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第11話 部活動

都会の路地裏に、大きな月の一部が覗いている。

丑三つ時の静寂に、男どもの後ずさりの音が共鳴した。


一人の巫女が、刀の(つば)を指で押し上げたのだ。

女は小柄で華奢(きゃしゃ)だったが、月明かりに照らされた顔はとても凛々しく美しい。


「月へ懺悔(ざんげ)を捧げ奉る…万物よ()ぜよ…」


神への祈りか、呪術の言葉か、詠唱によって空気が張り詰めていく。


「聖女流剣術、壱の型…」


女は右足を前にして、前屈みに体勢を移した。


「月下乱奏――ッ!」


一閃の光のあと、視界が急に傾いた。

男どもが切られたと気づいたのは、見えているのが自分の足だと気づいた時だった。


瞬きほどの間に、三人の首が宙に舞った。落下の間に、その顔が人間から妖怪変化の姿に戻っていく。

すでに首から下はないが、喉の底から絞り出したような咆哮が響き渡る。


女は眉ひとつ動かさない。

刀を振って血しぶきを飛ばし、流れるように鞘に納めた。

そして、そのまま振り返ることなく、路地の先に消えていった。


同時にエンドロールが流れてくる。監督はローレンス、主演はコマチだった。




さて、どんな反応をするだろうと思っていたが、やけに静かだった。


「まりん?」


間野が顔を覗き込むと、窒息しそうなほど顔を赤くしていた。


「大丈夫かっ?オイ!」


体をゆすると、ブハッと息を吐いて正気を取り戻した。


「やばいよぉ~!最高じゃない?凄すぎない?」


それでもまだ自問自答するように、ブツブツ言っていた。

これは、アイエルに借りたシネマ部の作品を上映した時のことだ。

まりんがどうしても観たいと言うので、絶対に又貸ししないことを条件に借りてきた。


ただ、息が止まるほどのめり込むとは思わなかった。

さすがはシネマ部。昨年の住民投票では堂々の一位だったらしい。キャストの演技も映像技術も相当なレベルだ。

仏土市では昨年から連ドラも放送されているというので、到底太刀打ちできない部だと素直に思う。


一方、未定研究部はというと、歓迎会以降の活動はまったくなかった。

特に何をするわけでもなく、ダラダラ過ごして時間になると帰るという感じだった。

もしかすると本気を出さないといけないので、あえて何もしないようにしているのかと疑うほどだった。

部長に尋ねると、「無理に何かしたってしょうがないよ。そのうち何かやりたくなるからさ」といった具合だ。

そのため間野ユメジは、他の部の活動を観察することにした。


まず、シネマ部。

ローレンスを中心に役割分担がしっかりされており、終始和やかに撮影が進む。

市民もエキストラとしてやってくるので大所帯となるが、裏方がテキパキと動いて混乱する様子はまったくない。

多くの部員は制服か体操服だが、役者は全員、衣装を着て撮影している。

これは、作品のたびに生徒会に申請を出すのだそうだ。部員にはプロ意識すら感じられる。

もはや部活の範疇を超えており、興味半分で入部していたらエライ目に合っていただろう。


生カラオケ部。

部長のジギィは三十代半ばの中年で、往年のロックンローラーみたいな髪型の男だ。

彼を中心に同世代っぽい連中がギター、ベース、ドラム、キーボードで、あらゆる楽曲を生演奏する。それをバックにカラオケを楽しむのだ。

基本的には部室のログハウスでやっているが、たまに体育館や校庭でフェスを開催するのだそうだ。

ログハウスに「本日、アニソン祭り」とか「本日、軍歌祭り」などの垂れ幕が下りているのですぐにわかる。

音楽好きにはいいかもしれないが、大勢の前で歌うなど考えられない。畑違いの部だ。


サバゲー部。

若者が多い部で、学校の裏山や市内のフィールドを借りてサバイバルゲームに興じている。

市民の参加者も多く、学生対市民の対決で盛り上がっているらしい。部長の殺生石(せっしょうせき)は二十三歳と若く、住民投票一位になったら、制服を迷彩柄に変えると公言しているようなやつだ。

まず関わりたくない部である。


新聞部。

毎月第一日曜日に冊子タイプの『学園新聞FINAL』を無料で発行している。

学園新聞だが、記事の内容は仏土市全体に及び、今や地域新聞としての地位を確立している。

行政やイベント情報はもちろんのこと、事件や事故、不動産情報、農産物の卸売価格、地元企業団体の人事、飲食店関連から、果ては動物の里親探しまで記事にする。

仏土市の世帯普及率は90%以上になるという。PDFでの配信も可能だ。

印刷代などの経費は広告収入によって十分まかなえるらしく、逆に利益を出し過ぎないように制限しているというとてつもない部だ。

部長のヤツメは、シャロンと同じ二十九歳。眼鏡をかけたクールな女性で、彼女の手腕によって部数を大きく伸ばしたらしい。

そのため、活動は『表』の仕事より大変だと思われる。何を目的に入部したのか部員に聞いてみたいが、おそらく一生分かり合えないだろう。


ビオトープ部。

未定研究部の部室に近い山側に部室がある。理由は人気がないからではなく、部室の横に池を掘っているからだ。

山から水を引き込み、小川のような溝から池に通じている。水草や砂利、枯れ木などを入れて、まるでアクアリウムのように水中世界を創造しつつ、市内各地で釣ってきた川魚を放しているようだ。

その様子を水中カメラで記録し、Movitoで配信している。池は大小二つあり、主な活動は池の手入れか魚釣り。

水草や石などの採取にも行くらしい。部長の葦人(あしびと)は中年の無口な男で、部員もおしなべておとなしい。

まさにストレスフリーの部だ。目的がなかったら入部していただろう。


ゴムベースボール部。

ゴムボールとプラスチックバットで野球をする。

男女混合チームでワイワイやる時もあれば、市民とガチンコの勝負もしているらしい。ゴムボールによる多彩な変化球が魅力なのだという。

部長の玄能(げんのう)は見るからに体育会系の男で、在籍する女性もサバサバした子が多い印象だ。

そのため、野球をしない日はほとんど飲み会をしているらしい。ここも関わってはいけない部のひとつだ。


儀式体験部。

世界各地の奇妙な儀式や祭り、神事を再現して体験する変わり者たちだ。

部長のマジャイを筆頭に女性が多い。見た目は普通の女性たちだが、儀式になると何かが憑依したように豹変するらしい。

儀式のたびに衣装を申請しなければならないが、霊やら悪魔やら常軌を逸したレベルに達しているらしいので、市民の見学や体験など大いに人気がある。

少し興味を引かれるが、これ以上精神を削られるのは勘弁だ。


社交ダンス部。

部長のヴァルザーは五十代の男性で、部員の平均年齢は突出して高い。純粋に社交ダンスを楽しんでいる。

体育館の半分をほぼ占有しているが、若者と一線を画しているので、市民も富裕層っぽい面々が集い、香水と体臭で体育館には複雑な匂いが充満するという。

住民投票でもそこそこ人気があるが、生徒会の運営には口出ししないそうだ。ここの連中とも関わりあうことはないだろう。


雑煮倶楽部。

去年、新設された部で、年中校庭に出てきて杵と臼で豪快に餅つきをする。

その餅を市民にふるまったり、全国の雑煮を再現したりしているらしい。

もち米は市民から田を借り受けて稲作をしている。当然、生徒会の許可を得ているそうだが、市民と利益供与に近い密約を交わしているのかもしれない。

部長のクフオーはそんな印象の男だ。もともと『リアルすごろく部』の部員だったが、廃部となり蜂起したという。

名前にも傲りが見てとれるように、自分の王国を築くタイプで威圧的だ。一番関わってはいけない部である。


講座部。

空いている教室を使って、市民を対象に様々な講座を開設している。

法律、ファイナンス、プログラミング、医学、学習塾など多種多様。部員は10名在籍しているが、その多くが掛け持ちで、学生服姿の生徒が私服の市民に教鞭をふるうというシュールな活動だ。

講師の正当性を証明するために『表』の資格が必要になるが、実名を公表できないかわりに、校則第四条にあるように、生徒会を通して理事会に申請することで、掲示用の証書が付与される。『××は医師の国家資格を有する』といった具合だ。

部長はナッティという丸々と太った男で、民法と生活相談を担当している。まったくもって縁のない部である。


陶芸部と美術部。

いたってまじめに陶芸と美術作品を制作している。特筆すべき事項なし。


フットサル部。

いたってまじめにフットサルを楽しんでいる。特筆すべき事項なし。


サウナ部。

部室の隣に自作のサウナを建設している。

小屋タイプとテントタイプで、たまに蒸気と香が漂ってくる。

春夏秋冬サウナ漬けで、年中ととのっているようだ。さすがに全裸になると校則に抵触するので、たいてい水着でウロウロしている。これも申請が必要らしいが、市民の固定客がついている。

特に夏はビニールプールを水風呂がわりにして、サウナ上がりの一杯を楽しむのだそうだ。

部長の蒸波(むっぱ)は誰にでも声をかける陽気な男で、よく誘われるので、たまに行ってみたい気になる。


生徒会。

専任は生徒会長のアドロと副会長の閑院(かんいん)のみで、他は各部から部長が選出されている。

猫又も選出されているらしい。アドロを見かけたことはないが、旧校長室が生徒会長室らしく、普段はそこに鎮座しているものと思わる。

ただ、アドロには閑院以上に熱烈なファンがついているという。

氷の女と恐れる者もいれば、神格化している者もいるようだ。これには市民も含まれる。

ぜひ拝謁してみたいものだが、氷の女はシャロンで間に合っている。


以上が、実際に見て感じた各部の印象だ。

まりんは特にシネマ部がお気に入りで、毎回映画やドラマをせがむようになったというわけだ。

おかげで母親のことはあまり聞いてこなくなった。引きこもりの設定にしているようだと説明した時も、反応は薄かった。ユメジとっては好都合だったが、目的を見失いそうになる。


シャロンの胸の件もお預けだろう。そう思っていたが、チャンスはすぐに訪れることになった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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