9話 祝レベルアップ
◇ ◆ ◇
「いくつか議題があーる!」
というマッキー宣言から始まった昼食。場所は霧界の東方面霧球域エリアから中央奥へ向かい入った林をいくつか超えた広場、草原地の中心。見晴らしが良いここなら魔物の奇襲も、他の生徒や探索者達の盗み聞きも心配せずに済むだろう。
昼飯は購買で買って来た物。大きめの竹籠に盛られた白ごはんの真ん中に梅干しと卵焼きにプチトマトにブロッコリーとタコさんウィンナーにコロッケで色彩可愛いく纏められており口内から唾液が溢れてきた。早速頂きますと卵焼きに箸を割り入れる。
「意味無いかもしれないが学徒の牙閃ストーリー確認しとこうぜ。特に登場人物。ドロップ種は確認する限りほぼ変更無しだな」
ほんのり甘めで優しく醤油が香る卵焼きをもきゅもきゅしつつ頷きを返す。膝に弁当、右手に箸、左手はスマホでメモと、なかなかどうして器用なマルチタスクをこなすマッキーはコロッケを頬張りつつ考え中のようだ。
「牙閃のストーリーねぇ、私は正直もううろ覚えで……確信無いのも上げてくの?」
「もちろん全部。と言いたいが、直近のとエンドだけでもすり合わせしとこうぜ」
致命的な選択肢に対応する為や勧誘の時の為にも、って感じかな。
私達が出会った中学から情報共有した攻略情報は家に厳重に保管してある。
レベルは効率的に上げたいしアイテム集めの効率にも関わるし金銭面にも直結するからと、魔物とかジョブ・スキル情報は覚えている内にとせっせと充実させた来た。その一部はスマホにも入っている。もちろん学園で契約して得られた魔導端末とは別だ。
現状取得出来そうなアイテムや貴重品、換金に良さげなスキル習得結晶や魔法習得結晶で集められそうな品など。
ジョブであれば、どういう行動がどのジョブに繋がったかの情報集積。その流れでジョブが覚えられるスキルと装備によるアビリティもーなどと充実させてきた攻略情報。狩り場情報、ジョブ情報、必須アイテムに便利アイテム、他にも鍛冶・調合・裁縫・錬成と錬金情報などの生産職系の情報も。万が一を考えて手書きで集積させて来た。
おかげで攻略本のように分厚いノートが3冊も出来上がった。まぁ1冊ずつ互いに書き連ねた情報を整頓したのをもう一冊という形だから実質1冊分。PCやスマホを使うと【電脳士】などのジョブ持ちから超低確率だろうがハッキングされて情報が漏れる恐れがあるからだ。異端と取られる事間違い無しな情報もあるので、万が一流出するとテロリスト認定されかねない危険物。
問題は映画やアニメや漫画の情報などが混ぜこぜな所。ピンポイントでホライゾンシリーズのゲームのひとつ『ホライゾン~学徒の牙閃』に焦点など当てていなかった。
「えーっと……ゲーム主人公目線だと入学式で騒動起きてちょい目をつけられて、直近ならクラスメイトの舌下チンピラコンビとの戦闘、ケンカ?で次は1年D組連中から因縁つけられて戦闘、勝敗によって分岐して勝ったら次は1のC組連中。
それにも勝ったら1のB組白服生徒から勧誘される流れがグッドエンドに必要な条件のひとつ目クリアって感じだった筈。
でも1のDと戦闘の時点で一周目なら無理ゲーだよ。ダンジョン侵入済みとはいえゲーム主人公も私達みたいにレベル1のままずっと過ごしてきた筈だし、内部組は全員レベル5以上、こっちは通常攻撃のみなのに相手はジョブ持ちでスキルとか魔法使って来るんだし普通は勝て無い」
「そこで勝つか負けるかでゲーム主人公の中身がどういうのか判断出来そうだよな。負けたらDA制限科せられて合同DA授業までクラスメイトの好感度上げってか班《PT》員勧誘期間だったよな」
「そうだね。ケンカに勝って1のDに負けてから自由行動、チュートリアル終了って感じだったし。グッドエンドフラグ折れてたらノーマルエンドとか友情エンド目指すしか無い感じ。悲惨な学園崩壊エンドとか悪魔服従エンドとか笑えないから」
「学園崩壊エンドは3年以内に30層に到達してなかったら起こったよな」
「ん。期限ギリギリになると学長があやしい動きしてるとかいうタレコミが学内掲示板に出た筈。その時点でほぼほぼゲームオーバー確定だろうけど。で悪魔服従エンドは学長に逆らって負けた場合ね。こっちは基本学長室に近寄んなきゃ大丈夫だけど……」
「レベル上げ過ぎたら学長が出現するんだったよなぁ……いくつだったか覚えてるか?」
「全然、60以上なのは確実だけど……まぁ限界突破とかするようになってから考えるんでいいんじゃない?」
などなど話し合い昼食を食べ終えても、まだまだと情報を思い出しあっていれば大分時間が過ぎていた。
その間にヤンノ蚊はもちろんの事、森から出てくれば一直線に向かってくる数匹単位のイノシシトカゲ討伐や林を超えてまた別の狩場を見て回ったり、近づいて来た巡回員たちとも少し話したりもした。
どうやら女子二人という班《PT》はとても珍しいらしい。
まぁ探索者配信でも少なくて5人前後、多ければ10人20人の二桁台だからさもありなん。解体要員とか荷運び要員とか運搬機材持ち込まない所はやはり人力が主流だし。
私がそんな事を考えてる間にマッキーが猫被りモードで色々とやり取り。
いつ何時にどこら辺りで生存確認、と端末で探索者ギルドに連絡を取った巡回員。その内の一人はマッキーの連絡先を聞き出そうとしたりして下心丸見えだったりしたが基本的に気の良い連中で一組目はまだ良かった。
時間をおいて遭遇した2組目の巡回員たちは、こちらの破れほつれた制服の袖をちらりと見て怪我の有無を確認されたりして回復薬で大事無いと言うとあっさり納得した後、マッキーの胸をジロジロと舐め回すように凝視開始。何人かがサルのように両手を叩いて胸を持ち上げる仕草をしたりと囃し立て興奮していた所はいかにも男子という感じで一組目と比べて若いなーという感想を私は持った。が、マッキーの目は笑っていなかった。
ああ、こりゃダメだとため息を吐きつつ私がマッキーの前に立ってサル共を睥睨。おそらく中学で通っていた道場の門下生の下級たちと同程度の練度の連中。つまり戦封じを外した私ひとりでも鎮圧可能だ。レベル差による威圧された場合のみアレだが、なんとかしてみせよう。
何人かとメンチ切りしあえど殴り合いが起こるような事も無く、一人だけ目線を外さない根性持ちと互いにガン付けあっていれば私はマッキーに、そいつは周りから後頭部を叩かれて場は和んだ。まぁ、いいか。いや殴られ損じゃないか?それもこれもマッキーのメロン具合が原因だろ、ふぁっきゅ。
その後はマッキーも如才なく振舞って色々話を聞き出したりしていたし、オッパイ星人は仲間の巡回員たちにどやされて後腐れ無くお別れ。
2組目の巡回員たちが林を避けて草原の彼方へ消えると、マッキーのよそ行き顔が一転、唾を吐き捨てた。
「ユッキサンキューな。ああいうのまじ勘弁だわ。ぺっ、視線が胸にいきすぎだろ。ああ、きっしょ。絶対ヤリモクで巡回員してるだろアイツら」
「あそこまで露骨な連中は珍しいね。ちょい年上のお仲間みたいにもう少し取り繕うけどね普通なら。探索者ってタガが外れてるの多いって聞くしマッキーはこれから大変そうだ気をつけなー。まぁでっかいから視線集めるのはもう自然の摂理とかでしょ。ある程度はあきらメロン」
「……キショくない視線なら別にいいんだがなぁ……はぁ、ユッキーは他人事みたいな面してんなおい」
「うちの妹様曰く、その内視線集めるのが快感になってくらしいよ。女のプライド的なアレで」
というかその傾向あるだろマッキー。オブネ君とか牛筆教員との接し方と全然違う落差でこっちが困惑するわ。自覚無しであざとい仕草してたのかなぁ……魔性じゃん。やっぱりサキュバスの血とか入ってなかと?
「そりゃ性自認が完全に女ならの話だろ。あークソが。中学じゃそこまででも無かったのに……、さっさとレベル上げねぇと身の危険をマジで感じるぜ」
「あーね。なんか意外な所からやる気燃料注がれたね。にしてもデカパイがやっぱ人気なんかねぇ」
「ちっ。見ていいのはオレだけでいいっつの。その点ユッキーが羨ましいぜロリで」
「は?私はロリじゃねえんだが?どう見てもパーペキスタイルだろうがよ!」
「背も胸もちっさかったらロリだろ」
「節穴乙!ちっさくはねえんだわ!この曲線美が分からんかー無駄にでかけりゃいいってもんじゃないんだよねー!」
肩をすくめるマッキーに口を尖らせた。にしても女子を望んでた割に男にゃ厳しいのか。
ああいや、望んでというには微妙か。理想の彼女だったっけ……。もう随分と昔だし、女子意識がなんか高いように思ってたが、いまいちマッキーのお怒りラインが分からんな。まぁ下卑た視線が不快というのはなんとなく分かった。
私はああいった視線を向けられた経験が無いので今一つ他人事でしか無い。大体ケンカ売って来る輩ばっかだったし。あ、いやでもそういえばいたか。個人的には道場にいたクソセクハラ糸目野郎みたいな生理的嫌悪感を覚えるという程でも無かったがまぁ当人じゃないと分からない感覚なんだろうね。あまり揶揄うとマジギレライン超えそうだから話題変えよう。
「てかスマホじゃなくて魔導端末の方が便利だよってめっちゃ勧めて来たね」
「まー、……癪だが事実ではあるだろ。端末も装備出来るなんて思いもしなかったし、民間のスマホより耐久性あってツノウサギの一撃をピンポイントで受けても傷すら付かないってのは有用情報だったわ」
電池の問題も学園の魔導端末なら学長の魔力で動くので問題無し。万が一の防具として制服胸ポケットに入れとけば撮影にも便利に使えるとか結構色んな実情を知る事が出来たのはマッキーのおかげだ。
「オレ等の普通のスマホは、もう解約か家に保管かで良いだろうな。壊れても嫌だし」
「そだね。まぁ元々そのつもりだったしね。でも言われてみるまで魔導端末に魔力通そうとなんかしなかったなぁ……このスマホとかちょっと魔力通してみてもほとんど変わった感じはしないね。普通の服とかと似た感触だからほぼ魔力影響無しか」
「だろうな。魔力単体による素材の強化率なんざ、【鎧】とか【盾】属性じゃないと防御性能はほぼ変わらんだろ。ユッキーの属性なら冷たくしたり重たくするのは出来るんじゃねえか?」
「いや一般製品に魔力込め過ぎたら壊れるじゃん、やんないよ」
「物に魔力込めて壊すってのなかなか聞かないんだが、まぁユッキーだし。つかユッキーのがそこら辺り詳しいか、ショップ店員だもんな」
探索者用の装備品は、ドロップアイテムなど複雑に組み合わせ加工し、魔力属性の相性やら魔導製品の糸でもって魔法陣やら神字やら獣文字やらを絡めて魔力補正性能を底上げする仕様。この学園の制服も同様で、そこらの安物プロテクターなんぞより遥かに防御性能が高く製造されている。
「探索者用装備販売店店員だからって何でも知ってると思うなよっ……!」
「なんで悔しそうなんだよ実際オレよか見識深いだろうが。まぁ、情報確認は家ん中でという事にしてスマホのデータは後で消しとこうぜ。端末に不審感持ってる事知られて教員連中の警戒対象になりたくないしな」
「学長がバラしたらどうにもなんないけどね」
「そのリスクの可能性承知の上で魔導端末の恩恵に預かるって決めたんだろが、いつ誰にバラされるかなんて考えるだけ無駄ってもんだぜ」
入学式で木馬主任が開口一番に要注意事項として警告した対象、学長の正体は大悪魔という正真正銘の人外。性別は無いらしいが外見は山羊のような巻き角を生やした美魔女。
原作シリーズ知識通りであれば、大昔に存在進化を繰り返した超越者だと思われる。
天州国が成立して間もない頃に学び舎の運営に協力するという契約を結んだ奇特な背景を持つらしい。御齢四桁を超え、貴族と殺り合って一族郎党を根絶やしにしたりといった恐ろしい一面を持つ一方で、教育者として厳格で公正に勤めようとする一面があるキャラだった。選択肢次第で協力してくれたりするが、仲間にはついぞ加わらなかったキャラでもあり、条件をクリアすれば隠しボスとして挑めるようになる。勝つとトロフィー「大悪魔を屈服せしめし者」が貰えるのみ。後日のアップデートでトロフィー以外にも、大悪魔が床に伏しその頭を主人公が踏みしめ顎をしゃくらせサムズダウンしている一枚絵が追加され、ドロップ品に「大悪魔の下着」が加わったのもあって挑戦するプレイヤーが激増した。プレイヤー側からすれば結構人気のキャラだったけど、もし製作者が現世を知る事が出来ていたならば、何を思って追加したのやら。
ちなみに刀京魔導学園が配布している魔導端末は当然ながら学長の協力無しでは生産出来ない。これは現実の学園公式サイトにも明記されてある事だ。
この高性能な魔導端末が配られるという一点においても刀京魔導学園は人気なのである。卒業しても返却しなくていいそうだが、どうも巡回員などの、学園が雇用主になっている場合も支給されるようで、原作ゲームでは無かった入手経路が色々ありそうな事も分かった。
そういえば……
「ふと思ったんだけどさ、今朝の画面ってここでも見れるのかな?」
「あん?どうだろな。まぁやってみれば……」
「ちょちょちょい待ち!魔導端末じゃなくてスマホで一旦検索してみない?学長が万が一すっ飛んで来たら怖いって」
「いやそりゃ無いだろ。まぁでも、止めとくか……スマホじゃダメっぽいな、そもそもネットに繋がらん、圏外だ。そっちは?」
「ダメっぽい。ダンジョン内てネット繋がんないんだっけ?魔導端末は、普通に繋がるっぽい」
「うーむ、あのサイト?表示?も本当に謎だよなぁ。【電脳士】が作った特定検索ワードにだけ反応するコンピュータウィルスって可能性もあるかもだが……まぁ帰宅してからの検証でいいだろ。せっかくのダンジョンなんだし今はこっち優先で」
「らじゃり」
◇
十数頭単位の魔物の群れ、時々中型種混じりの討伐を繰り返し、小休憩を挟んだ所で【端末呼び出し《ターミナルコール》】。PT一覧を見ればジョブは二人共当然ながら未定のままだったが、待ちに待った数値、レベルが2という表示になっており戦力値も私は六七、マッキーは五二へと変化していた。
「おーい!マッキー!ついにレベル上がったぞー!」
「マジ!?……おー、レベルアップアナウンス無いのは残念だな。それに分かってたけどやっぱ差があんなー」
「これってPCの情報が正しいなら魔力値の差っぽいしね。年季の違いよ年季の」
「ちぇー……しっかし上昇幅エグイなおい。1から3程度じゃなかったのかよ。修行で増やせるしユッキーの事だから5くらいはあり得ると思ってたが……」
授業で習った通りなら、ジョブ無しの間(レベル1~4)での1レベルアップで上がる戦力値の上昇平均は1。1である。ネットでもレベル5未満の1レベル上昇戦力値が3も上がれば胴上げして拍手喝采、天才のソレ、将来トッププロ確定のような事が書いてあった。マッキーの9上昇はもちろん、私の13上昇はちょっとどころじゃなく異常だろう。
「ゲームみたいにぽんぽんレベル上げられないっぽいのだけがネックだね。威圧はレベル差で効果が増減するし、一ヶ月くらい泊まり込みしてさっさとレベル30くらいまで上げる?」
「頭イノシシか。んな事してたら命いくつあっても足りねえだろ。すべきは貴族探しの方だろうぜ。ジョブ獲得すりゃ上昇幅も上がっしオレはともかくユッキーは探索者優遇制度に早々に引っ掛かる」
「あぁそういえば……この調子で戦力値が上がるならまぁ貴族が関わってくるのは避けられない感じかぁ」
「登録してないヤツの末路は戦闘奴隷か実験動物扱いだからな。予定じゃ100超えまでの間にどの貴族ならマシかの情報収集だったが、牙閃の世界線ならではの有名どころを先に当たってもいいかもな。二之華伯爵家とかたしか平民にも寛容ってか現世基準じゃありえんほどフレンドリーに描写されてただろ」
「おー、時短だねぇ。任せた!!」
「コイツッ……!まぁ元からそういう役割分担だけどよぉっ!」
「いやぁ、私が接触したらケンカ沙汰からの切腹までいっちゃいそうで……」
「礼儀作法の点自体は悪くねえ筈なのにどうしてお前はそんなにケンカ売られるんだっ……!」
知らんがな。頭抱えたいのはこっちもなんだが?
「はぁ、まぁどうにもならんから置いとくとして、オレは予定通り明日からの授業に出席する間は戦封じで戦力値隠しつつ過ごすとして……中学ん時に見せて貰ったあの偽装アクセはやっぱりマズイか?」
「アレ違法品だったらしくてもう手元に無いよ。父さんが警察に持ってっちゃったから」
「うげ、そうだったのか」
「連れてって貰った魔導具職人見習いの日曜市は楽しかったけどねー掘り出し物と思ったのアレくらいだったし発見した時は興奮したけどねー」
偽装アクセを装備すると頭の中に項目が浮かび上がるのだ。名前や戦力値という項目があり自由に中の値を弄れたジョークアイテム。
ただ冗談では済まなかったようで、製作者は今ごろ堀の中か首輪付きじゃないかな。未成年になんてもん売りつけてんだって感じでワンチャン頭と胴が泣き別れしてる。
「父さんからも忠告されたけど、隠すのはまだしも偽装はやめた方がいいって。ふとした時に出て来る父さんの直勘って馬鹿に出来ないんだよね。あの感じだと従った方が絶対良い」
女三人に普段から囲まれて気弱なイメージがある父さんだけどあれでちゃんと頼りになる。
簡単な所で言えば天気予報はほぼ外さないし交通渋滞なんかも大体回避する。以前母方の親戚に会うために車で移動した時もなぜか大回りして妹さまともどもぶーぶーと文句を言っていたのだがその日のニュースを見ると通る予定だった高速道路の橋が落ちていて大事故と報道されていたなんて事もあった。
ちなみに空飛ぶ車、宙空車は貴族の他は許可が無ければ所持出来ないので一般民間人は大体がバスか電車か魔導車(前世と似た自家用車)による移動であり、他貴族が管轄する地方に行く場合は数か月前から役所に移動申請し許可を貰わなければ違法である。ふぁっきゅ。
父の事を語りながら指を立てれば、マッキーは顎へ手をやりツルツルと撫でる。
私達は二人共戦封じを持っているので、魔力を枯渇させておけば学園内で簡易鑑定されたとしても目立つ事も無いだろう。魔力枯渇状態は傍から見ればジョブ無しどころかダンジョン入場経験無しと見做されるだろうが一学期の前半くらいまでならそこそこの人数が未経験だろうし紛れ込めると見ている。
偽装のように嘘偽りの表示をまとうのでは無く、実際に魔力量を調節して本来の戦力値を隠すという手法。これであれば父さんの話に適う形だろう。まぁ実際問題として、低レベルの私達が装備できる程度の魔導具による偽装(戦力値を別数値に置き換える表示にする状態)じゃ簡単に見破られるだろうし、そもそも鑑定された時の表示を偽装出来ていたかも今となってはあやしいくらいだ。
「御導おじさんの直勘かぁ、話にゃ聞いてたが……枯渇状態でも、走ってる生徒にぶつかって大怪我ってイベントが心配なくらいか。それも回復できっからまぁ痛いだけで済むっちゃ済むし、もうカオスモードの心配もしなくてよさげだしな。ダンジョン内ででけえ異常はねえんだし問題も無いか」
「いち学生同士の問答で世界が混沌とするなんてあるわけないって」
「ははっ、マジでソレナ。朝のはもーめっちゃビビったっつうの。これも全部あのゲーム主人公のせいだぜ」
「ソレナー!マジで頬のダイヤ模様とか勘弁して欲しいよね。あれもしかしたらシールとかでゲーム主人公のファンボだったりしないかな?」
「コスプレかよ。それはさすがに考えなかったわハハッ。正体が前世持ちのファンボとかだったら気楽に過ごせそうだ」
「あ、話戻すけど不意の事故も危険っちゃ危険だからね。まぁ私は基本的に講義受講する気無いし校内にはほぼいないから、マッキーの判断に任せるよ。もしアレだったらマッキーも別に校内の受講無しでDAのみでもいいんだしさ」
「いや情報収集は必要だろ」
「まぁそれは、うん。命最優先で臨機応変にどうぞー。魔導端末から学内掲示板にアクセス出来るようになったし私は時間ある時にそっちの情報漁るね」
「頼んだ、プラン通りにオレはリアル方面で知り合い増やす感じで動きつつ戦封じ着けて講義にゃ出るわ。あ、最後にアイツらは潰しておこうぜ」
そんな事を相談しつつ森の中にちらりと見えたトカゲ共に浮遊させている石片を射出して広間までおびき寄せる。帰りを後ろから襲われても面倒なので。
振り返ってみれば最初の戦闘が一番大きな群れだった。今回程度の中型種が一匹だけ混じる程度の小型魔物の群れには慣れたものだ。撃滅一蹴。戦闘時間も3分掛からない。
「まぁ奇襲無しで正面からやりあったら全く問題無さそうだな。レベルも上がったし。明日の予行って事で、帰りに出くわすのはユッキーがソロでやってみるか?」
「ん、オッケー。もう慣れたしこの程度の群れなら余裕ありあまりんよ」
「あんま油断すんなよー。まぁトカゲの小型種とか噛みつかれても子犬の咬みつき未満だもんな。道場のがよっぽど命の危険感じた」
「中型種も不意打ちさえ貰わなきゃ無傷でいけるし、とっとと階層進める方向でok?」
「だな。そっちもプラン通りでいいだろ。レベルも討伐もどんな感じなのかは掴めたし、懸念事項は大分解消されたわ。まぁ別方面にいる別種の魔物見に行ってもいいが……時間的に取り止めだな。今回の探索報告書を受付嬢と作らなきゃだし帰還で。階層内の魔物は掲示板とか配信見る限りトカゲとそう変わらんし。ユッキーん家の恩恵にあやかってさっさとこの階層はスキップだな。混み合う前に」
「レベル上がるの遅いよね。浅層とはいえ半日掛けて数百匹討伐してやっとレベル2だし……経験値とかどういう仕様になってんだろね。黒い霧の取り込みは出来てるけど、実は小型種の経験値0とかいう落とし穴あると思う?」
「それはねえよ。大富豪のお坊ちゃんが機関銃で掃討しただけでレベル上がってた配信あったからな。危険な中型種はプロが間引いた後の群れだったから確定で小型種にも経験値はある」
「なるほど」
帰り支度をして林内広場からダンジョン外周に向かって歩き出す。
探索者ギルド受付で買い取り表示していた素材である赤花や火時蔓といったものは帰りがけに採取。
熱帯樹の根が地面から飛び出た箇所に咲いている赤い五弁の花、その直上の若干赤い蔓が樹上から垂れ下がっているのを確認して思い出した次第だ。それらを掴みぶちぶちと力任せに引きちぎり寄せ電線コードのように巻きまとめて回収し鞄に入り切らない分は肩に掛ける。歩く先々で緑豆や青色の熱帯樹の幹皮を剥がしたりヤンノ蚊を殴り砕いたり爆散させている内にダンジョン外周の霧壁へ到着。
霧球域エリアへと足を踏み入れ、さぁ帰ろう。
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東アジアTN0014ダンジョン探索者ギルド 刀京魔導学園支部
四月一日
報告書作成者:四宮楓 受付3等陸曹
探索班ランクF:【正雪境界】班DAリザルト
班長:F等級探索者:牧野正
班員:F等級探索者:雪小路御良
DA期間:四月一日10時52分~同日16時33分
討伐報告
・ヤンノ蚊:討伐個体数100前後、魔石無し、素材無し
・小型トカゲ:討伐個体数300前後、魔石数139、牙1、爪1
・中型トカゲ:討伐個体数19、魔石数10、牙6、爪18
撃退報告
ー
逃走報告
ー
魔石換金金額:1,717円
・小型トカゲ魔石139個x3円:417円
・中型トカゲ魔石10個x130円:1,300円
討伐確定報酬:2,139円
・ヤンノカ 多数x0円:0円
・小型トカゲ 139体x1円:139円
・中型トカゲ 10体x200円:2,000円
討伐部位売却金:3,600円
・小型トカゲ
牙 1個x0.01円:0円
爪 1個x0.01円:0円
・中型トカゲ
牙 6本x300:1,800円
爪 18本x100:1,800円
ダンジョン産素材売却報酬:400円
・赤霧花 5個x20円:100円
・火時蔓 1巻x300円:300円
貸与品金額:-0円
・緊急用狼煙:未使用:0個x(-0)円
刀京魔導学園支給品:-0円
・回復薬:使用済み:2個x(-0)円
支払い合計金額:7,856円
鑑定結果:
・探索前
牧野正:戦力値2(※枯渇状態)
雪小路御良:戦力値2(※枯渇状態)
・探索後
牧野正:戦力値2(※枯渇状態)
雪小路御良:戦力値2(※枯渇状態)
巡回員による途中報告:
1.1層巡回員、ランクD【へべれけ寸胴】班《PT》
報告地点:12時55分頃、ダンジョン外周付近ポイントN6E広場7
生存確認。怪我は無し。回復薬の使用を確認。残量から補充の必要無し。端末の有用性を伝達するもピクニックのように安全を確保した広場で喋っていた様子からダンジョンの雰囲気を知りたかった学生の新人班と見受けられた。
2.1層巡回員、ランクD【青木虎】班《PT》
報告地点:15時50分頃、ダンジョン外周付近ポイントN6E広場12E
生存確認。怪我は無し。回復薬の使用を確認。残量から補充の必要無し。刀京魔導学園の新人班、意気軒昂との報告。
DA報告および聴取事項:
(【正雪境界】班《PT》に対する口頭報告聴取)
初回ダンジョンアタックを無理せず無難にこなしたとの応え。現時点では女性のみの班《PT》で二名のみ所属。
イノシシトカゲの討伐数としては班《PT》人数とDA時間を考えると初DAとは思えない程に優良なリザルト。
中型種を二人で討伐した事はおおいに評価できる。
二人共が前衛を張れるようで浅層に不安は無いとの答弁。
今回使用していた主武装
牧野は拳脚・剣・スリングショット、雪小路は戦帯・拳脚・投擲物。
入学前の道場では他に直剣や刀や薙刀、斧・槍・槌・短弓・長弓・短銃・突撃銃・狙撃銃など一通りの修練も重ね――
所見:
添付資料:
備考:
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受付でマッキーが受付嬢と見知らぬ男性教員の三人で作成している報告書をちらりと確認した所、報告途中だったが色々書かれていた。
魔石の数が討伐数になるらしい。つまりほぼ半減……。まぁ報酬が出るだけありがたいのだろう。
ギルドもギルドで探索者情報を集めている様子。鑑定も流れるようにされてるし、戦力値が分かるタイプの鑑定魔導具などプライバシーの配慮とか全く期待できない。枯渇状態とは書かれているけど、これきっと戦封じ外してる時の戦力値も把握されてるよね……。貴族と探索者を取り合いしているらしいという話が本当かどうかは知らないが、有りそうな話だ。やっぱり下手な偽装なんてしてたら直ぐバレて痛くもない腹を探られそう。
しかしDAを終えるたびに報告が必要なんじゃ受付が物凄く混むという話も分かる。
E等級に上がれば(信用が上がれば)報告書提出の猶予期間が設けられるらしいけど、新人で学生である私達F級探索者はギルド職員や学園教員と質疑応答しつつ作成する事になるらしい。まぁ新人は日をまたぐ探索なんてしないらしいしなぁ……。
そんな事をぼーっと考えつつ、こちらに飛んでくる質問にうんうんと適当に頷いていれば報告完了。朝の申請書と比べたらもの凄く早い。
「おい立ったまま寝んな。はぁ、仕方ねぇなぁ」
「うい」
いつの間にかなぜか更衣室に連れて行かれて流れるようにシャワー室で汗流してジャージを貸して貰えた。
ああ、切り裂かれた腕部分血と泥で汚れてたから着替え貸して貰えたのか。半分意識飛んでたわ。もう血なんか黒くなって乾いてんだけど、目立つしね。傷自体は何とも無いけど服はどうしようも無いからなぁ……。
服見て黄昏れていたら次にマッキーに案内された先は洗濯室。
【洗浄】魔導具が備え付けてあって刀京魔導学園の生徒は無料で使って良いらしい。これは助かる。母さんから怒られずに済みそうだ。黒くカピカピになっていた袖部分が綺麗に元通り。さすがに破れた箇所まで直る事は無かったが普段着る分には問題無いだろう。
ちなみに道場では手洗いでした。冬は地獄で、温水禁止だった。私は寒さに耐性があって戦封じしてても魔力がミリあるだけでかなりマシだったけど、思い出すだけで手が赤くなりそうだ。ふぁっきゅ。
「ねぇマッキーさ、【洗浄】って覚えれるんじゃない?ダンジョン内で身綺麗にすること意識してたら」
「ああ~……原作が牙閃ならあり得るのか。技もひらめくシステム採用されてた筈だし……だけどそれでジョブが【家政婦】とか【掃除人】になったら悲惨じゃね?」
「洗濯とか装備のメンテナンス専門にして戦闘をしてなかったら、でしょ。私らが生産職になる可能性なんかもうほぼ無いでしょ」
「それもそうだな。戦闘職の最低基準って言われてる小型種百匹、中型種一匹の討伐完了してるしな。それなら確かに色々やっといた方が魔力成長ボーナス増えるだろうし……有りだな。よし採用。次からのDAは出来るだけ戦闘後に身繕い意識するか。ボーナスは多い程良い。あー早く魔法覚えてえなー、この世界の習得結晶は使う気になれんし」
「習得結晶はダメでしょ」
「だな。中学ん時のアイツ今頃どうしてんだろうな」
私達が原作ゲーム中で便利に使い集めていた魔法習得結晶や技能習得結晶を強く求めず換金対象としか考えない理由。それは原作のホライゾンシリーズには無かった副作用の可能性だ。
魔法やスキルは深く魂や霊格神経に関わるもので習得結晶で技術を習得するという原理は、霊格神経を無理矢理捻じ曲げると同義で、魂まで引き摺られるのか、性格やモノの考え方がガラリと変わる事があるという。
実際、中学2年の頃に、クラス内で自慢気に見せびらかして使用した子(戦封じを着けていた魔力持ち)がいたのだが、その後一週間も経たずに訳の分からない言動(習得結晶がもつのであろう記憶に引きずられる言動、恐らくダンジョンでの戦闘時の記憶を回想)をし始め、ある日戦封じを外して登校し、普通科目の授業中に、暴力事件を起こして退学処分となったのだ。
公的には後遺症が残る重傷者扱いは0だった事件。
だが実態は火あぶりにされた教員2名生徒3名、私達を含めて軽い火傷を負った生徒は十数名にのぼり、学校に備えてあるポーションと養護教員が回復魔法を使えていなければ、上半身が丸焦げで一部炭化していた生徒の3名は死んでいただろう事件だった。
はじめの内はスキルか魔法を覚えた事で気が大きくなっただけだとも思っていたが、事件発生当時の彼はあまりにも支離滅裂だったのだ。大型の魔物に喰われた記憶でもあるのかそんな錯乱した言動が目立った。「オレの腕を喰うなああ!!」と両腕を振り回して火炎放射したのだ。事件後の注意喚起と彼の変異過程を見聞きした実体験から習得結晶の危険性、人格面や精神への悪影響の可能性に気付けた。
もちろん警告する情報はちらほらとネット上でも教科書でも小コラム的に記載されていて、教育番組では子供に習得結晶を近付けさせないようにという注意喚起が昔からされている。
そう、単に15歳未満の未成年は使用禁止(罰則は無い)で、プロの探索者として活動してから自己責任で使いましょう、というのが常識でそれ以上の深堀は無いのだ。
なぜ禁止されて、なぜ使用を警告されるのかの原因について曖昧にされているのが現状。人格が変わるなんて話はネット上でもオカルト扱いで、好戦的になったりはするけど、人格が変わるほどの影響なんてあり得ないなんて論調だったりする。まぁ高価だから一般家庭の子供が手にする機会なんて超珍しいからね。
私達は手に入れる前に危険性に気付けて良かったのだろう。彼は残念な事になったが、まぁどこかしらで生きているだろうし……。
手っ取り早く強くなる為に習得結晶を求める探索者は後を絶たず、オークション等で高値で取引される。
探索者の夢見る一獲千金の代表的アイテムが習得結晶なのである。
閑話休題。
学園からの帰り道。通行人もそれなりにいるので適当に会話を流し、バスの定期券を買って帰宅の途。マッキーは自宅に電話して遅れる旨を伝えている。一度、雪小路家に寄るとの事で家まで一緒である。
私の明日の予定は色々な魔導具が実際に作動するかどうか確かめていく事が第一優先課題。
家にある私的倉庫に貯めた(探索者から買い取った物など)物品を一つずつ霧球域ゲート内で装備して確認していかなければならない作業だ。その作業を思うと億劫で仕方が無いが人が少ないであろう時期しか目立たず作業なんて出来っこ無いし、マッキーはマッキーで頑張るので我慢するしか無い。
もっとレベルが上がればギルド未管理ダンジョンに突撃でもいいのだが……。
授業は予定通り全コマDAで魔導端末から申請済み。なので明日はソロ活動となる。今日の経験から考えて、浅層なら問題無いと判断。
待ち望んだ世界、ホライゾンシリーズに酷似した世界。ダンジョンがそこら中にある世界。
挑戦しないなんてあり得ない――。
細切れに浮かぶ取りとめない思考の中でふと懐かしい声が聞こえた――。
――……◆&$ってくれたね。であれば&#%……――
はっ、として顔を上げ振り返る。
「部長?」
「どしたユッキー?」
学園からの帰り道。
黄金に輝く夕日に背を向け出来た影へと振り返ったがその先には何も異変は無い。春風はやや肌寒く、虫の音は遠い。
傲慢で妙ちきりんで、けれど憎めなかった懐かしい声の持ち主を探せど影の形さえ風が吹き消したかのように見当たらない。
ただ一瞬だけ青い魚影が宙を横切り泳いでいた気が――。
「ああ、いやなんか空耳?幻覚?天垂部長の声っぽいのが聞こえた気が」
「おいおい大丈夫か?まぁ結構血流したんだからあんま無理すんなよ。肩貸すか?」
「いや……何とも無いから大丈夫。無問題。さっさと帰ってPC画面も確認したいし」
「おう、いやステ画面気になるけどさ。その前に制服の繕い直しとかお願いせんとダメだろ」
ええー……。絶対心配されるヤツじゃん。
「良い言い訳考えてプリーズ」
「あほ。オレも一緒に謝るから素直に心配されてこい」
「ええー……」
ええー。。。
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〇魔導端末
刀京魔導学園学長が提供している端末型の魔導具。
悪魔にありきたりな趣味の悪さがほとほと伺える仕様の契約を経て貸与される。
端末の機能としては多岐に渡るが、其の総べてにおいて契約の呪をこれでもかと利用し尽くしている。
特に仮契約を一時的に締結させる【集団形成】はなるほど絶妙である。
これひとつでいくつもの役割を集約させている呪の長ける業は悪魔ならでは、だろう。
他にも拡張性という点で如何様にも機能を追加せしめる契約の呪において、目につく所を挙げればキリがない。電波、音波、光波、魔力波などを直接通さぬ霧球域エリアを搔い潜る業も契約の呪由縁だ。物理的距離を超越する業ひとつを取っても、真似する事すらヒトは出来ていない。徒人からすればまさに金の生る木であろうが欲をかいた愚物の末路は周りを巻き込んだ破滅だ。かの者も契約に縛られず暴れられる機会があれば嬉々として瞳をギラつかせ眦をつり上げ口角は嘲りの笑みを浮かべるだろう。
そして契約において徒人が死後の徴収を拒否できよう筈も無し、最終的には神々の元へ送るが、魂を絡めとり苛み愛でるそのやり口には虫唾が走る。
契約者たるヒトが死後の寵愛を避けたく望むのであれば、かの者に契約破棄を持ち掛け闘争を申し込む他に無い。
是非とも鼻を明かしてやって欲しいものだ。
かの者も其れを望んでいるが故の、過保護な契約文言なのだろう。




