5話 入学式
◇ ◆ ◇
入学式。肌寒くも爽やかな薫風に暖かな熱を伝える春光が華やかに髪を撫でていく。これが地上の自然かと頬を上気させて、これから始まる輝かしい日々を夢想して胸を高鳴らす新入生達を眺めて思う。
「一ヶ月後に何人くらいお目々曇ってるかな」
「ユッキーてほんとそういう所ブレんよな、なんでそんな陰キャ菌醸し出すんだよ」
「菌言うな醸してねぇわ失敬な。お目々キラキラした子達でもクソ畜生どもが混じってると思ったらつい漏れちゃっただけですぅ」
「ああ、小学ん時の……どんなキテレツ生態してんのかと思ったわ」
まあそんな事をうそぶきつつも私自身もその一員なのであるからして。
ホライゾンシリーズで見た事があるような教員が何名かいるのを確認して式が始まるのを待つ時間は退屈だ。
ひらり、と
どこからか入ってきた桜の花弁をつまみ見回す。球場のようなでかさの体育館。
いや上段中段下段と別れている構造からして、コンサートホールや巨大映画館のほうが印象としては似ているか。どちらにしても数千人を収容する規模の建物がいくつも建ち並ぶ学園敷地内はどこもかしこもデカイの一言だ。
デカイと言えば隣に座る金髪だが、私と同じ平民用制服であるのに今朝鏡で見た私の印象と随分違う。
袴とブレザーのあいの子のような濃灰色に一年生を示す赤いリボンタイがワンポイントの可愛らしいものであるのだが、何が違うのだろうか。妹ちゃんと時々ファッション談義しているくらい女子なマッキーであれば答えを知っていそうだがここで聞くのはさすがに場違いだと私でもワカル。
なので他の新入生と見比べてみようかと眺めまわせば、初々しい顔の少女達がチラホラと。ふむり、後方年長面でただ良いとだけ頷く。どこが具体的に良いのか分からないが、やはり女子高生とは華やかなもので、こんなバイオレンスの真っ只中を突き進む探索者養成校に来るとは思えないほど可愛い子が多い。女子高生か……前世じゃ部長に熱中する子ばかりで男子なんぞ視界にすら入らない感じばかりだったので、きょろきょろと見回したりしている初々しい感じの子を見つけると心がほんわかする。
だがしかし。
探索者志望の子は、物理的に噛みついてくる狂犬が多いと私は知ってる。ひとたび牙を剥けば人相が鬼も逃げ出すような面に豹変するんだ。どんだけ普段は可愛らしく見えても、その心内には暴の字が刻まれている。だからまぁ遠くから眺めるだけでいい、経験上近寄ったら男子も女子も等しくケンカ開始のゴングを鳴らすのだ現世の同年代は。マッキーは本当例外だね。やっぱ前世持ちじゃないと話す事もままならないのかもしれない。そんな事を言ってたらマッキーに鼻で笑われた記憶もあるが、それはともかく、私と同じく辺りを見ていたマッキーが呟く。
「にしても女子少ないな」
「ね。聞いてたけどやっぱ1年目の道場稽古に耐えれる子は少ないんじゃない?」
「そりゃな。オレでもきつかったし、って考えると多く思えて来たわ。みんな根性あんのな」
「まあでも学生生活大変そうだねガンバレーって感じかな」
「お、なんだぁその他人事みたいな感想」
「捻くれた受け取り方する馬鹿メロン面倒くせー」
「あァ?毒ロリに言われたくねー」
「ロリじゃねえっつの。胸あんだろ目ん玉洗ってこいや」
摘んだ花弁を手のひらに乗せてマッキーへ抗議するように息で吹き飛ばす。
女子率は、四人に一人程度か。前世の自衛隊の男女比は確か一割切ってたというようなニュースを聞いた覚えがある。
それを踏まえると多いとも取れるが、ココは全国に数多くある魔物ぶっ殺し養成学校である。ここだけでの人数差など考えた所で仕方無い。地域差もあるだろうし、ウチの中学だけを見れば男女比なんて30対1くらいになってたし。
まあ、この武器武装を日常で見かける物騒な世界でも真っ当な感性であれば一般職を希望して暴力とは縁遠い一般の高校や大学へと進学するのだろう。
だが何にしても暴力事件のラインが緩いのは間違い無いし、弱者のままだと生き辛そうに思う。
一般の高校や大学でも魔物討伐実習などは組み込まれているそうなのでそれで最低限の自衛力は養える、との事だがはたして……。戦力値が高くなると一般職種に従事してても強制的に徴兵されるそうだが、真剣に取り組むタイプは探索者養成校に行くので、一般人で戦力値が高い者などほぼいない。
この国で幸いなのは強者への道が明確に開けている事だと私は思う。暴力限定だけど。権力財力は出生ガチャの幅と壁があり過ぎるから。
まぁ私も原作知識が無かったら、家から出ない人生を選んでいたかもしれないから強くは言えない。戦封じを着けられようが魔力の有る無しで絶対生き方変わるし。
ついでにさらっと見分けただけだがゲームと同じく男子はネクタイの色で学年分けされており、上層階にいる貴族と士族の生徒は濃灰色基調の服では無く白が基調色となっているようだ。これは純粋に分かりやすくて助かる。貴族関係者である白服には近寄るなという事。
「秘めたる美の高尚さを解さぬバカメロンはこれだから。ワビサビとかほら日本伝来の美というかそういうのがこの身に詰まってるわけ」
「意味理解して言ってんのかロリっ子。てめえこそ何も考えてねーだろ。って、あっ。尾歩根と目があった」
「尾歩根?どこ」
「ほれ中段の最前列の端っこ」
「あ、いたってうーわ、めっちゃ見てきてんじゃん。アイツもここに入学したんだね」
「まじかぁ。全く知らんかった。尾歩根よく受験資格満たしたな。中段って事は編入組なんだろうが、ふつーに腐れ縁も中学までと思ってたのに」
「わたしは小学別だったし中学もクラス別だしでそこまでじゃないけどね。彼マッキーにぞっこんだからなぁ」
「やめれやめれ。アイツのはそういうんじゃねーっつの」
前世からの知り合いその2の残念系転生者の尾歩根蚊問。
恐らくダンジョン突済みで前世持ち。中学が同じだったがクラスも選択授業の道場先も違った。
彼は前世と顔つきはほぼ変わらず体格も周りがゴツい分あまり目立たないが前世とほぼ同じ感じのぽっちゃり体型。この世界じゃ一般人でもあの体型は珍しい。中学時代にマッキーと事ある毎に衝突してきた腐れ縁でこちらをオカマ野郎と罵って来たものだ。ただ一人称オレなマッキーでも外見だけは美少女なので、周りからは意味不明ないちゃもんつけるクソガキ認定されていた少し可哀想な子である。
広い空間内で下段に集まる平民生徒の中に混じりマッキーとそんな取りとめないやり取りをしつつ待ち時間を過ごした。
中段・上段にいるのは貴族・士族とその保護者達でもちろん椅子というか革張りのソファだ。保護者はお断りである下段の平民生徒にも椅子はあるが、そのグレードを比べると社長と平社員程度に開きがあり我々下々は情緒の無いパイプ椅子。椅子があるだけマシなのだろうか。原作シリーズでは地べたに体育座りが多かったし。
世知辛い、とため息を隠して深呼吸。そう観察する内に入学式が始まった。
◇
長々と続く来賓の挨拶が終わり学長代理というおじさんによる入学式最後の挨拶。
やっと終わりかと息をもらせば、壇上に教員が並び「本学園生徒はまだ移動はしないように、これから学園生活を送るに当っての注意喚起と魔導端末契約の冊子を配る。確認し手に取るように」というマイクによる拡声の後、何らかの魔法による超常現象で冊子が宙空を駆け巡り生徒ひとりひとりの眼前にまで届く。
目の前に浮遊するその冊子を手に取れば、空欄に自身の名称が浮かび上がった。
何とも不思議なオカルト現象である。
さらに「冊子を開くように」という指示に従えば紙面から、まるで水面から浮かび上がるような波紋を広げつつスマホのような端末が冊子から湧き出てくる。その端末がほのかに輝く粒子に変化すれば体の中へ吸い込まれるように消えていった。
もう大分細部を忘れているけれど、この魔導具の挙動はさすがに覚えてる。
ホライゾンシリーズ現代学園もののオープニングムービーにあったヤツだ。確か、初出は【ホライゾン~学徒の牙閃~】だっけ。映画でも出てきたし。ほんと、やっとここまで来たんだなあ。
内心ほくほくしながらマッキーを横目で見ればお互いに目が合いどちらからともなく頷き合う。
マッキーもホライゾンシリーズ世界の片鱗に思い至って胸の高鳴りを覚えていそうだ。
「さて、説明も不要だろうが冊子を手に取る事によって魔導端末契約を為す、同時に学園関係者として認定される。ようこそ国立刀京魔導学園へ。私は高等部一学年主任の木馬寿成だ、富久志馬府の木馬子爵家当主相談役も務めている。本学園へ入学おめでとう生徒諸君。これから貴族平民問わず本学園での生活において最も注意すべき、遵守しなければならない事項を伝えるのでしっかり覚えておくように」
ピクリと反応。木馬といったら原作キャラである。
学園サイトの教員名簿でも見知っていたが、生で見聞きするとやはり違う。纏う空気を感じられるし、何より若々しい容姿なのだ。
魔力値が高いと老化も緩やかと聞くし相当な高レベルなのだろうか。人間にしか見えないがもしかしたら存在進化もしているのかもしれない。いやしてるかきっと。貴族なんだし。
「まず最初に本学園学長室には学長御自らのお招きが無い限り近付いてはいけない。絶対にだ。近づいた際もし事故が起こった場合でも本学園は責任を一切負わない事を先に伝えておく。貴族生徒で知らない者は父兄の方々に2001年のお家断絶騒動について聞いておくように。詳しい事が知りたければ近現代史を受講したまえ。まぁ職員が詰めている中央塔の最上階に近寄らなければ大丈夫だ。階下には教員室の他に警備室ほか諸々があるし貴族家の警備員も常駐している。近寄ろうとしても近寄れないだろうが腕試しなら担当教員相手に存分にやってくれ。繰り返すが学長室には近付くな。次に―――」
学長、この刀京魔導学園の公式サイトでも顔写真を掲載せず姓名すら載せず経歴すら不明。ただ学長としての役職を持っている存在がいる事しか分からない。原作ゲームやアニメ通りの存在であるならば関わる事も無いので放置一択という相手。
なので彼の話は聞き流して冊子の内容に目を落とす。これによると授業などの一部科目は前世の日本とそう変わらないが、魔法基礎学や魔術式学、魔導構造学、ダンジョン情報学に魔物生態学などの科目も発見。小学生の時に初めて見た際には興奮したものだが、今となっては微妙に苦手の域に入る暗記科目だ。しかも原作知識と比較出来る箇所では大きな差異があったりして油断ならない。中学まででも超常科目はあったが探校ではさらに多岐に分かれているようで、項目名を見ただけでも渋面になってしまう。
刀京魔導学園独自の教育課程はパンフにも載っていたけれど本当に科目が多い……正直歴史とか古語とか数学Ⅰとかより断然興味があるが授業で受けたいかというと微妙。小難しい書かれ方がされていて眠くなるのだ。しかも原作知識の方が正しいと裏付けを取って来た身としては魔法基礎学とか学ぶ意欲がだだ下がり。
例えば私達がしている霊格神経の拡張訓練や魔力操作などに関しての情報は特にひどい。
未成年は魔力が無いという前提だからでもあるが、具体的な訓練方法など何ひとつ書かれておらず、仮に事故などによって例外的に魔力を得られた場合は「運動などせず疲れを感じれば危険だから休め」などと書いてある。
確かに安全性においてはこの上無く正しいが、魔力値の向上という観点では完全に真逆である。
他にも色々と長々と記述がある科目だったがまとめると『魔力関係の事柄は危険だから関わるな・するな』の一点張り。正直どうかと思う。それでいて、やれこの文字の相性はこちらの陣と良いだとか、特定の獣文字は術式に混ぜてもよい例外があるだとかの覚える学習量が半端無い。
実質的な力を付けさせないこの教育形態は、貴族や有力者以外に力を得させない思惑でもあるのだろう。
貴族も貴族だけで魔物と戦いたく無いから、ある程度の情報は流して平民に少しは力をつけてもらう。けれども貴族に刃向かえるほどの力を付けさす情報は絶対に流さない。逸脱する者には監視や捕縛・厳罰を、という所まで想像出来てしまうのがこの現代貴族制社会。
これが真実推測通りなら原作知識そのまんまのクソ貴族が多いという事になってしまうが、原作知識通りなら主人公くんちゃんが世の中を良い方向へ20年前くらいに改革してくれているエンディングを迎えている筈なので違和感が残る。ちなみに原作シリーズの歴代ゲームや映画の主人公ネームを検索してもそんな名前の偉人著名人はヒットしなかった。有名ショップや義賊等はいたのに、謎である。
現実と整合性を取るのであれば、貴族と民間で情報の綱引きが行われており、魔物被害が増えれば有用情報が貴族から流れ、魔物被害が落ち着いてくれば情報が隠滅されていくのだろう。この情報化社会で情報隠滅を可能とするのはやはり神の恩恵の力が思い当たる。【電脳士】や【呪言士】といったジョブであれば十分可能性がある話であるので。
閑話休題。
超常科目の他に体育に相当するであろう教練、身体実技は細かく刀術や弓術や槍術などなど多くの科目へと枝分かれしている。魔術実技も同様。中には個人的に全く関係が無い領地経営学や魔導縫製学、魔導鍛冶実技、造園植栽演習、伝統工芸(天州国東域)総合なんてのもあった。この学園に来て農業志す人なんているのだろうか?もしかして探索業に挫折した生徒の為だろうか。挫折したなら転校しそうに思うが、どうなんだろう。
「―――となる。次に本学園が所有する東エジアTN0014ダンジョンを探索する場合は事前に教員またはダンジョン管理職員へ探索許可申請をするように。ダンジョン管理職員は学園外の一般探索者応対もしている為、学園生は可能な限り教員の方に申請するように。申請許可無しでダンジョンに侵入するのは犯罪者として捕まるからな。申請は冊子の契約魔導から更新された学生用端末から可能だ。知っている者も多いだろうが個人所有となった魔導端末は【端末呼び出し《ターミナルコール》】と【端末収納】の起動鍵によって任意に個人領域への召喚また収納が可能となっているはずだ。
出来ない生徒はこの説明終了後にこちら教員席の誰かに伝えるように。諸君ら生徒は進級試験また入学試験でもってダンジョン情報基礎知識を持っている事を証明している為、ダンジョン探索資格をすでに所有しこの魔導端末でもって認定・交付している。よって申請し忘れなどすれば罰金支払いの他にダンジョン情報学を履修して貰う。違反を繰り返せば資格停止・取消もある為、特に注意したまえ。情報学に限らず講義単位は今からでも即座にテストを受験する事が可能で問題回答資格付与は全て端末を介して行われる。知識に不安な者は空き時間にでも受けておく事を推奨する。次に―――」
前世で言う大学とほぼ同じ単位制ではあるものの、座学単位は端末でのテストで大体取得可能というゲーム都合のような便利さに『ファンタジー…』と口の中で呟く。さらにはドロップアイテム納品で単位取得が代替可能。受験時に調べた通り、ゲームと同様に授業そっちのけでダンジョン攻略すれば進級も卒業も可能なようで何よりだ。
仲間キャラ加入イベントを起こす必要が無かったら全コマDAにしていた前世のゲームプレイを思い出す。入学式前にパンフレットを見ながら可能な限りDAを入れると相談済みだし、この調子なら予定通りに出来そうだ。
「―――だ。入寮する者達は冊子裏側の学園周辺地図ページ下部に個人毎の寮番号、部屋番号が記載され――。――諸注意の細かい所は端末の【学園生活のススメ】項目で各自確認しておくように。また所属教室番号も記載されているので確認して明日以降の朝8時には席に着いておくように。HRは毎朝あるが日を跨ぐDAなどで欠席する場合は端末で事前に申請を―――」
冊子を裏返し寮番号欄と部屋番号欄を発見。もちろん私達は空白のまま。自宅からの通いだからだが事前申請通りなようで何より。
「―――以上だ。さて長々とした注意事項だったが、最後にひとつ。君たちはわが校の生徒として恥じぬよう、常に身を清め心を律し礼を正しておくように。どのような御神霊さまのご加護であれ其れは大いなる慈悲であり天州国の盾であり鉾である事を、感謝の心を努々《ゆめゆめ》忘れぬように。では、ここ国立刀京魔導学園で学び、勤しみ、規律を守り、肩を並べて未来を共に創っていける仲間となってくれる事を我々教員一同は君達に望んでいる。精進したまえ。では解散」
御神霊さまのご加護というのはいわゆるジョブの事。ジョブの事は神の恩恵とも言い換えたりするが、先の言葉はとても丁寧な言い方で時々歴史の授業なんかで聞く単語だ。
にしても現実となると一言二言で終わらないようでとても長かった。
失礼ながらまさかこんなに長々と説明する真面目な教員だとも思わなかった。
彼は映画では未出演、ネットゲームではチュートリアルイベントでちょい出てくるだけだが、格ゲーの方では居合侍キャラとしてがっつり登場する人である。ただセリフは全体的に短く無口でコミュ障オヤジ呼ばわりされていたキャラでもあった。
それに入学式の途中で、隠しボスである学長も出てこなかったし、やっぱり原作と現実は違うようだ。
解散の声からしばらくして、ガヤガヤとしたざわめきが辺りに満ちる中で両手を頭上に突き出し背伸びをすればぱきぼきと音がなる。そこにマッキーから肩を叩かれ目線をやればキラキラお目々が眩しい笑顔にコンニチハ。睫毛長っ。
「ユッキー魔導具試してみようぜ」
「あ、そだね。オッケーんじゃ早速、【端末呼び出し】」
まずはと試してみれば身体から小さな粒子がふわっと広がり手のひら上へ収縮し端末を象った。問題無く起動鍵によって魔導端末の召喚が出来た事にほっと一息。
周りを確認すれば私と同様に呼び出している者がそこそこいる。一般新入生からしたら契約料金無料で使える高性能スマホを貰ったような感覚だろうからそりゃ歓声もあがる。
あまりに都合が良すぎるから、少し疑り深い者なら魔導端末の契約に尻込みしたかもしれない。
全員が全員魔力持ちな筈も無く、私やマッキも戦封じを装着しているので魔力0。なのに操作可能であるのは、魔導端末の契約文言を見れば分かる。『契約者(生徒など)が召喚・操作・収納といった行動時に消費する魔力は契約主(学長)が負担する』となっているからだ。なので誰もが契約さえすれば使用可能になるという破格の利便性を誇る。
もちろん原作では裏があり、契約主である学長には端末所持者が行った操作や所在地、端末所持者のステータス情報などが筒抜けになる。
この魔導端末は当然ネットにも接続可能であり、何というワードで検索を行ったかなどといったプライベート情報も閲覧フリーになるわけであるが、原作通りの学長であれば全く問題無い。そもそも学長からすれば塵の如き人間をひとりひとり認識なんてしてないし、隠しボスではあるが挑戦できるというだけで敵対者でも無いからだ。
そんな相手に情報を抜かれるデメリットと比較すれば、この魔導端末と契約できることのメリットが大幅に上回る。
特に端末間集団形成機能といった、いわゆる簡易班契約などで敵味方の識別、経験値の分配、班《PT》員の大まかな位置などが感じ取れるといった目に見えないサポートを色々としてくれるからだ。
手のひら上を数センチあけて浮かぶ端末を手に取りニヤけてしまうのはホライゾンシリーズファンなら止められない。
もっとも原作シリーズを知らなくても一般生徒は魔導具と触れ合う機会が少ない為か端末を呼び出せば私と同じように喜びを溢れさせているようだ。平和で何よりである。【端末収納】も問題無し。
再び【端末呼び出し】。魔導端末は呼び出した時点ですでに起動しているようで(そもそもスマホのような電源ボタンが無かった)ダンジョン探索申請をしようと項目を精査していく。
近くの席にちらほら残っている一般新入生も新たに貰った玩具を扱うように目を輝かせて操作しているようだ。他人からは画面が真っ黒になって見えるようで何を見ているのかは分からない。事前に調べた通りのプライバシー保護機能に感心しつつ個人用プロフィールなるものを発見。
『名前:雪小路御良』
『所属:国立刀京魔導学園高等部1年E3組』
『ジョブ:未定』
『レベル:1』
『健康状態:良好』
『戦力値:2』
『魔力:枯渇状態』
『魔力属性:雪』
と表示されていてゲームみたいに筋力値や敏捷値といった詳細なステータスは無いようだ。前世持ちという異質さから何かしら特別扱いされてるかもと少しの期待があったのだが、こちらに関しても他一般生徒と変わらず入学前に調べた情報通り。残念半分、安堵半分といったところ。
「やっぱり私の魔力属性【雪】って判定されるっぽい」
「ふーむ、さすがにゲームみたいな分類じゃない、か。中学までの魔術基礎で習った通りに魔力属性は千差万別っぽいな。こっちも変わらず【狙】属性になってるぜ。はぁ、マジで物理系統ならなんで土操作とか出来るんだよ。土属性だって普通に勘違いするだろふざけんなよ……」
「ドンマイマッキー、気にしても変わんないさ。あ、ダンジョン申請どこで出来るか分かった?」
「変わるだろ将来設計がドドンと盛大によ。ふぅ、多分これだな。班項目からだな。ユッキ端末こっちに掲げて……班申請送ったぞ」
画面にポップアップした『刀京魔導学園1年E3組 牧野正 から班員申請を受諾』の下の『了承』をタップしてみれば端末上にゲームのパーティ画面の如くマッキーの個人プロフィール状態が表示されて『名前:牧野正』『役職:班長』『魔力属性:狙』の他は私と全く同じ表示。戦力値が2でレベル1という雑魚オブ雑魚な数値。
けれどこれはダンジョンに入っていない場合の、魔力生成器官が起動していない人と同じ筈だ。今朝のPC表示を信じるならば魔力が0で身体能力値が2だからこのような数値となっているのだろう。
道場にもダンジョンにも関わらない一般人には戦力値1も珍しくはあるがいるらしい。まぁ成人してからダンジョンに関わらない、つまり魔力を持たない選択をすると魔物に襲われにくくなるのは統計的に明らか。だからといってその選択が非常にリスキーであると思うのは原作知識故だからだろうか。
現実的に少し考えてみる。
ある会社の中に魔力が無い人間が混じっていれば、守ろうという意識よりも面倒だと思う意識の方が強く出る気がする。ちょっと小突いたら大怪我を負う魔力無しは場違いなほど浮くだろうし、理不尽な目に会うのは簡単に想像できる。負けた方が悪いという風潮の社会なのだし、ダンジョンに一度も入らなければ臆病者の誹りは免れないだろう。弱者の人権が軽視されるこの現世の一般社会では、どう考えても魔物よりも人間の方が恐ろしい。
道場通いは絶対嫌と叫ぶ妹でさえ一般高校に進学して選択カリキュラムに含まれるダンジョン探索実習をこなす程度は覚悟している。
ちなみに一般高校のダンジョン実習は年に一度あるかどうかといった頻度で、その護衛などを探索者養成校の生徒や探索業企業・民間軍事会社に依頼したりするそうだ。もちろん一般高校生である彼等が得るのは探索支援者資格の方で、探索者資格のようなダンジョン入場許可等級などが不随していないものとなる。
「おぉ~調べた通りじゃん。良いねコレ。申請任せたよ班長」
ネットで出回っている画像と同一。表示非表示の項目も選択出来るようなので基本的に全項目非表示にしておき、マッキーにのみ表示を許可。これが現代のネットリテラシーだ。
事前に班長役を任せると相談済みでスムーズにPTを組めて一安心。
詳細な項目は無いが、『状態』項目は簡易的な単語のみではあるが毒やら呪いやら外見からすぐには分からない症状も表示してくれるようでかなり重宝するとの事だ。ただ風邪など引いて発熱に加えて意識が朦朧としていても『衰弱』と大雑把に表示されるようで詳しくは知れないようだから過信は禁物。
「ほいほい、任されたっと。んで適当に内容を埋めて……ほいっと、DA申請完了。けど許可は、うお、あ、何か通ったっぽいな。返信早」
「早っ!?え、早すぎない?」
「んー、自動返信っぽいなー、あ、何か初回は受付で職員と一緒に申請書作るっぽいわ」
「あーね。じゃあ……予定通り一旦解散で?」
「おう、準備込みで開始予定30分後にしたから遅刻せんようにな」
「敷地内とはいえ距離あるしね。んじゃそれで」
「お、おい、ちょっと待ちなよ」
各自解散と席を立とうとした所で横から聞き覚えのあるダミ声。尾符根少年が腕組してこちらを見下ろすように口元を歪めていた。マッキーが口角を上げて受けて立つように、挑戦的に立ち上がる。背丈的にもスタイル的にもマッキーの圧勝である。横幅のみ尾符根君に軍配が上がる。
「あ?何だよ尾符根。こっちゃ忙しいんだからお前に構ってる暇ねぇんだが」
「ふ、ふんっ、戦力値2の雑魚カマ野郎め。いつまでもイ、イキれると思うなよ」
「はあ?なんで戦力値分かんだよ」
「へんっ、お気楽なキミ、じゃなくてお前たちにゃぜってぇ教えねー!何企んでようがランキング戦でボコしてやるから首洗って待ってろ」
まぁ簡易鑑定魔導具でも使ったんだろう。式の最中に何回か鑑定されたような薄ら寒い感覚がしたし気のせいでは無かったようだ。
にしてもポケットの中に戦封じの首輪を入れてるだけで魔力0に隠蔽出来るのはやはり便利だ。尾符根くんは普通に外してる感じか。
「あっそ。デブ根はもうちょい痩せるよう努力したら?動き辛くね?つーかその前に出場資格満たしてんの?」
「将来的な話だよ!入学したばっかりである筈ないだろ。やっぱデカチチになって脳の栄養まで取られてんだな。僕はキミたちと違って冴えた頭に相応しい攻略方法っていう武器があるんだよ。ち、地下に籠ってばっかのキミたちと違ってね」
なお彼はマッキーの胸をガン見である。私の事はガン無視。やっぱり胸か。胸なのか。分かってねぇなぁ見る目が無い節穴のオブネ君は中学の頃と全く変わらない。なのでからかうように口を挟む。
「鼻の下伸ばして言うセリフじゃないでしょ、小物臭すごいぞオブネくん」
「ぶひっ!?だ、誰が。伸ばしてないよ!!ていうか!デカチチのこ、腰ぎんちゃくは黙ってな!お前らがぼ、オレに色仕掛けしたって何も教えないからな!」
「「誰がするか!」って、ぶぷっ、その笑い声は卑怯過ぎだろ!ぶーぶー豚ちゃんぼくちゃん下半身もポークビッ〇なのー?」
「ぐっ!あいっかわらずなんでそう口が悪いんだ!今に見てろ、キミも!後になって泣いて教えを請うてもおっそいんだからな!チビめ!」
「ぐぬ、どいつもこいつもひとの事をチビチビチビチビチビと。背の高さで何か変わるとでも!?」
「とりあえず視野は変わるよな」
「マッキーお前どっちの味方だ」
道場での罵倒や悪態と比べるとずいぶんとマイルドなじゃれ合い。彼に関してはどうにも子豚がぶーぶー鳴いているようにしか思えない。言葉で何といっても、彼はなんとなく悪意が薄いのだ。親御さんも中学の時に偶然会った事あるがとても真っ当な人達だったしきっと善良に育てられたのだろう。
まあ現状がコレであるので残念臭が凄い。
本当にこの探校でやっていけるのか心配になるほどだ。
舐められたらいつまでも殴られ続けるこの地域で、罵倒は標準装備で無ければまともに歩く事すら出来やしないお国柄で精一杯虚勢を張っているようにしか見えない。まあだからこそ強くならなければ、と一念発起したのだろう。うむ、頑張るがよろし。
彼の言うランキング戦はレベル5のジョブ取得が前提条件になっている学園内限定の平民の序列決めの事。クラス別けは家柄などが重視されたものだが、学内ランキングは模擬線での勝敗による序列で明確に武力による上下が分かる仕様になっていて、誰でもいつでも確認出来るようになっている。いわば就職アピールでもあり、貴族生徒達へのアピールでもあるので高等部三年が上位を占める。
ランキングを上げても絡まれるだけで面倒事ばかり起きるイメージがあるが、対人戦闘技能を公的に証明できる事には価値がある。治安活動、暴徒鎮圧に自信ありますと就職活動でアピール出来るという事だからだ。
そうは言っても起業するなら学生時代のランキング程度さほど影響も無いだろうし、後ろ盾が無ければ嫌がらせなどもされると聞くしで個人的には微妙でしか無いのが学園内ランキングだ。
叩けば鳴るオモチャのように尾歩根少年とテキトーに会話していたら、「もう謝っても遅いぞ!」なんて遠吠えを残して逃げるように去って行った。衆人環視の中で大声出せる胆力と体型に似合わない機敏さに免じて手を振って「ばいばーい」と見送ってあげればマッキーは肩をすくめて嘆息。
「何だったんだアイツ?相変わらず胸ガン見なのは笑えたが」
「さぁ?宣戦布告だけしていったね……にしてもいつまで経っても野郎扱いだなぁ。私みたいなプリティフェイスに向かってまったく失敬な。目が腐ってんじゃねオブネくん」
「昔からアイツそうだよなぁ。周りが見えて無いっつうか、見たいものしか見てねぇっつうか。貴族がたがいるこの学園でやっていけんのかねぇ」
「粗相しなきゃいいけどね。なんか謎に自信持ってるよね彼」
「まぁ家は(前世と)変わらず裕福っぽいしな、多分D組辺りに編入なんだろ。にしても受験要綱にある『道場に最低一年』通ってあの体型は何かの病気か?太りやすいとか?魔力ある筈なのに大して外見変わってねえよな」
「修行してないのかもね。あとは暴食系のジョブ目指してるとか?なれるとは到底思えんけど謎の自信の根拠はまぁ原作関連っしょ」
尾符根君は性格がアレなのでもう少し体型のように丸くなれば、という感じ。
ホライゾンシリーズに似た世界だと分かっているのにも関わらず情報交換しない方針の彼はなんとも子供っぽいように感じる。
もう少し狡猾なら素知らぬ顔してこちらの情報だけ抜き取るように上っ面だけ友達のように振舞うだろうにそういった事はせず、ただひたすら上から目線で真正面からぶひぶひ鳴いて絡んでくるのだ。まあ胸をガン見している所を見れば何もかも拍子抜けしてしまう程度に残念さが際立つ所からしてあの態度がデフォなんだろう。
オープンスケベという判定になるかどうか微妙だが、下心を顔面に張り付けた子豚なのは確か。スケベ視線の被害者になるのはマッキーだけで、マッキー自身は本気で嫌がってなさそうなのがまた……。というのも、自身の外見的魅力を再確認出来るとドヤ顔を晒してきた事があるのだ。おっぱい星人どもにため息を禁じ得ない。これで彼がイケメンだったら今頃マッキーを落とせていただろうか……いやさすがに無理か。無理だろうな。うん。
「そんな事よりユッキー、出入り口方面なんか人だかり出来てねーか?」
「おん?本当だ、何だろね。オブネくんはあれで慎重派(笑)だし原因じゃないだろうけど……気になるなら野次馬ってもいいよ?」
「ま、通り道だしチラ見でいいだろ。そんじゃ校内巡りはじめっか。職員室寄る事考えたら割と巻きでいかねーと」
入学式といえばチンピラだる絡みという、定番の主人公紹介系の突発イベントがあるが、このリアルで起きる筈も無し。
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〇御神霊さまの御加護
古くから続く家では、今ではもう一般的な単語となったジョブの事を、『御神霊さまの御加護』や『神の恩恵』と尊称し敬意を払っているようだ
其れは徒人では不可能な所業を可能にする御業であり、幾度も幾年も幾世も助けられて来た歴史の重みである
ただその呼び名としての加護とは異なり、実際に起こり得る現象としての加護もまた別にある
不可思議な奇跡は気に入った徒人に寄り添い願望を叶え助けると言われる
その願いが善なるものであるかどうかなど、徒人の縮尺に当て嵌めるべきでは無い
〇尾歩根蚊問
15歳。国立刀京魔導学園、1年D組所属生徒。
9歳の夏の日、よく知っている気がする金髪の少女が集団登校時にはぐれてしまったのか、ひとりで佇んでいた所に別の小学所属と思しき少年少女の集団から殴る蹴るの暴行を受けている所を彼は目撃した。すぐ近くにいたにも関わらず声を出す事すら出来ずにいた彼と違い、突然空から落ちて来た紺髪少女が彼等を正しく一撃で沈めていき、十秒と掛からず一蹴した場面に居合わせる。
罪人が付けるという首輪をした紺髪少女はどうやら別の集団を追っていたようで助けた金髪少女に回復薬をぽいっと放り投げた後は見向きもせずに道路を挟んだ向かい側にいる集団へと突撃していった。その中には大人の姿もあったのに、武器すら携えているのに、そう呟きつつ蛮勇のようにしか彼の目に映らなかったその行動に口が開きっぱなしになっていた。
そしてその集団を地に伏させ血塗れながらも、回復薬を頭からぶちまける紺髪少女の漢らしい立ち姿が目に焼き付いて離れなかったようだ。金属バットを素手でへし折り車を投げ飛ばした少女が振るった力は、テレビの向こうにあった空想でも無く、彼の常識が一切合切通じない現実だったのだ。
それまでこの世を夢現と断じ微睡むままに過ごしていた彼だが、飛んできたタイヤがもろに腹にぶち当たり嘔吐してしまった苦痛を切っ掛けに夢では無いとようやく認識し、現世の家族とも向き合う事となる。
13歳の冬の日、将来の展望を親へと打ち明け応援して貰った事で闘志を燃やして道場通いをするものの致命的に性格が向いていなかった。
本来の彼は道端の花や鳥の声に微笑み、食べ物の匂いに腹を鳴らす至極善性の少年である。
それでもっ!と声を枯らす彼に両親はツテを使って探索者養成校に通う子を持つ親達へと話を聞き回り、彼が望むままに早期にダンジョンへと触れさせ、親の会社に所属する探索者達によるレベリングツアーにも都合をつけて支援してもらった。
結果、探索者養成校入学前にレベルは5。ジョブは【動物使い《アニマルテイマー》】を戴く。相棒のシマエナガ達は十羽を超える。
幸か不幸か彼は裕福な子息子女が通う道場で一年以上稽古に励む事が叶い、晴れて同門の少年少女たちと共に刀京魔導学園の門を潜る事ができた。悪癖があるとすれば、現実を踏み出し始めたばかりの彼は人前では虚勢を張り悪態を吐いてしまう事だろう。多かれ少なかれ誰にでもある見栄張る癖であるが、前世から引き続く吃音と相まって対人関係に少なくない難を呼び寄せがちのようだ。かつてはチビだった少年が場を取り持ってくれていたのだが、現世では金髪少女となっているが故に頼ろうと考えないようで、どこか空回りを続けている。
ああどうか彼女達に不幸が訪れてくれるなと、彼は祈りつつも、決まって夢に微睡む頃に思い描く姿は、彼女達の窮地を助けるヒーローとなった自らの雄姿だ。




