7話 ハロー、ダンジョン
◇ ◆ ◇
ダンジョン。それはこの天州国どころか世界中の様々な場所に太古の昔から存在する異界の総称で、霧界とも呼ばれる内部の空間は極めて広大に続き、古くは迷宮や魔物の坩堝、地獄や煉獄などという呼称もあった。
ダンジョンの入口それ自体は外見的特徴から霧球域ゲートと呼ばれ、通常空間とダンジョン内との境いは霧球域エリアまたは境界エリアなどと呼ばれて区切られている。霧球域ゲートの大きさは最大で直径約1キロほど、最小だと直径3mほどという灰煙・霧の球体状であり、ダンジョン内部へは球表面上のどこからでも入る事が出来る。
ただし外から中へも、中から外へも、感知機構の全てが全くその機能を果たせない。電波などは届くというのにオカルトが過ぎる仕様だ。霧球域ゲートが存在する高度の下限は海中や地下奥深く、上限は成層圏ほどまであらゆる場に存在している超常現象であり、中には移動する霧球域ゲートすら在る。
それらダンジョンは現在では3種に大別されて監視・管理・運営または放置されている。
もっとも有名で一般的なダンジョンは、その場に在り続け消えも消せもしない古から畏怖を集める固定型ダンジョン。
次に脅威性で突出している移動型ダンジョン。そして現れても時間経過で消滅したり、人為的に霧散させる事が可能な新生ダンジョンの三種で、新生ダンジョンは野良ダンジョンとも俗称される。
刀京魔導学園にある霧球域ゲートの直径は遥か昔から中規模のまま大きさは変わっていない固定型のダンジョンだ。具体的には直径140mほどの楕円球体で上半球が地面から露出しており、霧球域ゲートを囲むように建てられている分厚い円周壁の中に国際探索者協会の支部と、刀京府を直轄管理する壱海公爵家の霧界監視部隊派出所が存在している。
さらにその円形状の建物を跨ぐように建設された巨大な鳥居姿は遠くからでも確認可能で、この巨大な三柱鳥居が霧球域ゲートから魔物が溢れ出す脅威を抑制するという超常的な機構を備えているらしい。
霧球域ゲートをも超えて鎮座する巨大な三柱鳥居は天州国独自の霧球域管理技術の結晶だ。遠くからでも此処にダンジョンがあると一目で分かるような巨大オブジェ。前世基準で考えれば高さは東京都庁に迫るほど。
そんな巨大オブジェの足部分を横目に国際探索者協会の建物に入って、エントランス奥の受付でマッキーがPTリーダーとしてDA申請許可確認などのやり取りをしている。面倒事は全ては班長にお任せの班員である私は物珍し気に近くを散策。
大人の一般探索者もまばらにいるが絡まれる事も無く、ゲームや映画で見た事があったような設備に頭をひねる。ただの背景としてはゴツく場所を取っており、一般設備とは一線を画す装置群ではあるのだが、具体的に何の役割を担っている設備なのか謎過ぎる。ただのインテリアな筈も無いし……うむ、よく分からん装置っぽいオブジェがそこかしこにあるが多分魔導具とか魔導機なんだろう。ほぉほぉと言いながらぺちぺちと叩けば良い感触。これは値打ち物ですわ。きっと。我が家にも飾りたいね。
そんな風に知的好奇心を満たしつつエントランス中央付近に寄れば、大きなモニターで色々な情報番組みたいなものが流されていたのでなんとなく近付いて見る事にした。
国際探索者協会の下部組織にダンジョン管理組合がありその支部のひとつがここ『刀京魔導学園ダンジョン組合支部』。
浅層の換金素材レートや学園出身のOBOG探索者の紹介などがモニターから流れていたがそれも終わり、次はここのダンジョンの紹介が流れ出した。
学園に踏み入れた朝の時点からテンションが上がっていたが、これからダンジョン、もうすぐダンジョンだという思いが沸々と沸いてきて心臓の高鳴りがうるさい。そんな中でこの紹介映像の音声は丁度良い感じの無機質さでクールダウン出来そうだ。内容も社会科の復習という感じで知ってる内容は聞き流しつつ、瞑想して深呼吸。
『――る事もあり、何千年も昔から変わらず存在するダンジョンもあればわずか数日で消え去るダンジョンもあります。それらを古来より管理管轄してきた組織は時代と共に名を変え規模を変えていき、天州国の現在では古くから民を支えて来た貴族様がたと共に国際探索者互助協会、通称ギルドがその役割を担っています。――(中略)――ギルドは国家間の軋轢に左右されない組織体系を維持しつつ、国際探索協定が結ばれた国家間で人材派遣といった協力を行い、世界平和の実現に貢献して――(中略)――また休眠期と呼ばれる状態になるとダンジョン内に魔物が出現する事が無くなります。そういった休眠期のダンジョンはまさに資源の宝庫でありギルド所属の非戦闘職である【採掘士】や【採取士】といったジョブ持ちが世界中から集められ、効率的に富を噴出させ集約後に分配されます。その休眠期はダンジョンの主を討伐する事によって人為的に移行させる事が可能であり、それをもってダンジョンクリアと呼ばれ――』
……長い
『――ギルドの主な業務には|人為的に休眠期移行現象を起こす事も盛り込まれる事から、戦力面で頼りになる探索の担い手の育成および勧誘をしています。また所属ギルド員には様々なサポートを約束しており例えば――(中略)――刀京魔導学園のダンジョンは未だかつてダンジョンクリアがなされた事こそありませんが、浅層の難易度が低い事から学び舎として利用されてきた歴史があります。そして現代では民間にも開放されている比較的安全なダンジョンとして名高く、先達たちの努力が礎となって今日に至るまで支えて来ました。もちろん魔物の討伐に危険は付き物ですが、ギルド未管轄ダンジョンでは魔物はもちろんの事、無法者が狩り場を独占していたり犯罪組織が隠れ家にしているケースも多く、危険度に雲泥の差があり――』
……長くない?
『――京魔導学園のダンジョンは学園教員が実際に回り巡り安全を都度確認し、さらにギルドと提携する専門業者をダンジョン内保安要員に雇用して安全を確保しています。またDA申請内容(いつからいつまで何人でどの階層をどういった経路で、など)を超過するパーティは捜索されたりといった救助活動・安全策が実施されている事はギルドと学園が貴族官民問わず広く支持される大きな理由のひとつでしょう。そして――』
まだか!マッキー!!いつまで書類と睨めっこしてんのさ!
全て放り投げた事は置いといて、コココココンと足先でセラミック素材のような床材を叩き続ける。
『――全世界で確認されているダンジョンだけで万を超える数があります。その中で現在休眠期に入っていてギルド管理下にあるものは中明国とアメリゴ連邦国にある2つだけ。それも休眠期は大体1年程度なので残り期間は――』
20年ほどズレているだけであれば原作ゲーム通りに夏休み中にアメリゴのダンジョンが魔物が出現する活動期に戻り、秋に中明国のものもまた活動期に戻るのかもしれない。ギルドは協定を結んだ国家で順繰りにダンジョンクリアをもたらしていると主張しているけど、明らかにこの二大国の頻度が高い。まぁ有名探索者が協力してくれなければ実際ダンジョンクリアなんて出来ないのだろうし仕方無い面もあるのだろうが……。そんな事が許される程度にギルドはとても大きな権力財力武力を持ち得ているのは原作知識とそう変わらない。
この放送ではあえて省いているのか、活動期の中でもさらに怖いのが最活発期と呼ばれる期間に入ったダンジョンだ。最活発期のダンジョンは魔物災害に繋がる氾濫、霧球域ゲートから魔物が這い出し周辺に暴虐の限りを尽くす災害を引き起こす。その魔物達は退治されないまま数ヶ月もすれば多くが元のダンジョンへ戻るらしいが、数ヶ月という期間があれば小国などであれば消えて無くなるといった歴史もあったようだ。
魔物も全てが全てダンジョンに戻るわけでも無い。現実空間に生息し縄張りとするようになればそこは魔物領域や魔境などと呼ばれるようになる。ダンジョン内の魔物は外に出れば理性を得るなんていう単純な話でも無いようだがひたすらヒトをつけ狙い続けるような事は無くなる。といっても近寄れば襲ってくるのは変わり無し。この辺りは現在でも色々胡散臭い話が国を超えて飛び交っているそうなので真相は謎だ。平民が聞く海外の情報なんて国や貴族直属のエリートくらいしか知り得ないのだ。守秘義務契約も結ばされてるだろうしネタ話でネットが盛り上がるのはどこの世界でも共通なのだろう。
ふむ、そうだ、マッキーが頑張って書類と格闘してるのだから私は私で学内掲示板とやらを見てみようか。魔導端末でないとアクセスが出来ないっていうのだから今日までお預けをずっと食らっていたのであるからして――
――そんなこんなでそろそろ半刻ほどにもなろうかという待機時間が過ぎた。
掲示板は掲示板だった。平民生徒は匿名では無い所に貴族生徒との格差をほとほと感じたがまぁ、そこそこ情報も漁れた感じ。根も葉もない事は実名故に書き込まれないだろうし。そもそも探索者って正直者が多い反面、脳筋な所があるしね。
そんな時間を過ごしていたら、なにか騒がしい声が聞こえたので、ちらりとギルドエントランスの方へ目を遣る。そこには牛筆教員よりもさらにガタイが良い2mを軽く超えてそうな筋骨隆々ツルッパゲマッチョマンが双子と思われる容姿端麗な銀髪ロリっ子達を両肩に乗せてガハハと笑いながらずんずんと謎インテリアばかりの休憩待合所の方へと進んで行く所だった。
同じ濃灰色制服ではあるので貴族関係者では無い平民生徒。リボン・ネクタイの色から学園の3年生。なのだが背丈的にバカでかい男子も超小さい女児も学生服を着ていなければ同年代とはとても思えない。何だアレものすごい凸凹トリオ。
「同年代ぽいし両肩に花なのに、あれじゃ保父さんだね」
「雪小路さーん、受付までお越しくださーい」
お!ついに終わった!?
イライラも既に鎮静していたがやはり呼ばれたらそんな事は頭の中から吹き飛び、ウキウキとスキップを刻みつつ受付へ移動。何かチラリと凸凹トリオがこちらに目線を遣って来たが知り合いでも無いし無視。あの三人組、特にあのマッチョは牛筆教員よりはるかに手強そうであるが、まさかこんな場所で襲い掛かっては来ないだろう。
マッキーの隣へと近寄ってみれば端末をお出し下さいと言われたので【端末呼び出し《ターミナルコール》】。職員さんの持つ端末に近付けさせれば、職員さんが自身の端末を何か操作して直ぐ様反応が返って来た。
「はい、これで初回のみ必要な手続きは全て完了です。お疲れ様でした。新規の登録班【正雪境界】の2名。班長の牧野正さんと班員の雪小路御良さんの東エジアTN0014ダンジョン探索資格および探索申請許可を1052時にて確認しました。こちらのダンジョンは初挑戦ですね。ダンジョン経験はお有りのようですがお気をつけ下さい。ご存知だと思いますがこちら緊急用狼煙が班《PT》に1個ギルドから貸与されます。それと新一年生の方々には回復薬が一人につき一個刀京魔導学園から支給されています。使用未使用を問わず帰還の際には受付の返却ボックスまたは併設されている魔物処理場の係員までご返却ください」
何か疑問などございますかという職員さんの言葉に首を横に振って、回復薬1個を受け取る。父が言ってたように過去にダンジョンに入った事は調べるまでも無く見る事が出来るようでげんなり。プライバシー保護なんてものは期待出来ない。やっぱ簡単に確認出来るもんなんだね。
立ち位置をマッキーと交代して牛筆教員が言っていた緊急用狼煙と回復薬1個をマッキーが受け取るのを横目に疑問に首を傾げた。
「正雪境界?」
「名前から一文字ずつで分かりやすい班名だろ。ゲーム部格ゲー同盟にしようか悩んだがいつでも変更可能だし、仮名って事で。知り合いなら割とピンと来るだろ。ユッキーの雪のイメージ強ぇし、ホライゾンは境界だろ?これなら絶対オレ達の事頭過る筈」
「ああ、そういや班組むとは決めてたけど名前とか全然考えて無かったね。確かに連想するかもだし、良いと思うよ」
ホライゾンの意味って地平線とかだった気がすんだけどまぁ前世で習った英語とかもうほとんど忘れたし確認しようが無い。だがこれ班員増えるたびに班名称一字ずつ増やすつもりなんだろうか。別にいいが面倒じゃないか?まぁ班長が変更届出す事になるんだから想定済みだろうきっと。多分。
そんな胸中を露知らずといった感じで、むふーっと鼻息ついたマッキーが胸を張る。
「だろ!我ながらネーミングセンスイケてるわー!有名になりゃ別の探校に通っててもオレらに連絡来るかもな。探索者の就活とか基本班単位だし、ユッキが見てた【勇猛童女】とか配信でも有名だしな。学生の配信じゃダントツで実力あるぜあそこ、特にミノスって男子生徒。枢、先輩じゃなくて今年の刀京魔導学園のパンフレットにも載ってたくらいだし」
枢という人物は強いことで有名な原作の先輩キャラ。原作通りなら今年の学園パンフレットを飾っていた筈が見知らぬ彼等彼女等が載っていた事も合わせて、原作軸の世界線だという疑いを持てなかった要因だろう。
ちなみに前世からの知り合いとは連絡取り合う方針である。前世持ちは自分以外では、マッキーとオブネくんの二名のみとしかまだ会った事無いが、この学園ならもっと見つかると考えている。
マッキーの言い終わりとほぼ同時に突然テンションが上がった受付さんの声。
「ええよくご存じで!七五三掛枢さんもとても有望なのですが彼女はソロですからね。そちらよりも彼らこそ新進気鋭のD等級探索者PT【勇猛童女】のメンバーですよ!あそこにいらっしゃる双子ちゃん達とミノス君の他にあと二名で構成されているあちらのPTは本当に将来有望ですよ!何と言っても一年の時点ですでに学園の卒業条件を満たして飛び級してますし浅層域のフィールドボス討伐までされてます!三年生となった現在は就活中だそうで――登世田財閥や密菱商事といった名だたる民間企業から二之華伯爵家といった貴族の御方々まで、もちろんギルドも彼等に声を掛けていると噂になってる有望株で――。――なので彼等を目標に牧野さん達【正雪境界】も是非頑張ってください!【装備】は問題無いですか?更衣室はあちらの階段から上がった先が学園生専用区画となっていますよ。E組の1年生は五階ですので少し登らないとダメですが。【装備】出来ないなんて事になればすぐに引き返して下さいね。魔力枯渇状態だと【装備】品が気が付かない間に外れていたりしますからね。本日は夕方までの探索日程ですね、お気をつけて、DAはそちらのゲートからダンジョン防壁エリアの先、霧球域ゲートより霧の中へお進みください」
怒涛の【勇猛童女】推しにマッキーさえ気圧されて口を挟もうにも遮るのも言い出せず数分ほどであったが濃密な情報濁流に顔が引きつった。今日は二年三年は休みで新一年の入学式直後のせいか人もどこか閑散としていたのでやたら声が受付ホールを超えてエントランスにまで響いていた気がする。そういうのを全く気にせずスッキリした表情で満面の笑みを浮かべる探索者組合の受付嬢。やはり推しPTとかそういうのがいるから受付嬢とかいう職についたのだろう。
が、出来るだけこの受付嬢とは関わらないようにしよう。うん。気をつけてって何度言ったよ、どんだけ心配されてんだ私達。ようやっと開放された私達は更衣室への階段途中で顔を見合わせてやれやれと肩をすくめ合った。
一応今後の為にも施設見て回ろうとまず更衣室に寄って戦封じを取り外した所で思い当たる。
「私らダンジョン経験済みなのに、簡易鑑定結果の魔力が枯渇状態になってて焦ったんじゃないかな、あの受付の人」
「ああ……なるほど。やけに引き止められると思ったら時間経過で魔力回復するか確認してたのか。いや言ってくれりゃいいのに」
「端末で見れる学園内掲示板にちらっと書き込んであったんだけど、白服生徒から罰として汎用の戦封じみたいな呪い装備着けさせられてダンジョンに放り込まれるおしおきがあるっぽいよ」
「……なんかそれさーどっかで見た気が。牙閃でも無かったかそんな感じの横暴貴族エピソード」
「あったあった。自力クリアか魔物に負けたら先輩に助けられるルートに分岐するヤツ。今頃もしかしたら受付にいたPT《勇猛童女》に安否確認お願いしてたりするかもね」
目を合わせて、どうする?と確認し合う。
もしかしたら先輩方と知り合う好機かもしれないがわざわざ負けを装うのは、気に入らない。必要なら別に普通に交流を持てばいいだけの話だからだ。
かと言ってずっと尾行されるなりするのは願い下げ。折角の初探索がよく知らない相手の目を気にしつつだったという思い出になるなど、げんなりと気分が下がる。
【端末呼び出し《ターミナルコール》】し個人ステータスを確認してみたら魔力の状態が枯渇中から『生成中』に変化していた。とりあえずマッキーに提案。
「【装備】してみせた姿見せれば安心してくれるんじゃない?」
「まっそうだな。別に【勇猛童女】に思い入れ無ぇし、行きしに魔力ある所見せとくか」
「ん、心配なさそうだって分かったら安否確認で後ろ付け回される事も無いでしょ」
学生PTに頼まずとも正規の巡回員もいるんだし、と続いた声に同意して、そうと決まれば、社製の貰ったばかりの戦帯を掴み魔力を通す。はじめてダンジョンに入ったあの時から十年を超えた。その間、魔力に触れ続けた結果、この手の操作はもう慣れたものだ。
目をつむって魔力へ、魂へ意識を集中する。魂と霊格神経が共鳴しあい力を形作っていく感覚。身体に重なるように浸透していく柔らかく静かで、雪が降り積もる力のイメージが満ちていく。
――積もり舞え
魂宣。そう呼ばれる魔力操作技術のひとつ。
魔力に関連する全能力を高める便利技能であるが、まだまだ習熟度的に初心者に足を踏み入れた段階であり文言も短く拙い出来だ。
どこか自己暗示に近い技術に思えるがこの言葉は単なる文言では無く、魂と霊格神経の交信が進むと自然と浮かんでくる言の葉であり、当然ながら個々人で全く違う言葉になる。
自身の魂に関わる言葉なので口に出す者も少なくネット上で眉唾物的な扱いをされる事も少なくない技術である。何故知っていたかはもちろん原作ホライゾンシリーズ知識からである。主人公や仲間キャラの覚醒イベントで登場する強化手段のひとつだ。
当然のように習得しようと躍起になって、中学一年の冬にやっと聞けたものだ。たった五音で構成された言葉でさえ、きっかけを掴むのに都合七年も掛かった。こっち方面の才能が絶無なのだろうかと思い悩んだ時期もあったくらいだ。
結果的に習熟の切っ掛けを掴む事が出来たので良かった。まぁつまりこの技能のおかげで枯渇状態からでも素早く身体に魔力を満たせるようになったという事だ。
マッキーは中学三年の夏に習得。私よりダンジョン侵入が遅かったのとおばさんにこっ酷くしばかれていた為に魔力修行は中学に入ってからという話だったので、実質二年半での習得。
ちなみにゲーム主人公も子供の時から霊格神経を得ているのにも関わらずまだ習得出来てない筈なので彼は十年以上掛けた事になるが、彼の仲間になる面々は数ヶ月とか数週間で習得したりする。ゲーム都合なのかもしれないがもにょってしまう。多分単純に身体成長度合いによる影響が大きいのだと思うが、才能の差を感じざるを得ない。
ともかく、魂宣をすれば、ガチリと自身の中の歯車にさらに歯車が噛み合うかのような感覚を掴める。
身体の中心から全身に広がっていく熱のような、魔力があるべき所に納まっていく感覚。
身体に巡る力がこちらの意図に沿って動く万能感。
魔力が満ちて来ると頼もしい感覚を覚える安心感。
柔らかく静かに降り広がる力の波が、荒れ荒ぶ猛吹雪のように変化していく。その猛吹雪を統制するように魔力の流れを制御していけども、収まりきらなかった力が身体から溢れ出す。
そうした流れが安定すれば、目を開く。
するとこちらを呆れた目でみやる金髪美女と視線が交錯した。
「いや気合入れすぎだろ。魂宣までせんでもよくね?戦帯からもアクセからも制服から髪からも全身からドライアイスみたいな冷気出とるんだわ。見た目が寒いっつの。ダンジョン外でそれは悪目立ちするだけだ。抑えろマジで」
「……しょぼーん」
マッキーは社で貰った救急箱から包帯を取り出してほどいていたようだ。指で摘んで垂れ下がっている包帯がまるでヘビのような生き物が如く滑らかに動いて拳に巻き付き、制服は身体に張り付くようにぴっちりとフィットするよう動いた後に手をこちらに掲げ、「【装備】なんてこんなもんでいいんだよ」と肩を竦めた。スリングショットや直剣など腰に吊り下げたままである。ぬぅ。
結局、魂宣による強化は解いて一般的な【装備】でお茶を濁す事となった。装備品については武装である戦帯、防具である学園の制服、そして私の家が探索者装備販売店である事から色々と装飾品を持ち込んでいる。それら全てに魔力を通せば準備完了だ。
更衣室から出て霧球域ゲートへ向かう際にマッキーと一緒に受付嬢に向かってサムズアップ。驚いた顔で微笑まれてからサムズアップを返してくれたあの受付嬢は良い人オーラが溢れてる。うん、何かギルドに用が出来たらあの人に頼もう。信頼出来そうだと手のひら返し。
こちらを遠目のテーブル席から見ていたマッチョと幼女の【勇猛童女】や大人の探索者数人にも軽く会釈して、さあいよいよダンジョン内部だっ。
◇
ダンジョンの入口である霧球域ゲートに足を踏み入れれば視界は灰霧一色。人生二度目の霧球域エリア内。幼少時にはすぐさま引き返したものだが、今回からは突き進めるっ!
暑くもなく寒くもない灰色の視界内で鞄を背負い直し視界の横を流れる戦帯を撫でる。
【装備】した事で私に追随して空中に浮いて漂い従う戦帯は社製なだけあって清潔であれど飾り気が一切ない浄化された帯布だ。けれどその布はただの生地である筈が無く、【装備】した事で理解ったがこちらの想像通りに動く手応えはとても頼もしい。
先端を尖らせて円錐状の槍に変化させれば岩を貫き、腹で叩けば地面は陥没し、薙げば木の幹程度両断出来るだろう。
正真正銘、戦帯とは武器なのだ。今まで道場などで使っていた戦帯も予備用としてカバンに入れているが、社で譲り受けたこの戦帯の方が遥かに魔力の通りが良く、反応が良い。これなら道場主も殴り飛ばせそうだ。
とはいえ、自在に操作可能な戦帯だが欠点ももちろんある。
刺突は槍に、打撃は槌に、斬撃は剣に及ばずと全体的に威力が低い点がよく指摘される弱点だ。プロ探索者からは器用貧乏扱いされるマイナー武装であるが、護身用としてはメジャーという世間一般の評価。比較的軽くて鞄の中に納められる携行性も評価されている。
リーチが長く中型種までの魔物に対して拘束なども仕掛けられるので私は刀の次に気に入っている。
正直、社の戦帯が道場時代のと同程度の代物であるなら、制服のリボンタイを襟から外して短剣のように尖らせ浮かせ飛ばそうと考えていた。刀京魔導学園の制服が優秀なのは私が店員をしている時に稀によく聞く四方山話で、実際に家に届いた制服を【装備】した時はその力強さに驚いたものだ。何と言ってもウチに飾ってあるプレートメイルよりほんの少し劣っているかという程度の防御性能具合だったからだ。
まぁプレートメイルの評価が辛口なのは私の魔力属性と相性が悪く、魔力の通りも悪ければ反発もあって全身が凍えたからでもある。これも非適正装備ペナルティというやつだ。ほんと金属系装備ってヤツはよぉっ。ふぁっきゅ。
足元さえ霞む濃霧の中ですぐ隣を歩むマッキーを見れば不敵な笑みで口角を吊り上げていた。
「やっと来れたな」
「おうさね」
巨大な霧の繭、霧中を切り裂くように歩み進めて一分ほど。霧が晴れる。
眼前に広がったのは木々が多い自然公園といった風情の情景。
本日の刀京は雲がところどころにあった晴れであったが、このダンジョンの中は木の隙間から覗き見るに雲ひとつ無い快晴だ。ダンジョンの中と外は時間がリンクしているようだが場所の関連性は全く無いという話を実感する。まさに異界である。
濃密な草の匂いも蒸し暑い気温も、肌を撫でる生ぬるい風も、此処は慣れ親しんだ刀京とはかけ離れている。動物か魔物の鳴き声が至る所からキーキーピューヒロロロロボボウボオウ!と響き渡り五月蝿いくらいだ。
辺りに満ち溢れている生命の息吹を全身で感じられて肌が感動で泡立った。
「ここがっ……」
深呼吸し、高鳴る心臓が導くまま一直線に間近にあった頭上の木枝まで跳ね上がり戦帯も併用して幹や枝をむんずと巻き付け掴み駆け登って行く。数秒掛けずに木の頂上付近に到着、辺りを見渡す。
緑の地平線が彼方まで続く広大な異界。
一言で言うならば亜熱帯圏のサバナといった世界が広がっていた。
学園側から見たダンジョンの入口である霧球体の大きさは運動場を半球上部で覆う程度だったが、ダンジョンの内部はとんでもない規模の空間が広がっている。
樹上では分かりにくいが、学園ダンジョンの層ごとの広さは前世の関東平野に当たる現世の地域(刀京府や武蔵ヶ丘魔境など)がまるまるすっぽり収まって余りあるほどに広いとも聞く。実際はもう少し狭いだろうが半径70キロと言われればそのくらいだろうと納得できるほど見晴らしが素晴らしい。
生命力に輝く亜熱帯特有の葉の緑が旺盛に自らを主張し、ところどころに草原地や岩肌が見え隠れしている。
この学園ダンジョンにもちょっとした丘や窪地のような場所はあれど、高低差がほぼ無いのも特徴だ。ただ中央奥の、丘のように高くなっている一際高い場所には灰色の球体が小さく小さく見える。
遠目ではずいぶんと小さく小指の先の繭のように見えるが、それは霧球域ゲートと同様に霧で出来た楕円球体だ。原作ゲームと同じく次の階層に行く為には中央の霧繭、霧球域ゲートへダンジョン入場と同じように進めばいい。
ダンジョンの構造はマトリョーシカのように、箱の中に箱があるという構造が連続しているのだから。
「「ぃぃィィィィぃぃやっっほぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」」
いつの間にか隣に来たマッキーも歓声を上げていた。いつか行ってみたいと共に夜な夜な語り合い熱望した世界の中にいると強く強く実感出来て衝動の赴くままに大声を上げていた。
後方に広がるのは霧の絶壁。
そこへ踵を返せば入ってきたダンジョン入り口周囲の何処かへと出る事が出来る。
つまり霧の絶壁が階層の外周囲をびっしりと囲んでいるのだ。だが日差しと霧の絶壁自体が光量を持っている為か薄暗さは全く感じない。どういう原理か知らないが霧の絶壁には影が無いし上空全てを霧が覆っている筈なのに空は青く美しく日光も焦がさんとばかりに降り注いでいるし地平線の彼方まで見通せるという事は距離が離れればこの霧の絶壁も目に映らなくなるのだろう。なんとも摩訶不思議な代物である。
「すぅぅぅぅ、あああこれがダンジョンの香りっっ!ごっほ、ゲホッゲホッ、っつあー、久しぶりに大声出した」
「ハハッユッキーむせてんなよ!ついに来たってのによ!あああ!ダンジョン!!待ってたかよおい!来てやったぞ!!ハッハアアア!」
一頻り笑い合えば、ブィィィィという重低音が近くからする。
木の天辺から見下ろせば、ヤンノ蚊と呼ばれる子供の胴体ほどある昆虫型の魔物が羽音を響かせてこちらへ向かって来ていた。その数3。
あれほど大声出せば魔物の声が響き渡り続けているこの場所でもこちらへと寄ってくるようだ。
ゲーム通りであれば仲間を呼ぶ習性があるので手間取ればまだまだ増えていくだろう。
こちらへ向かってまっすぐ突き進む姿は遅いとはいえ羽音に加えカシャカシャと節足を鳴らし威嚇する姿は害意に満ちあふれており、思わず口の端が釣り上がる。
「ユッキー、お邪魔虫がご来店だぜ。にしてもやっぱいるんだなぁ。甲虫っぽくてキモくは無いが」
「ヤンノ蚊ねー。音・臭い感知型でレベル5未満のジョブ無しに集ってくる雑魚。現世の配信でも原作でもタックル、スライディング、投石一発で弾けとんでたけど、どうかなっ!」
学園散策の際に実験棟のゴミ集積地で拾ってきた【正体不明の金属片】。戦帯と同じように【装備】して浮かせたものを投擲。
ひとつは魔力を吹雪へと変換し加速力を加えた。二つ目は雪で金属片を覆いその雪を操作した投擲。三つ目は帯を操作して投げ飛ばす物理的な投擲。
的が大きい分当てやすい。三様三発三中で撃退完了。風船が割れるように弾け飛んでった。どれも結果は同じだが、やはり威力や速度的には二つ目の雪操作が一番良さそう。これはダンジョン外での試行とほぼ同じ結果であるか確かめる必要がある最初の工程。環境や空間内の属性偏移が変われば自身の魔力操作にも影響が出るからだ。
「おお~ナイスヒット」
「まっこんなもんでしょ。分かってた事だけどダンジョン外とほぼ同じ環境だね学園ダンジョンって」
「魔力属性次第で悪影響及ぼすダンジョン多いしな。こんなにお行儀が良いダンジョンを利用しない手は無いわな」
「ソレナー。【念動】も良い感じだし」
「おう、どう見ても【巫女】じゃなくて【念力士】とか【道士】とかの所業だけどな。ていうか中学ん時も言ったけど本当にそれ【念動】か?」
「魔力操作して物動かしてんだから【念動】でしょ?それに巫女もゲームじゃ【念動】覚えたし問題無い無い。ほんと現世の巫女配信者で【念動】使う人も戦帯使う人も少なすぎ!!便利なのにさ。もっとミコミコしろっての!」
「ユッキーん中の巫女像が現世じゃ異端なんだろうよ」
巫女でDA配信している探索者は数多くおれど参考にしたいと思える人はほとんどおらず、いてもしばらく経てば動画が消されていたりして憤慨したものだ。
神の恩恵はレベルが5になるまでのダンジョン内行動で決まる。それはジョブの適正がある装備をするだけでも影響があるもので、【巫女】の可能性を上げたいなら、刀、薙刀、短刀、弓、戦帯、御幣、鈴といった装備品が代表的。【拳士】であれば手甲、足甲、戦帯、棒、投擲物。【銃士】であれば、銃、スリングショット、罠、投擲物、索敵支援具といった次第だ。
これが特定のジョブ獲得目的の為と期間限定するなら普段しないような行動を連続してもいいだろうが、私達は限界突破や存在進化まで見据えているので、普段しないような言動をするのはNG。きっとボロが出るし、中途半端に望んでいないクラスチェンジ先や進化先になってしまえば目も当てられない。
つまりダンジョン内では自然体が一番。それが一番伸びる、筈。今までしてきた行動を延長させていく事が歪まず成長する一番の効率性。
だから感情が赴くまま大声を出したとしても数度程度なら多分無問題。【指揮官】とか【狂戦士】の可能性がちょびっと上がった程度だろう。きっと、たぶん、めいびー……。
閑話休題、魔物の中でも最下位であるヤンノ蚊であっても討伐すればこのダンジョン固有の魔力を拡散させるみたいだ。その魔力に触れた事によって新たに霊格神経が疼き出した事が自然と感覚的に分かる。
魔力に触れた感覚とは違う、魂の躍動とでも言うべきものが僅かながらでも湧き上がってきて気分も上々。
「大声でも近寄って来るお邪魔虫は問題無さそだね。金属片勿体無かったかも、アレならそこらの石でも十分」
「だろうな。オゥバァキィルゥってゲームならアナウンス入ってるぜ。あ、次はオレの番だからな」
あいよー、とマッキーの声に応えつつ自身の魔力感覚に意識集中。
魔力生成量が私の貯めておける魔力器(魔力貯蔵量)を超えている分は、当然ながら周囲へ垂れ流しだ。魂宣した時みたいに目に見えるほどの冷気では無いが、人が自然に流す呼気のように極薄いものが流れている。
ダンジョン内で生成魔力を無理に貯めて体調を崩しては危険なので、魔力垂れ流しに関して特に言及される事は授業や配信でも無かった。
魔力生成量と身体強化や【装備】などによる魔力消費量が拮抗すれば隠密行動には良いのだが、言うは易し為すは難し。小数点以下の緻密な魔力制御など現実的では無い。呼気の量を毎回精密に同じ量にするようなもので、メーターになるものが自身の感覚のみという無理ゲーである。
加えて魔力消費量の増減が考慮されたオーダーメイドの装備品は当然ながらとても高価になるし一般人が購入できるような代物では無い。これからレベルを上げていけば魔力関連能力は更新し続ける事になるので買い揃えていくのも非現実的。
魔力垂れ流しはだからこの世界では普通なのだ。デメリットとして周囲の魔物を引き寄せてしまうようだが、これもレベル上げには丁度良いとも考えられる。
獲物を探す事なく近寄って来るのは手間が省ける。こちらを畏怖するほどレベル差が出来れば魔物は逃げるように散るだろうし、それほど気にする事でも無い。
まぁ魔物は基本的に見境なく人間を襲ってくるものなので大分先の話になるだろう。
「てかゲームと違って投げたからといって消費されて消えて無くなるなんてこたねぇだろ。地面に落ちてんじゃね?」
「ほーん?言われてみれば確かに。頭イイネマッキー」
そこはかとなくバカにされた気がするぞ、という呟きを背から聞きつつ樹上から飛び降り着地。
膝を弛め衝撃を逃がす途中で前方に重心を移動し肩を地面につけ前転。道場で散々練習させられた受け身である回転着地。五接地転回法で着地を決め、ぴょんぴょんと飛び跳ね痛みが無い事を確認すれば地面にめり込んでいる【正体不明の金属片】を発見。
「お、発見。投擲アイテム消費無しとかチートかな?」
「チート判定のハードル低すぎだろ。まぁ投擲すっ時に角度考えねぇと回収が面倒そうだが」
マッキーも無事に着地出来たようで隣から金属片を覗き込んできた。
「まぁ工夫の余地ありってこたあ、弓士とかでも費用嵩張らないかもな。ここのダンジョンなら少なくとも浅層にゃ木があるし高さも確保しやすそうだ。いちいち昇り降りすんのは面倒だろうが……。まぁ追加のPTメンが弓使いでもそんな忌避する必要も無さそうってくらいか。あっちから来たのオレが貰うぜ」
「ういおー、いてらー」
戦闘中の回収作業はさすがに余程の余裕が無いとロスが多そうだしほぼほぼ消費アイテムと同じ扱いでいいだろう。戦闘後に投擲アイテムが戦利品に入るようなもんだ。
投げつけた事によって魔力操作圏から外れていた金属片に再度魔力を通らせて空中に浮かせ直す。
にしてもマッキーの言葉からして牙閃に出てきた空梅ちゃんを完全にロックオンしてそうだ。根回しっぽい言葉に本気度が伺える。実際どういう子なのか確かめてから考えた方がいいと思うがこの調子ならマッキーの方から切り出して来るだろう。
マッキーがスリングショット用に拾った石コロを番えて飛ばせば見事に命中。爆散である。ナイスショット。続けてのショットも同じ結果。
そして残りのを蹴散らそうと駆けていくマッキーの背中を追いかけていれば、彼女は跳ね飛び上がり木の幹を蹴りつけ三角跳びの要領で空中へ。2匹まとめて蹴り落とした。いや蹴った衝撃でヤンノ蚊どもはバラバラに空中で爆散した。お邪魔虫といえど脆すぎる。コイツラどうやってこの魔物蔓延るダンジョンで生き抜いているんだろう。
人間に気付けば襲ってくるというのだから優先順位はあるようだが、魔物は魔物同士で互いに食い合っていたりするのだ。
「ん、お見事」
「おうよ、らっくしょうだぜ。ユッキーん家の魔導製下着に制服【装備】したおかげで胸も思ってたほど揺れねぇし動きに支障は無ぇな」
マッキーがその場でビシュシュとローハイキックの二連蹴撃しても制服のスカートは馬乗り袴のように長いがそれがタイツのように張り付いており動きは滑らか。
「制服良いよね。パンツとか全然見えないし」
「いやユッキーお前さ、ダンジョンでパンチラなんぞ気にしてどうするよ」
「視力強化して覗くのを人生の生き甲斐にしてるキャラがいたなーって思い当たって」
「ああ……いたな。そういうのも。女キャラ以外はマジで興味無かったからあんま覚えてねぇわ……次は貰った剣でも試してみっかな」
「え、本気で剣使うんだ?」
「そりゃな。【銃士】つっても近寄られた時にはやっぱ拳とか蹴りより長物あった方がいいだろうし。ただまぁどんだけ通用するかだよなぁ……まっ、準備運動はこんくらいにして次の魔物行こうぜ」
「ラジャり。それじゃ予定通りお邪魔虫は適当に潰してプランAの見敵必殺だね!」
「おうよ。動きが予想より大分良い感じだし、全く心配無いわこれ。魂宣して奥行ってみようぜ。魔物駆逐作戦開始だ。本当は今日のとこはお試しのつもりだったんだがなぁ!」
「本当に~?昼飯用意して夕方まで探索申請しといてそれは嘘でしょー」
「あ、バレた?」
快活に笑い合いながら互いに【魂宣】して林奥へと進む。
木の根っこが絡まった岩が目に入ったのでとりあえず戦帯で殴り砕き、石片をいくつかお邪魔虫撃墜用に確保【装備】し浮かせる。さらに私は自身の足元へ魔力を吹雪かせ浮遊だ!
そう、浮遊しながらの移動である。あり余る魔力を垂れ流すのも勿体無く、移動時間も全て魔力に関わる行動をした方が絶対に良いジョブを引き当てる。マッキーが羨ましそうな目で見てくるのをどやぁと見下ろす。気分が良いなあ!はっはっは!
ほんの少し前までは戦帯で補助した手長猿のような走法で訓練していたが、ようやく浮遊が形になったので取りも直さず実戦投入!幸いながら迷っても脱出には霧の外周壁を目指せばいいので遭難する事も無い。さぁ、レベリング開始だ!!
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〇ダンジョン受付の美人職員
彼等彼女等の容姿は目を引く程度に優れているようだ。ギルドの採用基準に容姿について明確に記載されているので採用されたものは確かな自負をにじませている。なおそのような採用基準でさえ応募数が毎年五桁を超える人気職である為に、応募理由も多様である。
ひとつ、探索者と触れ合える平民の職種だから。
ふたつ、高給好待遇が確約されている職種だから。
みっつ、貴族に見初められる確率が高い職場だから。
よっつ、福利厚生において浄化を優先的に予約できるから。
いつつ、――
と、他にも千差万別の理由があるものの、押しなべてギルドという組織への信頼・憧れは強いようだ。
だが当組織の職員を見渡し三割を真っ当とすると五割は堕落し、さらに残った二割は酷く淀んでいる者ばかり。巨大組織ゆえか末端の職員の中には悪徳を罪業と考えず不善を為す者も多い。探索者の生還に関する賭け事などは常習であり、貴族や上客からの依頼を自らの出世の為に特定の探索者へのみ回し失敗すれば隠蔽などし、酷いものとなると後ろ暗い依頼まで手掛けるようだ。悪徳として軽微なものから人類社会において害悪なものまで、職員を渦巻く環境には淀みが見え隠れしている。
だが一般の者にはその淀みも映らない。美しく見目良い者が微笑む席の下に何が隠れていようと見ようとしなければ見えないものだ。もっとも、見ようとした者がギルドという巨大組織に敵対者として認識されない筈も無い。
〇人類史
別世界の歴史と関連を疑わざるを得ない事件、事故、事変、災害などがあるようだ。
有名どころでは星暦という暦の基準となった教皇キリンドの誕生など。パーユロ地域での現人神で世界最大宗教キリンド教の元締め、今現在も存命という不老長寿の体現者。
他にも人類三大危期の時期など、別世界ではペストが大流行した時期と重なると考えているようだ。1400年代では当時の人口が2割ほどになったという極大魔災が発生したが、その魔災を治めたのはキリンドとされている。天州国東部域での歴史授業では、具体的に何をどうしたのかも記されておらず、奇跡によって人類は守護されたと記載されるのみ。
未だにその奇跡を持ち出し、他国へ様々な干渉を為すキリンド教には天州国上層部も苛立ちを隠せていない。実際に現人神が存命しているという手札は、蛆虫が如く湧く雑多な零細宗教や邪教などとは格が違っていて当然であるが、宗教団体に対し苦虫のように顔を歪める貴族は多い。苦渋を舐めさせられて来た歴史の他にも、壱海公爵家当主などは不老長寿の絡繰りを知り得ているからこその苛立ちだろう。
また別世界での事変と年号も等しくする災害を挙げるならば、1861年のアメリゴ連邦国での魔災について。こちらは連邦国北部と南部のダンジョンで同時に魔災が発生し南部連合が壊滅的被害を出したりといった事で有名である。まるで現世での大きな魔物災害をモデルにして別世界では何かしらの事件・事変・災害が起きているようだ。
もちろん全く関連しないと思われる事件や発明などの方が多い。
電気はもちろん車も飛行機もスマホもネットも存在するが、むしろ技術的には魔導技術と融合した現世の技術は別世界の同時期と比べると一線を画す。例えば巡空艦。飛行船のような脆い船では無く、翼種の魔弾を退ける程度に強固な魔導鋼板で覆われた宙空母艦など別世界では建造する事すら困難だろう。
それでも歴史は似通っている、では済まされない程の関連があると、一部の前世持ちは考えているようだ。




