第42話「学校の窓からは見えない世界」第二部
ジリジリ、ジリジリ……
真夏の容赦ない午後の中天の太陽が、二人の体を鞭打つように照りつけていた。ミーン、ミーン、ミーンという絶え間ない蝉の鳴き声が、高い枝葉を揺らすザワザワという風の音と混ざり合う。容赦のない熱気が、彼らの額から滝のように汗を奪っていた。
二人は並んで学校の坂道を下り、いつものバス停へと向かっていた。夏休み前最後の登校日である今日、授業は早めに終わり、部活動も普段よりずっと短かった。そのため、街を抱きしめる巨大な山々の向こうへ沈むにはまだ数時間もあり、太陽はその灼熱の猛威をこれでもかと見せつけていた。
ズルッ……ズルッ……
竜斗の足取りは重かった。ただ前に進むだけでも意識的な努力を要し、彼の虚ろな視線はアスファルトのひび割れをなぞっていた。
一方、彼の隣を歩く少女からは、痛いほどの緊張感が溢れ出していた。彼女の肩はガチガチに強張り、両手は体の前でギュッと握りしめられ、顔は茹でダコのように真っ赤に染まっている。竜斗の顔が視界に入らないよう、不自然なほどあらぬ方向へ目を逸らしていた。
(……なんて気まずい空気なんだ……)
息が詰まるような沈黙に飲み込まれながら、二人は全く同じことを考えていた。
無気力な少年は、横目で彼女を盗み見た。こわばった表情で、頑なにそっぽを向く彼女の姿に、彼の瞳が揺れ動く。
ゴクリと唾を飲み込むと、喉の奥がチクチクと痛んだ。
(もしかして、秋山さん、山田先輩のことで怒ってる……!?)
パニックが彼の脳内を侵食し始めた。不安を抑え込むように、彼は手を口元に当て、自らの顔を両手で強く挟み込んだ。
絶望に染まった視線。全身が硬直する。汗がどっと吹き出し、背中に押し付けられた鞄が湿った生地を押し込み、ただでさえ汗だくの白い制服のシャツをさらに濡らしていった。
(僕から謝るべきか?いや、説明したほうがいいのか?)
反射的に、彼はガタガタと震える指で頬を潰したまま、狂ったように首を横に振った。
(ダメだ!ダメだ!ダメだ!賢進がいつも言ってるじゃないか。女に理屈をこねるのは、状況を悪化させるだけだって!)
脳内で荒れ狂う嵐に敗北し、彼は顔から手を離して長いため息を吐いた。再び横目で彼女の様子をうかがうが、相変わらず緊張しきった体と、絶対に彼を見ようとしない横顔があるだけだった。
彼の瞳は、深くメランコリックで迷子のような色を帯びた。
(どうすればいいんだ、皇帝……)
遥か上空、まばらな雲の間を漂うパニック状態の少年の脳は、一つの慰めとなる幻影を空に投影した。
前髪に特徴的な白いメッシュの入った、栗毛の元気な少女の姿。頭のてっぺん、ピンと立った馬の耳の間には、大きなピンクのリボンが楽しげに揺れている。その幻影は、揺るぎない自信に満ちた、まぶしい笑顔を浮かべていた。派手な勝負服を身にまとい、彼女はいたずらっぽくウィンクをすると、空から手を伸ばし、彼に向かって力強くサムズアップをして見せた。
揺らぐ彼の精神を立て直す、最後の激励。あの幻の少女の、甘くてハイテンションな声が彼の思考に響き渡る。
『ハチミー!!』
彼は両拳を強く握りしめた。顔の筋肉を引き締め、脳内の偉大なるサインから送られた勇気の火花に、必死にすがりつく。
しかし、真琴はすでに竜斗の奇妙な挙動に気づいていた。
エメラルドグリーンの瞳の端で彼を観察し、彼女には到底想像もつかない『何か』に対して無言の祈りを捧げている彼を、バッチリと目撃していたのだ。
自分の小さな世界で苦悶する少年の姿を、彼女の視線がなぞる。少女の脳内は、彼のその態度についての推論を即座に弾き出し、彼女の頬をさらに強烈な薔薇色へと染め上げた。
彼女の唇がプルプルと微かに震えた。その動きは、彼も見逃さなかった。
竜斗がその反応に戸惑い瞬きをすると、彼女は勢いよく顔を反対側へと背け、完全に羞恥心に支配されてしまった。
「秋山さん……」震える声で、彼は彼女を呼んだ。
「んん……」彼女は頑なに顔を隠したまま、くぐもった声で応じた。
普段は無感情な少年の唇が震えた。言葉を続ける前に、もう一度ゴクリと唾を飲み込まなければならなかった。
「僕……何か、秋山さんを怒らせるようなこと、した……?」
少女のエメラルドの瞳が、ショックで見開かれた。
(違う……三浦くんは、絶対になにも悪くない……全部あたしのせい……)
ピタッ!
彼女は突然立ち止まり、彼もまた足を止めることを余儀なくされた。
真琴は道端の生い茂る草むらに顔を向けたままで、竜斗は彼女の背後で立ち尽くし、ただ待っていた。
「秋山さん、僕……」
「三浦くんは、なにも悪くないよ」
彼女は彼の言葉を遮った。その声は、予定していたよりも少しだけ大きく響いた。
彼の顔に、純粋な驚きが浮かぶ。目の前の少女をじっと見つめた。
強烈な黄金色の夕日を浴びる彼女。歩き通してかいた汗で、白い制服のブラウスが肌に微かに張り付いている。首元の鮮やかな赤いスカーフと腰の暗い色のスカートのコントラスト。そして、細い肩に食い込むリュックの肩紐。
彼女の燃えるような赤い髪が光を捕らえ、催眠術のように輝き、その瞳は磨き上げられた二つのエメラルドのように生き生きと光を放っていた。
彼女は一瞬だけ彼を見つめ、またすぐに目を逸らす。その緊張したサイクルを繰り返していた。体の前で組まれた両手の指先が、落ち着きなくモジモジと絡み合う。色白の顔は、今や頬全体を覆い尽くすほどの深い朱色に染まっていた。
「あのね、あたし……三浦くん……そのね……」弱々しく、途切れ途切れの声で、彼女は必死に言葉を紡ごうとしていた。
その空気に当てられ、竜斗の顔も熱を持ち始め、赤く染まっていく。胸がギュッと締め付けられ、体中のあらゆる細胞を駆け巡る、名状しがたい感情の嵐に満たされていく。
「うん……秋山さん……」
「三浦くんは……」
「うん……」
「きゃあああああああああっ!!」
「ええっ!?」
突然、彼女の喉から絞り出されたような甲高い悲鳴が上がり、そしてすぐに飲み込まれた。完全に不意を突かれ、竜斗はビクッと肩を揺らした。
真琴は真っ赤になった顔を天へと仰ぎ、パニック全開の表情で、体の前で両手を激しく振って拒絶のポーズをとった。
(ムリ!ムリ!ムリ!なんでこんなこと言うだけで、こんなに難しいの!?!?)
「秋山さん!」突然のパニックに心底心配になり、彼が叫ぶ。
「見ないでっ!」
彼女は懇願し、燃え上がる顔を両手の中に埋めてしまった。
竜斗は困惑と不安、そしてほんの少しの恐怖が入り混じった視線で彼女を見つめ、恐る恐る片手を彼女の方へ伸ばしたまま固まっていた。
即席の防壁に隠れたまま、真琴は指の隙間をほんの少しだけ開け、彼の反応をこっそりと覗き見た。
「わかった、三浦くん!」彼女は突然の決意と共に宣言した。手のひらに押し付けられた声はくぐもっていた。
「……何が?」ますます訳がわからず、竜斗は呟く。
「こうすれば、恥ずかしくないから!」
「は?」
「三浦くん!」顔を覆ったままで声はくぐもっていたが、そのトーンには弾けるような興奮と、強烈な勇気が込められていた。
「は、はい……」
「夏休み……あたしと一緒に、海へ旅行に行かない?」
(言えたあああああああ!!!やったあああ!!!)
普段は疲れ果て、どこか遠くを見ていて、光を宿さない少年の目が、大きく見開かれた。
めったに自分に許すことのない感情の波が、唐突に彼を飲み込んだ。
純粋な、期待。
「その……僕は、行きたい……」
「やったぁ!!」彼女はついに顔を解放し、空に向かって両手を突き上げながら、純粋な喜びに小さなジャンプをした。
「それで、いつにするの?」少しずつ理性が戻ってきた彼が尋ねた。
「いつ?」彼女は瞬きをした。現実的な質問に、明らかに虚を突かれたようだった。
「うん。僕の予定に合うか、確認しないと」
「予定?」
「うん」
先ほどまで少女から溢れ出していたまぶしいほどの歓喜が、一瞬にして蒸発した。
氷のように冷たい不安の波が、彼女の表情を侵食していく。
「三浦くん……夏休み、何するつもりなの?」
彼は視線を地面へと落とした。あのいつもの無気力な距離感が、再び彼の表情に這い戻ってくる。
彼は気まずそうに後頭部を掻きながら、ほとんど聞き取れないほどの小さな声で答えた。
「その……夏休みの間、バイトを入れちゃってて……」
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