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神の代行者2  作者: 伊東 晶
幼少期編
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第九話 第三不和改変―剣魔両錬―

前話(幕間1)でそこそこ大事な設定を開示しているので、良ければ(幕間だから)と言わず読んでやってください


あと、今話で前話までから一気に時間跳びます

 ――あれからしばらく時が経ち、レストアらは初等学院の三年生になった。


 《魔導都市》ベルスティアの初等学院は、貴族や王族が通うものと、平民が通うものとで分けられている。

 通常であれば、平民であるレストアとルティアは平民が通う方へ入学するのだが、セリファ・ウルキュラスの護衛という名目があるので貴族側の初等学院に入学している。


 しかし、これはそこまで珍しいことではない。

 エスパーダ家のように、代々王侯貴族の護衛を担う家もそれなりにある。そのため、エスパーダの双子以外にも、貴族側の初等学院に通っている子はそこそこいるのだ。


 ただ、初等学院三年生からカリキュラムは変わってくる。


 貴族は、いわゆる帝王学を学ぶようになる。将来、国の政治に携わる者として相応しい人材へと成長させるためだ。


 護衛を担う平民は、主に武術を学ぶようになる。体術や剣術といった戦闘技能を習い、貴族の護衛を担えるように鍛えられる。

 ちなみに、武器術を学ぶ際は、学院側が貸し出している魔装具を使う。これは肉体を傷つけないように調整されているため、誤って命を奪ってしまう恐れはない。


 そしてこの日、二学期最後の武術の授業が行われていた。




 レストアは、目の前の敵(といっても同級生だが)に意識を集中する。


「始め!」


 先生の合図で、レストアと相手の子が動き出す。

 相手が剣を上段から振り下ろすと、レストアはそれを上手く受け流す。そして、刃を返して反撃した。

 相手は剣を引き戻してしっかりと受け止め、両腕の力で無理やり押し返す。

 レストアは無理せず、力の流れに沿うようにして後退。間合いを取ると、相手の出方を伺った。


 レストアは右腕を失っているため、どうしても力では負けてしまう。そのため、力で当たるのではなく、技を持って相手をいなす技術を磨いていた。


 一度開いた距離を、二人はジリジリと詰めていく。互いに剣の間合いの外で足を止めると、両者は睨み合った。


 ――先に動いたのはレストア。

 厳密には相手の動き出しを察知して、より早く仕掛けたのである。


 一歩踏み込むと、勢いのまま相手の軸足目掛け剣を振るう。

 相手は慌てて攻撃を取り止めると、バックステップで飛び退いて躱す。


 それを読んでいたレストアは剣を振り切らずに止めていた。そして、もう一歩踏み込むと同時に身体を捻り、全身の力でもって剣を突きだした。


「せいっ!」


「くっ!」


 相手はそれをギリギリで防ぐが、力で弾き飛ばす前に剣を引かれてしまい、一旦攻勢を諦める。


 レストアは好機と捉え攻勢を強めた――が、それが失敗だった。


 レストアが怒涛の攻撃を浴びせるも、相手は冷静にそれらを受け止めていく。

 片腕の攻撃は軽いため、無理に力を入れる必要がない。ルティアの剣に比べれば、受けは十分可能だった。


 そして、甘く入った一撃を見逃さない。


 一歩踏み込んで鍔迫り合いに持ち込むと、レストアお得意のいなしを使われる前に、無理やり力で剣ごと弾き飛ばした。


「うっ……!」


 そして、思わずたたらを踏んだレストアに、体重の乗った上段斬りをお見舞いする。


 レストアは思わず、剣での防御を試みた。しかし、防御の剣は力で押しつぶされ、相手の剣がレストアに致命的な一撃を与える――。


(――が、ソイツを許してやるわけにはいかんのよ)


 突如、レストアの頭の中に、何かが流れ込んできた。


(これは……!)


 ――それは、自分が完膚なきまでに敗北する未来。

 ――防御ごと押し切られ、自分の身体が斬り裂かれる未来。


 その一瞬見えた未来。

 それを、レストアは脳裏に焼き付け、現実に引き返した。


 防御しようと構えかけた剣を、レストアは冷静に引く。そして、相手の剣の軌道をしっかりと目で追う。


 この瞬間、レストアはやけにゆっくりとした時間の中――スローモーションの世界――にいるような、そんな異様な感覚だった。


 レストアは右半身を引く。すると、相手の剣はレストアの身体の表面を撫でるようにして通過していった。


 勢い余って地面を斬りつけてしまった相手の子は、剣から伝わってくる硬い感触に手を痺れさせ、思わず剣を取り落としてしまう。


 その隙を逃さず、レストアは相手を一刀両断にし、勝利を収めたのだった。





(あれはなんだったんだろう……)


 放課後。学院からの帰宅途中、レストアは模擬戦の最中見えた一瞬先の未来はなんだったのか、頭を悩ませていた。


 あのとき、もし防御しようとしていればどうなっていたのか。本当に、あの未来の通りだったのだろうか。


 あれは偶然なのか。それとも、レストアが敗北しそうになったら毎回見える、レストアだけの特殊能力なのか。


 ――もし、偶然なら?


 レストアは、覚悟を決めることにした。




 エスパーダ家の夕食時。


 やけに静かなレストアを違和感を覚え、ラグナは声をかけた。


「レストア、どうした? 体調でも悪いのか?」


 ラグナの呼びかけにレストア小さく身体を震わせ、食事の手を止める。

 普段とまるで様子が違うレストアを心配していると、彼はやがて顔を上げラグナを見据えた。


「……父さん、ごめん」


「……ん? 何がだ?」


 唐突に謝られ、思わず聞き返す。謝られるような心当たりは何もない。

 しかしすぐ、レストアがその理由を語る。


「――俺、魔法を習いたい」


「…………」


 あまりに唐突な申し出に、ラグナはしばらく答えることができなかったが、すぐに我に返りその理由を訊く。


「なんで、魔法を習いたいんだ?」


「……今日、学院の授業で負けそうになったんだ」


「レストアが、剣で?」


 意外であった。

 剣才はルティアの方が上で、現に今ではルティアがレストアに勝利を積み重ねている。


 しかし、レストアの剣才はエスパーダ家の歴史で見ても上の方だ。そんじょそこら平民に負けるはずはない。


 事実かどうか確かめるために、ルティアに視線を送る。

 すると、それに気づいた彼女は素直に答えてくれた。


「多分、あのまま攻撃を受けようとしてたら、力負けしてたと思う。そしたら、お兄ちゃんは負けちゃってたよ」


 ルティアが言うなら本当のことなのだろう。


 だが、現時点でラグナは、二人に勝利を強制した覚えはない。むしろ、いくら負けても構わない。代わりにその敗北の中から、多くのことを学ぶべきと考えている。


 今回の件でも、レストアが敗北しかけた原因があるはずだ。それは、敗北してからしかわからない。

 敗北した原因を追及し、突き止め、それを次回以降の試合にフィードバックできればそれで良いのだ。


「レストア。別に今は負けたって構わない。今、お前たちに必要なのは、勝ち負けに関わらない経験だ」


 ラグナは優しくレストアを諭す。


「今回、レストアは負けそうになった。でも、その理由は既に突き止めているんだろう? なら、同じ失敗を繰り返さなければそれで良いんだ」


 剣を諦める必要はないのだと、そう説く。


 だが、レストアの決意は固かった。揺るがなかった。


「――でも、それだけじゃルティアには一生勝てない」


 たしかに、他の誰か相手なら、反省点をもとに次こそ勝利を収めることはできるだろう。


 しかし、ルティアは別だ。

 彼女の剣才は、レストアがどれだけ努力しても届かない、圧倒的高みにいる。幼少期に勝てていたのは、レストアが感覚派の天才型で、ルティアが努力派の秀才型だったからだ。


 レストアとしては、ルティアに負けるのはある程度許容できた。

 彼女のほうが才能は上で、さらに自分は右腕が無いという圧倒的ハンデを背負っている。それでは、負けが込んでも仕方ないだろう。


 だが、ルティア以外に負けるのは別だ。

 レストアはこれまで、ルティア以外の誰にも負けぬよう、右腕が無いなりに努力してきた。相手の攻勢をいなし、守勢から攻勢に転じる戦法も、その中で編み出したものだ。


 ――しかし、レストアは敗北の憂き目を見かけた。


 もう、剣術の努力だけでは足りないところまで来てしまったのだ。右腕のハンデを背負って戦えるほど、レストアは強くないのだ。


 その事実を痛感し、打ちひしがれた。


 だから、魔法という新たな力に縋ったのだ。


「俺は、剣じゃルティアに勝てない。そしていつか、ルティア以外の誰かにも負ける。そのことが、今日はっきりわかったんだ。

 ――だから、魔法を習いたい。もっと強くなりたい、誰にも負けないくらいに」


 ラグナを真っ直ぐに見つめるレストアの目には、強い覚悟がありありと見て取れた。


 それを見たラグナは、説得を諦める他なかった。こうなったときのレストアは頑固なのだ。


「……わかった。お前がそうしたいなら、好きにするといい。

 それで? 剣はもういいのか? 諦めるのか?」


 ラグナは思わず、意地悪な質問を投げかけてしまった。

 剣の道を諦めたエスパーダなど、彼は知らなかった。今のレストア相手にどう対応すべきかわからず、少しパニックに陥っていたのだ。


 たが、レストアはケロッとした様子で


「え、剣は習うつもりだよ? だって、魔法だけ習っても、ルティアに勝てるかなんてわからないし」


 と答えた。


 レストアが魔法を習いたいと言った理由は目の前の敵に勝つためだが、それは魔法単体で勝つという意味ではない。


「だって、魔法にだってできることの限界はあるでしょ? そこは、剣とか他の武器術とか、そういうので詰めなきゃ」


 魔法はどうしても、発動までに時間がかかるものだ。懐に入られれば、魔法での対処は間に合わない。


 であればどうするか。


 懐に入られたなら、自分も近接戦闘で対応すればいい。たとえそれでは勝てなくとも、魔法発動までの時間が稼げればそれでいい。


 剣と魔法を組み合わせ、より強くなる。

 それが、今のレストアが理想とする自分の未来像だ。


 実は、先の模擬戦で見えた未来の中に、数年後と思われる自分の姿もあった。

 圧倒的な魔法を武器とし遠方の敵を薙ぎ払い、組み付こうとするものには剣で対処する。剣で仕留めきれずとも隙をさらせば魔法で撃ち抜き、あるいは逆に魔法を囮として剣でとどめを刺す。


 理想的な、魔法剣士の戦い方だ。


 そこに至るためには、魔法を習いつつ剣も鍛えていかなくてはならない。どちらか片方では足りないのだ。


「――わかった。父さんの方で、レストアに魔法を教えるに相応しい人を見繕っておくよ」


 ラグナは、自分が思っていた以上にレストアがしっかりと考えていることを知り、先の自分の振る舞いを反省した。そして、真摯に彼と向き合う。


 レストアが剣を諦めると答えていたら、おそらく、彼を突き放した態度をとっていたことだろう。あるいは、見限っていたかもしれない。


 ――実際、そうなってしまったのが〈魔轟神〉レストアの人間時代だ。


 敗北という事実に打ちひしがれ、自暴自棄になり、剣を捨てた。そして、(ラグナ)にも見限られた。

 見限られたレストアは独学で魔法を習得する他なく――それゆえ独自の魔法理論を編み出せたりはしたが――成果に繋がらない無意味な時間も多く過ごした。

 そしてそんな兄に、ルティアは鬱憤を募らせていった。そしてそれは、やがて爆発する。


 爆発してしまったあとは――わかるだろう、兄妹不仲な時期の到来だ。


 実は〈魔轟神〉レストア、この時期を人生で最悪の黒歴史だと思っており、どうにか改変したかったのである。


 ゆえにあの瞬間干渉し、敗北の未来を避けたのだ。

 ついでに未来の自分の姿も見せておくことで剣魔一体の戦法を教え、それを目指すように仕向けた。


 その目論見は上手く行き、〈魔轟神〉レストアは安堵した。

 ちなみにもし失敗していたら、成功するまで『彼』に協力してもらってやり直すつもりであった。


 ただ、もうその必要はなくなったため、〈魔轟神〉レストアは〈人間〉レストアの魂の奥へ帰ろうとした。


 その時――


「お兄ちゃんだけずるい! 私もまほう習う!」


「なんでだよ。お前は両腕あるし、剣も強いし、必要無いだろ?」


「私だって、もうお兄ちゃんには負けたくないもん! お兄ちゃんだけ強くなるなんて許さないんだから!」


「ふざけんな! 俺だってお前には負けるもんか!」


「――!」


「……――!」


 ――などという、二人のじゃれ合いというか兄妹喧嘩というか、そんなものを視界の端に捉えてしまい、苦笑しながら〈魔轟神〉レストアは引っ込んでいったのだった。

改変成功率……86%

未来の姿という理想像を見せられたため、改変成功率上昇。

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