EP 7
世界樹防衛端末「ネギオ」の恐怖!朝のディベートとケツ爆撃
高原の朝霧が晴れ上がり、秋の澄み渡る陽光がポポロ村の中央広場を照らし出していた。
街道沿いに佇む小料理屋『鬼龍』の二階、間借りしている診療所で、中村優太は入念な柔軟体操を終え、グレーのジップアップパーカーの袖をまくった。
左手首の耐衝撃デジタルウォッチを確認する。午前七時四十分。
一階へ降りると、仕込みの進む厨房から、鼻腔を優しくくすぐる焼きネギの甘い香りと、滋味深い鰹昆布出汁の香気が漂っていた。
店内に静かに流れているのは、J.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調』。深く哀愁を帯びた弦の調べが、磨き抜かれた檜の一枚板カウンターを心地よく震わせている。
奥では、黒い前掛け姿の巨漢・鬼神龍魔呂が、鏡面のように研ぎ澄まされた本焼き包丁を無言で振るっていた。
「おはよう、龍魔呂」
「……おう。朝飯だ」
カウンターに置かれたのは、湯気立つサンライスの麦粥、香ばしく炙ったピラダイの切り身、そして昨日の肉椎茸の軸を刻んで煮含めた鼈甲色の佃煮だった。
優太は手を合わせて箸を手に取り、丁寧に咀嚼する。素材の旨味が出汁と一体になり、五臓六腑へじんわりと染み渡っていく。
平らげた器を流し台へ運び、スポンジで素早く洗い上げる。清潔な布巾で拭い、棚へ伏せた瞬間、視界の端に淡いシステムログが走った。
【日常の労働(皿洗い)を感知】
【善行ポイント:+1P獲得(累計3,556P)】
「日々の小さな積み重ねが、いざという時の判断力を支える」
「毎朝ご苦労なこった」
龍魔呂が低く喉を鳴らし、棚のガラス瓶から取り出した角砂糖を二粒、口の中へ放り込んだ。
ボリッ、ボリボリッ……。
静かな店内に、小気味いい破砕音が響き渡る。ブラックのポポロ・コーヒーで喉を潤した龍魔呂は、赤箱の無骨な紙巻タバコを取り出し、真鍮製オイルライターを親指で弾いた。
カチッ……シュポッ。
静かな黄色の火が灯り、立ち上る紫煙を天井へと燻らせる。
優太も無添加の青い紙巻タバコに軍用マッチで火をつけ、紫煙をゆっくりと吹き出した。
「さて、今日は朝市へ行って、外傷用ガーゼを浸すための新鮮な薬草を仕入れてくるよ」
「朝市か。……広場の西側の区画には近寄るなよ、優太」
龍魔呂がタバコを指に挟んだまま、目を細めて忠告してきた。
「西側? 何かあるのか?」
「毎朝恒例の『ネギ分けディベート』だ。……世界樹防衛端末の『ネギオ』が、配給のネギを求めて群がる村の男共を相手に、理詰めで公開処刑を行ってやがる。口喧嘩で負けた奴から順に、ケツの穴を狙い撃ちにされて地獄を見ることになるぞ」
「ケツの穴……?」
戦術医としての知的好奇心を刺激されつつ、優太は救急用タクティカルリュックを背負って店を出た。
村の中央広場の西側、巨大な樫の木の下には、朝から異様な緊張感が立ち込めていた。
すでに何十人もの村人たちが遠巻きに二重三重の輪を作り、固唾を呑んで中央の特設演台を見つめている。
「ぎゃあぁぁぁぁぁッッ!? ケ、ケツが! 俺のケツがああああッッ!!」
突如、広場をつんざくような男の絶叫が響き渡った。
土煙を上げて転がり出てきたのは、屈強な体躯を誇る開墾農夫の親父だった。ズボンの臀部を両手で必死に押さえ、顔面を真っ赤にして涙と鼻水を撒き散らしている。
「あ、熱い! マグマが腸内を逆流して直腸から脳天まで突き抜けるぅぅぅッ!! ……だ、だが……な、なんだこの感覚は!? 今週ずっと痛んでいた腰の激痛が……完全に消え去っているだとぉぉぉッ!? 全身の細胞が沸騰して力がみなぎるぅぅッ!! 悔しい! ケツが激痛なのに体が絶好調なのが死ぬほど悔しいぃぃッ!!」
歓喜と屈辱が入り混じった狂乱の叫びを上げながら、農夫は猛ダッシュで畑の方角へと疾走していった。
その光景を冷徹に見下ろしていたのは、演台の上に鎮座する異形の存在だった。
全高はおよそ一メートル。
チェスの「ポーン」の駒を模した、白磁のように滑らかなミスリル装甲のアンドロイドボディ。
そしてその頭頂部から、大人の腕ほどもある極太で青々とした、神々しい魔力を放つ長ネギが一本、天を衝くように生えていた。
世界樹防衛端末兼客員教授──『ネギオ』である。
「主観的願望に基づく論理の飛躍、および前提条件の定義不足。三段論法として極めて稚拙であり、反論の余地すら存在しません」
ネギオの無機質なスピーカーから、抑揚のない怜悧な電子音声が広場へ響き渡る。
頭部の長ネギ──神剣『ネギカリバー』の切っ先から、プシューッと高圧の薬液蒸気が漏れ出していた。
「我が頭部より採取される世界樹由来の超活力ネギは、論理的整合性と知性的対話能力を証明した者にのみ分与される絶対規程。ディベートにおいて敗北した知性欠如個体には、公衆衛生管理規約第4条に基づき、高純度活性生薬の直腸粘膜ダイレクト注入──『超回復』を執行いたします。……次の方、登壇をどうぞ」
広場を囲む男たちが、一斉に恐怖で尻を押さえて後ずさった。
そこへ、タローマン特注の作業ズボンを履いた竜人の青年イグニス・ドラグーンが、震える足取りで前に押し出された。
「ひ、ヒィィッ! 押すなよお前ら! 俺様、朝の炊き出し用のネギを一本貰いに来ただけなんだぞ!」
「行けイグニス! お前ならいける! 竜人のパッションをぶつけてこい!」
「無責任なこと言うなぁぁッ!」
イグニスは涙目になりながらも、胸を張って演台の前へと立った。
「お、おいネギ坊主! よく聞け! 俺様は毎朝、手取り十四万の極貧生活に耐えながら、自警団詰所の裏で凍えそうになりながらテント生活を送ってんだ! そんな過酷な環境で頑張る若者にネギを恵むのは、社会全体の福祉と愛ってもんだろ! これが俺様の魂の叫びだぁぁッ!!」
「……論理破綻です」
ネギオの単眼レンズが冷酷に赤く明滅した。
「自己の窮状を情緒的に誇張し、同情を引くことで正当な対価の支払いを免れようとする『同情論証の誤謬』。さらに個人の住宅事情を社会福祉全般の義務へと不当に拡張する『過度な一般化』が認められます。反論不成立。……処刑シークエンスへ移行します」
「ぎゃあああッ!? ちょっと待て、まだ俺様のターンは終わって──」
パシュッッ!!
音速の踏み込み。
ネギオの小さなボディが残像を残してイグニスの背後へ回り込んだ。
ネギカリバーの切っ先が、イグニスの作業ズボンの縫い目をミリ単位の精密さで捉え、高濃度の世界樹活性生薬が圧縮空気と共に射出された!
ズッシャァァァァンッッ!!
「ほぎゃあああああああああっっっ!?!?」
イグニスの口から、かつてない高音の金切声が迸った。
竜人の青年は白目を剥き、尻からボッと火花を噴き出しながら、垂直に十メートル近く跳躍した。
「あ、熱い! 灼熱の溶岩がケツから背骨を登って脳幹をシェイクしてるぅぅぅッ!! ……で、でも、昨日の開墾作業で折れかけてた腰の筋繊維が一瞬で超回復してるぅぅぅッ!! パワーが溢れて止まらねぇぇぇッ!!」
イグニスは狂ったように広場の石畳を転げ回りながら、雄叫びを上げて走り去っていった。
「次の方、どうぞ」
ネギオが何事もなかったかのようにネギカリバーを構え直す。
そこへ、両手剣を背負った青年自警団員フェイト・ラックが、青ざめた顔でコイントス用の銀貨を構えながら進み出た。
「お、おい! 俺のユニークスキル『コイントス』で勝負だ! 表が出たらネギを三本貰う! 裏が出たら……」
「確率論的逃避による論点放棄。思考停止の極みです」
パシュッッ!!
「ぶべらぁぁぁぁぁッッ!? ケツの穴にコインが立つぅぅぅぅッッ!!」
フェイトもまた、神速のロイヤル・クレンズの直撃を受け、痙攣しながら地平線の彼方へと吹き飛んでいった。
「ひ、ひぃぃぃ……! 悪魔だ! あのネギはケツを狩る悪魔だぁぁ!」
逃げ惑う男たちの阿鼻叫喚。
そこへ、凛とした涼やかな声が割って入った。
「そこまでにしなさい、ネギオ客員教授」
人混みをかき分けて歩み出てきたのは、動きやすいカーキ色の作業着に安全靴を履いた、第43代村長キャルル・ムーンハートだった。
可憐な白い兎耳をピント立て、腰の木製ダブルトンファーにそっと手を添えている。
「村長。おはようございます」
ネギオが一礼する。
キャルルは胸ポケットから村の予算書と行政台帳を取り出し、明瞭な口調で対話を始めた。
「ポポロ村行政基本条例第12条に基づき、世界樹防衛端末が村内に滞在する条件として『地域住民への教育および基礎物資の円滑な供給』が定められています。あなたの頭部の超活力ネギは、村の農業振興および健康増進のための公共リソースの一部です。住民の論理的未熟さを理由に一方的な侵襲的医療行為を乱発することは、地方自治法における『信義誠実の原則』および『比例原則』に著しく違反しています」
完璧な法学理論とマクロ経済の観点からの反論。
ネギオの単眼レンズがピピピと高速でデータを処理する。
「反論を受理。キャルル村長の指摘は法規上妥当です。ゆえに村長個人に対するネギの配給は無条件で承認いたします。……しかし、一般村民への配給基準を緩和することは、知性の退廃を招くため容認できません。知性なき肉体には、直腸からの物理的覚醒こそが最も費用対効果に優れていると結論づけます」
「うぅ……理屈っぽい……!」
キャルルが耳をペタリと倒して唸る。
そこへ、群衆の後方から静かな足音が近づいてきた。
「その費用対効果の計算、医学的見地から重大な欠落がありますよ」
落ち着いた、通る声。
救急用タクティカルリュックを背負った中村優太が、ゆっくりと演台の前へと進み出た。
「……何者ですか? 初見の生体反応です」
ネギオのレンズが優太をスキャンする。
「ポポロ村の臨時医官を務めております、中村優太です。防衛医大で救急医療と戦傷外科学を修めてきました」
「医師ですか。ならば理解できるはずです。直腸粘膜からの高純度活性生薬の投与は、肝臓での初回通過効果を回避し、下大静脈を経由して血中濃度を瞬時にピークへと引き上げる、極めて合理的な投与経路であると」
ネギオの電子音声に、わずかな自信の色が混ざる。
だが、優太の表情は微動だにしなかった。
左手首の耐衝撃ウォッチのアラームをセットし、優太は冷徹な眼差しで論理のメスを突き立てた。
「薬理動態学(PK/PD)の表面的な理屈としては合っていますね。……しかし、臨床医学および生体防御反応の観点が完全に抜け落ちています」
「……何だと?」
「第一に、直腸投与における『迷走神経反射』のリスクです」
優太は指を一本立て、明瞭に解説を始めた。
「超高圧の気体と薬液を予告なく直腸膨大部へ急激に注入すれば、骨盤内臓神経および迷走神経が過剰刺激され、急性徐脈や血圧低下による意識消失発作──いわゆる血管迷走神経性失神を誘発します。屈強な農夫だから耐えられていますが、高齢者や心疾患の素因を持つ患者であれば心停止に至る極めて危険な暴挙です」
「ピ……ピピ……」
ネギオの内部クロックが、かすかに演算速度を落とした。
「第二に、心理的侵襲による『交感神経過緊張』がもたらす免疫抑制です。衆人環視の中で強制的に臀部を撃ち抜かれるという強烈な羞恥心と恐怖は、大脳辺縁系をパニックに陥れ、副腎皮質から大量のストレスホルモン──コルチゾールを分泌させます。コルチゾールは末梢血管を収縮させ、世界樹生薬の有効成分が末梢組織へ行き届くのを阻害し、中長期的な自然治癒力を著しく減殺する。……つまり、あなたの行っている『超回復』は、短期的な神経麻痺による錯覚に過ぎず、トータルでの治癒効率は経口摂取の半分以下に落ち込んでいるのです」
「ピ……ピガガッ!? 治癒効率が……半分以下……!?」
ネギオの頭部から、チリチリと微細なショートの白煙が立ち上り始めた。
「そして第三に──最大の欠陥は『患者の尊厳(QOL)の破壊』だ」
優太の瞳に、医療従事者としての揺るぎなき信念が宿る。
「医療とは、相手を服従させるための棍棒ではない。患者の痛みに寄り添い、信頼関係を築いた上で、共に病魔を退けるものだ。知性を誇るあなたが、暴力的な羞恥心で他者を支配しようとするのは……知性の勝利ではなく、ただの『コミュニケーションの完全な敗北』ですよ」
カチリ、と静寂が広場を支配した。
完全無欠の医学的・論理的論破。
ネギオの単眼レンズが激しく明滅し、内部の冷却ファンがファアアアンとけたたましい悲鳴を上げる。
「論理演算エラー……。迷走神経反射のリスク係数、コルチゾールによる血行阻害、ラポール不在によるアドヒアランス低下……。全て……全て反論の余地なき医学的真実……! 我がアルゴリズムの……完全なる敗北……!」
プシューーーーッ……。
ネギオの頭頂部から排熱蒸気が一気に噴き出し、神剣ネギカリバーがカチャリと安全装置をロックして収納された。
「……しかし、医師殿。生薬の迅速な全身循環を達成する代替手段が存在しなければ、我が超回復プロトコルを完全に破棄することは不可能です」
なおも食い下がるネギオに対し、優太は静かに息を吸い込んだ。
視界の隅に、青白く輝くシステムインターフェースを呼び出す。
【現在保有善行ポイント:3,556P】
目的は明白だ。村の男たちの尊厳を守り、世界樹の知性を真の医療協調へと導くこと。私利私欲は一切ない。
「頼む……侵襲性を極限までゼロにし、生薬の経皮吸収効率を最大化する現代医療デバイスを寄越せ」
【100Pを消費:地球ガチャを実行(残余:3,456P)】
【使用者の純粋な医療倫理、患者の尊厳を守る強い意志を感知──特殊判定成功】
【排出等級:SSR(地球先端生体工学・溶解型マイクロニードル経皮吸収パッチ製造キット&無痛ナノ浸透リポソーム基剤一式)】
淡い光が収束し、優太の手元にコンパクトな耐熱医療ケースが出現した。
優太はケースを開け、微細なヒアルロン酸の針が並んだ透明な医療用パッチを取り出した。
「これを見なさい、ネギオ。先端の長さわずか五百マイクロメートルの溶解型マイクロニードルだ。皮膚の角質層だけを無痛で通過し、毛細血管網へ直接生薬を徐放する。これにあなたの世界樹生薬を充填して肩や腰に貼るだけで、直腸投与と同等の吸収速度を、完全な無痛かつ患者の尊厳を守ったまま達成できる」
ネギオのセンサーが、パッチの微細構造を凝視した。
「……ミクロ単位の無痛経皮浸透デバイス。侵襲性ゼロ、ストレスホルモン分泌ゼロ、有効成分の到達率九十九・二パーセント……! 完璧です……! 我が完全敗北を認めます!」
ネギオは深々と頭部を下げると、頭頂部のネギカリバーから、見事な翡翠色の極上長ネギを三本、自ら丁寧に折り取って優太へと差し出した。
「知性の探求者、中村優太殿。この至高の世界樹ネギと、我が防衛端末の知恵を、あなたとポポロ村の医療のために捧げます」
その瞬間──広場に集まっていた村の男たちから、地鳴りのような歓声が爆発した!
「うおおおおおっ! 優太さんが勝ったぞぉぉぉっ!!」
「ケツを撃たれずに済んだぁぁぁっ! 優太さんは俺たちのケツの守護神だぁぁぁっ!!」
「神様、仏様、優太様ぁぁぁっ!!」
男たちが涙を流しながら優太を胴上げしようと押し寄せてくる。
キャルルも満面の笑みで駆け寄り、長い兎耳を嬉しそうにパタパタと揺らした。
「優太さん、凄いです! あの頑固なネギオ教授を、知性と科学で完全に納得させちゃうなんて!」
「いや、ネギオが真摯に論理と医療に向き合ってくれたおかげだよ」
優太が苦笑いしながら応じると、視界の隅に黄金の光文字が流れた。
【古代防衛知性体の論理的調停および集団侵襲危害の完全阻止を感知】
【重大な地域公衆衛生の革新と村民の尊厳救護:善行ポイント+300P獲得】
【現在保有善行ポイント:3,756P】
夕暮れ時、小料理・BAR『鬼龍』の厨房には、鼻腔を狂わせるような甘く香ばしいネギの焦げた匂いが満ちていた。
仕上砥石で磨き抜かれた本焼き包丁が、ネギオから譲り受けた極太の世界樹ネギを、正確な斜め切りでサクサクと刻んでいく。
炭火の焼き台の上で、分厚い鴨肉に似た野鳥の胸肉と世界樹ネギが、ジュウウゥゥと音を立てて香ばしく炙られていた。
「……いいネギだ。青臭さが微塵もねぇ。火を通すと、芯のゼラチン質から極上の甘みが溢れ出してきやがる」
黒い前掛け姿の龍魔呂が、手際よく出汁を張り、茹でたての蕎麦の上に炙り鴨と極太ネギを美しく盛り付けた。
カウンターにドンと置かれたのは、湯気立ち上る『特製・鴨南蛮風出汁蕎麦』だった。
「へい、お待ち。ケツを守り抜いた記念の一杯だ」
「いただきます!」
優太が箸を取り、出汁をすすってネギを一口かじった。
シャキッとした歯応えの直後、果物をも凌駕する濃厚な甘みと旨味が口いっぱいに広がり、鼻へ抜ける香ばしさが五臓六腑を温かく包み込んでいく。
「美味い……! 龍魔呂、最高のネギ料理だよ」
「素材が良かっただけだ」
ぶっきらぼうに応じる龍魔呂は、棚の瓶から角砂糖を二粒口へ放り込んだ。
ボリッ、ボリボリッ……。
静かな店内に、小気味いい破砕音が響く。
真鍮ライターを親指で弾き、赤箱のタバコに火を灯した龍魔呂が、紫煙をくゆらせながら目を細めた。
カチッ……シュポッ。
「……だが優太、ネギ騒動が片付いたところで、村の火種は消えちゃいねぇぞ。……今夜あたり、自警団の詰め所からとんでもねぇ地雷が爆発する頃合いだ」
「地雷……?」
「マンミアだ。……あいつの最大のトラウマである『25歳未婚クライシス』の周期が、いよいよ限界点に達してやがる」
龍魔呂の不穏な言葉に、優太は苦笑しながら無添加の青いタバコを燻らせた。
限界集落ポポロ村の日常は、休む間もなく次の騒乱へと向かっていた。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




