第12章 届けるために戦う
三人は道路の中央で立ち止まったまま、バリケードを見ていた。その向こうでは、クリスタ・ヒルズの灯りが増え続けている。
もう遠景ではない。ガラス塔の窓も、建物をつなぐ空中通路も見える。だが、そこまで続いているはずの道路を、目の前の瓦礫が塞いでいた。
「上にもいる」
カイトが言った。
ノゾムは視線を上げた。道路をまたぐ古い構造物の上に、夕闇に溶けかけた人影が一つ見える。HUDの倍率を上げると、腕の先に細長いものがあった。銃だ。
さらに左の崩れた建物に二人。右側の壁の陰には三人の人影がいる。
「見えるだけで六」
カイトが周囲を見回す。
「たぶん、もっといる」
ノゾムも同じことを考えていた。
前に武装した人間と遭遇したとき、最初に見えていたのは三人だった。実際には、それだけではなかった。今は道路の先だけを見ない。割れた窓の奥、壁の陰、高架の下。人が立てる場所を順に視線で追う。誰かがいるかどうかは分からない。分からないから、いるものとして見る。
それでも、向こうは撃ってこなかった。こちらは隠れていない。三人とも道路の上に立っている。高所の見張りからなら、さらによく見えるはずだ。
「右、回れない?」
カイトが右手の道路へ顔を向けた。
「先が潰れてる」
シンゴが答えた。
「左は?」
「一度戻る」
「どのくらい?」
「分からん。通れる保証もない」
カイトが黙った。
ノゾムのHUDにも迂回候補が表示されている。来た道をかなり戻り、別の道路へ入る線。その先は途中から途切れていた。
その横で短い警告音が鳴った。シンゴの走行服だ。左肩は固定されたまま動かない。ここまで歩いてくる間にも、姿勢は少しずつ前へ傾いていた。
これ以上、何時間も歩かせるのか。そう考えたところで、シンゴが言った。
「俺が行く」
カイトが振り向いた。
「は?」
「前へ出る」
「城戸さん、その肩で何言ってんですか」
「だからだ」
「意味分かんないですよ」
シンゴは答えず、バリケードを見た。
「撃つなら、もう撃てる」
ノゾムも前を見る。その通りだった。距離はある。だが撃てない距離ではない。こちらが動き出すのを待つ必要もない。
「撃たずに止めたいんじゃないですか」
シンゴがこちらを見る。
「俺もそう思う」
前に会った連中も、背中の荷物より走行服を見ていた。今回も同じなら、最初から撃ち壊したいわけではないのかもしれない。
「なら、何使うか出させる」
「城戸さんが?」
カイトの声が強くなる。
「まともに撃てねえ奴が行く方がましだ」
「ましじゃないでしょ」
「何か出たら近づけるな」
シンゴはそれだけ言って、道路へ出た。
「城戸さん!」
カイトが呼ぶ。それでも止まらない。
左腕はほとんど動かない。足取りも普段より遅い。それでも身体を正面へ向け、バリケードへ歩いていく。
カイトが舌打ちして右腕固定銃を上げた。ノゾムも構える。
五メートル、十メートルと距離が縮まっていく。それでも敵は動かない。
ノゾムはシンゴではなく、その左右を見る。建物の影、バリケードの隙間、高所。十五メートルほど進んだところで、上の人影が動いた。
「上!」
何かが飛んだ。長い索だった。
両端の重りが回転しながら大きく開き、シンゴの脚を挟むように落ちてくる。シンゴが避けようとしたが、間に合わない。
重りが両脚の外側を回り込み、その勢いのままワイヤーが膝から脛へ巻きついた。右脚が前へ出たのに、左脚がついてこない。走行服の駆動音が一瞬高くなり、次の瞬間、シンゴの身体が前へ倒れた。
「城戸さん!」
二本目が飛ぶ。今度は腰から右腕へ絡みついた。起き上がろうとしたシンゴの身体が横へ引かれ、また道路へ倒れる。
そこで初めて左側の影が動いた。崩れた建物とバリケードの間から三人が出てくる。銃を前に構えていない。一人は長い棒状の道具を持ち、もう一人は太い索の束を抱えている。
「来た!」
カイトが撃った。
舗装が男たちの手前で弾け、三人の足が止まる。二発目は、男たちが身を寄せようとした壁の角を砕いた。破片が散り、三人とも建物の陰へ引く。
「ノゾム、右!」
反射的に右を見る。別の男が壁の陰から出ようとしていた。
ノゾムは右腕を上げる。HUDに照準が浮かび、中心に男の胸が入った。撃てる。距離も分かる。指を動かせば当たる。それが分かることの方が怖かった。
男がもう一歩出る。
ノゾムは照準を下げ、男が身体を出すために使っていたコンクリート壁の角へ撃った。壁が砕け、破片が飛ぶ。男の身体が影へ戻った。
「そのまま止めろ!」
カイトが叫ぶ。
二人でシンゴへ走った。両脚へ巻きついた索は、シンゴが動こうとするたび深く食い込んでいる。走行服の力を押さえ込んでいるわけではない。左右の脚を別々に動かせなくしている。これでは出力があっても歩けない。
ノゾムはワイヤーを掴んで引いた。さらに締まる。
「駄目だ」
「引くな。緩める!」
カイトが敵を見ながら、シンゴの右脚を持ち上げた。
「城戸さん、脚寄せて!」
シンゴが両脚を内側へ動かす。外骨格が低く唸り、ようやく索がたるんだ。分銅が一つ、道路へ落ちる。
ノゾムは重りを掴み、巻きついた索の向きを確かめた。絡んだ順番を逆にたどり、分銅をワイヤーの輪へくぐらせる。一周、もう一周と戻していくと、索が緩んだ。
「外れた」
「次!」
今度は腰だ。
シンゴが身体をわずかに浮かせる。その隙間へ手を入れ、同じように分銅を輪へ戻す。
右から銃声が響き、すぐそばの道路で火花が散った。カイトが撃ち返す。ノゾムは手を止めない。もう一度分銅をくぐらせると、輪がほどけた。
「取れた!」
「戻るぞ!」
カイトがシンゴの右側へ入り、ノゾムは負傷した左肩に触れないよう脇腹側から身体を支えた。三人で下がる。走行服がシンゴの体重を支えている。それでも重い。
敵の弾が道路へ当たった。シンゴではなく、その足元だった。その一発が何を狙っていたのか、ノゾムには分からなかった。
元の位置まで戻り、壁の陰へ入る。シンゴを座らせた途端、走行服からまた警告音が鳴った。さっきより間隔が短い。
「城戸さん」
「肩以外は動く」
立ち上がろうとしたが、一度、右膝が止まった。走行服の脚部フレームが崩れかけた姿勢を支え、二度目でようやく立ち上がった。
カイトはその動きを見たが、何も言わなかった。前を見て、右腕固定銃を上げる。
「人数減ってない。正面から抜けるしかないな」
ノゾムはカイトを見なかった。さっき敵が出てきた左側へ視線を向ける。
三人は建物の中から出てきたように見えた。だが、戻ったときの動きは違っていた。バリケードの左端へ入り、そのまま横へ消えたのだ。崩れた建物の壁と横倒しになった車体との間には、人間一人なら通れそうな隙間がある。
「待って」
声が出た。
カイトがこちらを見る。
「何?」
ノゾム自身も一瞬、返事が遅れた。今までなら、カイトかシンゴの判断を待っていた。
でも、もう一度あの道路へ出て、人間へ銃を向けながら進む光景を想像すると、胃の奥が縮んだ。
「ちょっと待って」
「何かある?」
ノゾムは答えず、バリケードへ視線を戻した。今度は人影そのものではなく、その周囲の形を追う。
横倒しの車両は建物側へ寄せられ、その左端にわずかな隙間を残している。人間なら横を向いて通れる。だが走行服では肩がつかえる。肩を抜いても、その後ろへ張り出したカーゴが壁へ当たる。
ノゾムは数歩右へ動いた。見る位置が変わると、さっきまで車体と重なって一本に見えていた太い鉄骨が離れる。鉄骨は車体の左後部から斜め下へ伸び、その下端を道路中央側のコンクリート塊へ噛ませていた。
さらに位置をずらすと、車体と鉄骨の間にわずかな空間が見えた。鉄骨が突っ張り棒のようになって、車体を建物側へ押さえている。
そこから視線を広げる。高所の見張りから道路中央へ落ちる線。その途中を、傾いたコンクリート壁が切っている。左端の通路は出口こそ見えるが、その手前は壁と車体の影に入っていた。
夕陽は後ろから斜めに差し、壁の影を道路左側へ長く伸ばしている。地面の砂埃は、その影を横切るように右へ流れていた。
「あそこ……」
ノゾムが指した。
「どこ?」
「左。横になってる車」
カイトが指された車体へ顔を向ける。
「その下。斜めの鉄骨」
「鉄骨?」
「あれを外す」
カイトがしばらく見た。
「外したら?」
「車の後ろが道路側へ落ちると思う」
「思う?」
ノゾムももう一度見る。構造計算なんてできない。何トン掛かっているかも分からない。でも、形なら見える。
「構造までは分からない。でも、支えてるのはあれだ」
ノゾムは鉄骨と車体の位置関係を、指先で空中になぞった。
「あれが抜ければ、車が壁から離れる。そうしたら、あそこの隙間が広がる」
「カーゴは?」
ノゾムは、走行服とカーゴを含めた自分の幅を頭の中で隙間へ重ねた。
「ぎりぎり。でも通ると思う」
シンゴも同じ場所を見ている。
「そこまで、どうやって行く」
ノゾムは地面の砂を見る。
「煙幕」
「一発だけだぞ」
「一発でいい」
高所の見張りへ視線を戻す。煙で全部を隠す必要はない。ここから左の壁まで、そこから鉄骨へ、そして三人とカーゴが抜けるまで。
「数十秒あればいい。三人と荷物が向こうへ抜ける、その間だけ隠れればいい」
地面の砂は右へ流れている。煙を左手前へ出せば、広がりながら道路を横切る。見張りの視線と、自分たちが走る場所の間に入る。
「見えるの?」
カイトが聞いた。
「いや」
ノゾムは壁の影を見る。
「見えないから通れる」
安全だからではない。敵がいないわけでもない。敵から見えない区間がある。それを煙でつなぐ。
「俺が煙出す。壁の陰まで行って、アンカーであの鉄骨を引く。車が落ちたら左から抜ける」
「外れなかったら?」
「そのとき考える」
カイトが少しだけ黙った。
シンゴが先に言った。
「悪くねえ」
ノゾムはシンゴを見る。
「カイトは?」
「俺は先に行く」
「先?」
「煙の中から出てくる奴は止める。戦うのは俺の方が慣れてる」
それには反論できなかった。
「城戸さんは右」
ノゾムが言った。
シンゴが右腕固定銃を上げる。
「そこまでならできる」
また短い警告音が鳴った。シンゴは何も言わず、銃口を右へ向けたままだった。
ノゾムはもう一度、自分たち三人の位置とバリケードを見る。煙が思った通り流れる保証はない。鉄骨も、本当に外れるか分からない。車体が予想した向きへ動くかも分からない。それでも、正面から撃ち合うよりはましだ。
「やる」
カイトが頷いた。
「合図して」
ノゾムは肩部作業投射器から煙幕弾を選んだ。残り一発。照準をバリケードそのものではなく、その手前の左側へ合わせる。
「三」
カイトが身体を低くする。
「二」
シンゴが右側へ銃口を向けた。
「一」
発射。
肩へ短い衝撃が伝わり、弾頭が低い軌道で飛んだ。バリケードの手前で四つに分かれ、それぞれが少し離れた場所へ落ちる。
白煙が広がった。風に押され、狙った通り道路を横切るように右へ流れていく。
「行く!」
カイトが走る。ノゾムも続いた。
銃声が響いた。弾が煙の中から飛んできて、前後の路面を砕く。着弾は散っていた。
カイトが左へ走りながら一発撃つ。煙から出ようとした人影の手前で壁が砕けた。続く二発目は別の柱の角を叩き、敵が引く。シンゴの銃声も後ろから一発重なった。
ノゾムは傾いた壁の陰へ滑り込んだ。高所の見張りが見えなくなる。自分からも見えない。ここだ。
左肩アンカーを選択すると、肩口で機構が動き、臀部左側のウインチからワイヤー先端が送られてくる。ランチャー内部でアンカーへ接続された。
ノゾムは斜めの鉄骨を探した。煙と粉塵で輪郭が薄い。車体の左後部、その下に斜めに伸びる線。鉄骨の端が潰れ、車体側の金属へ噛み込んでいる部分があった。
あそこなら掛かる。
照準を合わせて撃つ。アンカーが白煙へ消え、硬い金属音が響いた。
ノゾムはワイヤーを少しだけ巻く。張った。外れない。
ウインチを作動させると、臀部でモーターが唸り、身体が前へ引かれた。走行服が姿勢を補正し、脚が地面を踏む。それでも鉄骨は動かない。
もう一度巻く。まだ動かない。
違う。
ノゾムはワイヤーを見た。今いる場所から伸びた線は、鉄骨とほとんど同じ向きになっている。これでは噛み込みを横へ外せない。鉄骨の軸に沿って引いているだけだ。
ウインチを止める。アンカーとの距離を保ったまま、固定点を中心に弧を描くように左へ移った。
「ノゾム!」
「角度が違う!」
銃弾が壁の端を砕く。
ノゾムはさらに左へ動いた。ワイヤーと鉄骨の線が開いていく。さっきまで重なっていた二本の線が、別々の方向を向いた。
ここだ。
再び巻き取る。
鉄骨が軋み、下端が数センチ動いた。もう一度巻くと、コンクリート塊との接点が外れ、一気に鉄骨が滑る。
「外れた!」
車体の左後部が沈んだ。金属が地面を削り、横倒しの車体が道路中央側へ少し回転しながら落ちていく。建物の壁との間が開いた。
その上に載っていた別の鉄骨も滑り、横方向へ倒れる。敵がさっき出入りしていた道に斜めに掛かった。完全には塞いでいない。だが、走って追ってこられる形でもない。
白煙の向こうに、さっきまでなかった空間が開いていた。
「開いた!」
カイトの声が飛んだ。
ノゾムはワイヤーへ目を戻す。車体が落ちたことで張力は抜けている。アンカーとの接続を解除すると、アンカーだけが鉄骨側へ残り、外れたワイヤーがウインチへ巻き戻されていった。
「行こう!」
三人が動く。カイトが先頭、ノゾムが続く。シンゴは遅れている。
白煙は薄くなり始めていた。右側から一人出てきて、男が銃を上げる。
ノゾムも右腕を上げた。照準の中心に男の胸が入る。撃てる。
その手前を見る。男が身体を出すために使っている低い壁へ照準をずらし、撃った。壁の角が砕け、男が反射的に身体を引く。
「今!」
カイトが隙間へ飛び込む。ノゾムも続いた。
背中のカーゴが車体ぎりぎりを通る。右肩が壁へ寄り、カーゴの角が金属へ触れそうになった。身体をわずかに左へ傾ける。
通った。
その向こうは、さっき敵がシンゴを回収しようとして使った道だった。左右を崩れた壁に挟まれ、正面の道路からは直接見えない。
後ろで銃声がした。ノゾムが振り返ると、シンゴが遅れている。崩れた鉄骨を越えたところで、右脚が一度止まった。
警告音。
「城戸さん!」
「行け!」
カイトが戻り、シンゴの右腕を取る。ノゾムは負傷した左肩を避け、反対側の脇腹へ身体を入れた。
三人で進む。
背後では敵の一人が倒れた鉄骨を越えようとしていたが、足を取られて速度が落ちている。今だけだ。この数秒だけ。
カイトが先へ向き直る。
「右!」
三人は通路を曲がった。
銃声は聞こえる。だが弾は飛んでこない。壁が射線を切っている。
ノゾムは走りながら、背中のカーゴを意識した。中にはケーキがある。
そのとき、シンゴの声が頭に浮かんだ。
――俺たちは戦争をするために来たんじゃない。荷物を届けにいくために来たんだ。
ノゾムは後ろを見なかった。前にはカイトとシンゴ、その先にはゲートがある。敵が何人残っているのかは、もう数えなかった。
通路を抜けると、再び視界が開けた。クリスタ・ヒルズの入域ゲートが目の前にある。
遠くから見えていたときは一枚の壁のようだったが、実際には左右から厚いコンクリートが道路へ張り出し、その間に短い屋根付きの進入路が続いていた。そこまでの数十メートルだけ、隠れる場所がない。
「走る!」
カイトが速度を上げた。
三人が開けた道路へ出る。
後ろから人影が現れ、銃声が響いた。弾が右側の舗装を叩く。カイトが振り返り、一発だけ撃った。敵の進路手前で路面が弾ける。それ以上は撃たず、前へ向き直った。
追ってきた男は、それでも数歩こちらへ走った。だが、ゲート手前まで来たところで急に足を止めた。
ノゾムは走りながら振り返った。道路脇に等間隔で立つ細い監視柱。その上部にある黒いセンサーが、男の動きを追うように向きを変えていた。ゲート上部でも小さなランプが灯り、低い作動音が重なる。
男が一歩下がり、そのまま追ってこない。ここから先は、クリスタ・ヒルズの防衛システムの内側らしい。その間にもゲートは近づいていた。
シンゴの走行服から警告音が鳴り、今度はすぐ次の音が続いた。右脚がもつれる。
カイトが右腕を掴む。
「城戸さん!」
「止まるな」
ノゾムも負傷した左肩には触れず、脇腹側からシンゴを支えた。三人で走る。
入口まで十メートル。五メートル。
カイトがシンゴを前へ引き、ノゾムも反対側から身体を押す。三人はほとんど同時に、厚いコンクリート壁の陰へ飛び込んだ。
さらに数歩進むと、厚い側壁が背後を完全に塞いだ。銃声はもう聞こえない。
三人は屋根付きの進入路を奥へ進んだ。荒野側のひび割れた舗装が終わり、足元が継ぎ目の少ない白い路面へ変わる。
三人がその境目を越えた。
HUDが切り替わった。
CIVILIAN ZONE
SECURITY INTERLOCK ACTIVE
WEAPON SYSTEMS LOCKED
右腕固定銃の照準表示が消え、肩部作業投射器も操作不能になる。走行服の中から聞こえていた武装系統の待機音が、一つずつ止まっていった。
民間区域へ入ったことで、安全制御が働いたらしい。
厚い壁の向こうには、ついさっきまで自分たちを追っていた武装した男たちがいたはずだ。それなのに、ここまで来ると別の場所の出来事のようだった。
「……着いた」
カイトだった。いつもの軽い声ではなかった。
ノゾムは顔を上げた。白い舗装、その先に並ぶガラスの建物、整えられた街路樹、青白い照明。ずっと遠くに見えていた街の光が、今は自分たちの周囲にあった。
ノゾムも何か言おうとしたが、息しか出なかった。胸が大きく上下し、脚が震えている。それでも立っている。
背中のカーゴはまだ固定されている。中のケーキも、ここまで来た。そのことを意識したところで、ようやく胸の奥へ遅れて何かが込み上げてきた。
シンゴが一歩進むと警告音が鳴り、さらに一歩進んだところで、次の警告音がすぐに続いた。カイトがシンゴを見る。
ノゾムも前へ視線を戻した。
クリスタ・ヒルズには着いた。だが、配送はまだ終わっていない。




