↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/20

第16話 箱の中身は、過去の俺。

「……おいおい。これ、まだあったのかよ」


押し入れの奥から引っ張り出した段ボール箱。


側面には、昔の俺が書いたらしい文字。


『ゲーム関係』


我ながら、実に分かりやすい。


そして、実に雑だった。


蓋を開けると、古いゲームソフトが何本も入っていた。


ケースに入ったもの。


ケースのないもの。


説明書だけのもの。


「……説明書だけって、何だよ」


本体がない。


ソフトもない。


あるのは説明書だけ。


昔の俺は、いったい何を考えて保管していたのだろう。


「……いや、捨てるよりマシか」


そう呟いて、さらに箱を探る。


古いコントローラー。


何に使うのか分からないケーブル。


メモリーカード。


そして、奥の方に小さな布袋があった。


「……ん?」


取り出してみる。


黒い布袋。


紐で口を縛るタイプだ。


表面には、かすれた金色の文字があった。


『冒険の記録』


「……なんだっけ、これ」


紐をほどく。


中から出てきたのは、小さなメモリーカードだった。


それと、折り畳まれた一枚の紙。


「……ああ!」


思い出した。


昔、友人とゲームの攻略情報を交換していた頃のものだ。


インターネットで何でも調べられる時代ではなかった。


攻略本を買い、雑誌を読み、友人から情報を聞く。


それでも分からなければ、自分で試す。


「……懐かしいな」


紙を広げる。


手書きの文字が並んでいた。


『最終決戦前にセーブ』


『隠し武器を取り忘れるな』


『あの扉は開けるな』


「……最後だけ物騒だな」


何のゲームだったか。


記憶をたどる。


確か、剣と魔法の世界を冒険するRPGだった。


仲間を集め、魔物を倒し、最後に魔王と戦う。


よくある話だ。


だが、当時の俺は夢中になっていた。


学校から帰ると、真っ先にゲーム機の電源を入れた。


夕飯を呼ばれても、なかなかやめなかった。


「……あの頃は時間があったな」


今は違う。


仕事がある。


買い物がある。


洗濯がある。


そして、メリカリがある。


「……最後だけ最近増えたな」


箱の底には、もう一つ何かが入っていた。


古びた攻略本だった。


表紙は擦れ、角が折れている。


ページの端には、何かをこぼしたような染み。


「……状態悪っ」


だが、捨てる気にはならなかった。


ページをめくる。


手書きの丸印。


赤いボールペンで書かれた注意書き。


『ここで回復』


『右の宝箱は罠』


『絶対に売るな』


「……何を?」


その文字の横には、一本の剣のイラストが描かれていた。


剣の名前は、印刷が擦れて読みにくい。


だが、その形には見覚えがあった。


長い刀身。


独特な鍔。


柄の中央に、小さな宝石。


「……こんな剣、あったっけ」


思い出せない。


それなのに、妙に気になった。


俺は攻略本を閉じた。


「……ま、今はこっちが先だな」


部屋の中央には、まだ梱包途中の携帯ゲーム機が置いてある。


売れた商品を放置するわけにはいかない。


「……まず発送だ」


攻略本を箱に戻し、カッターを手に取った。


そして、段ボールと格闘することになった。


またしても。


「……よし」


三十分後。


ようやく箱の形になった。


前回の二時間に比べれば、大幅な進歩である。


「俺、才能あるんじゃねえか?」


ただし、出来上がった箱は少し歪んでいた。


右側が、わずかに高い。


左側は、少し低い。


「……芸術作品だな」


誰がどう見ても、ただの失敗作だった。


それでも、中の商品は動かない。


プチプチで包み、隙間を埋め、テープで固定する。


最後に軽く箱を揺らした。


カサカサ。


「……ん?」


中から音がした。


もう一度。


カサカサ。


「……何が動いてんだ?」


箱を開ける。


隙間を埋めた紙が、少しずれていた。


「……お前かよ」


紙を詰め直し、再び封をする。


今度は音がしない。


「完璧」


時計を見る。


午後十時過ぎ。


「……ゲーム機一台で、何やってんだ俺」


机の上には、古い攻略本が置いてあった。


結局、気になって箱から取り出してしまったのだ。


「……これも売れるのかね」


スマホでメリカリを開く。


攻略本のタイトルを入力する。


検索結果が表示された。


「……へえ」


同じ本が、何冊か出品されていた。


状態のいいもの。


書き込みのあるもの。


表紙が破れたもの。


値段も、ばらばらだ。


「……こんな古い本まで売ってんのか」


売り切れた商品に絞る。


すると、さらに驚いた。


「……マジか」


自分が思っていたより、高い金額で売れているものがあった。


もちろん、状態や付属品によって価格は違う。


だが、少なくとも捨てるしかない本ではなさそうだった。


「……何でも調べてみるもんだな」


俺は攻略本を手に取った。


表紙を拭き、ページを確認する。


書き込み。


折れ。


染み。


状態は決してよくない。


それでも、必要としている人がいるかもしれない。


「……出してみるか」


そう思い、カメラを起動した。


表紙を撮る。


裏表紙を撮る。


ページの状態を撮る。


書き込みのある場所も撮る。


隠す必要はない。


買った人が困るだけだ。


「……よし」


写真を確認する。


そして、説明文を書こうとしたところで、手が止まった。


「……ん?」


攻略本の最後のページ。


そこに、何かが挟まっていた。


薄い紙。


いや。


紙ではない。


小さなカードだった。


「……こんなの入ってたか?」


取り出してみる。


表面には、古いゲームのキャラクターらしい絵が描かれていた。


裏面には、文字がある。


『受け取ったものは、返せない』


「……は?」


思わず声が出た。


何だ、この文章。


ゲームの宣伝カードか?


それとも、何かの特典だろうか。


カードの隅には、小さな文字があった。


『契約成立後の返品はできません』


「……メリカリかよ」


思わず笑った。


ゲームの世界にも、返品トラブルがあるらしい。


「……いや、待てよ」


妙な既視感があった。


どこかで、この文章を見たような気がする。


だが、思い出せない。


俺はカードを裏返した。


もう一度、表を見る。


何の変哲もない、古いカードだ。


「……気のせいか」


攻略本に戻そうとした。


そのとき。


スマホの画面が、突然暗くなった。


「……あ?」


バッテリー切れかと思った。


だが、残量は十分ある。


画面の中央に、白い文字が一行だけ表示されていた。


《その商品は、出品できません》


「…………は?」


画面をタップする。


反応しない。


電源ボタンを押す。


それでも、文字は消えなかった。


「……何だよ、これ」


数秒後。


画面が元に戻った。


メリカリの出品画面。


撮影した写真も、入力途中の説明文も、そのまま残っている。


「……バグか?」


俺は首をかしげた。


もう一度、攻略本を見る。


そして、カードを手に取る。


『受け取ったものは、返せない』


「……意味分かんねえ」


カードを机の引き出しにしまった。


攻略本は、ひとまず出品をやめることにした。


何となく、気分が乗らなかったのだ。


「……寝るか」


部屋の明かりを消す。


布団に入る。


スマホを充電器につなぎ、目を閉じた。


しばらくして。


机の引き出しの中で、小さな音がした。


コツ。


コツ。


コツ。


三回。


まるで、誰かが扉を叩くような音だった。


だが、眠りに落ちかけていた俺は、その音に気づかなかった。


――引き出しの中にあるカード。


その裏面に書かれた文字が、ほんの一瞬だけ白く光った。


『契約成立後の返品はできません』


そして、何事もなかったように消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。