスターから受け取ったグラスを軽く突き合わせ、そして中の酒を一口飲む。

 口の中に酒の味と香りがふわっと広がり、ラグナは思わず顔をしかめた。


「相変わらず、酒は嫌いか」


「……嫌いというわけじゃない、苦手なだけだ」


 ガルドの軽口をラグナは訂正する。

 ラグナにとって酒は、何度飲もうとも慣れられるものではない――味もそうだが、酒の席の雰囲気も。


 今頃、騎士団や魔法師団の連中は、此度の戦勝を祝ってどんちゃん騒ぎでもしているのだろう。

 あの空気に中てられると、今でもそれだけで酔ってしまいそうになる。若い頃は、たったそれだけで体調が悪くなるほどだった。


 だが、ガルドと二人でなら静かに飲めるため、そこまでは苦にしていない。


「嫌いじゃないなら、普段から飲めばいいものを。酒に弱いわけでもあるまいに」


「好きでもないのに飲む理由なんぞあるものか」


「私と飲む度に、隣で顔をしかめられるのは気分がいいものじゃない。いい加減、慣れてほしいものだ」


「……お前も大して飲まんだろうが」


「だから普段から飲まねば慣れんと言っとるのだ。偶の酒くらい、気分よく飲ませてくれ」


「…………」


 ガルドに気分よく、のところをあえて強調して言われ、ラグナは押し黙る。


 たしかに、ストレス発散も兼ねた酒の席で、同行者が不快感を露わにするというのは、気分がいいものではないだろう。

 とはいえ、あえて普段から酒を飲む、というのはあまりしたいものではない。別に酒を飲まなければ生きていけない、というわけでもないからだ。


 結局のところ、ラグナは苦手な酒を克服する気は無かったりする。


「で? 今日はなんで飲もうと思ったよ?」


 このまま酒の話題が続くと旗色が悪いと感じ、ラグナは早々に本題を促す。


 ガルドは酒をもう一口飲むと、小さく息を吐いてから切り出した。


「……妻が、もう長くはないやもしれん」


「……そうか」


 ガルドの妻――ナノ・ウルキュラスは、三年ほど前に体調を崩し、それ以来表に出てくることはなくなった。元々彼女は平民の出身で、政治にはそこまで絡んでくることはなかったため、大して話題になったりはしていなかったが。


 ラグナはガルドの護衛であると同時に、幼い頃からの友人でもある。そのため、彼に関する情報を、世間一般の人々よりはるかに多く持っている。


 当然、ガルドの妻が病に冒されているということも知っていた。しかし、まさかそこまで進行していたとは――。


「本当にどうにもならないのか? 例えば……そう、ライフォルスで治療を受けるとか」


「それが最善の手だったろうよ。だが……彼女はもう、《生命の泉》までの旅路を乗り越えられる体力はない」


 ガルドは後悔を滲ませながら言う。


 元平民とはいえ、今は王の妻――王妃だ。他国に頼れば、何かしらの借りを作ることになりかねない。


 そもそも《生命の泉》ライフォルスには既に、軍事的な協力をかなりしてもらっているのが現状だ。国として、これ以上弱みを握らせるわけにはいかなかった。

 結果、自分たちだけではどうにもならないのがわかっていながら手を(こまぬ)き、手遅れになってしまったというわけだ。


 国家間の関係を鑑みれば適切な判断だったかもしれないが、それで個人的な感情が救われるわけではない。


 とはいえ、助けられないとわかっているなら、最低でも次善策を用意しておくべきだ。


「事ここに及んで、お前はまだ側室は迎えないつもりか?」


「当然だ。自慢できることではないが、私は『オス』として欠陥品なのでね」


「…………」


 ガルドが王族である以上、側室をとる権利は当然ある。無論、王族だけでなく、貴族にも与えれられた特権の一つだ。


 《魔導都市》ベルスティア――というより、《天空城》シエリアスルスを除いた六大国の王侯貴族は、その血統を守ることも実質的な義務となっている。つまり、自分の跡継ぎを確保しなければならない、ということだ。

 そのため、不測の事態に備えるためにも、側室をとることを許されている。


 しかし、このガルドという男は、未だに側室をとろうとしない。その理由こそが、彼の語る『オスとしての欠陥』であった。


「私は、好いた女性にしか興奮できない男、だからな。酒に溺れて理性を失おうが、媚薬を盛られて発情しようが、ナノにしかコイツが起きる(・・・)ことはない。

 まあ、他の連中から見れば、絶対にハニートラップに引っかからないから羨ましいらしいがね。だがそれも、今回の件では明らかな欠陥として顕れてしまった」


 そう、ガルドという男は、妻以外はまったく眼中にないのだ。ゆえに、たとえ側室を迎えたとしても、自分の跡継ぎを残せる可能性は限りなくゼロに近い。


 それをわかっているから、わざわざ側室を迎えようとしないのだ。


「ま、そこは努力でどうなることでもないし、仕方ないか……。結局、俺がやるべきは、セリファちゃんを守れるように、レストアたちを育てることだな」


「ああ。よろしく頼む」


 ここで一度会話を区切り、ガルドは最初に注がれた酒の残りを飲み干す。対してラグナの酒は、最初の一口から減っていない。


 ガルドがマスターから二杯目の酒を受け取り、一口飲んだのを見てから、ラグナは次の話題を切り出す。


「ところで、ウルキュラス家の跡継ぎはどうなるんだ? 王位に就くのはセリファちゃんだからお前の跡継ぎはセリファちゃんだろうが……その子供の代は?」


「レグリオの身体次第だな。生殖機能に問題が無ければ、レグリオの子が第一候補になる。ただ、レグリオの子が王としての能力に欠けると判断すれば、セリファの子が跡継ぎとなるだろうな。無論、セリファもまだ子どもだし、レグリオの方が王として相応しいということもありえる」


「今結論を出すのは、時期尚早か」


「そういうことだな」


 ここでガルドは一口酒を飲み、喉を潤す。そしてラグナも、ようやく二口目を飲んだ。


「時期尚早なのは分かった上でだが……もし、仮にだ。セリファちゃんの子が跡継ぎになったら……他の王家から文句が出やしないか? ウルキュラス家含め、他の王家も男系男子が継いできただろう?」


 ベルスティアにはウルキュラス家を含め、四つの王家がある。これを四大王家とも呼ぶ。

 王の任期は決まっており、時期が来れば別の王家へと王位が引き継がれる。そうして、四つの王家で順繰りに王位に就くようになっている。

 この構造はベルスティアという国の成り立ちに起因するものであるが、今回は割愛する。


 ちなみに、王位に就いていない王家は、便宜上公爵家として扱われる。そして、王位に就いていない王家以外の公爵家は存在しない。

 そのため、公爵を名乗る家は、事実上の王家であったりする。


 話を戻すが、四大王家はどれも、男系男子で血を繋いできた。というより、貴族から平民に至るまで、基本的には男系男子が跡継ぎとなっていた。

 これは当初、男尊女卑的な思想に基づくものであったが、約二千年前に《生命の泉》ライフォルスが顕性遺伝子・潜性遺伝子や性染色体を発見したことで、より強固なものとなっていった。


 その後、文明の発展等から男尊女卑の思想は消えていくことになる。

 しかし、《生命の泉》ライフォルスが発見した厳然たる事実から、王家や貴族といった由緒正しき血筋は、男系男子が継ぐことを定められていた。


 そのため、もしその定めから反してしまった場合、他の四大王家からは反発が予想される。ラグナはそれを懸念しているのだ。


 だが――


「いや、それに関しては問題ないだろう。その考えはもはや古い」


 ――ガルドは自信満々っといった様子で言い切る。


「今から……五百年近く前になるか。ライフォルスはとある仮説を発表した。知ってるか?」


「五百年前? ってなると……いや、わからん」


 ガルドの問にラグナは頭を捻るが、しかし出てこない。


「そうか、まあいい。

 その仮説というのは、主に我々王族や貴族といった一部の血筋には、()()()()()()()()()()()()()()()()()、というものだ」


「……あー、言われて思い出した。そんなんあったっけな」


 ラグナはしばらく思考し、やがて思い出す。

 初めて聞いたときは随分と突飛な仮説だな、とも思ったが、同時に納得のいくものでもあった。


 というのも、ベルスティアには血統才能というものが存在する。そしてそれは、主に王族や貴族の間で発現するものだ。


 余談だが、あくまでも主に(・・)であり、平民で血統才能を受け継いでいる家系も、ほんの僅かにだが存在する。

 それこそ、エスパーダ家は代々血統才能を受け継いできた家系だ。そしてその血統才能は、エスパーダの名が示す通り剣才である。


 ――閑話休題。


 話を戻すと、王族や貴族は、血統才能を受け継ぐ子こそが正統な後継者であると定めた。また、その才能を絶やさぬよう子を多く残すことも義務となった。


 血統才能、というように、その才能は親からの遺伝であることは明白だ。となると、血統才能と顕性遺伝子や潜性遺伝子の関係を探る必要が出てくる。


 しかし、ここで矛盾が発生した。


「たしか血統才能の有無は、顕性遺伝子と潜性遺伝子の関係に当てはまらなかったんだっけ?」


「そうだ。男が持つ性染色体Yは顕性遺伝子。つまり、男系男子である以上、血統才能は()()()()()()()()。だが、現実はそうもいかなかった」


 ここで血統才能と顕性遺伝子がリンクしていると短絡的に考えられた理由は、血統才能を引き継ぐ子が血統才能を持たない子よりも大幅に多かったからだ。


 しかし、記録を遡ってみると、男系男子でも血統才能を引き継がない例がいくつか確認されてしまった。


 つまり、血統才能と性染色体Yとの間にリンクは見られない、と結論付けられることになる。


 では、潜性遺伝子の性染色体Xとリンクしているかといえば、当然そんなこともない。

 それでは、血統才能を遺伝する子が多くいることへの説明がつかなくなってしまうからだ。


 補足として、性染色体を除いた他の染色体である可能性も限りなく低い。

 もし、こちらに血統才能を発現する遺伝子があると仮定しても、血統才能を遺伝する子が多すぎることになるからである。


 そこで《生命の泉》ライフォルスは、各国からサンプルを採ることにした。


「我が国からは、比較的家統が浅い男爵家の夫婦から三組、子爵家から二組へ、研究に協力するよう要請した。他の国からも、五組前後の貴族が協力したとのことだ」


「案外少ないが……血統才能は国としても重要だからな。どういう才能かはあんま流出させたくない、ってところか」


「ああ。サンプルの少なさ、そして貴族は基本長命種であるということから、研究の進行はかなり遅かった」


「……遅かった(・・・)ってことは、もう結論が?」


「出ている。今から二十年ほど前だったかと思うが」


「の割には、聞き覚えがねぇな」


 本当に解明されたのだとしたら、それは世紀の大発見と言っても過言ではないだろう。

 血統才能とは、国にとって重要な力であり財産であるのだから。


 しかし、そんな発見は聞き覚えがない。ラグナは訝しんだ。


「医学会では、これを秘匿事項と決定したからな。ゆえに、各国の王族や皇族、爵位の高い貴族の一部のみが知るところとなっている」


「秘匿しなきゃならねぇほどの情報、か……」


「ああ。この際だからお前にも教えておく。事の重大さが理解できるはずだからな」


「……秘密の共有ってのはしないほうが……いや、どうせ契約魔法で縛られるだろうし、もういいや」


 ラグナは早々に諦め、その秘匿事項とやらに向き合うことにした。


 その態度にガルドは満足し、酒を一口飲んでから結論を伝える。


「血統才能は、()()()()()()()()()()()()()


「……は? ユウセイ遺伝子?」


 新たな概念をいきなり持ち込まれ、ラグナは困惑した声を出す。


「優勢遺伝子というのは、顕性・潜性遺伝子より優位に働きやすい性質を持つ遺伝子だ。かつては、性染色体のXやYの次に見つかった――というよりも仮定された存在として、Z遺伝子とも呼ばれている」


「……要するに?」


「この優勢遺伝子の存在が、男系男子の優位性を覆すことになった、というわけだ」


 ラグナは医学に精通しているわけではない。そのためガルドは、彼が求める結論を先に示した。


 これが、ラグナが自信ありげに他の王家からの反発はないと言った理由である。


「だが、この優勢遺伝子も必ず発現するわけではない」


「そりゃ、男系男子でも発現しないことがあるくらいだしな。女系とかはどうなるんだ?」


「男系だろうと女系だろうと、発現率は変わらないのではないか、と見られてる。ただ、サンプルが少なすぎて断定はできんがな」


「なるほど。とりあえず、レグリオだろうがセリファちゃんだろうが、子どもを残せるだけ残したほうがいいってわけだな」


「そうだ」


 一旦、Z遺伝子のおかげで跡継ぎは男系男子である必要はない、ということはわかった。


 互いに酒を飲んで一呼吸入れると、ラグナが次の疑問を投げかけた。


「で、秘匿までされる理由は何よ? 一応、予想はつくが……」


 Z遺伝子の存在が秘匿される理由、それは――


「――Z遺伝子の存在を知られれば、今まで以上に王侯貴族をターゲットにした人攫いが増えるに決まっているからだ。それに、権力欲にまみれたクズ貴族が、これを逆手に取って無理やり権威を拡大しようとするかもしれん。そんなことになれば、国内にムダな混乱が広がるハメになる」


 人口比で見れば、優勢遺伝子――つまり血統才能を持つ人間の数は圧倒的に少ない。しかも、それが由緒正しき血筋の者ともなれば、今以上に価値が跳ね上がるのは目に見えている。

 今でさえ貴族の人攫いというのは、多いわけでないとはいえ存在しないわけではない。油断すれば、いつどこで犯罪者の手にかかるかわからないのだ。


 そんな犯罪が増えるなど、看過できる問題ではない。

 それに、そういった人攫いは《簒奪帝国》イブリスの息が掛かっていることも割とある。


 なおさら、優勢遺伝子の存在は伏せるべきだ。


 次に、大した功績のない、出世欲だけが強い貴族が権威を拡大する可能性についてだが、《魔導都市》ベルスティアの貴族社会は実力主義である、という前提知識が必要になる。


 優勢遺伝子の存在が一般的に知られていない現在なら、たとえ家統が浅くとも、実績に基づいて陞爵(しょうしゃく)させることができる。

 逆に、家統が深くとも実績がないならば、陞爵はおろか降爵されかねない。


 実力主義であるおかげで、爵位そのものが、その家の国に対する貢献度の高さとも言えるのだ。


 そのため貴族は、国民から支持を集めるために国を良くしようと努力しなければならず、その努力が実れば当然実績となり、国民もそれを知る。そうすれば自ずと、支持は拡大していく。

 つまり、善循環が生まれやすい構造というわけだ。


 これが、優勢遺伝子をもとにした血統主義に変わってしまったらどうなるだろうか。


 真面目に国家運営に取り組む者もいるだろうが、私利私欲に塗れるものも出てくるだろう。あるいは、自分の血統を振りかざし、真面目に取り組む者を妨害する可能性もある。


 そうなってしまえば、国の政治が停滞してしまうのは目に見えている。

 であれば、Z遺伝子の存在を伏せるほうが、国としては吉と出るだろう。


「それに、Z遺伝子のすべてが解明されたわけではない。どちらかといえば、わかっていかないことのほうが多いだろう。ならば、迂闊な公表を避けるべきとの判断があった」


 Z遺伝子のサンプルはまだまだ少ない。

 あくまでもわかっていることは、それが存在するということ。そして、顕性・潜性という性質を覆しうる性質を持っているということだけだ。


 逆に、血統才能が発現しないだけで、Z遺伝子を遺伝していることはあるのか。血統才能が発現しない――不活性化したZ遺伝子は、二度と子孫に遺伝することはないのか。Z遺伝子が遺伝するために必要な条件はあるのか。

 など、疑問はまだまだ尽きないのだ。


「まあ、わからないことは《生命の泉》にでも任せておけば、いつかは解き明かされるだろう。我々がすべきは、血統才能を――Z遺伝子を受け継いだ子を産み、育て、守っていくことだ」


「ああ、わかった」


 話はここで途切れ、二人は静かに酒を嗜んだ。




 しばらくの沈黙のあと、先に口を開いたのはガルドだった。


「セリファのことで、少し相談がある」


「ん? どうしたよ?」


 セリファのことで相談と言われても、どんな内容なのか皆目見当も付かなかった。


「まだ可能性の話でしかないのだが……将来、レストアをウルキュラス家に婿入りさせてほしいと思ってな」


「ぶっ!? ……はぁ!? いきなり過ぎてわけがわからんぞ!?」


 あまりに唐突で、ラグナは思い切り吹き出してしまった。


 一体、何がどうなって、レストアとセリファが結婚するという話になるのか。


「二人の距離の近さを見ただろう? セリファは同性のルティアより、レストアの方に懐いているように見える。いつしか、恋愛感情に変わってもおかしくはないだろう」


「あ、あー……まあ、そうなる可能性もあるか……。レストアも、セリファちゃんにはだいぶ気を許してるしな」


 年相応な素直さと純粋さを持つルティアに比べ、レストアはかなり気難しい。時折子どもは異様な鋭さを発揮することもあるが、それを加味してもレストアは鋭すぎる。

 それゆえか、他人とはどこか一線を引いているように見える。彼が完全に心を許しているのは、おそらくルティアとセリファだけ。


 実の両親にすら心を開ききっていないというのに、赤の他人のはずのセリファには心を開いているのだから、レストアがセリファへ、将来特別な感情を抱く可能性は十分にある。


 そしてセリファも、レストアとの距離感がかなり近い。それも、自分から積極的なアプローチを仕掛けている。

 彼女がレストアに対し、何らかの好意をもっていてもおかしくない。


 ――当然のことではあるが、既にセリファがレストアに事実上のプロポーズをしているとは、二人は夢にも思っていない。


「我が国ベルスティアは、平民はもちろん、貴族から王族に至るまで自由恋愛を推奨している。かく言う私も、恋愛から結婚まで至ったわけだしな」


「そんで、セリファちゃんがレストアを恋愛的な意味で好きになったらその時は、ってか」


「そうだ。……こう言っては失礼だろうが、今のレストアを見て、セリファ以外に可能性があると思うか?」


「今のところは――無い、と断言できるだろうな」


 正直に言って、レストアが誰彼構わず心を許すとは思えないし、であるなら好意を抱くことも無いだろう。


「なら今のうちに、ある程度段取りは進めておいてもいいかと思ってな」


「いや、さすがにそりゃ気が早すぎねぇか?」


「何を言う。セリファは女の子だ。一度にそう何人も産めるわけではない。ならば、早いうちに結婚して、子を宿せる期間を少しでも長く確保するべきだろう」


「……ま、お前が跡継ぎ候補を多く残せなかったせいで、セリファちゃんにシワ寄せがいくってわけか」


「…………」


 《魔導都市》ベルスティアでは、婚姻前の性交渉は重罪とされている。例え、両性の性的同意が合ったとしても、だ。


 これは主に、貴族や王族の血統を正しく守るために制定された法律であるが、それゆえ平民にも当然適用される。

 彼らの血統才能は稀有なものであるが、だからこそ厳重に管理されなければならないだ。


 この法律がなければ最悪、血統才能欲しさで無理やり自分の子を孕ませる、などという暴挙が許されてしまいかねない。

 そんなことになれば、血統才能が乱立し、その価値を歪めることになる。同時に、平民・貴族問わず人権が著しく損害され、国内に多大な混乱を生むことになろう。


 そんなことにはならないよう、この法が制定されたのだ。


 ちなみに、この法を犯したときの刑罰は非常に重い。


 加害者が貴族の場合、本人及び加害貴族の家に対し貴族としての身分及び財産の没収が科せられる。

 一方で、被害者側の貴族、あるいは平民への罰則は特にない。

 しかし、性的同意を示していれば別で、貴族側には加害貴族と同じ刑が科せられることになる。

 平民側は、裁判などで衆目に晒され、個人はもちろん、一族に対し重犯罪者及びその一族としてのレッテルを貼られることになり、社会的に孤立することが非常に多い。これが実質的な罰則と言えよう。


 逆に平民側が加害者であった場合、即座に死罪となる。

 被害者貴族は性的同意がない場合、身分等の没収はなくなるが、同意があれば加害者貴族と同じ罰則を受けることになる。


 個人に対しては、加害男性には避妊手術が強制される。この刑に反抗、あるいは費用などの問題で実行できない場合、死罪になる。

 被害女性は性的同意がない場合、子どもができていなければ特に何もない。逆にできていれば強制中絶、あるいは出産後即座に子どもは殺されることになる。

 性的同意があれば、加害男性と同様に避妊手術の強制、実行不可であれば死罪となる。


 女性が加害者であれば、性的同意ありの被害女性と同じ刑が言い渡される。

 被害者男性は同意していなければ無罪放免、同意していれば加害男性と同じ刑になる。


 このように、婚前交渉に対してあまりにも厳格であるが、これは絶対的な抑止力を持たせるためである。

 なお、男女で罪の重さが変わらない理由は、魔法を使ってしまえば性別による身体能力の差など簡単に覆せるからだ。


 ただ、上記はあくまでも避妊を行わないで性交渉した場合であり、避妊していれば何の問題もない。

 実際、この法律ができてからというもの、婚姻前の恋人同士での性交渉で子どもができてしまうということはほぼ無くなった。


 また、風俗店などでの性的欲求の解消も、避妊さえしていれば何の罪に問われることもない。むしろ、性犯罪を減らすため、国が利用を推奨していたりするくらいである。


 話を戻すと、ガルドはこの法律を汲んで、早いうちにセリファとレストアを結婚させようとしているのである。


「……私の責任をセリファに押し付けるようなことはしたくないが、どうにもならないことなのでね。おとぎ話で語られる女夢魔(サキュバス)でもいれば、夢の中ではナノに化けた女夢魔(サキュバス)と、現実では側室と性交して子どもを作る、なんてこともできたかもしれんが」


「いや、女夢魔(サキュバス)に誑かされてるじゃねーか。ナノさんへの愛はどこに行ったよ?」


「誑かされたのではない。そういう契約の下、という前置きがある」


「あー……まあ、そうねぇ……」


 ガルドが跡継ぎを多く残せていようが残せていまいが、セリファもできる限り跡継ぎになる子を多く残さなければならない、という義務は変わらない。多少、責任の重さが変わる程度だ。

 それでも、至極真面目な表情で語るガルドからは、戯言とわかっていても自分を責めているように見えた。


 ちなみに、()()()()()女夢魔(サキュバス)は存在しない。

 しかし今から数年後、かの《簒奪帝国》イブリスの手で、架空の存在とされた化生の者らは生み落とされることになる。


 だが当然、今を生きる人々は知る由もない。


「とりあえず、何かあったら一報入れるよ」


「ああ、頼む」


 これで、ガルドの重い話は終わった。

 あとは、二人で酒を飲みながら他愛もない話で盛り上がる。


 そうして、更けた夜は徐々に明けて行くのだった。

優勢遺伝子は優性(顕性)遺伝子ではありません。顕性や潜性を覆し得る遺伝子であることから、優勢としました(この世界独自の概念)。

自分はまだ優性・劣性で習ったんだけど、だいぶ最近に変わったみたいですね。


ちなみに、ナノ・ウルキュラスは元平民ですが、長命種です。定命種なら子どもできてないし当然ですがね。

(ガルドでなければ)側室を利用する形で、正室には本気で恋した女性(定命種含む)を迎える、なんてことも可能だったりします。


あ、前作から《天空城》の国名を変更しました。なんや、ウーラノスとかいうセンスの欠片もない名前は(シエリアスルスがセンスあるとは言っていない)

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