第26話 捜査チーム結成
「で…本気でトップ賞ねらってるやついる?」
シャロンは昨夜の残り物のスナック菓子をつまみながら、三バカトリオを見回した。
「いねえよなぁ。お前らじゃ、無理に決まってるしな」
そう言ってひとしきり笑ってから、部長に視線を固定した。
「で、部としてはどうするんだ?去年は協力して捜査しようとか言っといて、お前が犯人だったからな。足を引っ張りまくりやがって、散々だったのを思い出したんだよ」
いつになく…いや、いつも以上に嫌味を効かせているのは、去年のことを蒸し返しているのだろう。
何があったのか知らないが、だいたい想像がつく。
部長は気まずそうに眼鏡を押し上げているが、鼻先のフレームに緑色の何かが付着している。スナックえんどうの食べカスだろう。どうやら、相当思い出したくないようだ。
「さすがに、今年も部長が犯人ってことはないんじゃないか?」
山部社長が大きな声で笑った。
「いや、それだったら逆に最高なんだけどなあ」
レンジャー二人も加わった。
猫又が恥ずかしそうに後ろ頭を掻いたときに、フレームから食べカスが落ちたのが見えた。
「おや、落ちましたよ」と、ギンブナが目ざとく指摘するが、それは藪蛇だ。
「あ、ごめん。歯クソだよ」と、猫又がサラリと言ったものだから、案の定、奇声をあげて大騒ぎしていた。
そのおかげで落ち着いたのか、猫又は丹念に眼鏡を拭き上げて装着すると、いつもの表情に戻っていた。
「まあ、今年はだいぶシステムを変えてきたからね。容疑者をステージに上げたのには驚いたよ。去年は個別接触がバンバンあったし、そういう意味で害の少ないうちの部が選ばれたんだと思うよ。これでまた犯人がうちの部ってことはないんじゃないかな」
すると、ギンブナが何事もなかったかのように乗っかった。
「では、我が部としてはどうしますかな?イベントは部の知名度を高めるチャンスですぞ」
何もする気がないのに参謀気取りなのは、相変わらずだ。
シャロンとコノハはすでに議論に参加する気がない。
あ~落ち着く、とユメジには思えるのだった。
しかし、このままのらりくらりといつものペースだと、ミステリーウィークが終わってしまいそうだ。
さて、どうしたものか。ユメジが思案していると、レンジャー二人が笑い始めた。
「知名度は高まってるじゃん!コノハちゃんとシャロンさんのステージでさぁ!」
シャロンの蹴りが飛んだ。
その様子を眺めながら、猫又がギンブナに言う。
「まあでも、生徒は250人程度だとして、市民は万単位だからね。がんばっても無理だと思うよ」
相変わらず、悲観的な発言をするやつだ。しかし、そのとおりである。
「では、個人行動としますかな?」
ギンブナが答えると、珍しくコノハが口を挟んできた。
「去年は部長が承諾の返信を、未定研究部全員に送っちゃいましたからね」
「返信?」
思わず聞き返したユメジを見て、コノハがクスクスと笑った。
「そうなんですよ。さっきユメジさんが質問されてたじゃないですか。犯人役の承諾メールです。イベントの何週間か前に、アドロ会長宛てのメールの宛先を間違えちゃったんです。『御意』って二文字だけだったから、意味がわからなかったんですけどね。それで、今回は封書になったんじゃないですか?」
「ああ、そういうことだったんだ」
「そういえばお前、妙なこと質問してたよな?なんで、あんな質問したんだ?」
シャロンがスナックえんどうの先をユメジに向けてきた。
「あ、いや…別に意図はないんですよ。みんながしないような質問をしようと思っただけで、何でもよかったんです」
「はあ?」
シャロンは眉を寄せた。その怪訝そうな顔も美し――じゃなくて、なんだっけ?
ユメジもここのペースにすっかり染まっていた。気を緩めると落ち着いてしまう。
とにかく、みんなにやる気を起こさせる必要があるのだ。
「じつはですね、協力者を得ようと思ってまして。あのあと、質問の意図を聞きに来る人がいたら協力しようと思ってました。特に市民の方からの協力です。市民は犯人ではないし、聞きに来るような人は、自力で解く自信がないってことでしょ?そういう人なら協力しつつ最後に出し抜けると思って」
ユメジが説明すると、全員、静かになった。
「え…何かおかしかったですか?まあ、誰も聞きに来なかったし、レンジャー君たちも個人戦だって言ってたから、作戦失敗でしたけどね」
猫又が眼鏡の奥で目を丸くしていた。いつも飄々としている彼が、驚いた顔を見せるのは珍しい。
「ユメジ君…ということは、君は覇者を目指すつもりなのかい?」
ユメジは力強く頷いた。
「そうですよ。当然じゃないですか。逆に何でそんな冷めてるんですか?」
そう言うと、山部社長がまたガハハと大きな声で笑った。
「こりゃあいい。気に入ったぜ。じつはお前はデキるやつなのかもしれねえ!俺はそういう頭は働かねぇから遠慮しとくが、また全員で挑戦してみろよ。宝くじに当たるよりは確立が高いぜ」
空気が変わったようだった。
「そうだなぁ。俺たちも協力する?」
呼応するように黒レンジャーが言うと、青レンジャーは苦笑いして頷いた。
「そうするかぁ。別に俺らは住民税とか嬉しくないし。もし俺らが解いたらユメジさんに譲るよ。そしたらさ、みんなで力を合わせて謎を解いたって言えばいいんじゃね?さらに評価が爆上がりってカンジになるよ?」
ギンブナが鼻で笑った。
「じゃあ、決まりですな。未定研究部として全力で謎解きに挑もうではありませんか。ねえ部長?」
しかし、部長は何を悩むのか、鼻頭を掻いていた。
ここで、またコノハが口を挟む。
「あの、ですね…」
恐る恐るという感じで、手を挙げていた。
「なんだね?腰を折るんじゃないよ、ベイビーちゃん」
「いや…もしかしたら、また犯人がこの中にいるかもしれないんですよ?大丈夫でしょうか…」
「いや」と、被せてきたのは部長だった。急に態度を翻して、何かを思いついたように口元に笑みを浮かべている。
「逆にそれもアリだね」
「え?」
「正直、覇者になるのは難しいが、部として目立てばいいなら話は別だよ。また犯人が我が部から出れば、生徒会にとって外せない部だって認めたようなものだし、それはそれでおいしい展開だよ」
思わせぶりに窓辺に立つ部長に、ギンブナが賛辞を贈るように微笑んでから、コノハに視線を送った。
「というわけだ」
当然のように乗っかる男である。
そして、どこからともなくホワイトボードを転がしてきた。
「どちらにしても、おいしいのだよ。とりあえず目立つことだ。明日の会見では何でもいいから質問するのだ」
ギンブナは、ホワイトボードに決定事項として書き出し始めた。
≪未定研究部は協力して犯人を突き止める≫
≪会見では必ず挙手し、質問権を得る≫
≪目立つ!≫
書き終えると、満足そうにマーカーのキャップをパチンと閉じた。
しんと静まったが、その静寂をシャロンが破った。
「まあ、いいけど」と、素っ気ない素振りで別のスナック菓子に手を伸ばした。
「じゃあ、まずはリーダー決めだな。誰にする?」
「は?」
ギンブナは、何を言われているのか理解できないようだった。
「は?じゃねえよ。船頭がいないと捜査も何もないだろ。部として動けねえだろうが」
「それは部長に決まって…って、あっ!」
どうやら気づいたらしい。
「そういうことだよ。今年もリーダーが犯人でしたじゃマヌケもいいとこなんだよ。知名度も何もねえ。笑いもんだぞ。どうすんだ?」
確かにシャロンの言うとおりだ。だが、実際はそうとも言えない。
部長と副部長はシロだ。その確信はある。
(誰かをリーダーに誘導するつもりか?)
ユメジがシャロンを訝っていると、肩に手を置く者があった。
「ユメジ君、君がやってくれ」
猫又部長だった。
「エッ?俺ですか?なんで…」
先ほどまでの情緒不安定が嘘のように、澄み切った笑顔を浮かべている。
「大変そうだからだよ。君はそういうの好きそうだし」
「何言ってんすか!部長か副部長の役目でしょう」
「いやいや、一番やる気がある君こそふさわしい。そもそも、無理ゲーに挑もうって話なんだし、僕も副部長もゲームは苦手だからねぇ」
猫又は薄い目をさらに薄くして、有無を言わさぬ圧力を発していた。
「それなら、シャロンさんに…」
「ダメだ」
シャロンはおにぎりせんべいをガリっとかじりながら、ユメジの主張を遮った。
「私とコノハは犯人の可能性がゼロじゃない。でも、お前が犯人の可能性はゼロだ」
(こいつ、やっぱり気づいてやがったか!)
「待て。なんでそう言い切れるんだよ」
ギンブナが不満そうに聞いた。
「それがわからないから、お前らじゃダメなんだよ。部長もわかってねえだろ。まぁ、こいつがリーダーってのは面白そうだ。また何か思いつくだろうしな」
シャロンが何を考えているのかわからないが、断れる雰囲気ではなくなった。
だが、これはユメジにとっては悪くない展開だった。
部員のやる気も出てきたようだし、実際に協力者も得る予定だった。それが部員であるなら遠慮する必要もない。
明らかに誘導された気がするが、結果的には計画どおりだ。
「わかりましたよ。リーダーやりますよ」
ついこの前までの自分なら考えられないことだ。リーダーを引き受けるなんて。
ユメジの脳裏には、まりんの顔が浮かんできたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いつもの雑魚部のグダグダですが、一丸となってミステリーに挑むことになります。
雑魚部の奮闘にご期待ください。感想などいただけると嬉しいです。




