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第35話 悪事の告発

全話一人称に改編しました。お暇があれば読みなおしてみてください。

「おはようございますぅ~」


 翌日の水曜日、やはり午後六時ギリギリになって部室のドアを開けると、まるで昨日のデジャヴを見ているように、全員が沈黙していた。


「どうしました?また、お通夜の練習ですか?」


 こう言うと、待ち構えていたようにシャロンが鋭い視線を向けてきた。

 反応が早いですな。なるほど、今日はリーダーの到着を待ってくれていたようですね。


「なに笑ってんだよ。まさかお前の仕業じゃねえだろうな?」


 どうやら笑っていたらしい。とりあえず、笑顔の件はスルーしておく。


「その様子だと、号外が出てますね?見せてください」


 シャロンは舌打ちして、顎でコノハの手元を指し示した。

 コノハは小刻みに震えていた。新聞を抜き取っても、体と指はそのままの形で固まっている。


「さてさて…」


 号外に目を落とすと、写真はないが大きな見出しが躍っていた。


 ≪男子生徒が旧音楽室の不正利用を繰り返していたか≫

 ≪女子生徒からの相談を生徒会が認める≫


 なかなかセンセーショナルな見出しだ。凄いことになったな、と我ながら思う。

 記事の概要はこうだ。


 匿名の告発があり、事実関係を生徒会に確認すると、

学園内で暴行を受けそうになった女子生徒からの相談があったことを認めた。

 その女子生徒は、ある男子生徒に旧音楽室で身体を触られそうになったということだ。

 一ヶ月前のことで、落とし物を拾って保管しているという口実で呼び出された。

 逃走して未遂に終わったため、被害届は出していないが、他に被害者がいれば証言すると話している。

 生徒会は男子生徒の名前を把握しており、余罪があるとみているが、現在処分保留となっている。


「これは、まだまだ出てきそうですねぇ」


 俺は、皆の視線を感じた。


「驚いた様子がないね…まさか本当に君が?」


 部長が珍しく真剣な顔で言った。


「さあ、どうでしょう。昨日のうちに一つだけ質問を出しておきました。でも、他の誰かかもしれませんし」


 別にもったいぶっているわけではないが、本当に俺の質問の影響なのかどうかはわからないのだ。

 たぶん、間違いないだろうけど。


「どんな質問をしたんですか?」


 コノハは瞳を潤ませていた。


「音楽室を清掃した理由だよ」


 コノハはそのまま首を傾げた。

 そろそろ教えてやろう。軽く咳払いしてから、全員に向けて語った。


「生徒会が手を入れたと閑院が言っていましたよね?その目的はカーテンを開けることだと思っていました。未使用の教室で、しかも楽器がある部屋のカーテンが開いているはずがありません。しかし、これを開けておかないと真っ暗で何も見えなくなってしまうんです。犯行時に電気をつけると、確実に誰かに怪しまれます。月明りでも見えるようにカーテンを開けておいたんです」

「そういえば、そんな質問があったな」


 ギンブナが言った。

 ほう。あの醜態は覚えていないのに、その質問は覚えているんですね。


「ええ。ですが、よく考えたら清掃までする必要がないんです。埃を被っている未使用の教室なら、無駄に多くの指紋が採取できるとは思えません。目的は逆だったんじゃないかと。例えば、特定の人物の痕跡を消すため…とかね」


 ギンブナもコノハと同じ角度で首を傾けた。

 でしょうね。アンタじゃ理解できないでしょうとも。


「ホテル代わりに使ってた男の痕跡ってことか」


 シャロンがさらっと答えた。

 珍しく俺の目を見据えている。怒っているのかもしれないな。俺にじゃなくて。


「そのとおりです。おそらく、その男の指紋やら掌紋が至る所についていたはずなんです」

「でも…それだけ証拠があるなら、わざわざ消さないほうが…」


 コノハが声を震わせた。


「いいえ。最初の会見で被害者の女性の指紋が大量に出てきてしまうと、関係のない女性まで壇上に上げてしまうことになり、二次被害を受ける可能性があります。合意の上と言われれば泥仕合になりますし、それよりもっと確実に仕留める気なんですよ。別の証拠を出してくるか、これで追い詰められて自滅すれば、コマチも証言を変えるでしょうね」

「それじゃあ、まさかこの男って…」


 部長が眼鏡の奥で目を丸くして呟いた。


「もちろんクフオーです。だから、実名を入れて質問しました。クフオーの痕跡を消した理由を説明せよ、と。これで、コマチとの密会を信じていただけたでしょう?」


 長い沈黙が流れた。

 数秒のことだったのかもしれないが、無言の称賛を受けた気分だった。

 いや、称賛ではないな。下に見ていたのを見直した、程度のことだろう。

 だが、リーダーの資質はもう認めざるを得ないはずだ。さあ、俺についてくるがいい!

 と、両手を広げたい気分になっていたが、全員押し黙っていた。

 えっと…どうしたのかな?それほどショックだったの?


「というかですね、そろそろ、生徒会からネタを出してくる頃なんですよ。この事実が出てこないと、状況が動きませんからね」

「じゃあ、これもイベントの一環だというのかね?」


 ギンブナが腕組みをしながら聞いてきた。偉そうな態度は変わらない。


「もちろんです。イベントを通してこの男を断罪するつもりなんですよ。みんなが証拠を集めてくれますから。俺が鉄槌を下すまでもなかったですね」


 また沈黙が訪れた。誰もが何を思うのか、口を開かなかった。

 ギンブナでさえ、今はふざけた様子がない。


「恐ろしい女だな…アドロ」

「いえ、私は尊敬します。こんなクソ野郎は、地獄の窯の蓋でタマをすり潰してやるべきです」


 コノハは握り拳を作っていた。


「表現が独特だね…まあ、その意気込みはよろしい。で、他に手を打っておいた件はどうなりましたかね?」


 新聞を裏返すと、多くの質問と回答が掲載されていた。


「フムフム…いやあ、ほとんど回答があるじゃないですか!やはり、方針は間違ってないようですね」


 主な質問と回答は以下のとおりであった。


 ≪質問:控室の調査は可能か?≫

 ≪回答:すでに調査が行われているものと認識している。制限はしていない≫

 ≪質問:コマチ氏へ。演技の調子が悪かった理由は?≫

 ≪回答:本人へ聞き取り。悩みを抱えていた。内容は差し控える≫

 ≪質問:シネマ部員へ。コマチ氏は調子を崩していたように見えたか?≫

 ≪回答:副部長へ聞き取り。声が出ていなかった。当日は体調が悪いように見受けられた≫

 ≪質問:ゴムベースボール部は、控室を使用したか?≫

 ≪回答:部長へ聞き取り。男女どちらもステージ前後で使用していない≫

 ≪質問:雑煮倶楽部部員へ。クフオー氏のクールダウンには誰も付き添わなかったのか?≫

 ≪回答:部員へ聞き取り。部長以外は先に控室から出た。クールダウンは嘘ではないと思う≫

 ≪質問:クフオー氏へ。月は体育館周辺のどの位置で見たのか?≫

 ≪回答:本人へ聞き取り。体育館をクールダウンで一周した。入り口の辺りだったと思う≫

 ≪質問:校庭を捉えた監視カメラの映像を見せてほしい≫

 ≪回答:旧音楽室の監視カメラと同じURLで公開する≫

 ≪現在、投函者203名。正解者なし≫


 俺はその号外を、握拳を作っているコノハの手に戻した。


「首尾は上々ですね。副部長の調査はクフオーに上手くかわされてしましましたけど、コマチがクフオーに言い寄られていたことに気づく者は大勢いるでしょう。いずれボロを出します。我々は先手を取らなければなりません。会見で犯人が暴かれたとなると、投函箱までのタイムトライアルになってしまいます。できれは先に投函して、会見で暴くというのが理想です」

「さすがに、それは難しいんじゃないか?」


 猫又部長がいつの間にか、自分のためだけに淹れていた紅茶をすすった。

 落ち着いてくれたようで何よりだ。


「結局、アデルのトリックはわからないままだよね?質問で暴くしかないと思うけど」

「逆に言うと、わからないのはそれだけなんです。だから、あまり核心をつく質問は避けたいんですよね」

「でも、手掛かりはないんだろう?」

「ええ。でもまあ、ひとつずつ固めていきましょう。コノハちゃん、控室の写真は撮ってきてくれた?」

「あ、はい…」


 コノハはミラーリングケーブルを使って、スマートフォンの画像をテレビ画面に表示させた。


「誰もいなかったので怖かったんですけど、お昼頃に行ってきました」


 控室は舞台裏の通路から行ける二つの用具室を利用しており、それほど差があるわけではないが、広いほうを女性用、狭いほうを男性用にしていた。用具はすべて外の廊下に出された状態になっている。

 ミステリーウィークの期間中はどの部も活動しないため、そのままの状態になっているようだ。

 窓が一つあるだけの殺風景な部屋で、折り畳みの長テーブルとパイプ椅子が置かれている。


「ご覧のとおり、机と椅子しかないので隠れる場所はありません。どちらの部屋も同じ感じです」

「部屋同士をつなぐドアとかはないんだよね?」

「ありませんでした。でも壁は薄い感じだったので、穴ぐらいなら開けられるかも…」


 うん、そうなんだね。俺は鼻頭を掻いた。


「あ、ありがとう。ちなみに、穴はなかったよね?」

「ありませんでした」


 真面目に答える彼女が微笑ましい、ということにしておく。


「ところで、コノハちゃんはこの部屋のどこで寝ていたの?」

「え…っと」


 コノハが慌て始めると、シャロンが助け舟を出した。


「窓の下のあたりにマットを敷いて寝かせたよ。マットはあとで廊下に出しといた」

「なるほど。入れば絶対に気がつきますね。となると男部屋に招き入れたのかも…」

「事前に男部屋に来るように言ってたんじゃないか?」


 ギンブナが言った。珍しくまともな質問だ。


「そんな感じだとは思います。でも、男部屋をノックして他の男が出てきたら、間違えましたじゃすみませんよ」

「じゃあ、Movito(モビト)のメールか通話で着いたって言ったんじゃないか?」

「いえ、Movitoを使えばログが残ります。処分保留ということは物証がないからでしょう。リアルの電番やメルアドをゲットしていたとも思えません。いずれにしてもここから物証は出てこないでしょうね。コノハちゃんありがとう。イメージができたよ」


 コノハは照れながら、嬉しそうに頷いた。


「部長、音楽室の実地調査の件はいかがでしたか?」


 猫又はティーカップをテーブルに置くと、爽やかに笑った。


「おお、ではこれから行けそうですか?」

「ダメだった」

「は?」

「順番どりはできなかったよ。だいたいチームでやってる連中は少ないし、生徒会が入室管理しているわけでもないしね。落ち着いて見れる状況じゃなかった。たぶん、この時間は一番多いんじゃないかな」


(じゃあ、何の笑顔だよ)


「そ、そうですか…では音楽室は明日以降にして、今日は、みなさんで監視カメラの映像をチェックしましょう」

「監視カメラ?」

「ンフフフ。ええ~…ワタシの推理が正しければ、そこにはっきり残っているはずですよ。動かぬ証拠がね」


最後までお読みいただきありがとうございます。

ユメジが思う動かぬ証拠とは何か、推理してみてください。ご感想などお待ちしています。

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