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8話 初陣

◇ ◆ ◇



 成人男性より二回りほど体高がある中型種。私が並べば腰辺りまでしか届かないほどに筋骨たくましく、加えて鱗肌は下手な矢弾程度ならば弾く強度。口を開けば大小鋭い牙が列を押し並べ、爪は鎌のように湾曲した殺意の塊で、尻尾に至るまで全身凶器なのは言うまでも無いトカゲ男(リザードマン)。層が深まれば種々様々な生態武装を備えるようになる学園ダンジョンの代表的な魔物だ。

 そんな二足歩行するトカゲ野郎の爪撃によって腕を切り裂かれて視界内に赤が飛び散る。

 裂かれた箇所が熱くねつを持ち、次いで痛みが燃えるように腕を苛む。が、深くは無いし動かすのに支障も無い。つまりは問題無し!


「はっ!奇襲してその程度かクソトカゲッ!!ツメが、甘ぇんだよ!!」


 叫びながらも視界は明瞭。こちとら道場で何百何千回と骨折ってきとんじゃと気合で我慢。致命傷でも無ければ腕の一本を持っていかれたわけでもない。

 樹上から襲来という形だったが、空中に浮遊していた分、先に気付けた私はマッキの背中を狙い降って来た一際デカいクソトカゲの一匹を戦帯で殴り飛ばすのを優先して、自身の方へ落ちて来たのに手傷を負わされ地面に足を着けさせられたわけだが問題無い。反撃は浮かせていた金属片の全掃射、といえるほどの数は無いがとくと味わうがいい。

 心持ち散弾銃のように中型種のトカゲにお見舞いしてやれば汚い鳴き声を上げてぶっ飛んで行った。

 が、まだ魔力を霧散させない所を見るに仕留め切れていない。余裕も出来たので戦帯を操作し腕に巻き付け応急処置。


「ユッキ大丈夫か!?」

「問題なし!でも森ん中想像以上にヤバいよ!トカゲが次々降ってくる!!」

「忍者かアサシンかってか!?さっきの開けた場所まで戻るぞ!」

「了解!」


 中型種のおかわりは無いようだが、樹上から落ちて来る小型種の四足歩行トカゲどもをマッキーがスリングショットで居抜く間に私は地上の小型種どもを数匹まとめて戦帯で殴り薙ぎ払って、ついでに木も何本か斬り倒し逆方向へと転進。

 後ろをチラリと見やれば数十匹にものぼる小型種のトカゲの群れの奥に、不意打ちしてくれやがった中型種のリーダー格と思しき三頭。目が血走っている魔物の集団は非常にキモい。



 事の起こりはダンジョンに入ってから小型の魔物やヤンノ蚊ばかりに出くわす事十数分。魂宣《こんせん》して魔力が満ち満ちている私は練習も兼ねて身体下方へ吹雪を発現させて浮遊を実践練習していた。魔導端末の班《PT》機能のおかげかマッキーは通常空間で練習していた時と違ってまったくと言っていいほど寒く無いらしく遠慮無く吹雪かせた。

 近所じゃおいそれと練習出来なかったので思う存分楽しんで、私はふよふよ、マッキーはズンズンと奥へ奥へと木々の中へ分け入ればコイツら、小型種のトカゲ、俗称イノシシトカゲの群れに出くわした。


 最序盤の小型の魔物であるイノシシトカゲは配信で見た時以下、想像以上に遅い動きのようで数こそ多かったが、会敵後数分間は全く問題無かった。

 マッキーが振るう片手剣の動きも問題無く、逆手で木の幹を砕く威力を出すマッキーのフックを受ければ打撃に耐性を持つトカゲでも破裂したようにぶっ飛び魔力を霧散させ死体と成る。

 もちろん刺突が弱点なトカゲには私の戦帯《いくさおび》が猛威を奮った。

 ほぼほぼ一撃で仕留める事が出来る事もあって無双状態に気分も良くして高揚していた時に、正面から中型種(デカいの)一体姿を現し、気を取られた時に樹上から中型種(デカいの)二体が不意打ち気味に襲いかかって来たのだ。


「回復薬使うか!?」

「こん程度で要らん!むしろ自己治癒練習に丁度良い!」

「はっ、頼もしいこった!」

「てかマッキー!剣は!?」

「さっき中型種の尻尾に弾かれてどっか行った!!」

「ええ!?ああもう!邪魔!!」


 前方の藪から飛び出してきた新手のイノシシトカゲ二匹の開いた口目掛けて円錐状に尖らせた戦帯の両端をそれぞれに突っ込ませればズドンと後頭部まで貫通。原作ゲームでのコイツラは刺突・斬撃が弱点で打撃に強い。その情報通りの脆さであるが、数が多い。思ってた十倍くらいいそう。

 黒い粒子を霧散させたイノシシトカゲをブンと振り回して後方から迫ってくる集団に時間差で一匹ずつ投げつける。

 道を切り開くのは私がした方が良さそうだと前に出て戦帯で薙ぎ払いしつつマッキーをチラリと確認。

 小型種相手では体高差から拳より蹴りがメインになるし、拳と違って蹴りは軸足が要。森の中を走りながらの蹴撃はあまり上手くいっていないようで仕留め切れていない。

 それで無くともジョブが無い今は【魔力撃】スキルなどの補助も当然無く、出来る事は魔力操作による身体強化を自前の技術で行う程度。素手などリーチが無いに等しくマッキーは非常に戦い辛そうだ。まぁ樹上を気にしているようだしスリングショット持ちなのだからそちらを任せよう。

 走り出してしばらく、前方の木々に何匹かセミのようにひっついているイノシシトカゲの群れ発見。

 追って来てるのとは別の群れか、はたまた追い込み漁のような戦術でも組まれていたのか知らないが、一瞬立ち止まり戦帯に魔力を強く充填、雪崩の如き重量をイメージした魔力を纏わせた戦帯の両端を縦横無尽に振るい、十匹前後を手早く処理。

 その際、木もろとも薙ぎ払った小型種の中に、断割された体から霧散した黒い霧が集まるとその中心部辺りから落ちていくドロップアイテムが目に映る。赤黒く輝く鉱石、魔石は後で回収するとして私が迎撃したワンテンポをフォローしようとマッキが後ろから追いかけて来る群れの先頭へゴミ集積場で拾った【廃材液】入りの瓶をぶちまけた。


「これでもくらえ!!」

「ナイス!」


 振り返れば、中型種の三頭は急ブレーキでも掛けたかのようにつんのめって、他の小型種も嫌がるようにして転がったり飛び跳ねたりしていた。臭いも汚水に化学薬品を混ぜ込んだような刺激臭で、確実に身体に悪いと分かる毒臭である。

 今がチャンスと群れの奥へと戦帯を尖らせ伸ばす。斬撃も弱点である筈なのだがどうも中型種を斬り飛ばす程の威力を出す為にはまだ溜めが必要そうなので槍として運用。間合いも遠いし。けれどさすが中型種なのか距離もあったせいか致命傷には至らなかった。チッ。貫いた先端引くと同時に戦帯の逆側を尖らせ刺突。突突突連突。マッキーもスリングショットを使ってこちらに近寄ってくる小型種の何匹かを仕留め牽制。

 都合雑魚五匹削りで中型種三匹は軽傷。頭がいいのか慈悲が無いのか二足歩行の中型種トカゲは四足歩行の小型トカゲを掴んで盾にしやがり大きな手傷は与えられなかった。ガッデム!

 連中が立て直しというより、転がった連中を踏み越え始めた様子を見た所で「引くぞ!」声が聞こえて再度反転し距離を作る。


「あと少しで開けた場所だ!一閃準備!オレは牽制しとく!」

「オッケェ!」


 無事に木が無い広場に入り振り返り腰溜めの構え。

 前傾姿勢で居合抜きのように、だが後方へと回した片手は戦帯先端を握り締め持ち振り回し鎖鎌のように回して力を、魔力を注ぐ。ぶわっと冷気が満ち吹雪を伴う風が戦帯を中心に渦を巻く。トカゲはさらに数が増えたようだが距離を稼いだ時間で溜めは十分。

 回している方向側の刃には私の魔力属性である【雪】を重ね重ねて雪の重みを意識して纏わせる。そうすれば回転音が破壊的なほどに重く変化。イケると確信して、スリングショットで連射などという器用な真似をしているマッキへ声を張り上げる。


「跳んで!!」


 マッキーが跳ねた影を踏み込んで更に重心を落として地面と平行に横薙ぎ一閃。

 ジョブ【侍】の十八番であるスキル【一閃】を参考にした戦帯での全力薙ぎ。実際にはスキルを得ていないので一閃もどきといった所。


 いくつも並ぶ紙風船を斬り飛ばすように、体長はデカいが体高は子供程度しかない小型種のイノシシトカゲは数十数匹単位で斬り飛ばせたが、ゲームの敵全体攻撃というようにはいかず途中から皮や骨の重たい手応えによって振り抜き終盤範囲のイノシシトカゲ達を斬るには至らず。ぶっ飛ばしの手傷を負わせられた程度に留まった。

 不満である。

 もっと上手く倒せた筈だと思う私がいる。最期ッペのように戦帯をムチの如くしならせて先頭集団をぶっ飛ばす。ダメージは微妙そうだが吹き飛ばした分だけ余裕が出来る。どうやらリーダー格であった中型種の一匹も今の一閃もどきで足と尻尾を斬り飛ばせたようでほぼ戦闘不能。放置しても失血死するだろうがヤツラは首だけでもヘビのように動かして不意打ちしてきそうだし仕留められる時には仕留める。ギャアギャとうるさい口目掛けて雪礫を発射すれば、マッキーのスリングショットの礫も重なったようで頭部が爆散!ハッハー!見たか間抜けがぁ!

 それでも続々と林の奥から小型種が湧き出て来ている。小型の魔物がアリのように群れてる画像や動画は見た事あったが、遭遇頻度は稀にって話じゃなかったっけか!


「おおっしゃあ!良い感じ!だが奥から増援!多数!」

「右側のはほとんど効いて無い!マッキは左側!増援了解!」

「いいのかぁ!?トドメ貰っちゃうぜー!?」

「こっちゃリーチがあるんでね!」


 羨ましいなおい!という怒声を背中で聞きながら吹雪を纏って空中へ跳ね浮かぶ。

 目立つように、ヘイトを集めるように動けばやはり魔物の本能なのか私へと殺到してくる。そこを戦帯で薙ぎ払う!小型種はやはり脆い。鱗肌も柔いのか斬線を意識する必要すら無い。が、とにかく数が多い。このままでは囲まれるのも時間の問題だろう。


「チッ」


 攻撃範囲的に突くより薙ぎだ。コイツラは同族を足蹴にするのも気にせず直進してくる愚直な質《たち》のようだがまとめて貫くよりやはり薙ぎの方が効率的だと思う。

 それに森の中のように頭上を気にせず動けるだけはるかに状況は良くなった。

 攻勢主軸は戦帯での斬断。時々戦帯の腹を使ってぶっ飛ばしたりして、ひっくり返す。するとマッキーがスリングショットを使いうまい事仕留めてくれるのだ。ただスリングショットは番える時間が勿体無いのか次第に使われなくなり、今は撥ね飛ばすように移動しながらの徒手空拳を主軸に動いているようだ。


「無理せんでもろて!!距離取ってスリングショットでもええんやで!」

「なんで関西弁もどきやねん!つーか広場外縁だと森に近過ぎるんだわ!」

「了解!語録(ミーム)なんだよなあ!」

「囮役(タンク)してる割に余裕あんな!?」


 互いに軽口を叩き合いつつ生存確認。そうしながら小型を近寄って来る傍から次々と仕留めいく。

 もちろん腹を裂いただけでは死なない個体もいるが動きが確実に鈍っているので小型種という事もあって放置。

 優先順位だ。

 危険度が最も高いのは中型種の二匹。

 コイツラのヘイトは外せない。マッキーへ向かおうとすれば即座に戦帯を伸ばして小突いて注意を引く。せめてもう少し小型が減らなければ空を飛べないマッキーは集られてしまうだろう。場所が悪い。

 処理すべき最優先を最高効率で為す。

 ただその一念でもって泣き言は蹴り飛ばし、密集地を跳ね飛び回ってヘイトを稼ぐ。

 そこら中に吹雪かせ浮遊もしているが、時々地面に着地した時に素肌剥き出しの手足部分に小型種に噛みつかれる。それも装備と魂宣のおかげか子猫に甘咬みされた程度。痛みはあるが肌を突き破るほどでは無い。当然制服の上からの噛みつきや引っかきなど全く損傷すら負わない。


 攻撃を避ける事に集中してきたがどうやら相手が中型種で無ければ怪我負う事も無さそう。


 そうと分かれば耐久ゴリラのように噛み付かせたまま放置して攻撃に専念すればいいかもしれないが、それは目指すジョブの形では無い。

 何より美しくない。却下だ。アイススケーターのように勢いを殺さないまま回転飛びして噛み付いていたトカゲ共を撥ね飛ばす。被ダメがほぼ無しと分かれば余裕も出来る。魔力枯渇状態での道場経験と比べれば生ぬるいにも程があるのだ。



 群がって来るトカゲどもを空中から攻撃する事十数分は経っただろうか。これほど一方的に刈り続けているのだから、私達には勝てないと分かりそうなものだが、この魔物達は逃げる選択をしない。目を真っ赤にギラつかせて最後までこちらへ噛みつこうとしてくる死兵である。

 だがまぁ森からの増援はさすがに品切れらしく、数が減るに従って圧もまた弱くなって来た。


「そろそろオレが中型一匹受け持つぜ!」

「尻噛まれるようなヘマしないでよ!」

「言ってろ!オら!てめえはコッチだ!」


 そう言ってこちらを追い続けて来た中型一匹の目玉にスリングショットの一撃がクリーンヒット。

 怒り募らせてマッキーへ向かって行く中型種を見送り、空中を駆ける私を捕まえようと仲間を跳び箱のように踏みつけ飛び塞がって来る個体を叩き落とす。小型のトカゲどもは私のように空中で方向転換など出来ないのだからただの的である。金属片を目玉目掛けて投げ突き入れるだけで魔力を霧散させていく。

 そうしている中で小型を踏み潰してまでこちらへ噛みついて来た二匹目の中型種のトカゲの頭を飛び越え、回避中に溜めていた魔力を込めた戦帯を突き入れ頭蓋を抉り飛ばして討伐。うん、一匹なら何も問題無いね。コイツラ連携する頭があって互いに庇い合うもんだから今の今までまったく致命傷を与えられなかったのだ。着地点に群がる小型種は扇風機のように回転しつつの戦帯薙ぎ払いで一掃だ。残りは二十ほどか?終わりが見えて来たね。


 空中でちらりとマッキーの方を伺えば最後の一体となった中型種と相対していたので、横槍を入れられないように周りの小型種を牽制ついでに仕留め刈り取っていく。ついでに中型種トカゲに石ころを射出して嫌がらせ。こちらへ一瞬気を向けた間抜けな中型種トカゲの反対側からマッキー渾身の半月斬、跳び回し踵落としが鈍く響く音とともに一撃で頭蓋から首まで圧し折った模様。だが、まだ魔力は霧散していない。


「まだだよ!」

「っしゃあおらああ!!」


 クソトカゲの牙が並ぶ口が無様に開いて横倒しになっていく中で、さらにマッキーはI字バランスのようにもう片方の足を振り上げもう一度の踵落としで地面を陥没させる勢いで頭を蹴り砕き、反動を利用しての前転。

 そうしてやっとクソトカゲは黒い霧を霧散させた。

 魔物は仕留めたと思っても決して油断してはいけないという道場主の教えが生きているようで何よりだ。首だけで動き回った瀕死の魔物に片腕食われたりしたくないからね!


「トカゲ風情がイキってんじゃねえぞごらあああ!!」

「ヒューさっすがマッキーそうだそうだもっと言ってやれー」

「ってユッキー!!気が抜けるだろうが!まだ小型種が残ってんだからな!」


 マッキーの雄叫びを聞きつつ茶化す程度に余裕あり。茹だった頭もクールに冷めたようで言葉の通りに残りはもはや小型種のみ。中型種というリーダー的存在がいなくなったにも関わらず退く様子を見せず目を血走らせたまま噛みつこうと向かって来ている。だがまぁ、これはもう勝ち戦の掃討戦だ。殲滅あるのみ。


 ◇


 気付けば辺りはクソトカゲ共の死体で土が見えない箇所が数か所ある程度に死屍累々。

 死んだふりするトカゲの警戒や重症で動けないでいるだけのトカゲにトドメを刺して回っていたが、もう見当たらなくなり、マッキーは緊張を解いた声を上げた。


「うし、この辺りはこれで最後だよな?」

「かな」


 生温い風が、戦いの猛りを慰撫するかのように頬を撫でていった。


「ふぅ……」


 中型種の不意打ち貰った腕の傷から流れていた血は止まっているがじくじくと痛む。戦闘中でも応急処置的に自己治癒しようと最低限の魔力を意識して回していたが、ひとまずの安全を確保したと判断して、マッキーとアイコンタクトで頷き合う。私は自身の魔力に集中する為に瞑想。


「もう動いてるのいねえな。戦闘終了っと。ふぃ~……雑魚モンスと侮ってたな」


 マッキーの声を耳にしながら、魂と、そこから伸びる霊格神経を意識する。

 自身の魔力属性である【雪】。その魔力で腕の傷を柔らかな綿雪で埋めるようなイメージ。

 その魔力の感覚に集中していれば次第に腕に纏わりつくぽわぽわとした温かい気配。目を開けば、視覚的には真逆の冷たさを想起させるほどの雪が腕を覆ってるように淡く光り揺らめいているのが見て取れる。

 まぁ……見た目以外は問題無いのだ。

 事実しばらくすれば傷の痛みも少しずつ引いていった。自己治癒が進んでいるのが分かる。


「群れってリアルになると聞いてた話よりよっぽど焦っちまうぜ」

「配信者が榴弾ばら撒いたり高い金払って機関銃で掃討すんの勿体無いって思ってたけど……、小型種って言ってもバカに出来んねこの数は」

「それな。魔法で一掃してえわ。まっ初陣白星って事でユッキーお疲れい。腕どんな具合よ。結構血が流れたっぽいけど、回復薬使うか?」

「おうおつかれぃ。いやこの程度なら大丈夫。すまんけど引き続き警戒任せるねー」

「おう治療終わったらドロップ拾いだかんなー」


 という声を聞いて治療に集中。結果的に言えば治療は成功。前世界では縫合しなければならない程の怪我は10分も集中すれば斬痕は赤味が刺している程度まで塞がり潤いお肌に再生中。もうしばらくすれば綺麗に元通りになりそうだ。切られた直後でも出血が少なかったように思うし、これだけでも魔力の恩恵が計り知れないのが分かる。


 私達はすでに魔力を操る段階で回復手段を獲得している。

 私であれば自身に対してのみ再生や治療にも使える。マッキーや他人に対しては回復しようと魔力を凝らせても霜焼けさせるだけだったので、おそらく回復可能なのは私と同じ雪属性持ちか水属性持ちにワンチャン程度。つまり私は他者を癒すヒーラーには不適格。ジョブが【神官《クレリック》】や【僧侶】、【治癒士《ヒーラー》】などになれば悲惨な事になるだろう。まぁ回復させられるように魔力属性が変質するのかもしれないが。神の御業に不可能は無いと聞くし。

 ちなみに両親は現役探索者だが、詳細鑑定や刀京魔導学園のような特殊な魔導端末契約をする探索者養成校出身では無い為に本人達も自身の魔力属性を知らないので謎。ただ家族の誰ひとりとして治療する事が出来なかった為に回復系は諦めてる。


 マッキーであれば生命力が活性化するイメージとやらで他者相手にも回復可能で、私の切り傷なども治せたので彼女はヒーラーの素養有り。現世的に言えば回復適性というヤツを持っているのだろう。教科書知識上では回復適性があるジョブになって初めて可能になるのだが、もちろん原作知識から魔力操作だけで可能な筈だと判断して努力した結果身に付けられた技術だ。当然ながら教育番組や配信、授業などでこのような、魔力操作だけで回復魔法や回復スキルのような事が出来るなんて話は一切無いし教えて貰えない。


 魔力は便利が過ぎる力であるが、現世では属性ごとに向き不向き、相性がある。原作ゲームでは無かった複雑過ぎる仕様だ。

 これは現実ではそういうものなのだと納得するしか無い。


 そうは言っても魔力を高めていけばどうなれるか今から楽しみだ。が、別の見方をすれば今の段階ではこの程度の治療に十分近く集中しなければならないという事で、とても戦闘中には使え無いという点は残念。

 これでも道場で受けた手当の延長という形で、かなりの練習量を費やしたものなのだが……。


 戦(いくさ)封じさえ無ければ道場での可愛がりの際に常時練習出来たのだろうが、まぁ骨折とか日常茶飯事だったし治療は最低限だったので帰宅してから寝込みつつ肋骨や四肢の打撲骨折跡を回復させるのは良い経験となったのは間違い無い。骨折られても笑いながら相手を睨めつける幼女と一時期話題になったようだが撮影者へお礼に金的してやったのは良い思い出だ。


 探索者養成校の受験資格に『1年間の道場経験』があるので逃げるなんて許されないし、責めが苛烈だと評判の道場も親が子の探索者志望を圧し折りたい場合に通わせたりするようで潰れるどころか盛況だったりする。ふぁっきん道徳。

 探校受験も推薦枠なら道場経験無くて良いらしいが9割男子で、女子を推薦するのは滅多に無いらしい。男尊女卑にも中指突き立てたい所だが反社会的勢力に狙われやすいのは女子だから仕方無い面もあるのだろう。対魔物なら性別関係無しで平等に食い殺されるので済むのだがなぁ。


 閑話休題《それはともかく》。マッキーの方が当然ながら治療は向いているので私より優れた回復性能を持っている。具体的には三分程度で今回負った傷なら癒せたと思う。得られるジョブ次第だが、仮に回復魔法が使えるようになればきっと戦闘中でも活躍してくれると期待している。


「あ」

「あ、ジョブ条件!【聖拳士(モンク)】【聖騎士(パラディン)】はともかく【治療弾使い(ヒーリンシューター)】!すまんユッキー、回復ちょい待ったぁあ!」

「ええ……もう大分治った後だよ。ほれ」


 そういえばジョブに至る条件のひとつに他者への治療行使というものがあったなと思い当たった。ダンジョン外であれば私相手に何度もしているがダンジョン内で、というならば新たに条件を満たす必要がある。自傷行為やわざと血を流したりして変なジョブになる可能性は高めたくないからね。


「おお、さすが。なかなか綺麗に治ってんじゃん。まー傷跡はまだあるし後任せてくれね?」

「あいあい、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

「おま……まぁいいけど。そういうの男に言うんじゃねぇぞ」


 そんなの別にどうでもいいでしょと呆れた顔を向ければ、やれやれと呆れるような声音で乙女の慎みについて諭された。解せぬ。乳をもいでから出直せ牛娘。


 何にしろ治療薬もどんな塩梅か試す予定だったので雑魚相手に負った怪我は無いようなものだが、確認してみればふくらはぎに噛み跡や掠り傷が少し残っていて実験に使う分は無問題(モーマンタイ)だ。

 マッキーの【狙】属性とかいう分かるようでよく分からない魔力を受け入れて左足を治して貰い、右足は支給された回復薬、ちょい粘性のある透明な液体を塗られると元通りに完全無欠なツルツルお肌へと戻った。マッキーには傷も無し。というか警戒しつつの自己治癒で事足りたようだ。

 こんな感じで戦闘後状況は完了。次戦闘に支障はまったく無し、という所まで互いに確認。


 そして反省会をしつつ歩きながら魔物の死体を見分。霧散した際に確率で落とす魔石などを操作練習がてら戦帯を使って拾い、爪や牙を適当に切り落として拾い集める。念動で離れた物品を浮かせられればより楽なんだけど、今はまだそんな遠くまで手を伸ばすような器用な使い方は出来ないでいる。

 吹っ飛ばすか、より遠くへぶっ飛ぶかだ。引き寄せるのは苦手。自分の身体を浮遊させられているのは相応の体重があるから。魔石のような小さな小石なんて手元ならまだしも距離がある位置から掴むように動かす魔力制御なんて無理。どこに飛んでいくか分かったものじゃない。戦帯を伸ばすのが精々だがそれでもマッキーは「それ便利だなぁ」としみじみと肯いていた。隣の芝生は青く見えるもんだ。


 討伐した魔物の部位を剥ぎ取る作業は面倒だ。時間制限も有る。ダンジョンの地面に接したまま放置される死体は時間が経てばダンジョンが飲み込むように吸収してしまうからだ。道場稽古の一環で魔物の死体を解体した経験も何度かあるが、このダンジョン内ではまともに時間を掛けていられないので大雑把に切り分け鞄に入れていた防水防臭の袋に放り込んでいく。

 いわゆる素材アイテムである爪やら牙やら目玉やら鱗やらは、装備の強化や作成に必要な素材とするのが主な用途。

 時々ドロップアイテム(討伐完了時に経験値の元と思われる黒い霧が集まって出来る結晶)には魔石の他に色々と期待出来る品が多いが、魔石でさえ確率的に半々以下の出現率なので狙って稼ぐには運要素が大きい。


 剥ぎ取り素材アイテムももちろん換金出来るが、受付の電光掲示板に表示されていた浅層の最序盤モンスターの素材など集める気にならない金額。魔石十個単位集めてジュース一本分になるかどうか、鱗皮など買取不可で爪や牙も端金といった買取価格。

 もちろん合計金額であればそこそこになるだろうけど、手間暇掛けて解体する労力に見合う報酬は期待出来ない。なので適当に袋が満杯になればあとは放置だ。


 そこで破れほつれた制服の袖が目に入った。


 切り裂かれた制服を直すような、布製の生産系魔法・魔力の使い方も私達には適性が無くて無理。

 戦帯を動かそうとすれば魔力はこちらに手応えというかレスポンスを返してくれるのだが、生産職紛いな頼み事は完全スルーのようで全く適正無いのが分かる。長年の鍛錬で魔力操作が出来るようになったとはいえ万能とは程遠いのが現状だ。


 生産活動的な魔力の使い方をしようと四苦八苦した思い出が頭をよぎる。店にあった不要在庫品を調合して戦帯の先端に爪を付けたいなーとか考えて魔力をこねくり回したが完全スルーされたほろ苦い記憶だ。妹ちゃんに「お姉《ねえ》頭だいじょうぶ?」と心配された時の顔がいまだに忘れられない。うぅ。

 【雪】の魔力で接着しようとイメージしても上手くいかないと直感で分かるし、実際に試しても毛ほどの実感すら得られないのだ。いや生産職に適正無くても不便というだけでね。ゲームでも耐久度減った装備具類は生産職の所へ持ち込んで修理すれば良かったし。不便というだけで問題は無い。問題は無いのだが……初日から制服の袖を針を持って繕う事になりそうだ……。裁縫は苦手なのに……。まぁこちらの制服を探索専用にして予備の方は通学下校の際に着るとかにするかぁ。


 魔物がいなくなった為にじっくりと観察すれば森というほど鬱蒼とはしていない感じの林の中へと入り、マッキーの剣と魔石を探してウロウロしていたら奥の方からまたブィィイという重低音の羽音。マッキーが鞄から石ころ取り出し口を開く。

 マッキーのスリングショットによってヤンノ蚊は爆散。よく見れば吹き飛んでいる最中にも四肢や羽から黒霧が放出されてこちらに吸い込まれるように流れて来ている。中型種と比べればレベル2になる為だけでも何百何千匹と殺さなければならなそうなほど経験値少なそうである。ちなみにあんだけ倒したが私達はいまだレベル1である。ふぁっきゅ。


「ヤンノ蚊も森ん中だとかなりうざかったな。単純に視界に入って注意が向くし音もデカいし邪魔過ぎる。半ばこいつらのせいだろ奇襲受けたのって。釣りのが良さげか?」


 釣りというのは自分達が構築した狩り場までモンスターを引き連れて来る戦術の事。原作ゲームではPT狩りの基本ともいえるが主に中層以降の定石だ。原作ゲームでは浅層の小型魔物は大体が一撃で沈むのでサーチアンドデストロイで十分だった。中型種、大型種相手となると耐久力が桁違いになるので一撃必殺などレベル差が無ければ無理だが。


「んー、中型種の数次第じゃその方がいいかも。雑魚はともかく中型種に囲まれたら危険だったかもだし」

「ちと浮かれすぎてたわ、浅層でも命掛かってるってのに。すまん」

「あいあい、それをいうなら私もだし。事前にもっと注意を払っていればーとかだし、まっ次に活かしてこ」

「あー、無制限とは言わんが雑魚でもあんなに集まって来るとか想定外っつうか、数にびびりすぎたな。木も簡単にぶっ飛ばせるんだから森ん中であき空間作っても良かったか」

「ん、あの時の後退判断は間違って無かったと思うよ。森の中じゃ中型種が木の上に後どのくらいいるのかなんて確認しようが無かったし、囲まれる前に移動は最適解でしょ。あそこから中型種がわんさか降って来たらさすがに今笑えてないかもだしさ」

「うーむ、もっと判断早くせんとダメだな。ゲームじゃ多くても一度の戦闘で六匹超える事無かったからなぁ。配信だと小型種は銃機とか魔法で掃討しちまうしその理由を軽視してたわ。……この辺で拾った魔石だけで何個だよこれ合わせたら五十近く無いか?斥候役探したいがジョブも無い段階じゃオレらと変わらんだろうし、情報収集魔導具のアドバンテージ活かしたいが……」

「情報収集魔導具って探索者装備販売店(ウチ)にあったやつ?」

「そうそう。適性ある子がいればだが」


 私たち二人共、索敵適性無いようで起動すらあやしかった情報収集魔導具。確かに装備出来て使える子がいれば格段に安全性は向上しそうだが……。


「いればねー。仮に適性あったとしてもジョブ無し段階だと確かめる為の魔力量すらあやしい気がする」

「いや先輩に心当たりがあるんだよ。ただもう班(PT)組んでるだろうしな……」

「班(PT)内でレベル差あると経験値得にくいみたいなのこの現世でもあるっけ?」

「いやオレは聞いた事ねーが、そっかそっちの可能性もあんのか。なら一旦取り止めとして情報収集からだな。……実際にダンジョン入っても索敵の問題はやっぱりどうにもできねー。あー、移動時にオレの魔力がだだ余りしてっから何かに活用出来ればいいんだがなー」

「ん、魔力は装備に回した方が安全かも。小型のイノシシトカゲに噛みつかれても全然手傷負わなかったのって防御アップとかのアビ付きっぽいアクセじゃらじゃら装備してるおかげだと思うし」

「それは確かに。いやむしろ防御面を過剰にし過ぎたのか?中型種にゃダメージ貰ったけど索敵をどうにか……うーむ、オレも剣飛ばされなきゃもうちょいやりようあったよな……」


 なぜアビ付きっぽいという表現をしたかというと簡易鑑定では魔力属性などと同じく詳細な内容が全く分からないからだ。一度装備してみてサンドバッグとかを殴ってみて感覚が違えば何か変わったアビリティが付いているかもと見当をつけてきたに過ぎない。学園支給の端末でも特別扱いされる事無く分からなかったので、これに関しては今朝のサイトに期待したい所。

 背負った鞄からタオルで包んだドスのような刃渡り短い短刀を引き抜く。この短刀自体は実験棟のゴミ集積地で拾って来たものだ。


「これ使う?力入れたら折れそうだけど……」


 おそらく防衛隊シリーズの短刀だと思われるナイフだが、ゴミ集積地に捨てられてただけあってボロボロでひびが入っており、今にも折れそうな程刃こぼれしていた。勧めておいて何だがコレは無いな。でも刃物が見当たらなかったんだから仕方無い、うん。牛筆教員に短剣なり短刀なり強請……おねだりすれば良かったかも。


「さすがに折れそうなのは遠慮しとくわ。それユッキの【念動】用に使い捨てるとか言ってなかったか?」

「先制の狙撃用にね。でもまさかこっちが不意打ちされると思わなかったというか質も悪いし鞄の中に入れて忘れてたというか。ねえ、中型出るのって二層以降じゃなかったっけ?なんで一層で出て来るのさ……あ、剣あったよ!!」

「おお!!ナイス!!あー良かったぁ~~~……」


 話ながらも探していた剣、中型トカゲ戦でほぼ役に立たなかった直剣を拾ってマッキへ渡せば頬擦りしだした。普通に危ないからその仕草はやめい。


 魔物の大きさは大雑把に人より体高が小さければ小型。同程度から二周りほどの体高であれば中型。二階建て建物以上の大きさになれば大型、それ以上で特大型、巨大と表現が上がっていき、現世では巨大な魔物は災害級、討伐不可能個体とされ軍の出動をもって撃退(撤退)が精々と言われている。


 牙閃(ゲーム)での学園ダンジョンは層が進むごとに小型種から中型種、大型種と移ろいそしてまた小型種に、というループが繰り返されているお行儀の良い構造で、学生による動画配信でも確認済み。出て来る魔物に関しても問題無し。だったのに1階層から小型多数に中型三体と戦闘など想定外である。

 私達のような魔力の下積み無しの防御アクセ無しな新1年生の集団だと死者が出てもおかしく無い規模に思える。


「知らねーと言いたかったがアレじゃね。ほら更衣室でユッキも言ってたじゃん。呪いの装備品着けさせられて先輩に助けられるイベント。アレってボスが中型種だった気が」

「えええ……別に私ら貴族生徒と揉めてないのに」

「いやそうじゃねえって。そういう話に出るくらい1階層にゃ2階層の中型が混じって来るんじゃないかって話な。2階層からは普通に複数階層の魔物が混じってんだし、1階層だけ例外ってわけじゃないんじゃね」

「ああ、なるほど。魔物の出現種類はゲームみたいに階層固定されてるわけじゃないって話ね」

「おう。つーかダンジョンに来たテンションで忘れてたがゲーム基準のカオスモードじゃなくて良かったよな。1層に30層の魔物とかうろついてたら即死だったぞ俺等」

「ああー……忘れてたね。まぁ職員室とか普通だったしカオスモードになってないって事でいいんじゃない?」

「そうだな。ま、話ちょい戻すが、下手に短剣とか使って盗賊《シーフ》とかのジョブになったら嫌だし、とりあえずスリングショットメインでサブ素手でいくわ。剣はなー、分かってたが向いてないわ、魔物討伐時なら手応えも変わるかと思って使ってたがしっくりこなかったし」


 直剣は返品かなこれは。ゲームなら売却一択だけど流石に現実じゃあり得ない。牛筆教員の武器って分かり易い手打ちの品だし出所がモロバレするのだ。無料で渡されたものを転売なんてした日にゃ探索者の横のつながりから総スカン受けてしまう。


「らじゃり。目指すジョブ定まった感じ?」

「ああ、【銃使い《ガンナー》】系統目指す。道場でしごかれた経験無駄にゃしたく無かったが、魔力属性に合わせる方が遥かに重要だろ。それに実銃は撃ってて楽しいしな!スリングショットじゃ弓っぽさがあって微妙だが【銃使い《ガンナー》】の事を思えばまぁ……ユッキーん家に魔導銃の在庫あるんだよな?普通の機械銃ならコストが洒落にならんし魔力も育たねえから流石に止めるぞ?」

「無駄にゃならんっしょ近接技能は。それと魔導銃は取り置きしてあるよ。中学ん時から用意し始めて良かったわ。ツテがある人が来店しても頭に無かったらスルーしてたかもだし。ああ、その人が言ってたんだけどここ数年魔導銃の相場がえらい事になってるらしいよ」

「そうなのか?」

「ん、まぁあんま詳しくは聞いて無いけど……なんか貴族が動いてる感じらしい」

「マジかぁ……。あ、もうそろそろ広場の魔物は血の臭いもダンジョンに吸収されて消えてる頃だろ。戻って昼飯にしようぜ」

「りょーかい。昼飯、購買で見た時から実は楽しみだった」

「分かる。ゲームで美味そうに食ってたの見て唾飲み込んだそのまんまだもんな」


 失敗は成功の元。

 苦いものであるが取り返しがつく今反省出来て良かったと結論して、お昼ご飯に期待を寄せる今日この頃。



■■■ ■■■ ■■■


〇刀京魔導学園敷地内の霧界

 徒人が付けた正式呼称は【東エジアTN0014ダンジョン】。

 近辺での通称は学園ダンジョン。14という数を不吉と見なす徒人もいるが、その難癖に反してこのダンジョンの構造は何者かが整えたように整然としており、ヒトにとってとても都合の良い構造をしている。

 出現魔物の大多数は獣や爬虫類を祖とする姿だと誰もが口を揃える。また浅層の中型種までは遠距離攻撃手段を持っていない事も安堵と共に外部探索者は胸をなでおろすようで、採取物も有用な物品が多く、総じて与しやすい良ダンジョンという評価がなされている。

1層:小型の魔物がメイン

2層:小型メイン、中型が少数入る

3層:環境層で小型中型入り混じり

4層:環境層で中型メイン、大型が少数

5層:大型の魔物がメイン、次階層の小型種が混じる

6層:小型の魔物がメイン、前階層の大型種が混じる

 という五層構成のループが基本的に繰り返されており、階層が進む毎に強さも比例するという予想が付きやすい性質を持ち得ている。このような明らかな段階的特徴を持つダンジョンは少なく、発見されればその国において人材育成に利用されるのだろう。


〇イノシシトカゲ

 ヒトが小型種と分類分けする魔物の一種。

 ヒトがイノシシトカゲと呼ぶ小型種の魔物について特筆すべき事は無い。

 ひとつ絞り出すとすれば、彼等に知能と呼べるモノは存在しない。通常空間に住まう獣の方がよほど上等な部類だろうという程度。

 精霊による悪戯を受ければ魂が破裂するほど脆いのが、学園ダンジョン浅層の小型種だ。

 ヒトや外敵に対する攻撃性は高いが、そこに意思と呼べるものすら芽生えない哀れに過ぎる存在だ。あらゆるリソースの搾りかすを再利用して造られた肉人形の如き魔物に慈悲を掛けるモノは神々にすらいない。仮にヒトが操ろうとすればこれほど適した魔物もいないだろう。【魔物使い(モンスターテイマー)】にとって最も与しやすい魔物のひとつと言える。


〇トカゲ男(リザードマン)

 ヒトが中型種と分類分けする魔物の一種。

 学園ダンジョンでは2層以降にもたびたび見掛けるが、階層が深くなるほど魔力や知能や生態武装へのリソース配分量が高くなっていくようだ。

 イノシシトカゲが存在進化したわけでは無い。トカゲ男(リザードマン)はトカゲ男(リザードマン)として創造されている。イノシシトカゲの統率が叶うのは、そうあれかしと創造されたが故に。

 この辺りの魔物から精霊が悪戯をする範囲に入る。それゆえに、油断をしていると思いも寄らぬ攻撃を受ける事もあるだろう。

 学園ダンジョンの浅層を主に遊び場にしている精霊の最近のトレンド習得結晶(スクロール)は【葉隠れ】【連携】【熱狂伝播】【瀕死時再生】他テキトーに、との事だ。気まぐれで移り気な精霊がいつまでこれらに熱中するかは知れないが、遊び相手のヒトを見つけた時、彼等は神々が試練を課すようにヒトへ魔物を嗾(けしか)けよう。その際には注意する事だ。彼等に気に入られるという事はすなわち、彼等が楽しむ為の闘争の場が用意されるという事に他ならない。善き闘争の勝者には褒美を、敗者には手向けを送り、魂の記録に一筆認(したた)めるそうだ。



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