第1章:2.4 緑葉が編む羞恥の境界
――ピロン!
静まり返った荒野に、天上の音楽のように澄んだ電子通知音が鳴り響いた。
灰金色の画面の上に、流れるような繁体中国語の文字列が勢いよく浮かび上がった。
『希少級原生薬草「ブルースター草」×1の買い取りに成功しました』
『高純度の自然魔力を検出』
『現在の次元為替レートを自動換算します』
『口座残高に入金:1銅貨!』
『現在の口座総額:1銅貨』
「うそ……っ」
伊凝雪は両目をこすり、あんぐりと口を開けたまま完全に呆然としていた。
「本当に……お金に換わっちゃった?!」
「あと0.1銅貨だ!」
闕恆遠の瞳に、かつてないほどの強い光が宿った。
彼はすぐさま少女たちへと振り返り、低く叫んだ。
「早く!」
「周囲に何か奇妙な植物や、光ってる草がないか探してくれ!」
「あと0.1銅貨あれば、全員分の服と履き物が揃うんだ!」
四人の少女たちは、頼れる大黒柱を見出したかのように表情を一変させた。
身にまとった大葉がいつめくれ落ちるかも構わず、全員が屈み込み、周囲の草むらの中を夢中になって探し始めた。
「恆遠!」
「これを見て!」
玥映嵐が、岩の陰に生えた薄汚れた灰色で、傘の頭に暗紫色の斑点がついた数本の野生きのこを指差した。
闕恆遠は問答無用でそのきのこを引き抜き、カメラの前へと差し出した。
光線が再び一閃し、きのこは紫色の光の粒となってスマホへと吸い込まれていく。
――ピロン!
『通常毒キノコ「紫斑菌」×3の買い取りに成功しました』
『換算収益:0.2銅貨』
『現在の口座総額:1.2銅貨!』
「足りた……っ!」
闕恆遠は興奮のあまり、両手を激しく震わせた。
彼は迷うことなく画面上の『粗製のリネンローブ×5』と『粗悪な草鞋×5』を素早く選択した。合計金額は1.1銅貨。
人差し指の腹を、画面中央にある灰金色の『取引確認』ボタンへと強く押し込んだ瞬間――
――ゴォッ!
目に見えない強烈な気圧が、闕恆遠のスマホを中心に凄まじい勢いで巻き起こった!
スマホの背面にある金色の歯車紋様が、目を灼くような灰金色の強光を放ち、空間の流れそのものが凝固したかのように錯覚させる。
虚空から溢れ出した無数の実体めいた金色の光の糸が、闕恆遠の目の前の草地で、人類の技術限界を遥かに超越した3D光学織機のように、肉眼では捉えきれない速度で交錯し、編み込まれ、実体化していく。
空気の中へと、乾燥した古風な、微かな麻糸と干し草の清々しい香りが漂い始めた。
わずか三秒の出来事だった。
――バサッ、バサッ。
金色の光が一瞬で霧散した。
きっちりと整然と畳まれた、素朴な灰色を帯びた大きめのリネンローブ五着と、固く編み込まれた乾燥藁の草鞋五足が、紛れもない現実として、ずっしりとした重みを持って青々とした草の上へと転がり落ちていた。
奇跡。
それは彼らの目の前でまざまざと繰り広げられた、データと物質を自在に変換する神の業だった。
悦清禾は小さな両手で自らの唇を固く覆い、堪えきれなくなった涙が、ついにその頬を伝い落ちた。
それは現代文明の残滓と、生き残るための希望が再び舞い戻ってきたことへの涙だった。
「服だわ……っ」
千慕羽は震える両手を伸ばし、地面に落ちていた粗末で、かすかにチクチクとした感触の残るリネンローブを拾い上げた。
いかなる精緻な刺繍や模様もなく、光に透かせば体の輪郭がおぼろげに見えてしまうほど薄い布地だったが、今この時、一糸まとわぬ全裸で緑葉にすがっていた彼女たちにとって、それは天上の神から賜った何より贅沢な恩寵に他ならなかった。
「みんな、早く着替えてくれ」
闕恆遠は自分用のローブと草鞋を掴み取ると、極めて自覚的に、そして素早く背中を向けて立ち尽くした。
すぐさま背後から、青蔓が解かれ、巨大な緑の葉が草地へと滑り落ちる衣擦れの音が重なり合って聞こえてきた。
続いて、ざらついた粗麻の布地が少女たちの柔らかな素肌を撫でるたび、慣れないチクチクとした刺激に漏らされる、かすかな吐息と引きつるような声が耳朶を打つ。
粗末な布が頭から被せられ、肩を覆い、豊かな胸元を包み込み、そのまま脛のあたりまで滑らかに垂れ下がっていく。
五人がようやく身支度を整え、ごわごわとした草鞋を足に履かせたとき、人間社会へと再び立ち戻った確かな手応えが、足の裏から脳天へとじんわりと広がっていった。
闕恆遠は振り返った。
四人の少女たちは、最下層の難民すら着るような安物の麻布ローブを纏い、髪もわずかに乱れていたが、その類稀なる端整な顔立ち、白鳥のようにしなやかな首筋、そして風に揺れるローブの下から浮かび上がる嫋やかな肢体は、粗末な麻布にすら極めて高貴で汚れなき神秘的な美しさを宿らせていた。
玥映嵐は足元の草鞋を軽く踏みしめた。
少し足裏を刺激するものの、少なくとも地面の小石や泥の冷たさからは守られている。
彼女は顔を上げ、朝の光の中に背筋を伸ばして立つ闕恆遠を見つめた。
その瞳には、言葉では言い表せないほどの柔らかさと、確固たる信頼の色が滲んでいた。
「行こう」
闕恆遠はスマホをローブの内側にある隠しポケットへと大事に収め、遠くで曲がりくねる土色の街道を見据え、力強く告げた。
「見に行こうぜ、」
「この世界が、一体どんな場所なのかを」




