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『異世界戦術医の善行スローライフ〜地球ガチャで限界集落を救っていたら、相棒の処刑人料理人と裏支配者になっていた〜』   作者: 月神世一


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11/33

EP 11

公開鑑定ショー開幕!ゴッドチューブ1000万人の目撃者

 決戦の朝、東の山並みから昇る太陽が、ポポロ村の青々とした高原を冷涼な光で満たしていた。

 小料理屋『鬼龍』の二階、中村優太にあてがわれた一室は、ピンと張り詰めた静寂に包まれている。

 優太は机の上に両手を置き、深呼吸を繰り返した。

 左手首の耐衝撃デジタルウォッチが刻む現在時刻は、午前八時三十分。正午のタイムリミットまで、残すところあと三分半と三時間余りだ。

 視界の右隅に、淡く発光する半透明のインターフェースが展開していた。

【現在保有善行ポイント:1,703P】

 これまでに積み重ねてきた皿洗い、用水路の泥かき、怪我人の整復や手当て。見返りを求めず、ただ村人たちのささやかな日常を守るために払った泥臭い労働の結晶である。

 今日暴くべき相手は、他者の射幸心と焦燥感を煽り、純朴な若者たちの切実な生活費を根こそぎ毟り取った脱獄転生者たちだ。

 必要なのは、曖昧な感情論でもなければ、ただ叩き伏せるだけの腕力でもない。

 衆人環視の白日の下で、悪党のペテンを分子レベル、ミリ単位の客観的事実によって解体するための「絶対的な科学の眼」だった。

「頼む……詐欺師の化けの皮を完全に剥ぎ取り、騙された仲間たちの尊厳を取り戻すための力を寄越せ」

 打算を排し、ただイグニスや村人たちの悔し涙を拭うという冷徹な決意を込め、優太は意識の中でアイコンを選択した。

【100Pを消費:地球ガチャを実行(残余:1,603P)】

【使用者の明確な目的意識、打算なき義憤と救命の意志を感知──特殊判定成功】

【排出等級:SSR(工業用高精度非破壊検査システム・一式)】

 空間が微かに歪み、机の上に重厚な艶消しブラックのペリカン型耐衝撃ハードケースが出現した。

 左右の大型ラッチを跳ね上げると、硬質ウレタンフォームの中に美しく鎮座していたのは、地球の最先端工業技術の結晶だった。

 直径三・九ミリ、先端に極小の超高精細CCDカメラと白色LED、そして四方向への湾曲操作機構を備えた『高精度工業用ビデオ内視鏡』。

 そしてその隣には、金属表面に超音波振動子を当て、打撃による反発速度から分子密度と硬度を瞬時に弾き出す『ポータブル超音波・反発式金属硬度計』。

 予備バッテリー、外部出力用高輝度モニターケーブル、校正用テストピースに至るまで、寸分の狂いもなく揃っている。

「……完璧だ」

 優太は指先でモニターの電源を入れ、プローブのカメラが捉える鮮明無比な画像を確認した。

 これさえあれば、どれほど精巧に作られた張りぼてであっても、内部の巣(ブローホール)や結晶配列の破綻を逃さず白日の下に晒すことができる。

 階下へ降りると、厨房からはすでに芳醇な出汁の香りと共に、J.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲』が静かに流れていた。

 カウンターの奥では、黒い前掛け姿の龍魔呂が、仕上砥石で青光りする本焼き包丁を鏡のように磨き上げている。

「……出たのか」

「ああ。最高の手札が揃ったよ」

 優太がケースを軽く叩くと、龍魔呂は低く鼻を鳴らし、棚のガラス瓶から角砂糖を二粒摘み上げて口へ放り込んだ。

 ボリッ、ボリボリッ……。

 小気味いい破砕音が店内に響き渡る。ブラックのポポロ・コーヒーで喉を潤した龍魔呂は、レザージャケットのポケットから使い込まれた真鍮製オイルライターを取り出し、親指で弾いた。

 カチッ……シュポッ。

 静かな黄色のオイル炎が灯る。その奥にある漆黒の瞳は、獲物を解体台に乗せる直前の静謐さを湛えていた。

「舞台は整った。あのネズミ共を、逃げ場のない俎板の上に乗せてやれ」

「任せてくれ。きっちりケジメをつけてくる」

 午前十一時──。

 ポポロ村の東外れ、大平原へと続く境界広場は、割れんばかりの熱気と喧騒に包まれていた。

 広場の中央には、赤と紫の派手な天幕で飾られた巨大な特設ステージが組まれ、その周囲には数百人もの冒険者、農民、商人たちが鈴なりになって押し寄せている。

「さあさあ皆様! いよいよ本日のメインイベント、伝説の古代迷宮より発掘された神話級(SSR)武具の『最終公開オークション』の開幕でございます!」

 ステージの上で声を張り上げているのは、青い魔導スーツに身を包んだ鮫島剛だった。薄い金縁眼鏡を指先で押し上げ、胡散臭いセールストークを滑らかに紡ぎ出す。

 その隣では、模造宝石をジャラジャラとつけた元土木作業員の火原元が、太い腕を組んで下品な黄ばんだ歯を剥き出しにしていた。

「昨日は若い竜人の兄ちゃんが『天魔絶刀』を見事に競り落として大喜びしていったがねぇ! 本日の目玉はさらに桁違いだ!」

 鮫島が仰々しく合図を送ると、黒いビロードの布が跳ね上げられた。

 台座の上に鎮座していたのは、白銀の眩い光を放つ円盾──『聖王の円盾』である。

 鮫島が手にした水晶板をかざすと、ステージ背面の巨大な魔導スクリーンに、神話級の鑑定ステータスが誇らしげに投影された。

【対象:聖王の円盾】

【等級:神話級(SSR)】

【防御力:+3,800/全属性魔導攻撃無効化/不壊】

「うおぉぉぉっ! 本当に全属性無効化だ!」

「これさえあれば、どんな凶悪な魔獣のブレスだって完封できるぞ!」

 群衆の若い冒険者たちが息を呑み、興奮のあまり前のめりになる。

 その最前列で、フードを目深に被った竜人イグニスが、震える拳を握りしめながら壇上を睨みつけていた。彼の胸元には、昨日タローソンの見切り品ネギに当たって無残に刃こぼれした『天魔絶刀』が抱えられている。

「……あの野郎ども、よくもぬけぬけと……!」

「焦るな、イグニス。反撃の狼煙はこれからだ」

 イグニスの背後から、落ち着いた声が届いた。

 振り返ると、そこには見慣れたグレーのパーカー姿の中村優太、作業着にダブルトンファーを下げた村長キャルル、燕尾服に身を包んだ人狼執事リバロン、そして算盤を抱えた商人ニャングルが静かに控えていた。

 そしてその時──空から賑やかな羽音が響き渡った。

「はーい! 全宇宙のリスナーのみんな、息してるぅ〜!? みんなのアイドル、メガゴッドチューバーのキュララちゃんだよ〜♡」

 桜色のツインテールと天使の純白の翼を羽ばたかせ、キュララがステージの直上へと優雅に降臨した。

 その周囲を、超高精細の自律浮遊型撮影オーブが四方八方から飛び交い、ステージの様子を全角度から捉え始める。

 キュララが指を鳴らすと、広場の虚空に半透明の巨大な配信ウィンドウがパッと展開された。

【枠タイトル:【緊急検証】神話級武器オークションの真実を暴く!? ポポロ村公開査定スペシャル!】

【ゴッドチューブ同時接続者数:12,480,000人突破】

【コメント欄】:

『きたああああ! キュララちゃんのゲリラ生配信!』

『同接一千万超えはやばすぎwww』

『ん? ポポロ村? あの悪徳役人を裸足で追い返した魔境じゃん!』

『また何か面白いこと始まるのか!?』

「ちょ、おい! なんだお前は! 営業妨害だぞ!」

 突然の配信乱入に、鮫島が顔を引きつらせて怒鳴り散らした。

 だが、キュララは悪魔的なウィンクを一発飛ばし、配信オーブを鮫島の顔面へグイグイと近づける。

「えへへ♡ 営業妨害だなんて人聞きの悪い! こんなに素晴らしい神話級武具のオークションなんですから、天界の神々や全宇宙の冒険者たちにも広く宣伝してあげようっていう親切心ですよ〜! ほらほら、リスナーのみんなも買いたくてウズウズしてるんだから!」

「な、なに……? 全宇宙の神々だと……?」

 鮫島と火原の目が、一瞬で貪欲な光に濁った。

 一千万人の視聴者──もしこの配信を通じて神話級の評判が広がれば、金貨数千枚どころか、天文学的な富を騙し取れるかもしれない。欲に目が眩んだ詐欺師の脳内では、警戒アラートが完全に麻痺していた。

「ふ、フン……! まあいいだろう! 正真正銘の本物だからこそ、何万人に見られようと痛くも痒くもないわ! さあ、この『聖王の円盾』、開始価格は金貨百枚からだ!」

 鮫島が胸を張り、大見得を切ったその瞬間──。

「待った。入札の前に、一つ確認させてもらいたい」

 静かだが、大広場の隅々まで明瞭に通る声が響いた。

 群衆が自然と左右に割れ、道が開く。

 歩み出てきたのは、ペリカンケースを抱えた中村優太だった。

 その背後を、キャルル、リバロン、ニャングルが寸分の隙もなく護衛するように固めている。

「あン? なんだてめぇは。昨日のヤブ医者じゃねぇか!」

 火原が太い腕を振り回し、下品に唾を飛ばした。

「金もねぇ奴が冷やかしに来たんじゃねぇだろうな! 素人は引っ込んでろって言ったはずだぞ!」

「冷やかしではありませんよ。ポポロ村の臨時医官として、そして公衆衛生および安全管理の観点から、この取引の『客観的・科学的正当性』を確認しに来ただけです」

 優太は穏やかな微笑みを崩さず、壇上の階段をゆっくりと上がった。

 手元の耐衝撃ウォッチが、チクタクと針を進めている。

 午前十一時五十五分。

 鮫島の『ステータス偽装』が強制解除される四十八時間のタイムリミット──正午まで、残すところあと五分だった。

「客観的正当性だと……? この『神の瞳』が弾き出した鑑定結果を見れば、神話級であることは火を見るより明らかだろうが!」

 鮫島が苛立たしげに水晶板を突き出す。

 優太はケースを壇上のテーブルへ置き、パチンと静かにラッチを外した。

「文字データなど、光の屈折や魔導細工一つでいくらでも改竄できますからね。……真実は常に、物質そのものの『内部』にしか宿りません」

 ケースが静かに開かれ、漆黒のビデオ内視鏡と超音波硬度計が陽光の下へ現れた。

 優太の瞳の奥に、獲物の病巣を寸分の狂いもなく切り取る執刀医の光が宿る。

「さあ、公開検証を始めましょう。一千万人の目撃者の前で、その盾と剣の『本当の姿』を拝見します」

 運命の秒針が、破滅のカウントダウンを刻み始めていた。

読んでいただきありがとうございます。

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