第3話 卵焼きは最強だから
卵焼きは最強である。私が唯一作れる料理だ。料理と言っていいのか分からないけどね。
「どうぞ!」
自信満々な顔で、ソリさんの前に卵焼きを置いた。もちろん、ぺろおじさんの前にも置く。
「うまっ!!久しぶりにまともな食事した!!」
「…………」
ソファに向かい合って座る二人。ぺろおじさんは嬉しそうに食べている。ソリさんの深淵みたいな黒い瞳が一瞬だけ細まった。
「悪くない。及第点だな」
ソリさんはお箸を置いて、足を組んだ。やっぱりこの人、卵焼きが好物なんだ。良かった、卵焼きを作れる女で本当に良かった。
「よし!これから、毎日卵焼きを頑張ります!」
「他のものは作れないのかよ……」
ぺろおじさんが切なげな声を出した。
「全部、炭になります」
「俺たちと同レベルじゃねぇか!」
頭を抱えるぺろおじさん。なんだか、哀愁が漂っている気がする。申し訳ない。でも、卵焼きは作れるから許して欲しい。
「ソリ〜。この女、追い出そうぜ」
「少なくとも、貴様よりは料理ができる。何も出来ない女よりはマシだ」
ソリさんの言葉にぺろおじさんは目を見開く。パチパチと瞬きを繰り返していた。
「マジか。どんだけ卵焼きが好きなんだよ」
「黙れ……無駄口を聞くな」
すっと目を細めたソリさんから、凄まじい圧を感じる。私は無意識に腕をさすっていた。
「はあ、分かったよ。小雪、よろしくな」
「あ、はい!よろしくお願いします」
慌てて二人に頭を下げる。ぺろおじさんは、にぱっと明るく笑いかけてくれた。やっぱり良い人だ。殺人鬼だけど。
「それで、貴様は何者だ?どこの地区から来た」
ソリさんの鋭い視線が突き刺さる。どう言えばいいのかな。少しだけ考えて、誤魔化し方が分からないので正直に話すことにした。何となく、この二人に嘘は通用しない気がしたから。
「多分、別の世界から来たんだと思います」
「はぁ?」
ぺろおじさんが怪訝な顔をする。小首を傾げて、明らかに疑っている顔だ。
「突然路地裏に引きずり込まれて、気を失ったんです。そして、目が覚めたらこの世界にいました」
「なんだよ、それ」
ぺろおじさんは頭を掻きながら、真っ直ぐに私を見ている。ソリさんからも視線を感じる。二人の目は真実かどうかを見定めているようだった。
「嘘はついていないようだな。異世界の者か」
「そんな話、聞いた事ねぇよな」
ぺろおじさんさんとソリさんが顔を合わせる。どうしよう。めんどくさいとか思われて、見捨てられたら、今度こそ他の人達に殺される。背中に冷たい汗が流れた。
「ま、どうでもいいか」
「呑気な男だな」
「不審な動きをすれば、殺せばいいだけだ。そうだろ?ソリ」
ぺろおじさん、いやオールさんが一瞬こちらに視線を向けて、軽く殺気を飛ばしてきた。ソリさんの鋭い殺気とは違う、ねっとりと絡みつくような雰囲気だった。まるで、蛇が獲物をゆっくりと絞め落とすような殺気の出し方だ。
「ふっ……貴様のそういう所は評価している」
ソリさんは満足げに頷いた。
「ははっ、当たり前だろ」
先程まで、かませ役みたいな雰囲気をしていたオールさんは、今は不敵に笑っている。そこには絶対的な強者がいた。
「なあ、小雪」
ゆっくりと、オールさんが立ち上がる。彼はするりと私の首の後ろに手を回した。至近距離で彼の赤い瞳が私を射抜く。
「大人しくしてたら、可愛がってやるよ」
愉悦に染まった瞳が、キュッと細まった。オールさんの空いた方の手が私の首を撫でる。冷たい指先が喉仏の辺りを軽く押した。
「ひっ……」
息苦しさと恐怖で悲鳴が零れる。
「そんなに怯えるなよ」
吐息混じりの声が耳の奥まで刺激する。オールさんは楽しげにくつくつと笑うと、密着していた体を離した。
「頑張れよ、家政婦ちゃん」
「は、い……」
真っ赤になった顔を隠すように、私は俯くことしか出来なかった。




