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6話 探しモノ

◇ ◆ ◇


 学園内をパンフレットに載っている地図で確認しながらの散策。配信で見た事ある道だったり、原作の面影を残す建物だったりもあるが、大体が初見である広大な刀京魔導学園の建物群。学園案内パンフにもあったが本当に多くの民間企業が入っており、正直毎年迷子が出るという話はネタだと思っていたが、実際に入ってみると笑えない。表札(館銘板)も無い何目的の建物なのか外見からはまったく伺えない豆腐建築みたいなものもあるし、研究施設みたいな建物からは爆発音が響いたりするし、建物と建物を繋ぐ空中回廊は多岐に繋がってるし、地図には無い狭い小道も所々あるしで神隠しイベントがあるのも納得という具合。


「うわ、装備貸出(レンタル)屋だ」


 商売敵はっけん。ペッ。

 そんな感じで学園と提携している企業ショップを横目に軽くジョギングで移動中。


 原作では装備貸出(レンタル)屋で格安価格にて装備を借りれたのだが、学園内にあるという事は大企業なわけでE組生徒に本当に貸出してくれるかも疑問である。

 学園案内に付属していたカタログを見た限り高価な代物ばかりで、学園ダンジョンに通う外部の探索者や探索業企業勢がメインターゲットな気がする。ギルドでもお安い装備のレンタル業してるらしいしE組生徒はそちらが主流だそうだ。もし目の前の店内に入ろうとしても、ギルドに行けと門前払いされそうッ!中の店員もこっちを見下すように顎上げてるし!


「こんな店先で呆けんじゃねーぞユッキー。被害妄想でもしてたんだろ」

「いやいやマッキーさんよ私は今現実と向き合っていてだね……って、んー……やっぱめちゃくちゃ高いね。この槍とか探索者用装備販売店(うち)じゃ一回も取り扱った事無いけどほら見てよマッキー。1時間借りるので200万、プラスで摩耗修繕費500万だって。折れたりしたらどんだけ請求されるんだか」

「一般生徒じゃ無理だろ。ドロップ買取もゲームみたいに高値じゃねえしお金なんて貯まらん……むしろ渋過ぎだし。多分、探索業企業《クラン》とか傭兵団、民間軍事会社(PMC)がここぞという時に借用契約するんだろうな。ほれ貴族との仕事で絶対失敗できねー時とか」

「使い慣れない武装なんてまともに運用できると思えないけどね……これ中層の素材使ってる?」

「ゲームで見たまんまのエフェクトだよな。雷獣系統特有の……都合の良いツテっつーか製作会社に持ち込みとかできりゃ金稼ぎにも張りが出るんだがなー」


 原作ゲームと違い、現実ではダンジョンでの取得物は基本的にギルドが一旦全て買取してくるのでお持ち帰りは別途申請して許可が降りないと持ち帰れない制度《ルール》である。この辺りは貴族の直属配下などになれば話が変わって来るようだ。


 そして、こうして別れず二人でまとまって移動しているのは、入学式が終わり講堂を出ようとした所で生徒同士の不穏な出来事(イベント)があったから。

 もちろん尾符根《おぶね》少年の時のような可愛らしいものでは無い。


 怒声罵声が飛び交う道場で揉まれて来た私達でさえ気になる雰囲気の人集りが会場出入口付近に出来ていて、その横を二人で身を小さくしながらコソコソ出たのだが……。通り過ぎる際にチラリと人だかりの奥を確認した所、その中心地にはやはりというか何故というか時間軸を無視して『ホライゾン~学徒の牙閃~』のゲーム主人公である磯辺《イソベ》八比古《ヤツヒコ》と思しき人物がいた。

 オープニングイベントである入学式騒動だ。原作開始時間から20年以上経ってるのになんで今にいるんだよ主人公(ヤツヒコ)。


 彼の片頬にはダイヤマークに似た四角形の青い痕《あと》があり、掘りの深い特徴的過ぎる顔つきなのでほぼ間違い無いだろう。

 そして彼の後ろにはピンク髪のヒロイン、こちらも恐らく上代(カミシロ)舞桜《マオ》と思われる人物がいて絡んでいたのは舌下《シタシタ》コンビで通っているチンピラ二名の黒舌と赤下だったのだろう。


 彼等全員E5組で明日の初講義時に同じクラスだと分かり顔を合わせるや険悪ムードに、というスタートなのが『ホライゾン~学徒の牙閃~』の序盤だ。

 あの最初のイベント、主人公のセリフ選択次第で仲裁に入るのが教師か先輩か貴族かの三択に別れる。いわゆる難易度選択的なルート分岐であるが、ゲームはE5組の面々を中心に進んでいく。つまりE3組である私達は合同授業や学園行事くらいしか彼等に関わる事が無いので遠目に誰が仲裁に入ったかを確認してその場を離れた。


「にしても、まっさか貴族ルートかぁ」

「まだ言ってんのマッキー」

「いやだけどさー、リアルで白服(貴族)生徒が平民のケンカに首突っ込んで来るってあり得ないぜホント」

「まぁねー。貴族でも準貴族でも、平民の群れに単身突っ込む所なんて現世15年間生きてきて初めて見たし。普通は配下にそこら中鎮圧させてからど真ん中で口上だもんね。それも初めて見た時は衝撃だったけど……、そんな事より20数年後な世界の筈なのに牙閃(ゲーム)キャラと似た人らがいるのがね。何アレ子供世代とかいうオチ?それともこの世界って牙閃の続編世界?スピンオフ?中の人とかいたりする?」

「知らねーって。本当RPGとか映画なら2000年開始の筈なのにな。焦ってスマホで今何年か確認したってマジで。イベントはともかくストーリーの細かい所とかもううろ覚えになってんぞオレ」

「右に同じ。いや私はもっとあやしいかも。まあ以前からの知り合いでも何でも無いんだし止めようが無かったよ。いた事さえ気付けなかったしそもそも牙閃の世界線と思って無かったし。というかゲームと似た流れになってたのはただの偶然って線もあるしさ」

「そうだけどさぁ、難易度カオスだった場合どうするよ。二週目以降のゲーム主人公(ヤツヒコ)なんかなアレって。じゃないとE5組終わりじゃね?」


 入学式騒動の詳細なセリフはさすがに覚えていないが教師が仲裁に入れば難易度イージー。手厚いチュートリアルに過保護な学生生活が約束される。この選択肢はバッドエンドを複数回通ると出現する。

 先輩だと難易度ノーマル。通常モードとも言われる。部活対抗戦などのイベントが多く入るルートでこちらが大体の正規ルート。つまり何かしらのテコ入れ(初期時点からの繰り返し)が無ければ卒業すらも難しい。が、様々なエンディングがありそこそこ幸せな終わり方も存在する本編でもある。

 そして貴族関係者である白服生徒が仲裁に入った場合が難易度ハード、またの名を混沌(カオス)モード。貴族制度に真っ向からケンカ売るセリフをのたまうのでまさかこのリアルではあり得ないと思っていた選択である。


 そしてカオスモードの場合、イベント条件が全て開放される。

 ノーマルストーリーで多くのフラグを立てたり複数条件をクリアしなければ起こらないイベントでさえ突然発生させたりできるのがカオスモードだ。

 このモードの場合、即座にラスボスへ挑めたりもするがゲームオーバーは主人公の退学か行方不明という形で大抵締められるので、薄情だが部外者の立場からするとご自由にどうぞという他人事の感覚。もちろんゲームシナリオ知識がもう無用の長物とまでは言わないが価値が下がった事も肩の荷がおりた心情だ。


「まあ牙閃のストーリーとか一回見たらスキップしてたからカオスモードで関係無くなってラッキー程度?ノーマルモードのゲームオーバーで起こる悲惨な結末が軒並み消えてくれたと考えればむしろ安心安堵するけどね。もう私の中じゃ4月中にゲーム主人公(ヤツヒコ)くんは退学してるから」

「そうかぁ?リアルなんだぜ、ユッキー。むしろ何でも起こり得るって考えればモード関係無しで学園崩壊エンドと悪魔従属エンドとか複数パターン同時発生も起こり得るんじゃないか?」

「そっ、れは……ヤバイ。でもゲーム主人公(ヤツヒコ)が退学したら学園イベントが消える……なんて事無いか。友情エンドの文化祭とか学園行事だもんね。この国的に大雨台風でも中止にならないのに無理か。うわぁ、そうだとしたら嫌だなぁ」

「おう。カオスモードじゃバグ満載の狂った事態になってっけど、現実的にあり得て欲しくない。E5組にとっちゃ茨も茨な道だよな。つーか普通に考えて入学式の日に貴族批判かますとか平民ばかりのE組全体に対しても風当たり強くなんじゃね?風紀委員会にゃ絶対目を付けられるだろ。マジでどうしてカオスモードに行ったんだヤツヒコェ……」


 イベント条件の全開放とはつまり、ゲームとして成立しないというのと大差無い。

 シナリオはもちろん破綻、戦闘バランスなんぞ無きに等しい。

 教室で出会ったキャラが廊下にさらに三人重なってたり、イベント待ちになってるキャラクターが教室入り口で何人も突っ立ってたりするバグだらけのモードなのだ。

 それというのもカオスモードはノーマルモードのグッドエンディングを見ていなければ選択肢がそもそも発生しないおまけモードであるからだ。ホライゾンシリーズのゲームに共通する制作者の『ゲームクリア後も遊べるぜ』的なモードなわけである。なのであのヤツヒコは少なくとも一度は成功させた未来を経験(繰り返し)しているのかもしれないが……。


「私達みたいに前世の記憶持ちとか、2000年入学時の彼が未来である20数年後の今に飛ばされたとか、平行世界を繰り返してるとか、クリア後のチート野郎っていう可能性、色々考えられそうだね」

「繰り返し経験とかクリア後だったら怖いな。けどよそれならレベルも高い筈だろ?レベル差どころか存在進化してたら見た目も大概変わるだろうしその威圧だけで学生とか気絶しててもおかしくなくね?シタシタ(チンピラ)コンビとか前に立つ事すら出来ないって」

「だよね、睨んだだけで消し飛ばせそうだし、規格外の魔力保持してたら学長がすっ飛んでくる筈だもんね。って事は常識外の強さを持ってるわけじゃないのかな」


 どのジョブでもレベル差が5もあれば無意識に畏怖を覚え、10の差があれば平身低頭してもおかしくないほどの震えを感じる。というのはゲーム中の貴族に敵意を向けられた時に出て来る描写である。

 ゲームテキストでの事であるが、ゲーム中で主人公のレベルが高い場合雑魚キャラとの戦いは省略《スキップ》出来たので有り得そうだし、実際私は幼い頃に巡回員から威圧された事もあるし、道場でもそれっぽい経験をしたので威圧の存在は確信してる。ウチのお店に来るお客でパッと見で強そうと感じさせられる人達もいたので無視できる要素では無い。


「考えても分かんないね。情報が足りなすぎ……。あぁ、私らみたいな前世持ちが他にいたとしたら誘導した可能性もありか。まぁ気迫だけは凄かったけど。マッキーも聞こえたよね?」

「『――いい加減聞き飽きたぜ!腐った貴族なんざの威を借りてんじゃねぇ!』だろ。シタシタ(チンピラ)コンビに何をどう煽られたら貴族も集まってる場の現実《リアル》入学式でこんな言葉出てくんだよ。ありえねぇ……」

「確かシタシタ(チンピラ)コンビって木端貴族の下部組織の末端と繋がってるんだったっけ。なんて名前か忘れたけど。まぁだから貴族って大枠を貶めてるわけじゃ……いやどうかなー。全部聞き取れたわけじゃないし。ゲームも全く同じセリフだったっけ?」

「いやそこまで正確に覚えてないが貴族生徒が仲裁に入った時点でヤバすぎるだろ」

「それはそう。てかこれで退学してたら笑うんだけど」

「あー……ねーだろ、さすがに。ないよな?」


 無いでしょ。睨み合い程度でしゃしゃり出て来た白服生徒の方がおかしいと思うし。あれで退学なら募集生徒数を一名と記載すべきだね。そんなこんなな事があったので、手分けしてアイテム集めするのは不味いかもしれないと思い直し、二人一緒に中央棟職員室への道中で無料採取可能なアイテム集めをめぼしい所だけに絞ったのだ。


 カオスモードの場合、時期など関係無くC・D・E1~E4組に加えて上級生や部活単位・生徒会・風紀委員会などとも突如戦闘が始まるのだ。運が悪いと学園部外者な筈の民間の探索業企業《クラン》や傭兵団や貴族直属の近衛隊などとも戦闘になる。大体が「おまえが気に入らない!」というセリフと共に戦闘開始である。

 PTメンバーに加えているキャラでさえ敵キャラとして登場したりする。自分で自分を殴る、つまり格ゲーで言えばミラー対戦も起こったりして、ここは地獄かという混沌とした学園生活になるのがカオスモード。

 もっともグッドエンド後のカンスト主人公であれば無双出来る。あの時苦労したボスを一撃でぶっ倒せたというのは思いの外胸がスカッとするもので、カオスモードが好評だった理由だろう。


 入学式会場を出て、研究実験区域にまず行き併設されているゴミ集積場で投擲武器に使えそうなのを見繕ったりといった採取行動、原作ゲームでアイテムを入手できた箇所を巡っている。気分はルーターシューター系ゲームの漁りだ。

 目当ては貴重な魔法習得結晶(スクロール)や技能(スキル)習得結晶(スクロール)だが使用には懸念があるので見つけても売却に回す予定。

 もちろんアイテムが有るであろう場所でも個人用ロッカーなどは漁ってない。バレたら普通に窃盗罪で捕まって反省室送りもしくは警官沙汰だからだ。学園での採取可能アイテムは序盤では貴重でも必須というわけでも無い。マッキーはともかく私は品行をさほど気にしていないけれど、それで犯罪歴つけるなどリスクと全く釣り合わない。


 それにしても……


「こっちのゴミ置き場もハズレっぽいね」

「だな。このポーションぽい瓶も割れてるし中身が劣化どころか風化してるのやらヘドロっぽいのやら……中身移して投擲用に確保するか?」

「時間も押してるし少しだけ。ゲーム通りに錬金術部の廃棄品だとしたら低確率低性能デバフランダムでしょ。ジョブも無い最序盤だと手頃で有用なんだしさ」

「ここらの金属製のガラクタ投げつけた方がマシじゃね?」

「一応家から鉄菱は複数持ち込んでるけど……確かに手頃な大きさだね、タダ《無料》だし貰ってこっかな。……これってアレかな。ゲームでいう正体不明シリーズの金属片」

「かもな。現実にゃただのガラクタにしか見えねえが……たしか詳細鑑定したら極低確率で高価値のが混じってるんだよな」

「それそれ。まぁ嵩張るしウチには簡易鑑定魔導具しか無いから金策にはならないけど。今はダンジョンで使えそうなのだけ貰ってこ」


 原作ゲーム中に存在した価値の低いアイテムは現実にもたしかにあるようだ。

 ただ原作ゲームにはあれど、学園で取得可能であった高価なアイテムは軒並み見つからない。

 前世持ちが他にも存在するのかは定かでは無いが、これが現実というものなのだろう。そもそも使用可能且つ高価な物品が捨ててある事自体おかしいのだから、この場に見切りをつけてさっさと去る事とした。


 ◇


 二人して煩悶としながら職員室に到着。職員室に入った時、妙にじっくり見られるような悪寒がして身構えてしまったが、今思い返せば簡易鑑定を受けたのだろう。うちにある簡易鑑定魔導具と同じ感覚だった。

 そんな感覚を振り払って、装備科室長を兼任する牛筆教員と会ってからしばらくしてマッキが直剣とスリングショットをまんまとせしめる。驚きの口車で原作ではひとつしか貰えなかったのにふたつも装備品を獲得だ。これは魔性の女ですわ。まあ牛筆教員側が話の水向けて来たおかげだろうけど。


 この牛筆という教員は刈り込みだったりいくつもピアスをしている見た目裏社会の若頭という風体の平民教員だが、女子生徒には無茶苦茶甘いというので現世の学園外部掲示板でも有名な名物教師的な存在だ。現代学園が舞台のホライゾンシリーズではまさかの全作品出演というお助けキャラでもあって、パーティメンバーの女子生徒が装備品を持っていなければ無料で譲ってくれるので序盤で接触は定番だった。

 ただこの20数年後の刀京魔導学園にいるという事は、同じ時代設定である大阪京都が舞台だった『ホライゾン~陰陽の狂騒~』などにはいないのか、はたまた同姓同名の人物が勤務しているのか気になる所だ。天州国内に大阪京都の位置関係は確かにあるのだが西部地域内であって、こちら刀京がある東部地域からでは検索不能だったので確かな事は分からない。

 彼をざっと見た所、体幹移動や仕草からして怖さは感じないが教員相応の力は持ち得ている筈で、今戦えば十本中一本取れるかどうかだろう。


 そんな事をつらつらと考えられる程度にマッキーと牛筆教員の会話は弾んでいる。周囲に目線をやって確認したが混沌(カオス)モードとは思えないほど平穏なので少しだけ張り詰めていた気を緩めている。同じ教師が複数いたりしたら即帰宅してたかもしれない。


「――それで昔友達だった徳岡って子がこの学園を目指す的な事言ってた気がしたからもしかしたらーてな感じでして。連絡先分からないけどまた会ってみたいなーって、牛筆先生は何かご存知じゃないです?所属クラスだけでも分かれば嬉しいなーって」

「徳岡なぁ、悪いがまだ一年の生徒は覚えきれてなくてな。少し待ってくれ……あー徳岡って女子はいないな。男子ならE5組にいるが……」

「「男?」……男子?だと人違いかもですけど、何で妙な顔してんです?」


 思わぬ回答につい疑問が口に出てマッキーと顔を合わせたが、その後すかさず情報収集に乗り出すマッキーは頼りになる。が、そう言って牛筆教員が見ている魔導端末を見ようとしても身を寄せても無駄だろう、他人からじゃ真っ黒画面にしか見えないぞ。

 そう思っていたらマッキーは流れるように胸を強調して牛筆教員の腕に当てていた。なんというあざとさ……これが女の武器ってヤツなのか。

 私が内心で戦慄していたら牛筆教員が自然な仕草でマッキーの肩を押して身を引かせた。フラれてやんのっと、ぷふっと口から空気が漏れたらマッキーから眼光が飛んできた。おおコワイコワイ。


「コイツはちっと訳ありの生徒みたいだな。寄付金も家柄も問題無いのにE5組配属って事はそういうこった。まあE5組の生徒に会うとしても様子見してタイミング見計らった方がいいぞ。お前らが想像もできん幼少期を過ごした生徒なんかも集められてるからな。そういうのは性格も大分荒れてんだ。意味不明な逆恨みされてもつまらんだろ」

「えー、すごー。探校ってそんなひとりひとり入学生を調べるんです?」

「まあな。成人して探索業に足を踏み入れる生徒なんだ。一般の高校より詳しく身辺調査は行うさ。明らかな不穏分子を貴族生徒や関係者に近付けるわけにゃいかないからな。E5組っつうのはネットで言われてるようにギリギリ生徒として学園側が面倒を見れると判断できたボーダーラインなんだよ」


 教師がそんな事言っていいのかと内心で若干評価を下げつつ、牛筆教員が教員用魔導端末で色々操作しているのを見てマッキーは残念そうに肩を竦めた。これ以上の情報収集は無理、とそんな感じ。牛筆教員は空気を入れ替えるように話題転換。


「にしても入学式直後からダンジョンアタックか。やる気があって大変よろしい。だが無理はしないように。資格試験兼ねた受験合格してんだから知ってるだろうが、ダンジョン内に巡回してる警備員もいるから危険だと思ったら恥など忘れて端末から救難信号を出すようにな」

「あ、それってダンジョン管理組合の受付で貰えるっていう緊急用狼煙とはまた別なんですよね?」

「そうだな。狼煙は魔物忌避剤も含んでいて、まぁ救難信号兼魔物除けになる。一部の魔物は臭いを気にしないから狼煙は余裕が出来たらあげるのでいい。まぁ狼煙は巡回員もいないような階層を数日掛けていくようになってからお世話になるかも程度だ。浅層にいるうちは端末からので十分間に合う。狼煙の出費はバカにならんからな。それでも本当に命の危機を感じたら迷わず着火するようにな」


 はーい、なんてどこから声出してるのか謎な猫なで声が横から届く。楽しんで男を揶揄う所がある猫かぶりモードのマッキーに内心で肩を竦めつつ、もうひとりの事、天垂(てんすい)部長を思い返す。

 彼の姿は影も形も無かった。苗字や名前すらかすらず、新二年にも三年にもおらず別の学校じゃないのかと首を捻られた次第だ。ガッデム。

 そんな事を考えていたら会話のボールが飛んできた。


「あー、そっちの雪小路と言ったか。見た所お前も武器持って無さそうだが俺が造ったもんで良ければ支給するぞ。槍は長さも重さも幅広く、大盾、棘盾に薙刀から直刀、複合弓、メイスに大剣直剣、サブ用でもスリングショットに投げナイフ、たいていのもん揃えてるぞ。何がいい?」

「はい?いえ、それはちょっと悪いと言いますか無いと言いますか。鞄に中学時代から使っていた戦帯《いくさおび》入れてますのでお気になさらず」

「ユッキーは昔っから【巫女】一筋なんですよ、道場だと色々使ってましたが戦帯の扱いも天下一品です」

「ああ、戦帯《いくさおび》かぁ。わざわざこの学園に来たのに【巫女】志望とは珍しいな。だがそいつはさすがに俺も専門外だ。んー、使い慣れているのもいいが、この学園から渡せる装備品はそこらのと一味違うからな。どれ、神祇省から出向してる知り合いが社《やしろ》にいるからそっちに話つけてやるよ」


 用事もちょうどあるしな、そう言って牛筆教員が連れていってくれた学園内にある社《やしろ》は元から出むこうと考えていた所で都合が良い。さらにゲームならば簡単なお使いを頼まれる所(サブクエスト)を牛筆教員のおかげでスキップである。ありがと筋肉若頭(わかがしら)。


「武器防具はちゃんと【装備】するようにな」

「あっはは、先生ーさすがにそのぐらいちゃんとしますってー」

「その様子なら大丈夫そうだな」


 マッキーは鞘に納まっている直剣をにこにことご機嫌に叩いて自信ありげ。魔力の扱いに慣れていない生徒には【装備】が最初の関門と言われている。自身の魔力を物体に通す事にすら初心者は苦労するものなのだ。

 私が初めて魔力を得た時分は年齢が低かったせいか魔力を動かすだけでも数か月ほど掛かった。何とも懐かしい事を思い出させられたものだ。

 感慨にふけっている間にも、マッキーは社《やしろ》の職員からさらに救急箱(包帯・回復薬セット)も無料でせしめていた。恐ろしい手並みだ。

 教員達にお礼を言って別れて、いよいよ学園ダンジョン初アタックである。あ、その前になんかギルドで作らなきゃなんないんだっけか。まあマッキー(班長)に任せよう。うん。


「マッキー馴染むの早いよねぇ。牛筆教員もデレデレだったっぽいし」

「アホ。思ってた以上に先生してただろうが。もう十五年女やってっと紳士か否かの判別なんざお茶の子さいさいよ。オレん中では牛筆っちは紳士判定だな。まじで。それにまっユッキーと違ってオレコミュ強なんで!」

「ぐぬっ。否定したいのに否定できない」

「いや中学ん時女子連中から遊び誘われて一言で切って捨ててるのは傍から見ててちょい呆れたっつうか、ユッキーって相変わらず女子と話すの苦手だよな。かなりアレだったぞ精神三十路にあるまじきアレ」


 探索者志望の畜生が混じってただろうが。背中見せたら刺して来るんだ私知ってる。それでも負けないだろうが見知らぬ一般の子を気遣ってケンカなんて当時は面倒過ぎって考えたんだろうね。だから即拒否した私はワルクナイ。


「あーあー聞こえナーイ……はぁ、いっぺんこっちが上位だって分からせた相手なら普通に喋るよ?」

「それは普通って言わねえ。まっ何にしてもダンジョンか。頼りにさせて貰うぜ。徳岡さんは残念だけど見つからんし仕方無ぇわ」

「ん、部長も見当たらないのはまぁそんな気してたし。でも職員室も社も異常無さそうだったのはちょっと安心した」

「おう。カオスモードが反映されて同じ教師が何人もいたら病院駆け込む所だった。とりま現実は現実って事だな。てことで直近目標は目指せレベル5でジョブ取得だぜユッキー」

「ラジャり。ゲーム並の高効率で気合入れていこ」

「まぁ一般人は数年かけての長期間、探索者養成校でも確か数か月掛けての目標なんだがなジョブ取得。だから焦りは禁物な」


 ゲームでジョブ厳選の為に何百回とやり直しした作業(リセットマラソン)。ゲームであればムービーやら会話などはスキップ設定でゲーム開始最短5分もあれば達成出来た。狙うジョブにもよるけれど。

 ただゲーム内ではジョブ取得と同時に週があけて一週間経過した事になる。この現実でも一週間以内でジョブ取得は非常に珍しいけれど過去に成し遂げた人はいたらしいので出来ない事でも無いだろう。


「浅層なんだしいけるっしょ。あーやっっっっとダンジョン探索っ!長かったなぁ……。探索者配信見て何度歯ぎしりした事か。私ならこうするのにっって。まあ朝見た探索者配信は酷すぎて逆に笑ったけど」

「あー天州ニュースに出てた【正しき勇気(ジャスティスブレイブ)】の配信か?オレも聞いてたけどありゃ今頃撤退してるだろ。フータが攻撃外したっぽいしあの配信はああいう芸風で、もはやコメディ。逃げ方とか命大事にって啓蒙の配信だわ」

「そんな崇高な目的ぜったい無いと思う」

「そか。まぁオレは配信切り替わった後のニュースの方が気になったがね」

「何かやってたの?」

「帝居周辺に加えて中央区に新兵器を配備完了したってニュース。ほれ、一か月前くらいに大々的に発表してたっしょ。それがようやく実際に運用開始だとさ」

「あー、アレ意味あんのかね。地下から魔物なんて滅多に出ないのに」


 刀京府の地下街に出る野良ダンジョンは即潰しされているようで15年間ずっと平和だった。まあ私が知らないだけで、地下街といっても広大なので他地域ではあやしい所もあったのかもしれない。

 建物の屋上に配備された可動式の固定砲台群。全周360度の可動域、俯角は地下トンネルへ向けれるし仰角は天頂まで狙える。地下街ネットでは地上に繋がるトンネルを抑える貴族の恫喝だとか何とか被害妄想染みた発狂をしていた者さえいた。


「さぁな。どのホライゾンシリーズでも見た事無いしなあんな固定砲台群。あ、タワーディフェンス系のSFモノならあったか。まぁオレらも探校通いで地上に出てくるんだし防衛力向上は歓迎じゃね。聞いた事無い兵器開発企業だったけどさ、スポンサーが一般貴族家だったからちょい引っ掛かったんだよな」


 一般貴族家て……、まぁそこらに一杯いる男爵か子爵ってとこか。下級貴族なんて呼び方して誰かに聞き咎められたら面倒だもんね。そんな話をしながらもマッキーは魔導端末を操作中。


「……端末にある学園教育課程(シラバス)を読む限り、ジョブ取得は期末試験項目になってるな。出来てなければ夏休み補講で学園ダンジョンへ呼び出しだとさ。あと二年への進級試験はレベル5が前提になってる。レベル5未満は留年か退学」

「その辺りは事前情報通りだね。まぁジョブ得たらスキルやら魔法やらですぐ分かるだろうけど。で、卒業最低ラインがレベル10。E組卒業生の多くがレベル15前後だったっけ」


 そして民間クランのトップ層がレベル30あたり。探索者装備販売店《ウチ》に来る上客がレベル25前後というので間違いない。貴族は彼等彼女等が束になっても軽く捻れるっていうからレベル40か50くらいはありそうだとホライゾンシリーズ世界共通の設定から想定済みだ。レベルの概念が無い映画やアニメや対戦ゲーは除く。

 個人毎に成長限界があり、限界が低い者はレベル10にもなれない世界。一般人が探索者に転向しない理由がコレだ。そして一般的では無いが魔力を得る(ダンジョンに初侵入する)時期が遅れれば遅れるほど、この成長限界は低くなる、という設定がホライゾンシリーズにはあった。オジオバジジババになってからダンジョンに入ってもギリギリジョブを得られるかどうか。これも私達が幼少期にダンジョンに侵入した理由のひとつだ。


 だがまぁ、どれだけ魔物を倒しても経験値が得られないレベル上限(カンスト)状態である成長限界に達しても、限界突破クエストや超越クエストをこなしたり、ジョブ進化(クラスチェンジ)すれば上限は伸びる。

 筈なのだが……民間人にはそれら試練系のクエストの存在が伏せられている感じがする。この国で何と呼ばれているのかも分からず検索しても確たる情報は一切出て来なかったが……あやしい予兆のような噂は存在していたので、必要な時期になれば当然当たる予定。


 限界突破や超越クエストは必要アイテムや条件も複雑だが、原作ゲームでは敵キャラとして出てきた貴族家に突撃すれば大抵が何とかなった。

 だが現実で貴族家に突撃なんてすれば家族に迷惑掛かる所の騒ぎじゃない。一族郎党切腹させられそう。

 人生プラン的にも情報収集が重要だなと骨身に染みる。


 また存在(種族)進化は完全にジョブとは別枠。魔力が高まったら【昇魂】という現象を経て人外へと踏み入れる。民間では極一部のトップ層のみ、誰でも知ってる有名企業所属の探索者たちだ。フリーの配信者となると見当たらない程度に希少。だが存在進化した探索者が所属する探索業系企業(クラン)や傭兵団はやはり名高く有名になり相応に称えられるので時々ニュースなどで見掛ける事が出来る。また貴族は存在進化に至っている者が多いと言われている。


「まぁ生産職になったりしたらレベル上げも大変だろうしね……生産職になった子ってこの学園じゃどのくらいいるんだろね?」

「技術棟も部活もあるんだしそれなりの数在籍してるんじゃね?いや、でも待てよ。時系列関係無しに牙閃キャラが同学年にいるなら生産職も、鍛冶のメッチとか裁縫のりりもいるだろうし、有能で信頼できそうな人集めるのもツテを作るのも案外楽にいけるんじゃ……」

「ちょちょちょーい待ち。現世はゲームじゃねぇってマッキーが口酸っぱくして言ってたろうに急にどうしたの。ゲームで性格が良くて誠実だったからって現実でもそうだとは限らんでしょ。ゲーム主人公(ヤツヒコ)がすでにアレだったよね」

「ああ……そうだよなぁ。でももしかしたらって思わね?ほら空梅ちゃんとかさ」

「えーっと、キューピッドの子の事?まあ、確かにありえないほど良い子だったけど」

「だよなあ。ちょっと滾《たぎ》って来たぜ」

「あ、これは、うわぁ……」


 目がマジだ。これは本当にたまに見る本気の本気で真剣モードなマッキーの顔。

 ゲームでは巨乳でスタイルも性格も良かった空梅ちゃんをどうにか仲間に引き入れようとする算段を脳内で計算してるのだろう。

 若干暴走気味のマッキーを見て少し引きつつ、まぁ楽しそうで何よりだと苦笑した。

 見上げた空は天高く、まだ朝の香りを残す気持ちの良い春風が頬を撫でていく。




■■■ ■■■ ■■■


〇習得結晶(スクロール)

 魔法習得結晶(スクロール)や技能(スキル)習得結晶(スクロール)と徒人に呼ばれる結晶体。魂と霊格神経の記録を宿した物体で、主に精霊が、または極一部の上位種族が、神々の神秘に記された記録を盗み見て創造する半物半魂の一種。彼等は造った結晶体をひとしきり愛でた後は執着も薄れるのか世界各地に放棄するようだ。故に作成者の熟練度や気性次第で質にひどくムラがある。

 そして精霊という種族は総じて悪戯好きであり、彼等の多くは魔物の体内に結晶体を仕込むといった遊びを繰り返し続ける。すでに幾度も神々による大破壊や大崩壊を経験している稀有なる種族であり、徒人が考えられる年月を超えてなおその悪戯な気性は不変であるので、もはやそのような理《ことわり》として構える他無いだろう。

 魔術と呼ばれず魔法と呼ばれる理由は明確ではないが、アタリの習得結晶(スクロール)を引けば術式を構築していないように徒人には思える為だろう。実際は肉体・魂の双方に根付いた習得結晶(スクロール)が術式を代行構築しているに過ぎない。

 逆にハズレとされるモノとなると、宿主の魂を侵食し食い荒らした後に崩壊するといった、いわば時限爆弾のようなモノとなる。

 もちろん有用な習得結晶(スクロール)であれば宿主の適性に沿った魔術や技能を長年使っていたように馴染ませるモノとなるし、宿主を護ろうとさえするお行儀の良いモノさえ存在する。

 魂を知覚する種族からすれば、魂に残骸や残りカスを埋め込むようなもので「醜い」と断ずる者が多いが、手軽に強くなりたいと望むヒトにとっては余計なお世話といった所か。これらを運用する術《すべ》は一部のヒトのみが隠匿しているようだ。当然ながら完全に制御しているとは言い難い上に、そのようなヒトの住居には精霊が人知れず居座っている事も多く、彼等は楽しむ為に今日も陽気に手を加えているだろう。

 幸か不幸か、彼等は魂に直接悪戯をしない分別程度はあるようだ。習得結晶(スクロール)の使用に踏み切る手綱は常にヒトに委ねられている。

 だが忘れてはならない。彼等精霊は、徒人を基準にした良し悪しなど気にも留めない。彼等が目指すモノは限りなく神へ近寄る事なのだから。



〇牛筆(うしふで)重光(しげみつ)

 32歳。国立刀京魔導学園の高等部平民用装備科室長 兼 鍛冶指導教員。

 アラサーという言葉を最近知ってしまったようで若干気にしているナイーブな旦那(ナイスガイ)。

 年若い頃から妻一筋。記念日には必ず花を買って帰宅する。教職資格を得るも女人は苦手という理由だけで男子校に勤めようとした所、せっかくの鍛冶の腕を腐らせるのは惜しいと妻に懇々と説得され探索者養成校の教師となった。勤める事十年。すでに教師としてベテランの域にあるが戦闘実技は容姿に似合わず苦手なようで今日も生徒の為に鉄を手に取る。

 探校生だった当時、班《PT》を組んでいた女子生徒が粗末な武器を手に魔物から彼を庇い儚くなった事が心の傷に残っている。ピアスの数は亡くなってしまった生徒を偲ぶが為。命を繋ぎとめる一助となると誓ったその祈りと誇りを胸に、昨日も今日もそして明日以降も教職の傍ら鋭さよりも耐久性を、折れない武器を打つ一念をもって鍛冶仕事へと尽力する日々。

 ジョブは種々様々な武器を打ち鍛える【中位鍛冶師《ミドルブラックスミス》】。レベルは23。天州東域の平民の生産職としては上澄みに当たる。

 彼の武器を使った探校生はプロとなってからも愛用する者が多く、卒業後も鍛冶素材と菓子折り携え訪う者が絶えない。現金を頑として受け取らない彼は、鍛冶素材よりも妻や子への土産となる菓子の方をこそ喜ぶ。



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