表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/37

第12話 文化祭

 数日後の金曜日、社長 (まりんのパパのほう) が社用車の使用許可をくれたので、俺の鼻唄が絶好調だった。

 当然、社名入りのコテコテのやつではない。古めかしいが、俺と同じように()()()()お客様用に、こっそり使っているライトバンだ。

 ガソリン満タン返しという条件も、電車とバスを乗り継ぐことを考えれば、破格の条件と言える。


 それに、学校に車で乗りつけるというのがまたいい。すごく。大学生でも一部の金持ち(親が)だけが行使できる権利だからね。

 ついには大声で歌っていたらしい。仏土市に入ったあたりの信号待ちで、中学生らしき学生諸君がこちらを見て固まっていた。

 きっと、あまりにウルトラソウルが上手だったのだろう。


 こうして、ノリノリの上機嫌で更衣をすませ、校門をくぐると、校舎の昇降口のあたりに人だかりができていた。

 どうやら掲示板に注目しているらしい。

 だが、貼り出してある紙の文字は遠くて読めなかった。


「あな恐ろしや…生徒会の開催じゃ」

「生徒会じゃ、生徒会じゃ…」


 昔話の老婆のような口調で、いかにもわざとらしいヒソヒソ声が聞こえる。


 なんだ、こいつらは。もう変な連中ばっかりだな。

 せっかくの気分が台無しだ。溜め息をつきながら群衆を見渡すと、輪の中に未定研究部の部員たちが全員いた。


「部長、何があったんですか?」


 人の輪をかき分けて、なんとか近づくと、猫又部長も大きな溜め息をついていた。


「いよいよですな。お察ししますぞ」


 ギンブナ副部長が同情するように、部長の両肩に手を置いてなぐさめている。

 ひどくショックを受けいてるようで、こちらの質問に答える気はないようだ。生徒会の何が問題なのだろうか?

 人だかりが消えた頃、掲示板の前まで行ってみると、次のように書いてあった。


 ≪九月二十二日(土)午後三時より、臨時生徒総会を開催します≫

 ≪ご都合により欠席される場合は、代理の方の出席をお願いいたします≫


 これのどこが恐ろしいのだろう?

 部員たちは静かに部室に戻っていく。

 部室に戻っても全員押し黙ったままだったので、さすがに我慢できなくなった。


「どうしたんですか?生徒会がそんなに恐ろしいんですか?」


 部長はうつろな目で俺を見て、「ああ…」と唸った。


「そうか。ユメジ君は知らないんだったね。生徒会が怖いというか、なんだ…会議に出たくないんだよ。だからさ…副部長、代理で出てくれない?」

「断る」


 副部長は食い気味に拒絶した。早っ!

 それでまた静かになったが、シャロンがその静寂を破った。


「教えてやるよ。この時期に招集される生徒会の要件は決まってんだ」

「なんですか?」

「文化祭だよ」

「文化祭?」

「ああ。毎年十月の第三土曜日に開催される。出し物と模擬店の場所決めをするはずだ」

「それのどこが問題なんですか?」


 シャロンはなぜかイラついたように眉を寄せ、見下ろすように顔を後ろに傾けた。


「わかってねえな。去年は二千人来たらしいぜ。無料の送迎バスが出るからな。ここの文化祭は大騒ぎになるんだよ」

「はあ…」


 いや、シャロンさん。毎度のことながら、わからねーよ。別に大勢来たっていいじゃん。盛り上がるし。

 なんて言いたいけど、言えない俺。凄そうなのは理解できるが、それと生徒会の何が関係あるの?


「時間がかかるのだよ…」


 部長が消え入るような声で言った。


「どの部も市民の支持を得るチャンスだからね。誰も妥協しないから、話がまとまらない。去年は何時だったっけ。日付は変わってたな」

「なるほど、そういうわけでしたか」

「くじ引き厳禁が生徒会の伝統らしくてね。最終的には多数決で決まるんだけど、生徒会長の許可が出るまで議論が続く…勘弁してほしいよ」


 部長は頭を抱えた。


「まあ、今のうちに覚悟しておくんだな。簡単に折れてみろ、承知しねえからな」


 シャロンが冷ややかに言った。


「とにかく、こうなったら出し物と模擬店を決めないとな」


 シャロンはいつになく気持ちが入っているようだった。

 なんだろう。真剣な表情も美しいが、この人がマジになるなんて、どこか嘘くさいんだよな。

 しかし、文化祭とはそれほど重要なイベントなのだろうか?


「ちょっと待ってください。えっと、まだ呑み込めないんですが、出し物って何ですか?」

「ブァカかっ、お前!」


 ええっ?

 シャロンが口を荒らした。いや、元から口は悪いのだが、さらに酷い。まあ、Mっ気があるわけじゃないけど、ここは大人しく聞いてあげよう。


「文化祭といえば、出し物と模擬店だろうが!恥かくわけにはいかねーんだよ!」


 どえらい勢いでまくし立てられたが、まあまあ、とコノハがなだめてくれた。


「出し物はですね、体育館で各部のステージ発表があるんですよ。持ち時間は15分なんですけど、選抜された8つの部だけです。それで120分ですね。去年は体育館が超満員になりましたよ」

「それは、凄そうだね…」


 嫌だな、とは言えなかった。ステージ発表だと?

 なんで、そんな恥をさらすようなまねを。


「文化祭のあとに世論調査がある」


 ギンブナが静かに口を開いた。


「ステージ発表した部は、すべからく世論調査で上位に来るのだ。どんなに嫌でも…もとい、是が非でもステージに立つ必要がある」


 ギンブナは複雑な顔をしていた。嫌なのだろう。


「そういうことだ」


 シャロンが続けた。


「ステージで何をするか決めて、生徒会で選抜される必要がある。それから、模擬店も重要だ。くだらねー店なんか出してみろ。世論調査で沈没だ。沈ヴォツ。忖度ねえからな」


 ほう。要は市民におもねるわけですね。

 しかし、シャロンともあろう女が、文化祭に目の色を変えるとは。

 だが、それはそれで面白いかもしれない。自然と口角が上がってくるのがわかる。

 模擬店やステージの内容如何(いかん)によっては、二千人のドサクサでワンチャンあるかも(胸くらい見えるかも)しれない。チラ見できればいいのだ。

 何も口説き落とす必要はないのである。それなら、罪悪感も薄いしね。


「なるほど。で、去年は何をされたんですか?」


 この一言に場は静まりかえった。不自然に長い静寂だった。


「…るりだ」


 シャロンが呟いたが、何を言ったのか聞き取れなかった。


「は?」

「だから、その…るりだよ」

「えっ?」


 何をブツブツ言っているんだ、この人は。コロコロ態度が変わるな。

 煮え切らないので、耳に手を当てるジェスチャーをしてみせると、シャロンの顔がなぜか赤くなっているように見えた。


「浄瑠璃だよ。人形浄瑠璃…」


 ――ブワッ!


 俺はたまらず吹き出した。何も口に含んでいなかったのが幸いだ。

 そりゃ、やっちまってるよ、シャロンさん。まさかそんな大事なステージで人形浄瑠璃とは!

 いつも予想の上を行ってくれる。それじゃあ、市民の皆様にあんたらの姿が見えないじゃないか。

 あえて顔を隠しておきながら、奇声を発して人形を動かしていたのかと思うと、たまらなくおかしかった。


「笑ってんじゃねえよ!人形まで作り込んだんだぞ」


 シャロンの蹴りが飛んできたが、とても笑いはおさまらなかった。

 悪いけど、マジ腹が痛え。


「すいません。それで、結果のほうは?」


 また静かになった。

 聞くまでもないが、さらにどんなギャグを返してくるのか楽しみだった。


「まあ、いまひとつだったな」

「いや、世論調査のほうは?」

「下から二番目だった」

「ブッ!」


 それだけがんばってブービーとは!

 なるほど、なるほど。だからムキになっていたのか。

 それなら、むしろ選抜されないほうがよかったに違いない。


「盛り上がると思いましたけどねえ。クオリティが高すぎたんでしょうか」


 コノハがフォローしているが、あとの祭りだ。


「すいません…では、模擬店のほうは何を?」


 シャロンは観念したのか、腕組みをして横を向いた。


「…うなぎ屋だ」


 ――ダバァ!


 もう腹を抱えて笑ったよ。笑いを抑えることは不可能だ。

 彼らは全員本気なのだ。おそらく一周まわっておかしくなっているのだ。ここは冷静な第三者の意見が必要だろう。


「なるほど。よくわかりました…」

「何がわかったんだよ?」


 シャロンが怒気を含んだ視線を向けている。まあ、ここまでディスられたらそうなるわな。

 ちょっと待ってくれ。呼吸を落ち着けて、なんとか上体を起こすから。


「えっとですね、はっきり言えば、皆さん気負い過ぎなんですよ。高みを目指し過ぎです。少し冷静になりましょう」


 これにカチンときたのか、部長と副部長も目つきを変えた。


「俺の実家は田舎で、夏祭りで焼鳥とか焼いたりするんですよ。青年部でいろいろアイデア出して、焼きおにぎり作ってみたりしたんですけど、結局、売れるのは焼鳥なんです。王道が一番なんですよ」


 フム…と全員が唸った。


「そこで、俺にいい考えがあります」


最後までお読みいただきありがとうございます。

ご感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ