第51話「名が響く森」
「ああ……あった」田寺は安堵の息を漏らした。
警備隊員と西宮が向かった別の道では、鬱蒼とした森を切り裂くように陽光が差し込む小さな広場の中心、一本の木の下で捜索が続いていた。
「よかった。少なくともあの人、スマホを落としたわけじゃなかったのね」西宮が結論づけた。
「ああ……」田寺は答え、端末に損傷がないか確認した。「あいつらを呼んで、キャンプ場に戻らねえとな」
「観光客の方、きっと不安がってますよ。私があの子たちを呼んでくるから、入野のおじさんは先に基地へ戻っててくれませんか?」西宮が尋ねた。
男は姪の方へ顔を向け、その目には純粋な疑念に満ちた険しい表情を浮かべていた。少女はゴクリと唾を飲み込み、叔父の視線を受け止めた。
「わかった……」と彼はため息をついた。「何かあったら、通信機で俺を呼べ」
「了解です!」
◇ ◇ ◇
山の鬱蒼とした緑を抜ける足取りは重かった。緩んだ石や地面を支配する不規則な根に足を取られ、歩みには常に緊張が伴う。
「まだ着かねぇのかよ……」ツンツン頭の少年がぼやいた。腕はだらりと垂れ下がり、足はすでにつまずくことに慣れきって、地面を蹴っても体が揺らぐことすらなくなっていた。
「さあな……」無気力な少年が返した言葉はそれだけだった。
「もう何時間も森の中を歩いてる気がするんだけど!!」
「ゴミ拾いしてる方がマシだったか?」竜斗は無表情な視線を同僚に向けた。
「んなわけあるか!」月島は半ば叫んだ。歩き続けながらも、二人は睨み合う。
その時、彼らの目の前で鬱蒼とした森が開けた。前方に空き地が現れたのだ。
草は低く、陽光がその一帯全体を降り注いでいる。唯一の影は、険しい地形の頂に生える一本の孤立した木の葉から落ちるものだけだった。
それは巨大で尖った岩だった。頂上には小さな土の山があり、そこから地面へと傾斜し、植物が頑固に生い茂っている。木の根は土から逃れ、太いツタのように岩にへばりついていた。
「うわっ……」
「田寺さんが言ってたのは、たぶんここだな……」竜斗が呟いた。
頂上の木を除いても高さ四メートルはあろうかというその岩の根元には、構造的な亀裂があった。斜めの裂け目がそのすぐ下に空洞を作り出し、小さな洞窟のようになっていた。
「スマホを探そう」竜斗が宣言した。その口調には絶対的な命令の響きがあり、単なる義務の確認とは完全に一線を画していた。
無気力な少年は一歩前に踏み出し、同僚を置き去りにした。
「あ!おう。そうだな」月島は答え、足を速めた。
だが、彼の視線は頭上の木に釘付けになっていた。この辺りの植生は中程度の高さで、四、五メートルほど。山のふもとにある巨大な松とは視覚的に異なる種だった。
岩の頂で孤立し、孤独に太陽を浴びるその木の姿には、逃れられない魅力があった。竜斗でさえ、その風景に見とれてしまったほどだ。
(この場所、真琴さんに見せてあげたいな……)
二人は岩の根元に近づいた。地面の傾斜が彼らの進む方向に自然なスロープを形成している。小さな洞窟の空洞はすぐ目の前にあり、視界から部分的に隠れていた。
このエリアで落とし物をしたなら、必然的にあの穴の中にあるはずだ。それが最も論理的な考えだった。
「あっ……」奇妙な音が響いた。低く、押し殺したような音。
二人はピタッと立ち止まった。
短い草と、緩んだ石や突き出た根がないおかげで、少年たちの足音は完全に無音になっていた。
「今の、聞こえたか?」竜斗は岩に周辺視野を固定したまま、顔を少しだけ同僚に向けて囁いた。
月島はただコクリと頷いた。(なんだ?観光客がいるのか?)
竜斗がもう一歩前に出た。
「んっ……!」
その音は甲高く。女性的で。極めて親密な響きを持っていた。
竜斗はその場で凍りついた。普段は空虚で遠く、無気力な彼の目が、大きく見開かれる。
ドンッ。
すぐ後ろで、月島が同僚の後頭部に顔をぶつけた。彼もそのノイズを聞いており、その瞳は純粋な恐怖で溢れかえっていた。
そのうめき声。引きずるような囁き。
(幽霊だぁぁぁぁぁっ!!!!)
(そんなのありえない……絶対に不可能だ)
無気力な少年はゴクリと唾を飲み込んだ。恐怖に逆らい、一歩ずつゆっくりと再び歩みを進める。
「……ま、待って……そんなっ……!」
女性の声が再び低いうめきを漏らした。その音は、この二人の少年の実践的な経験においては完全に未知の感覚的な重みを帯びていた。しかし、竜斗はそのノイズの意味について完全な『理論的』な知識を持っていた。
「誰かいるのか?」月島が囁き声で尋ねた。
彼は震える怯えた視線で岩を見つめ、幽霊の存在を排除し、生きている人間を相手にしているという事実に突然の安堵を見出していた。
だが、竜斗の表情を確かめようと顔を向けた瞬間、月島の混乱はさらに深まった。
「三浦?」
(嘘だろ!?)
「あっ……」
「コホン!!!」
「えっ?」
二つの声が同時に息を飲んだ。
「恐れ入りますが」竜斗が口を開いた。その声は純粋にロボットのようで、空虚でいかなる感情も欠落していた。彼は森林警備隊の初日にもらったマニュアルの言葉を一言一句違わず暗唱していた。「ここは保護区の聖域であり、松本市の遺産です。わいせつな行為は、他の市民の安全と幸福を損なうものであり……」
「お前、何言ってんだ……?」月島が極度に混乱して尋ね、同僚の言葉を遮った。
「……松本市民の。公然わいせつという事態を避けるため、直ちに退去していただきますようお願いいたします。ご協力ありがとうございます」
彼は虚無に向かって丁寧にお辞儀をした。
「わいせつ?」月島が訝しむ。
「ご、ごめんなさい!!」女性の声が岩の裏から響いた。
「も、もう行きますから!!逮捕しないでください!」男性の声が隠れ場所から懇願した。
「どういうことだよ、わいせつって?」月島はまだ完全に迷子になっていた。
「す、すんませんっ!!!!」カップルが叫び、慌ただしい足音が遠ざかっていった。
二人が逃げ出したのを確認し、竜斗は深くため息をついた。その顔には、この発見に対する絶対的な信じられなさが浮かんでいた。彼は自分の胸に手を当て、激しい心臓の鼓動を感じた。
(マジかよ……)
「だから、どういうことだよ三浦!?」
「あ?」彼は同僚に顔を向けた。「彼らがそこであんなことしてたの、気づかなかったのか、月島くん?」
「気づくわけねぇだろ!どうやって分かるんだよ?俺たち、見に行ってすらいないのに!」
「よかったよ」
「よかった!?俺はまだ、ぜーんぜん意味わかんねぇんだけど!」
「西宮先輩が、ホルモンを持て余した思春期の連中について話してたの、覚えてるか?」
「おう、もちろん覚え……」少年の声が喉の奥で消えた。顔が強烈な赤に染まり、彼は純粋なショックで自分の足元を見つめながらうつむいた。
「そういうことだ」
「も、森のど真ん中でかよ!!??」
「西宮先輩がそう言って……」
「俺だって何言ってたか分かってるよ!!!」
◇ ◇ ◇
無気力な少年の目が細められた。あの光景を目撃した後、竜斗と月島は落とし物を探しに向かった。しかし、彼が見つけたのはただの土と、岩の根元にある裂け目の光景だけだった。
他の人たちがこの場所で何をしたかなど、彼は想像したくもなかった。
「三浦ぁー……なんか見つかったか?」月島の声が風に乗り、上から響いてきた。
竜斗は岩の下から出て上を見上げた。縁のところで、木陰の草の上にひざまずく月島の姿が見える。
「いや。そっちは?」
「何にも……」ツンツン頭の少年が答えた。「あいつ、本当にここに来たのかな?」
「場合によるな。あの人、女の人と一緒にいたか覚えてるか?」
「ハハハ……」
「何がおかしいんだ?」竜斗が尋ねる。彼の推測は純粋に論理的であり、ユーモアなど完全に欠如していた。
「西宮先輩と田寺さんのところに戻った方がよさそうだな」月島は質問を無視して結論づけた。
「同感だ」
竜斗は岩の頂上へと続く土のスロープに向かった。そこで、降りてくる月島の姿を目にする。よじ登ったせいで、同僚のズボンの裾、袖口、そして前腕は土で汚れていた。
地面に近づくと、月島はジャンプし、竜斗の近くにわざとらしく演劇的な姿勢で膝から着地した。
ダンッ!
竜斗は立ち止まって彼を待っていた。いつもと変わらない、空虚で遠い表情で彼を観察しながら。
一方、もう一人は、たった今見せたジャンプに誇らしげな笑顔を浮かべている。
「何のためにやったんだ、それ?」
「何がだよ?」月島が言い返す。
「それだよ……」竜斗は手を上げ、岩を指差した。そして、指を閉じて腕を引っ込める。「忘れてくれ。戻ろう」彼はくるりと背を向け、森へと向かった。
「マジで何も言わねぇのかよ!?」
「……」月島は足を速め、同僚に追いついた。
二人は沈黙に包まれたまま、森の奥へと歩を進める。やがて、その沈黙が破られた。
「なあ、三浦」
「ん?」
「さっきのことなんだけどさ……」
「何かあったか?」
「お前の、あの話し方……」
「どこかおかしかったか?」
「その……」彼は手を後頭部に当てた。「お前、なんか変な話し方するよな……」
竜斗はついに同僚の方へ顔を向け、片方の眉をひそめた。
「マジで……お前ってすげー変な奴だよな!」
「……」無気力な少年の顔は空っぽのままで、その表情は完全に遠かった。
(それでも、面と向かって言われると少し刺さるな……)
「お前に彼女がいるって、マジなのか?悪気はねぇけど……どうやって?彼女ってAIか?それとも2Dキャラ?それともガチャで大当たりでも引いたのか?」
(こいつ、あらゆる方法で僕を辱めるつもりらしいな……)
「彼女は実在する」竜斗は素っ気なく答えた。
「いや、だってよ……」
「君に証明する必要なんてない」竜斗はきっぱりとした声で断言し、本格的に森へと入っていくために背を向けた。
「信じてるって!無視すんなよ!悪かったって!!」
「……」
「名前、なんて言うんだよ?」月島が食い下がる。
竜斗はその場でピタッと立ち止まった。ゆっくりと同僚の方へ振り返る。「どうして知りたいんだ?」
「純粋な推理のためだよ」
(僕が名前を言っただけで、何かを推理する気か?)
「お前と同じ学校なのか?」
(これ、尋問に変わってないか?)
「ああ」竜斗は再び背を向け、歩き出した。「真琴……」
「え?」
「真琴。彼女の名前だ」
「で、彼女のどこが一番好きなんだよ?」
「これは間違いなく尋問だな……」
「愛の先輩からアドバイスが欲しいだけだよ」月島はそう言い、ワクワクしたような笑顔を見せた。
竜斗はもう一度立ち止まった。彼は森の深淵を見つめ、緑と茶色が織りなす広大な色彩の中に思考を迷わせた。
(彼女のどこが一番好きか……?)
「彼女の……声が忘れられなくなるような、そういうところだ」
「深いな」
竜斗は顔をしかめ、その反応に明らかに苛立っていた。最後にもう一度同僚に背を向け、森の奥へと進んでいく。
だが、月島は満面の笑みを浮かべた。「その死んだ魚みたいな顔以外のお前の表情、初めて見たぜ!」
「うるさい……」
「待てよ、竜斗!お前のこと、竜斗って呼んでいいよな?」
「はぁぁぁ…………」
二人は小道を奥へと進んだ。月島が絶え間なく喋り続ける中、無気力な少年はその鬱陶しさにただ耐えながら、西宮と田寺の待つ合流地点へと歩みを進めた。
しかし、彼らが知らない決定的な事実が一つあった。
まさにその場所。木の幹の背後に完璧に隠れて。一人の少女が、すべてを聞いていたのだ。
彼女は木の皮に背中を預け、両手で自身の胸を強く押さえつけていた。
唇は微かに震え、眼鏡が鼻梁を滑り落ちる。彼女の長い明るい茶色の髪は、しっかりと三つ編みに結ばれていた。
ドクン、ドクン。
心臓が不規則に打ち鳴り、荒い息が漏れる。突然の苦悩に窒息しそうになり、喉が塞がるのを感じた。
ゆっくりと、彼女の両手から力が抜け、体の横へと力なく崩れ落ちる。彼女の青い瞳は、ただ距離感と、圧倒的な敗北感だけを反射していた。
「真琴……なのね……?」




