第16話 竹取のユメジ
翌日の月曜日。
この日は振替休日で、未定研究部一同は、朝から部室に集合していた。
「あらためまして皆さん、我々の模擬店と出し物が決定いたしました!」
猫又部長が褒めてくれと言わんばかりに、両手を広げてアピールしているところだ。
「さすが部長!」とギンブナが応じ、コノハは拍手をしていたが、シャロンはあくびをしていた。
「僕の演説を聞かせたかったよね。まあ、模擬店の場所だけは希望どおりにならなかったけど、ステージはトップバッターだよ。なんだか今回はいけそうな気がするねぇ。さっそく準備に入りたいんだが…」
猫又は、陽も差し込まない窓辺から優雅に外を眺めながら、思わせぶりに間をおいてユメジを見た。
「どちらもユメジ君のアイデアだ。君の意見を聞こうか」
(何なんだ?この演出は…)
そう思ったのはユメジだけではないはずだが、皆の視線が一斉に向いた。
ユメジは「じゃあ…」と、一呼吸おいて立ち上がる。
ここのペースにもだんだん慣れてきた。ツッコミ役に回るつもりはない。
「そうめん流しは、とにかく竹ですね。竹をゲットしてスライダーにします。それを支える台座と、ホースを固定する器具があればより良いです。それから野球拳は、脱衣用に膝から鎖骨の高さまでのボックスを作ります。正面だけ半透明のアクリル板を入れたらいいでしょう。大きなものはそれくらいでしょうか」
身振りを交えて説明すると、猫又は理解しているのかしていないのか、判然としない顔で頷いた。
「なるほど。ところで、勝算は本当にあるんだろうね?もう後戻りできないよ」
ユメジはふらりと窓辺に近寄った。ブラインドがあったら人差し指で押し下げたいところだ。
ユメジには自信があった。どちらも地元の夏祭りで大盛り上がりだったネタなのだ。
「大丈夫ですよ」
さらに、向き直って続ける。
「そうめん流しは子どもに絶大な人気を誇りますし、お腹も膨れないから気軽に楽しめます。野球拳はMCの腕次第ですが、俺はコノハちゃんを推します。トップバッターなので掴みが大事です。清純派のコノハちゃんがMCをすれば、怒涛の盛り上がり間違いなしですよ」
こう言うと、皆の注目がコノハに集まる。
「ふえっ?」とコノハが間の抜けた声をあげた。
部長は、フム…と考え込む感じを出しているが、この男の思慮が浅いことはなんとなくわかっている。
「その案が良さそうだね。ぜひとも引き受けてくれるね?コノハ君」
「イヤイヤイヤイヤ、無理です無理ですっ!MCなんて、できるわけないじゃないですかぁ!」
ゴキブリでも見たような拒絶反応を示して、コノハはシャロンの腕にしがみついた。
じつに扱いやすい――いや、わかりやすい性格だ。
「でもね、コノハ君」
ここで、ギンブナがタイミングを見計らったように口を挟む。
「やると決めたら、全力でやるのが未定研究部だよね?がんばってみようよ」
ギンブナの目が恐ろしかったのか、コノハは涙目で首を振った。
「理解不能理解不能…」と、一心不乱に呟いている。
「オイ。かわいそうだろうがよ。MCなんかお前らでやればいいだろ」
見かねたように、シャロンがかばった。
「何を言っているのか、なぁ~?これはコノハ君を守るためだよ?でないと、コノハ君も野球拳に参加しなくちゃいけなくなるけど、それでいいのかい?」
ギンブナはさらに笑みを深くする。
「ほ、ほかの役はありませんか?隠す係とか…」
フッと目を閉じたギンブナは、表情を一変させた。
「そんなものはない!」
そして、一蹴。
「喋るか脱ぐか、ふたつにひとつなんだよ。君も二年目だし、飛躍するチャンスではないのか?」
「うう…」とコノハは唸った。
男三人は密かに笑い合う。計画どおり。これは、コノハを逃がさないための策略なのである。
しかし、シャロンが黙ってはいない。それも想定内だ。
「待てよ。じゃあ、お前ら三人対私一人ってことじゃねぇか」
ギンブナがまた薄笑いを浮かべる。
「それが、何か?」
「おかしいだろうがよ。男が余るだろうが。そいつがMCやれよ」
頃合いをみて、ユメジが軽く笑い声を漏らす。シャロンの視線が心地いい。
「大丈夫ですよ。シャロンさんが不利というのがイイんですって。絶対オーディエンスは期待するじゃないですかぁ」
「何がオーディエンスだ。絶対、認めねぇからな」
シャロンはフンと横を向いたが、コノハの訴えかけるような視線に戸惑っているようだった。
――もう逃げられないんだよ、シャロンさん。
「だから、大丈夫ですって。じゃんけんなんか八百長でいいんですよ。そういう演技をするってことなんです。靴下くらい脱いでもらえたら時間切れでしょうね」
シャロンは悔しそうにユメジを睨みつけていたが、何も言わないのが答えなのだろう。
「我々が何を出すのか教えておきますから。そもそも野球拳はですね、実際に脱ぐのが面白いわけじゃないんですよ。客の思いどおりにならない歯がゆさが面白いんです。男が脱ぐほうが盛り上がると思いますよ」
シャロンの目が、ジト目に変わった。
「絶対だな?」
ユメジは真顔で頷いたが、内心ほくそ笑んでいた。
勝利を確信した瞬間だった。
「ステージは決まりだね。じゃあ、段取りをしよう」
そして、猫又がベストタイミングでホワイトボードを転がしてきた。
「必要物品だが…」そう言って、黒マーカーで書き込み始める。すると観念したのか、シャロンもコノハもしぶしぶ座って聞く態勢になった。
男三人は、再び密かに笑い合った。
蒸し返されないうちに、素早く話を進めてしまおう。
こういう時の連携力は凄まじい。テレパシーで通じ合っているようだった。
「まずは竹、そうめん、めんつゆ、食器類、受け用のザルとバケツ、ホース…そんなもんかな?ユメジ君」
「そうですね。場所が水道の近くなんでホースで直接引き込めますし、流した水も水道に戻しましょう。竹を組み合わせて、Uの字に戻す感じでどうでしょうか?」
「いいね。それでいこう」
さくさくと決まっていく。
ユメジは清々しい気分で猫又の割り振りを聞いていたが、そんな浮かれた気分はここまでだった。
「そうめんはどうするかな…」
「そうめん?」
ユメジは思わず聞き返した。
「作り方を知っているかい?」
「は?」
「は?」
会話がかみ合わなかった。まさか、そうめんを自作するつもりなのか?
「当然、すべて手作りだよ。未定研究部は全力を尽くす部だろ。めんもつゆもだよ。そこで、大道具班と食材班に分けようと思う。男子が大道具で女子が食材でいいよね?」
全員、黙って頷いていた。
まあ、やるというなら異論はないのだが、てことは、大道具って――。
「じゃあ、男子は森に入って竹を切り出してこよう」
ユメジは宙を仰いだ。
(そうだった。未定研究部は全力を尽くすんだったな)
嫌とは言えない空気が充満している。部長も副部長もなぜかやる気満々の顔だ。
「よし。では、かかれ!」
猫又が軍曹のように号令をかけると、呼応するように部員たちが立ち上がったのだった。
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ここから、新章ミステリーウィーク編に突入します。
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