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神の代行者2  作者: 伊東 晶
幼少期編
9/11

第八話 剣姫誓婚

思っている以上に間が空いてしまった……

 ラグナがカルムから帰還して一ヶ月。

 今回の《簒奪帝国》イブリスとの戦争は終結した。


 イブリスは、《魔導都市》ベルスティアの隣国で同じ六大国である《三世森衢(さんぜしんく)》ヴァルトシルバにも、攻撃を仕掛けていた。


 ベルスティアの攻略が上手くいかないと悟ると、彼らはヴァルトシルバに戦力を集中させた。そのためベルスティアは、ラグナが帰還して一週間ほど経ったところで、ほぼ終戦状態であった。


 ヴァルトシルバは一時苦境に立たされるも、ベルスティアが援軍を出し戦力を増強。その力をもって、イブリスを押し返した。


 結果、イブリスは作戦失敗と見なしたか、全軍が撤退。それを観測した六大国側が勝ち鬨を上げた。


 その間、ベルスティア国内はまだ緊張状態が続いており、エスパーダ一家は王城に留まったままだった。




 エスパーダ一家が王城の身を寄せて約二ヶ月。

 それだけの時間があると、子どもたちの関係性にも変化が生まれていた。


 最初は、同性であることと性格が近いということで、セリファはルティアと仲良くしていた。そして、そんな二人をレストアが一歩引いたところから見ている、という構図が多かった。


 ルティアとセリファは外交的な性格で、周囲と積極的に関係を持とうとする。その点で二人は意気投合し、すぐに仲良くなった。


 一方、レストアは対照的に内向的な性格だ。〈裁閻の慧眼(さいえんのけいがん)〉の影響もあって人の選り好みも多く、自ら周囲と関係を構築することは少ない。


 この性格の違いから、レストアはセリファを邪険にはしないものの、積極的に彼女と交流しようとはしていなかった。


 しかし、時間が経つにつれて、セリファがレストアと接する時間が増えていった。今ではルティアよりも、レストアと接している時間の方が長いくらいである。


 どうやらセリファは、レストアに手腕が無いことを気にかけているようで、彼の右半身側にいることが多い。そして、レストアの補助をするように振る舞うのだ。


 彼女のそれが純粋な善意による行動であると、レストアは〈裁閻の慧眼〉の効力で見抜いており、それゆえ素直に受け入れている。

 もしこれが打算に基づくものなら、彼は今も心の奥で警戒し、決して心を開くことはなかっただろう。


 セリファといるときのレストアは自然体で、纏う空気が柔らかくとても穏やかだ。

 両親ですら壁を感じることが時たまあるというのに、相当な心の開き具合である。


 ただ、その裏では、ルティアが少しだけヤキモチを焼いていたりする。

 外にいるときはあまり見せないが、ルティアはなんだかんだでお兄ちゃん(レストア)が大好きだ。どうやら、セリファに盗られてしまうのではないかと、危機感を覚えているらしい。


 そんなこんなで三人は、今日も仲良く過ごしている。


「レストア、ルティア。そろそろ稽古の時間だ」


「「はーい」」


 そしてこの日も、いつもと変わらず稽古の時間になった。


 ラグナ不在の間は〈泡影の舞剣(ファム・プリジア)〉が稽古をつけていたが、彼が帰還してからは当然、ラグナ自身が稽古をつけている。


 いくら宝剣といえど、剣であることに変わりはない。喋ることができなければ、明確なアドバイスをすることもできない。


 その分二人には、考える力がより身についたようだ。

 見取り稽古の際、二人は互いに問題点を指摘し合い、改善に努めることが増えた。


 以前はあまり見られなかった光景だ。


 もちろん、彼らの指摘が間違っていることもある。

 だが、あえてそのままにして、間違いに気がつくかどうか試してみたりもしてみた。

 気がつければ良し、気がつけなければそれとなくアドバイスしたりと、ラグナの指導方法も変わっていった。


 そして一番大きな変化は、稽古にセリファも加わるようになったことだ。


 最初こそ、なんともなしに見ているだけだったようだが、興味が湧いたのか、一週間もしないうちに自分から参加するようになったという。

 それからは、〈泡影の舞剣〉が剣術の型を見せ、双子がそれを噛み砕き、セリファに教える。という流れができていたようだ。


 セリファにも、いつかは剣術の指導をする予定であったため、ラグナとガルド的に不都合はなく、今も普通に稽古をつけている。


 そして今日は、久しぶりの実戦形式での稽古だった。


「さぁ、どこからでもかかっておいで?」


 ラグナがそう言うと、レストアとルティアは目配せする。そして、二人で一斉にかかってきた。


「ふ――っ!」


「やぁっ!」


 レストアとルティアによる同時攻撃。ラグナの右半身側をルティアが、左半身側をレストアが、駆け抜けるようにして斬撃を見舞う。


 対するラグナは、ルティアの木刀を受けつつ、体捌きだけでレストアの斬撃を回避する。そしてそのまま、ルティアに攻撃を絞った。


「くぅ……っ!」


「……ッ!」


 ラグナは十分に手加減しているため、すぐにルティアを押し切ってしまうことはない。だが、ルティアは技量の差で追い詰められていく。

 そんな妹の危機にレストアは、ラグナの背後から奇襲する。


「――甘いよ」


「えっ――」


「あっ――」


 しかし、そんな工夫も空しく、ラグナはルティアの木刀を受け流すと、またも体捌きでレストアの斬撃を回避する。そして、レストアの木刀をわずかに弾くと双子の木刀は交錯し、二人は大きく体勢を崩した。


 ラグナは冷静かつ非情に、すぐさま次の行動をとる。


 ルティアの次はレストアに狙いを定め、体勢を整えきれていないうちに攻撃した。


「こ……んのぉ……っ!」


 レストアは必死になってラグナの斬撃を捌くが、ラグナは妙な違和感を覚えた。


 木刀から伝わってくる感触が、妙に軽いのだ。


 その様はまるで、正面から受けるのではなく、威力を上手く受け流しているような――


「はぁっ!」


 その思考を断ち切るかの如く、今度はルティアが背後から奇襲してくる。


 当然、ラグナもそれには気づいている。


 先ほどとまったく同じ要領で、レストアの斬撃を誘導しようとして――しかし、そこで違和感は確信に変わった。


 レストアはラグナの心中を見透かしたように、剣を引いたのだ。


 ラグナはレストアに受けを強要させるべく、斬撃を放っていた。レストアは当然、それを防がなければならない。

 そうして出てきた剣をラグナは受け流し、ルティアと同士討ちさせようと目論んでいた。


 それに対しレストアは、ラグナの誘いの剣に手を出しかけ、だがそこで剣を引き、身を引いた。


 完全に、狙いを読まれたとしか言いようがない。


 このまま木刀を振るったところで、レストアには当たらない。

 ラグナは仕方なく、身を反転させてルティアの斬撃を受け止める。


 どうやら、レストアは読みが冴えている様子。

 背後を取られ続けるのはあまり良くないと考え、剣術と体捌きを駆使し、すぐさまレストアも視野に収めるように立ち回る。


 無論、背後を取られたままであろうと、ラグナなら余裕で対処できる。

 しかし、集中力が削られるのはもちろん、シチュエーションを固定化してしまっては稽古にならない。

 そのため、レストアたちの工夫を引き出すためにも、現状を変える必要性を感じたのだ。


 今度はあえて、ラグナが守勢に回ることにする。

 一旦自分の攻撃の手を緩め、ルティアの攻撃を誘った。


 ルティアが攻勢に移り、すぐさまレストアも駆けつける。ラグナは二人の猛攻に晒されることになった。


 二人は比較的上手く連携できるようで、互いの間隙を縫うように攻撃してくる。


 しかし、連携の精度が極端に良いわけではない。ラグナであれば当然、余裕を持って対処できる程度のものだ。


 双子の木刀を受けながら、どちらから仕留めるかを思考する。


 片腕、しかも利き腕を失ったとはいえ、剣術の精度はまだレストアが上。しかも、やけに読みが冴えている。


 そうなると、まずはルティアから仕留めるべきだろう。


 ラグナは、守勢から徐々に攻勢へ移っていく。


 レストアたちもそれに勘づいたか、このまま反撃はさせないと言わんばかりに、より攻勢を強めてくる。


 それは焦りだ。

 自分より上の実力者相手に攻勢を許せば、一方的に押し切られるとわかっているがゆえのものだ。


 だからこそ、冷静さが焦燥に蝕まれ、判断が狂い始める。


 ほんの一瞬、二人の連携に乱れが生じた。ルティアの踏み込みが、やや早すぎたのだ。


 ラグナは、レストアの剣を受け止めながらタイミングを計り、ルティアの踏み込みに合わせて剣をいなす。

 いなした勢いをそのままに、ルティアの剣を迎撃し打ち払った。


「ルティアっ!」


 剣を打ち払われたルティアは、胴がガラ空きだ。

 当然、ラグナがその隙を逃す手はなく、容赦なく剣を突き出す。


 慌ててレストアがカバーに入るも、体勢が悪くラグナの剣を受け切れない。

 受けの剣を弾かれ無防備を晒すレストアに、ラグナは追撃を放った。


「――ッ!」


「ぁ……」


 体勢を崩しながらも、レストアは全力で後ろへ跳ぶ。しかし、ラグナは構わず剣を押し込み、そのまま突き飛ばした。

 ラグナの一撃を受けたレストアは、受け身も取れず背中から落ちる。


 ルティアはその光景を、呆然と見ていることしかできなかった。


「これで勝負あり、だね?」


 ルティアが我を失っている間に、ラグナは彼女の首に木刀を突きつける。


「ぁ……ぅ……」


 ルティアは打つ手なし。

 レストアもなんとか起き上がろうとしているものの、ダメージが大きくまともには動けない。


 チェックメイトであった。




 その日の夜。

 稽古とその反省会を終え、稽古の汗を風呂で流し、夕食を取り、レストアはようやく自由時間になった。


 寝るまでの自由時間の間は、王城内の図書館に籠って魔導書を漁るか、兵士たちに混ざって魔力操作の訓練をしている。


 フィーアと魔法教官の報告を受けたガルドは、レストアも兵士たちに混ざって魔力操作の訓練に参加してもいいと、特例を与えてくれたのだ。


 レストアはその特例を使い、自分の魔法技能を向上させるべく訓練に励むようになった。

 同時に、図書館では魔導書を読むことで、魔力操作のみならず魔法を習得しようと、独自に動いている。


 そして今日も、レストアは図書館を訪れ、魔導書を読み込んでいた。


「あ、いたいた」


 レストアは読んでいた魔導書から顔を上げ、声がした方向を見る。そこには、セリファが立っていた。


「きょうは、まどーしょ?」


「ん。ここにいるの、きょうでさいごだから」


「そっか……」


 レストアの答えを聞いて、セリファは寂しそうに呟く。


 如何にウルキュラス家と関わりが深いエスパーダ家とはいえ、家族揃って王城に入り浸るということは滅多にない。それこそ、今回のような緊急時で、《ラグナ》以外による王の護衛が必要になる場合くらいだ。

 そのため、戦争が終結したことで、この日を最後にエスパーダ家は王城から出ていくことになった。


 一度王城から退去してしまえば、再び王城に入るのは難しくなる。レストアのような子どもであればなおさらだ。

 レストアはそれをなんとなく感じ取っていたからこそ、この日は図書館で魔導書を漁ることにしたのだ。


 ただ、明るく元気で、はつらつな印象のあるセリファが落ち込んでいると、調子が狂ってしまう。

 そのためレストアは、彼女を元気づけることにした。


「そんなさみしがるなよ。もうあえなくなるわけじゃないんだから」


 しょぼくれているセリファに、レストアは言う。


「……そっか。そうだよねっ、えへへ」


 レストアの言葉で元気が戻ったセリファを見て、彼は魔導書に目を戻す。

 後は、今までと何ら変わりない、寝るまでの自由時間を過ごした。




 就寝時間が間近に迫り、レストアは渋々と言った様子で魔導書から目を離す。魔力制御の練習もそうだが、魔導書を読むのも、体感ではあっという間に時間が過ぎてしまう。


 読んでいた魔導書を本棚に戻し、二人は図書館から出る。


 二人の寝室はレストアが客間、セリファが自室。どちらも居住区画にあるため、途中までは道が同じだ。

 わざわざ別行動する理由もないため、必然的に二人は一緒に行動することになった。


 普段ならセリファが話題を提供してくれるのだが、今日は何やら考え込んでいるようで、二人の間に会話が起こらない。

 レストアはそんなセリファの様子に気づいていたこと、そして元々口数が多いタイプではなかったことから、無理に話そうとはしなかった。


 会話がないまま、二人はそれぞれの部屋への分かれ道に差しかかる。

 するとようやく、セリファが意を決したかのように口を開いた。


「レストアくん、ちょっとだけいいかな……?」


「? うん、いいけど」


 就寝時間が近づいているとはいえ、まだ少しは時間がある。多少会話するくらいなら問題はないだろう。

 そう思ってレストアが答えると、セリファはぱぁっと笑顔を咲かせる。


「じゃあ、わたしのへやにきてっ」


 彼女はそう言うと、レストアの手を引いて、半ば強引に自分の部屋へと連れ込んでいった。


 やがて部屋に着くと、セリファはレストアの前に歩み出て、彼の正面に立つ。そして、レストアの目を真っ直ぐに見据える。


 レストアはセリファの表情を見て、今から彼女の口から紡ぎ出される言の葉は、その奥に彼女の真意が隠されているであろう、とすぐさま察した。


 そして、セリファは意を決したように口を開く。


「わたしね、剣のけいこ、つづけようとおもうんだ」


「……ふぅん、そっか」


 レストアはもう、セリファの言葉に隠された真意に気がついた。

 だから敢えて、興味が無さそうな、何とも思っていなさそうな反応を返したのである――そうした方が、余計な緊張もなく真意を話せるだろうと思ったから。


 そんなレストアの反応に対し、セリファは少しムッとして語気が強まる。


「そんなにゆだんしてると、わたしがさきにいっちゃうんだからっ」


「へぇ、おれに剣で勝つのか?」


「もちろんっ! わたしに負けてからあわててもおそいんだからっ」


「ムリだろ。おれ、負ける気ないし」


「むぅっ! じゃあ、わたしが勝ったらごほうびもらうから!」


「ごほうび? いいよ、すきなのあげてやる」


「いったなぁ? じゃあ――」


 そうしてセリファは、満面の笑みを浮かべながら言う。


「――わたしを、レストアくんの『およめさん』にして?」


 セリファがレストアに求めたものは『繋がり』であった。


 王城でレストアと共に過ごすうちに、彼との間に奇妙な居心地の良さを覚えるようになった。

 だからこそ、レストアが王城を出ていくと聞いて落ち込んでしまったのだ。


 剣の稽古を続けると言ったのは、それを続けることでレストアと『繋がり』ができると思ったから。


 そしてその先。レストアに勝ったときのご褒美を取り付けることで、負けん気が強い彼を剣術に縛り付けることができると考えた。

 さらに、自分が勝ってレストアの『およめさん』になれば、剣術に拘らずとも彼との『繋がり』は維持できる、とも思った。


 お嫁さんの意味も、そのためにする結婚がどういったものであるかなども、彼女らが子どもである以上知る由もない。ましてや、王族であるセリファが結婚するという事の重大さなどなおさらだ。


 何にせよ、セリファとレストアの間には、明確な『繋がり』が生まれた。

 それは縛りとも言えるものだが、レストアはそれに気がついた上で受け入れたのだ。どういう形かはまだ不明だが、互いに好意を抱いていることだけは理解できよう。




 ――今ここに、一振りの剣と一人の姫は、未来へ続く誓約を交わしたのだ。

一部、前作(?)の外伝の内容と被ってます。

詳細はところどころ違いますが、まあそこは世界線が違うがゆえ、とでも捉えていただければ(汗)

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