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君と会うまで、世界は無音だった  作者: わる
第3巻 - 防げなかった無音
45/50

第45話「新しい日常の音」第一部

 ジリジリと、容赦ない太陽が大地を焼き尽くしていた。重苦しい空気が肺を焼き、ミーン、ミーンというセミの鳴き声が、いつも以上に耳障りに響く。


 木漏れ日が頑固に差し込む不規則な木陰の下でさえ、その暴力的な暑さは少しも和らぐ気配を見せない。


 だが、日本の真夏の狂気の中にあっても、労働という義務は免除されない。そうだろ?


 三浦竜斗の瞳は、いつも通りの無関心な距離感を保っていた。半開きのまぶたは、「今すぐここから消え去りたい」という実存的な退屈さを如実に物語っている。しかし、絶え間ないセミの大合唱に混じって、周囲からは別のノイズも耳に届いていた。


 ザワザワ……


 声、囁き、そして雑談――今行われている解説に耳を傾ける者もいれば、竜斗にとってはどうでもいい些細な世間話に夢中な者たちもいる。


 メインテーマは何か?もちろん、松本城だ。


 森林公園の山中で、竜斗は観光客のグループを「案内」していた。単なる夏休みの短期バイトに過ぎない。


 この任務は彼一人に任されているわけではない。ツアーの実質的な責任者は、竜斗と同じく高校生で、バイトのシフトをこなしている一人の少女だった。


 彼は斜面に設置された金属製の手すりの前に立ち止まった。眼下には緑の海のような森が広がり、澄み切った青空の下へと続いている。木陰のベンチで休む者もいれば、展望望遠鏡の順番を今か今かと待ちわびる者もいた。


 この高台からは市街地が完璧に見渡せた。そして、都市の中心にそびえ立つ、太陽の光を反射する荘厳な黒い建造物の存在を無視することは不可能だった。


「皆様、正面をご覧ください。あちらに見えますのが、その黒々とした外観から『烏城からすじょう』とも呼ばれる荘厳な松本城でございます。日本で最も古く、完全な形で残る城の一つであり、まさに正真正銘の国宝となっております」


 少女がすらすらと暗唱した。その無難で丁寧な口調は、完全にバイト用のマニュアルを丸暗記しただけであることを露呈している。


 大人たち、特に県外からの観光客は解説に熱心に耳を傾けていたが、子どもたちは歴史的な情報など完全に無視し、ただ望遠鏡のレンズを覗き込みたくてウズウズしていた。


 竜斗は顔を前に向けたまま、横目で彼女を観察した。


 彼女は規定のユニフォームを着ている。ダークカラーのパンツに、オリーブグリーンの半袖Tシャツ。キャップのつばが顔に影を落とし、長く太く編み込まれた明るい茶髪が揺れている。眼鏡のフレーム越しでも、長いまつ毛と、大きくて澄んだ青い瞳は際立っていた。細い顔立ちには繊細な表情が浮かび、体にフィットしたユニフォームが、彼女のほっそりとした曲線をさりげなく強調している。


 完璧に丁寧なトーンとは裏腹に、彼女の姿勢は残酷な真実を語っていた。わずかに落ちた肩と焦点の定まらない瞳が、圧倒的なやる気のなさを証明している。竜斗にはその感覚が痛いほどよく理解できた。何しろ、彼自身も全く同じ態度をとっていたのだから。


「あー、まじで……」竜斗の左側で、男の声がボヤいた。無気力な少年は視線だけを動かし、その不平の出所を確認する。「いつまでこの炎天下に突っ立ってなきゃなんねーの……?」


 この夏休みバイトの学生トリオの三人目だ。丸まった肩には疲労の色が重くのしかかっている。日焼けした肌に、竜斗よりも短く刈り込まれた黒髪は、ツンツンと逆立ったヘアスタイルにセットされていた。


「あいつら、さっさと帰ってくれりゃいいのにな……なぁ、三浦、お前もそう思うだろ?」


「全員帰ってしまったら、公園は無人になる。そうなれば警備員も僕たちの手伝いを必要としなくなり、結果として、僕たちはこの職を失うことになる」無気力な少年の返答は、純粋に論理的なモノローグのように響いた。


「お前、現実的すぎんだろ!」同僚は腕を胸の前で組みながら抗議した。


「あ……ごめ――」


「三浦くん」


 竜斗の言葉を遮るように、女性の声が割り込んだ。少女が音もなく近づき、彼の右側に立っていたのだ。彼女は両手を後ろで組んだまま、少しだけ体を前に乗り出す。「望遠鏡のパート、あなたの出番よ」彼女は強い視線で竜斗を睨みつけながら、ヒソッと耳打ちした。


 思考の世界から引きずり出された彼は、期待に満ちた目でこちらを見つめる観光客の小さな群れに気づく。


「あ……了解」彼は短く頷き、ぽつりと一歩前へ出た。


「……展望望遠鏡をご利用の方は、あちらへお進みください。機械に硬貨を投入していただきますと、松本城の建築様式や周辺の市街地を、より詳細に拡大してご覧いただけます。当市のパノラマビューをどうぞお楽しみください」


 竜斗は、抑揚も生気も全くない、ロボットのような単調な声で指示を読み上げた。


「あいつ、マジでアンドロイドみたいだな……」ツンツン頭の少年が小声でツッコミを入れる。


「少なくとも、暗記力は優秀みたいだけど」同僚の少女がそう締めくくった。何しろ竜斗は、感情を微塵も交えずに、プリントされたマニュアルの文字を一言一句違わず再生してみせたのだから。


 その無機質な解説が終わると、観光客たちは保護フェンスの方へゾロゾロと進んでいった。眼下に広がる広大な街並みと、そびえ立つ松本城の姿を観察することに夢中になっている。


「ルートもそろそろ終わりね」少女はスマートフォンの画面で時間を確認しながら呟いた。


「この後はどうすんの、俺ら?」ツンツン頭が尋ねる。


 竜斗も二人に歩み寄った。顔に張り付いたような無関心さが好奇心の欠片すら完璧に隠し通していたが、彼も全く同じ疑問を抱いていた。


「テントのエリアに戻って、誰かが馬鹿な真似をしないか私が見張るのよ」彼女はスマホを小さなワンショルダーのリュックにしまいながら答えた。「特に子どもとティーンエイジャー。超・特・に、ティーンエイジャーね」


「センパイ、立派な大人みたいな口ぶりっすけど、自分もただのティーンエイジャーじゃん!」少年がからかうように笑った。


「……はいはい、好きなだけ笑えばいいわ」彼女は言葉を続け、その声は極度の疲労によるため息へと沈み込んだ。「あなたたちは今年が初めてだから分からないのよ。ホルモンを持て余した思春期の連中が、森の中でどれだけ恐ろしいことをしでかすか……想像もつかないでしょうね」


「うわぁ……」少年は気まずそうに後頭部をポリポリと掻きながら呟いた。


 (……その頭痛の種がどれほどのレベルなのか、僕は絶対に想像したくないな)

 

竜斗は心の中でそう独りごちた。


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