10話 観測画面
◇ ◆ ◇
表は店内入口なのでいつも通りに裏口からただいまーと帰宅すれば店番していた母に父に妹にあれこれやと言われたが、ダンジョンに入るのだからその程度の傷は想定済みだと笑われた。生きて戻ってくれたらそれでいいとの事。ありがたやー、それはそれとして破れた袖の繕いは自分でしろと言われたが。ふぁっきゅ。
まぁあれで父も母も現役の探索者でもあって今はさっぱりだがダンジョンに潜っていた経験もあるのだ。それに腕の傷が綺麗さっぱり治っているのも大きいのだろう。でもまぁ明日から着替えは必須かな。そこのところマッキーと相談してみれば
「制服の防御性能は高いって話だったが、ぶっちゃけ浅層の中型種に裂かれるくらいなら探索衣の方でよくないか?」
「たしかに……」
探索衣の方も十分頼もしいのだし制服をボロボロにしたくないし、嵩張るが仕方無い。明日からはきちんと学園御用達の探索衣を持って行こう。
それから中学時代に両親にお願いしてあった魔導銃とその整備用品を揃えたガンケースをマッキーに渡して所持契約を結べば、いずれ必ず支払いますと畏まって返事していた。ぶっちゃけ装備代はPT費用からと相談済みなので借金負担は私にも掛かるがこればかりは仕方無い。なんせぺーぺーの学生探索者。収入なんぞほぼ無い!今日の報酬も子供の小遣い程度だったしね。無利子且つ割引家族価格に伏して感謝するのみだ。
で、保管してあったモンスタードロップ品、棒状の物を何本かとアクセサリーがジャラジャラと入った安売りまとめた箱をひとつ借り受けマッキーと二人で私の自室へと移動。
ガンケース掲げて歓喜の踊りをし続けるマッキーは放置しておいて、PCを起動しておいてマッキーに例のステータス画面を出すよう言ってる間に、私は縫い針セットを手に取る。はぁ……縫製とか面倒過ぎる!!針と糸は貰ったけど……。生産職に丸投げしたい。破れた制服の袖は裁縫練習兼ねて自分で縫えと尻を叩かれたのだ。痛ぇんだわ、まだジンジンしとる。
チクチクと縫製しつつ平行して、安物アクセサリーのアビリティ確認作業。
このアクセサリーに魔力を通してして自身の変化具合を確かめる作業も中学時代から何度もしているおかげで慣れたものだ。店先に並べる品でもあるのだから手は抜けないが、安物アクセの効果はぶっちゃけ個人差が大きいので装備品というより普段使い用の小物という感じで売られており、鑑定結果にごちゃごちゃ言ってくる客は少ない。一般人が願掛け程度の土産に買って行ったりする程度。
母から貰った品物表によると、もうすでに両親共に簡単に調査した後のようで、全て強化系のアクセっぽい。ウチにも幾つかある簡易鑑定魔導具ではアビリティがひとつでも分かったらめっけものという劣化仕様。それでも簡易鑑定魔導具は呪いの有無などは調べる事が出来るので便利と言えば便利なんだが、原作ゲームを知ってる身からするとしょっぼいウチにある簡易鑑定魔導具にはため息しか出ない。
ちなみに高価そうな品に対してはきちんと鑑定業を生業にしている企業なりフリーの鑑定人なりに依頼して鑑定書を発行して貰っている。
ひと山いくらの低品質アクセを大量に鑑定依頼などに出していたら破産待った無しなので、そういった低品質っぽい品は昔から実際に装備してみてなんとなくこんな感じというふわふわした鑑定結果の付箋を付けてお出しする。鑑定依頼するほどでもないけれど品質が高いモノは父と母が魔力を流してみて術式を確認して詳細を書き出すといった感じのアマチュア鑑定。
そんな曖昧さで大丈夫かと聞かれれば、前世基準だときっと大丈夫じゃないが、法律なんかもそこらは曖昧なようでそこらの店も似たようなものなので客もその辺りは飲み込むような売値なのだ。
店の手伝いにもなるし、このような品であれば気兼ね無く借り受けれるので、中学時代からこの漢解除の如き鑑定は続けている。
「おおー……ぅ備の詳細見れるぞ!鑑定要らずじゃん超便利っ!!」
マッキーが何か騒いでるが、縫製が優先。制服の汚れは学校の【洗浄】魔導具で綺麗に取れたとはいえ、裁縫は苦手だ。ちまちまとし過ぎてて無性に布を引き破りたくなる。ふぁっきゅ。
チクチクチクチク……くるっと回して片結びっと。
ちょっと引きつるけどこんくらいでいいでしょ、と袖をぺしぺしと叩いて見た目の補修は完了。魔導糸や魔導繊維による術式陣の断裂などはもちろん修復出来てない。魔導線を繋いだりといった補修できちんと直すにはやはり生産職の力が必須なのだ。装備品のアビリティは核となる術式をバラバラにされたとかでも無い限り動くので多少の傷程度問題無し。魔力消費効率とか効果範囲に多少影響は出るかもだが。
「相っ変わらず豪快な縫いなこって。牙閃で裁縫得意なのって言ったらリリか。でもあの子ってニ年に上がってからの面識だから、原作ゲーム通りなら今中3だな。それよかこのサイト、いやこれウェブサイトじゃねえのか?……まいいや、画面見てみろよマジで凄いぞ」
「ちょちょちょーい、マッキさんやこちとらまだ針持ってるんだからさぁ、肩揺らすな全く。何……」
今二人でいる私の自室は前世より娯楽品が減ってバーベルやら重り付きリストバンドやらが転がってて何なら男らしさが増しているまである。母からも妹からも可愛く無いと不評だが構うまい。マッキーが指し示す先はディスプレイ。【ホライゾンビースト】と検索した後表示される意味不明な画面。
――観測点:雪小路御良
深度:2
霊格印:天幽・貴船
恩恵:未定
人間性:求道者/剛毅
存在値:2
戦力値:67
身体能力値:2
魔力値:65
魔質:【雪】
魔力器:65
魔力生成:13(-8)
魔力出力:38
契約:魔導端末(契約主【悪魔】:■■■)
簡易契約:端末間集団形成(対象:牧野正:詳細)
特記事項:特異因子【介入】付与個体
装備詳細:
・布製の魔導具:アビリティ【耐異常薄結界:全身】:魔力消費小
・布製の魔導具:アビリティ【魔力小補正】:魔力消費小
・赤曜石の魔導具:アビリティ【腕力微補正:右腕】【瞬発力微補正:右腕】:魔力消費小
・月曜石と蛇皮の魔導具:アビリティ【魔力生成微補正】【魔力制御微補正】:魔力消費小
・月曜石の魔導具:アビリティ【魔力微補正】:魔力消費小
・風曜石の魔導具:アビリティ【走力微補正】:魔力消費小
・布:魔力消費微小
・魔性鉱物:【腕力極微補正】魔力消費微小
・魔性鉱物:【異常耐性極微補正】魔力消費微小
・魔性鉱物:【反射極微補正】魔力消費微小
……
結構な長さになっている表示に上から順に見ていく途中でマッキーが口を開く。
「霊格印って朝もふたつあったか?」
「うんにゃ、左の【天幽】っていうひとつだけだった筈」
「オレもひとつだった。これでオレの方にも【貴船】が生えてたら、多分ダンジョン毎にあるっていう識別名みたいなもんか?ダンジョンの特異魔力による霊格神経の形成模様、とか漫画であったよな。どう思う?」
「まったく分からん。そんなの原作であったっけ」
「あれ?非公式の同人誌だったっけか。考察班の検証動画ってやつにも確かあった筈。アニメでダンジョンを管理してる超常存在の事を、どこそこの主~って呼んでたキャラとかいただろ。そういうシーンを色々切り出して考察してみたって動画もあったんだよ」
全く覚えてないってか知らんわ。
マッキーの考えによると、私が幼少時に入ったダンジョンが天幽を、学園のダンジョンが貴船という印を形成させたという話。いくつもダンジョン入るようになったら表示が大変な事になんないかそれ。
まぁ仮確定としておいて、とりあえず理解出来る範囲のものを確認していく。
「神の恩恵が未定なのはレベル5になるまでまぁお預けなのはゲームと変わらないけど……。深度と存在値のどっちかがレベルの事かな。意味合い的に深度はダンジョンの階層経験数とか?存在値はレベルっぽくない?」
「まぁ字面だけで判断すればな」
「てか今日一日あんなに討伐したのにレベル2だもんねぇ。獲得経験値がゲームより渋いのか必要経験値が多いのか……てか人間性って何?マジで謎なんだけど」
「いや書かれてる事は分からんでも無いけどな。ぶっちゃけ性格の事だろこれ。金稼ぎ兼レベル上げの為にダンジョン出向いて魔物討伐してるんだから求道者って評価は首傾げなくも無いが、剛毅の方はアレだろ。パワーって感じの意味だろ」
「んー……、私ってそんな脳筋っぽい?」
「どう考えても脳筋だから安心しろ」
「おい、そこはもっとこうあるでしょ!お淑やかなのになーとかフォローは!?」
「オレは自分に正直なんだスマナイ」
「ふぁっきゅ。スマートに戦ってるっつうのにさー。もういいわ、っで、魔質はまぁ魔力属性の事だろうから割愛」
「その下だな。装備だよ装備!下の方見てみろって!!」
「いやジョブに影響するかもと思ったら気になるっしょ……ぬーん、【装備】してるのの詳細分かるのは良いけどこのアクセ類全部微補正か……アビリティ判定すら無いのとか極微補正とか多分付けてても意味無い感じだよねこれ。まぁひと山いくらの安値買取ドロップ品だし仕方無いか」
というか防御補正に関するアビリティが恐らく制服であろう『布製の魔導具』の【耐異常薄結界】以外になくて空笑いが漏れる。ジャラジャラとアクセを付けたおかげで小型種の牙を無効化出来ていたと思ってたのに、アレほぼ素の防御力なんかい。頼もしいと思ってた制服の装備で発現する薄い魔力膜も防御性能向上じゃなくて状態異常耐性だし意味ねー。物理的な攻撃ばかりの学園ダンジョン浅層探索なら制服より普通に動きやすい学園指定の探索衣の方がいいね……色々と反省点が浮かび上がってくる。
母から借りたアクセ小箱から漢鑑定用に【装備】していた緑色アクセサリーに魔力を通すのを止めれば、PC画面上に表示されていた風曜石の魔導具という項目が消えて魔力生成項目のマイナスが8から7へと変化した。
「リアルタイム参照なのが確定っと。正直高性能過ぎてビビるんだけど……マッキーは観測点て何か心当たりある?」
「うんにゃ、全くねえな。オレのPCだとステータスはオレについてだけだったし……同じように観測点とは書かれてたな。まぁ、原作と同様に学長が悪魔だって裏付けが図らずも取れたわけだが……」
「別に悪魔だからって反社会的行動ばっかしてるわけじゃないし?」
「だな。むしろ学長は契約遵守系の大悪魔だしそこらの探索者とか貴族の方がよっぽど危ない……でも、アレか。神様が実在する世界だしなぁ。この観測ってのは転生者は見てるゾ的なアレじゃね?監視っつうかこの表示自体がオレらへのメッセージみたいなもんだろ」
原作のシリーズに時々出演する神々関係。それら超常存在は世界の法則を破壊したり脅かしたりする相手を事前に突き止めており、神託という形で人々に制圧させたりしていた。逆にいえば、そんな破壊活動をしなければ全くの無害無関係でいられる。
ただ特殊イベントなどを発生させて前提条件を揃えると実際の神に会えたりして魅了されたり精神が逝っちゃったりする主人公の姿を見れる。『救済』ルートの主人公のジョブが【狂信者】などになっていれば一風変わったシナリオ進行に変化したりもするし、特定の神々に気に入られている愛し子といったキャラは様々な天使を周りに派遣されて守護兼監視をされていたりもした。
「何故、と思わなくも無いけど前世持ちは珍しいっぽいし、ありえなくもない、か?まぁ観測されてるって事はまーじでどう動くか眺められる実験動物みたいで嫌だけど、そんな超常存在が相手だとするとどうにか出来るもんでも無いね……この表示が私らへのメッセージとすると、監視してんだから変な破壊活動とかすんなよ的な警告?」
「ユッキーがどんなに頑張っても世界を壊す可能性なんぞ無いわなぁ。氷河期が来るくらいありえん」
「そう言われると見返したくなってくる」
「すんな。まっオレらはむしろ楽しもうとさえしてるっつうのに大袈裟過ぎる話だわな。だから放置で。触らぬ神に祟りなし」
「そだね、監視は受け入れるってか放置しか出来ないね。学長と同レベルでどうにもなんない」
「悲観的に考えんでも、装備詳細が分かるんはマジデカいぞ。アビ組み確定出来そうだし、魔力生成と消費の均衡考えれるならそれだけでもプラマイ収支だとプラスだろこの観測表示」
「まーねー、一理あるのは認めるけどさ。観測ねぇ、ストーカー気質なところとか天垂部長思い出すわ」
「あーそれ分かるわー。なんかこの画面構成とか部長が造ったって言っても違和感ねぇよな」
ツンツンとマッキの頬を突いたついでに簡易契約の所にある詳細リンクを「この詳細って何だろなー」と指で触れば表示が私のステータスからマッキーのステータス表示へと変化した。
「はぁ!?ディスプレイがタッチパネルに進化してる!?」
「いやそっちかよ!まぁマウスカーソルねぇしどう操作したもんかと思ってたが、あ、貴船の表示増えてる。これダンジョン名で確定でいいだろ」
班員見れるのか。便利っ。
ほぉほぉと関心しながら見比べれば主な違いは霊格印や人間性だろうか。増えたという【貴舟】は同じだが、最初にある表示は【震命】。なかなかに恐そうなダンジョンに入ったんだねマッキー。
魔力値は私より10程度低くなって生成値も9となっていた事からやはり魔力関連に関しては数年ほど早く慣れ親しめられた私の方が高くなっている。まぁこれからレベルが上がっていけば誤差程度の差だろう。そんなことより
「てか人間性マジか」
「おいどういう意味だ。格好良いだろうが騎士!」
「騎士もちょっと羨ましいけど、節制て。マジ?え、これ淑やかなって意味の単語だよね!?淑女の節制でしょ?マッキーのどこが淑女!!おい観測担当者!私のがよっぽど節制でしょうが!!」
「いやどの口が言う脳筋ロリがよ」
そうマッキーの人間性項目は『騎士/節制』と表示されていた。性格が騎士とか、無駄に格好良いが節制には異議しか無い。マッキーは組み手相手の顔面とか股間とか普通に狙って叩き蹴る暴力女だぞ。私でさえ怒ってなければそんな事しないのに、対人だとこやつは無駄に急所を狙う傾向があるのだ。観測員は節制とか淑女の意味を辞書で引いてこい。
「はあああ意味分からん!!私この女に道場で何度も腹パンされてんですけど!一人称オレだし!!私よかよっぽど脳筋!ちょっと観測員説明しろおお!!」
「ははっ、オレってば貞淑な乙女なんで。これが正当な評価ってヤツ。まあ何にしろユッキーに淑女は無理だって」
「ふぁっっっっっきゅっううう!!!」
「その言葉使いで淑女自称すんな。んんっ、話戻すぞ、この人間性ってやっぱジョブに影響すると思うか?」
「ぐぬ……はぁ、ジョブにね、私も気になったけどぶっちゃけ分からん。これ見よがしに騎士なんて表示されてるけどマッキーの魔力属性的に守護専門のジョブ【騎士】は相性良くも無いでしょ?物理系統ではあるけど、【盾】属性とか【鎧】属性とか【堅】属性とか、映画に出てきた【聖壁】属性とか【守護】属性とか他にもっと相性良さげな魔力属性があるんだから。それにまぁ、性格なんてパッと変化するようなもんじゃないし」
「だよなー」
「個人的にはよく分からない観測画面の人間性より、はっきりと分かってる魔力属性に沿った成長ルートの方が強くなれると思うね」
「そだな。うん、同意見だ。剣とか盾とかより銃のがよっぽど良いしな」
「それは人による。でもようやく謎が解けたっていうかね」
「あん?」
「今朝マッキーが突然剣使うとか言い出した理由ってこの人間性の項目見たからっしょ?」
「影響が無かったとは言わん」
「でも本当はぁ?」
「ぶっちゃけチートキターと思った」
「分かるンゴ」
騎士とか表示されてたらジョブをそっちに寄せようと考えてしまうのは分かる。【狙】属性は字面的に一点集中的なイメージで攻防どちらも使えそうだけど、守護を中心に据えた【騎士】系統とはむしろ相性悪い方かもしれない。
原作ゲームでは魔力属性は現実ほど多くなく、十種にも満たなかった。相性の善し悪しは敵に合わせてPTメンバーを入れ替える程度で問題無くクリア可能という塩梅だったのだ。タンク役である【騎士】や【聖騎士】にしても味方に最低でも一人、二人いれば属性がバラけていればいいという程度の優先度。ダンジョンやボスとの相性といった効率だけを考えれば、最初に得られたジョブによって育成方法を変更した方が良いくらいで、魔力属性に合わせてクラスチェンジ先を補正する程度で通常クリアには十分だった。
現世では、逆に魔力属性を念頭に置かなければならない。ゲームのようにやり直しなんて出来ないし、ジョブはまだ自分の意思を反映させられるが、魔力属性は好き勝手に変更なんて出来ないからだ。
そう考えている間にもマッキーの声が能天気に響く。
「でもやっぱり銃だな銃。銃しか勝たん!ああー早く撃ちてえなー。昔射撃場で試射した時の記憶が、興奮が頭から離れねえ。一度頭によぎったらコレだって、オレの魂が叫んでんだ。分かるかユッキー!」
「ワカルワカルー」
「だよな!いやあありがてえ!まじサンキュー!って、あ。そだ。とりま明日中に銃の所持許可証発効してもらわねえとな。探索者資格に不随してる武装所持許可証の他に資格免許やら保管場所とかそういうの記載した書類が必要なんだよたしか銃って。免許自体はオレらはもう中学時代に取ったから考えんでもいい筈なんだが……この銃の保管場所どうすっかなー自宅でいいのかねぇ」
そういってウキウキといった様子で両手に掲げるのはウチで店頭に出さずに取り置きしてあった二丁の魔導銃。正式名称はエンジ社製MG80魔導銃。通称エムジュー。拳銃形態で予備含めて二丁。でも多分両手持ちしたがるだろうな、いいんだが。ゲームでは適正レベル10だったものだ。
ちなみに魔導銃で適正レベル1の物は存在しない。通常魔力弾でさえ近接武器を振り回すより遥かに多い魔力を消費する為だと思われる。なので【銃使い】系の初期武器はパチンコ(スリングショット)なのである。
この現実では一般的に、魔導銃という武器種は扱い辛い代表格のひとつだ。初級者では一発も放てず魔力枯渇を引き起こす恐ろしい武器というイメージ。ただマッキーの観測画面を見るに相性が良いのだろう。装備消費魔力は極小で、弾を込めてもその表示は変わらなかった。後は発射時にどれほど消費するかだが一番魔力消費が激しいとされる魔力弾生成時で極小表記だったから全く心配いらないだろう。なんなら連射可能である筈だ。
「抱いて眠れば?」
「そりゃ当然だろ。オレが気にしてんのは書類上の話」
危ないから止めとけ?
◇
自宅でマッキーと今後について相談中の折り、やはり十年以上前の記憶は互いに薄れてるのは当然で。
「ちょい待ち、攻略ノート取って来るわ」
「あ、頼むわ。朝の騒動があるまで原作世界線の可能性を完全に排除してたんだよなぁ……中学の道場で毒され過ぎたな」
「殴られ過ぎて頭パーになったか!?」
「はよ持ってこいや!」
「おーん?でっかい態度やのぉ?持って来てくださいませユッキーサマー、だるぉ~?」
「ハイハイ、攻略本オナシャースシマウマースウスウスヨッスーユッキー夏」
「なんか発音的にバカにされてる気が、ほれ2冊目。私は自分で書いたの確認してく。銃関連とストーリー、それも牙閃に限ればいいよね?」
「おう。頼む」
口数少なく食い入るようにページをめくっていくマッキーに肩を竦めて情報収集に協力する。
銃を扱うジョブも色々とある。【銃使い】から始まり、【双銃使い】【重銃使い】【狙撃銃使い】のような銃形態を重視するジョブから、【凍結弾使い】【燃焼弾使い】【治療弾使い】のような弾頭や属性に重きを置いたジョブなど様々だ。
だがそれもこれもまず銃本体、特に弾丸費用が嵩張らない魔導銃が手に入らなければ始まらないのが現世事情で、そちらは対処済みで入手できたのだから置いておこう。
「マッキーマッキーこれ懐かしくね?嵐天之魔導銃。適正レベル50。入手方法が貴族家の宝箱か中層から深層のダンジョンドロップ、貴族生徒からのクエスト依頼報酬。注意点として伯爵家以上の家格。出典はホライゾン~陰陽の狂騒~」
「んなもん持てても魔力吸われて一発も撃てずに干乾びそうだぜ。つーかランダムドロップってこの現実じゃ魔物倒しても魔石が精々で生体素材が主体だろ。銃とか装備品なんぞほぼ出ない……あ、解体した時の腹ん中から発見される事はあるんだっけか」
「そうそう探索者の遺体とかと一緒に。あんま経験したくも無いね、お、エムジュー発見。適正レベル10。入手方法は店頭販売、店頭レンタル、通常ランダムドロップ、浅層のダンジョンドロップ、学園宝箱、貴族家宝箱、貴族生徒からのクエスト依頼報酬、他。出典はホライゾン~学徒の牙閃~天爪の塔壊~陰陽の狂騒と3作品で共通。魔導銃使いなら序盤のド安定装備、我ながら結構書いてたね」
「まっじで感謝」
「良きに計らうがよいぞ~。まぁコレに関しては運が良かっただけなんだけど」
「なんかあったのか?」
「このエムジューの製造会社にツテがあるっていう常連客さんがいてさ、子供ん時からの知り合いなんだけどその人の縁100%なんだよね仕入れ。その2丁以外仕入れられてないってのもあって店頭には並べてない」
「マジか」
「まぁ仕入れに関しては興味も無かったから詳しくは知らないんだけどねー。それこそ明日射撃部の顧問とかと会って魔導銃について話してみれば?……てかここに載ってる通常ドロップって確か、学園の警備兵倒した時のドロップじゃない?現実だと強盗じゃんよ一発逮捕で魔境行きじゃん」
「あー、あったわ。そうそう確かに落としたし盗めもした筈。ユッキーん家に無かったら警備に襲撃掛けてた世界線があったかもしんねえな」
「やめてね?」
「しねぇよ!」
「飲み物とお茶菓子いかがかしらー?」
そんな時、母が自室へとやって来たので丁度良いと自作攻略本を置いて、魔導銃に関して聞いてみた。
この天州国では、魔導銃に限らず銃本体の販売と弾頭の販売には別々の免許が必要と以前両親から聞いた事がある。で、両親としては嵩張らないし高く売れる弾頭弾薬の一部を取り扱えれば店としては十分という事で銃本体を取り扱おうとは思わなかったとの事。
弾は専用の箱に納めて保管しておきゃいいだけだけど、銃本体を取り扱おうとすると、試射場やらの設備投資に加えて定期的にメンテナンスとかしなきゃだめだし他にも色々と免許や資格関連も必要と、かなりややこしそうだったのだ。
だがまぁ中学時代にマッキーが射撃場ではしゃいでた話をしたりして、それならちょっと手を広げてみるかと頑張って貰った結果が今日に繋がる。両親にゃ足を向けて眠れないってもんだ。感謝せねば。
それで改めて聞いてみたら、どうやらここ数年、魔導銃自体が一般に流通しなくなっており、誰かしらの紹介が無いと販売はおろか製造会社からの取り寄せ自体も不可能という理不尽な事態になっているそうだ。
そんな話をマッキーが母から聞いてる最中、魔導端末で色々調べてみると、現世ではギルドの装備品レンタルに銃の項目はあるが魔導銃は無く、学園内にあるレンタル屋にはあったがエムジューよりお高いモノで時間単位の貸与代金は50万。一日借りれば1200万だ。ぼったくり過ぎィ。特殊弾用の弾代は別途計上。摩耗修理費用など合わせるととても普段使い出来る額では無いものだしとても採算が合いそうにない。
知る限りの販売店にも魔導銃は一丁すら販売されていない。そもそもカテゴリ項目すら無い店すらあった。
そんな事を話してまたマッキーと二人きりになれば、マッキーが【端末呼び出し】して、安堵したように息を漏らした。
「まじで助かったわ。オレひとりだったら【銃使い】諦めてたし。てかそんな希少になってるなら貴族とか上位連中に盗られんように注意しねえとな……実習じゃ使わん方がいいか」
「ん……得られるジョブ次第だけど弾丸系の魔法覚えられれば素手でもまぁいけなくはないかも的な?」
「んなのあったか?」
「ホライゾンシリーズのハクスラゲーにはあったよ。【魔弾使い】ってやつ」
「もしかして指先から魔力弾飛ばしてたやつか?媒介も魔導具も無しにんな速く飛ばせるわけねぇだろうが」
「今やってみたら案外出来るかもよ?ほれ来い」
そう言って手の平を掲げて魔力壁を編み上げ展開。仮に手を貫通されても天井へ突き抜けるだけで被害はまぁ物損くらい。傷が出来たらむしろ治療練習に丁度良い。
魔力制御・魔力操作というものは適性次第で色々な事が出来るが、私達ふたりとも身体からつながった魔力は制御できるものの、身体から切り離す事はついぞ出来ないままだ。石やらを媒介したり、それこそ雪や風を通せば自身から切り離す事も可能。だが、魔力そのものを投げ飛ばす魔力操作は非常に難しい。魔力自体が粘性を帯びてるような流動性を持っているので、遠心力を利用して無理矢理ふりまわし飛ばそうとしても無駄。意に反して全く切り離すなんて事は出来なかった。出来れば術式の遠隔発動とか色々と応用が効きそうであるのに無念だ。
「ったく……よっ……ほっ!……ふんっ!!……飛べ!……」
で、言われるままマッキーが指鉄砲の形で魔力操作するもやはり不発。私も逆手で同じく指先に集めた魔力塊を飛ばそうと窓に発砲のイメージで魔力を操作。それでもというか、やはりというか。魔力が槍のように突き伸びる感覚と共に窓に魔力塊が当たって霧散した。そう、魔力は何かしらに通して強化したりする事を得意とするが、魔力そのものだと密度の高い物体に当たれば簡単に霧散してしまうほど儚い性質も併せ持つのだ。なので石ころなりを装備してから投げ飛ばすというようなひと手間がどうしても必要になる。
ただ、魔力は一定の法則に沿わせると驚くべき超常現象を発露させる。
私の魔力圏(空気中に全身から垂れ流している魔力領域)内で、左手を中心に魔力を凝らせた魔力球を正四面体に配置させ、同じく魔力線を形作り効果範囲を指定してやれば魔力壁という現象が出現するように、魔力は非常に不可思議な法則で様々な動きを見せる。
そしてこの魔力壁という単純な構造の術式は基本的に誰もが使えるが、複雑な陣や文字を魔力で形作るものほど当然ながら難易度が高く、さらには魔力属性の相性も関わって来る。
私が浮遊する為の術式、身体下方へ吹雪かせる術式であれば、腰回りに氷結晶の形を維持する魔力塊を六つ作り、魔力線でそれらをつなぎ、さらにスカートのように太い魔力線を編み込めば発現する現象である。吹雪かせるだけであれば氷結晶の魔力塊はひとつで魔力線も直線一本で可能。
だがマッキーにはこの基本的な氷結晶の形に魔力塊を形成する事は出来ても、現象として吹雪が発現する事が無かった。ウチの親は出来たが、マッキーの親は出来なかったそうで、やはり魔力属性が雪に親和性が無いと不可能なようだ。これが魔力属性の相性というもので、魔法やスキルもこの魔力属性の相性が非常に重要になってくる。
「無理ぃぃぃー!やっぱ魔力切り離すのも適性があんだって」
「うーむ……銃適性あるっぽいしマッキーならイケるかもと思ったんだけどね」
「オレがこんな単純な操作試してねえと思うか?ガキん頃から風呂ん中で何度も試してたっつうの」
「ああ……戦封じ外せるから?」
「時々な。お袋に駄々こねて戦封じを洗う時狙って……まあいいや。とりま魔導銃は自衛出来るようになるまで実習じゃ使用控えるっつうことで。普段はありがたく使わせて貰っからよ」
「ん、それならとりあえず実習ん時用にパチンコ、もといスリングショット用の弾でも買って帰ってったら?」
「そうすっかな。石コロやら金属片だとまじで素手で投擲してんのとあんま変わらんしな」
「まいどありー、あ、スリングショットなら高級モデルもウチに確かあったよ。蜘蛛系魔物の糸とかで作られてるから素でも頑丈だし魔力補強性能も高かった筈。まぁ原作ゲームに出てこなかった品だけど」
「へー、やっぱ知らん装備のが多いのか?」
「そだね、見た事無い企業の製品とか全部知らんかったし。似てるっていうだけなら大抵見当つくようになったけど」
「なるほどなー、まぁそっちは置いといて。サブウェポンのスリングショットに金掛ける前にユッキーの装備を充実させてくれ」
「んー、戦帯で今のとこ困って無いしねぇ……学園指定の制服と探索衣の予備増やすくらい?てか明日はマッキー忙しそうだね。資格・免許関連もあるし、って、あっ。刀京魔導学園でもそういう免許関係の認定出す機関併設されてたってパンフで見た気がするけどどうなん?」
「ああーちょい待ち調べるわ。……魔導銃免許は中学ん時の射撃講習修了証明書あるからオッケ、所持許可申請書は帰宅してから用意するとして、診断書は魔導端末からのでいい筈……本籍記載の住民票は学園事務室で発効して貰って……、譲渡等承諾書、同居親族書、経歴書、探索者資格証明書のコピー、と保管場所等の記載書類。はぁ、まじで多いな書類。全部ネットから未記入書類ダウンロードできるとはいえ……明日は講義以外じゃ事務室に缶詰めか?」
「試験が必要な免許資格自体は取れてるんだし、書類揃ってれば割と早く終わりそうではあるかも?」
「そう願うわ」
こちらも手に入れやすそうな魔導銃が他に無かったかとノートを読み返すも、大体が実包を必要とする一般の銃や属性銃ばかりが目に入る。そして大体目ぼしい所は確認終了。結論、他に無い。新たに思い出すようなモノも無かった。
「魔導銃てやっぱ低レベルん時の装備自体少ないわ。レジェンド品とかユニーク品についてなら色々あったけど大体レベル100のばっか」
「だろうな。ベストエンド後にも苦労しながら集めるカンスト用最強装備品は記憶に残るが、序盤の店でぱっと買える装備なんぞお互い詳しく覚えて無かったし」
パラパラとページをめくっていけば、目に入る情報は目的以外にも溢れていて……
「アビ組み用の検証もこの観測画面で一気に進むね」「だなぁ、予定前倒し出来るのはでけぇ……あ、エムジューの次てクラスチェンジ後か?」「そだろね。そもそもエムジューって適正レベル10だしまだまだ先になりそ」「だよな。大事に使わねえとな……」「まぁこっちの装備品の該当部分全部見たけど目ぼしいの無かったし、二冊目のが確実にアイテム類が充実してるから頑張って探してくれ」「いやーこんだけ見直して無かったらねえよ」「低レベル時の魔導銃ねー……私もそこそこ周回して銃キャラも育てた記憶あるけど最序盤は普通のピストル使ってたし、それで50くらいまでパワーレベリングしたしなぁ。希少ジョブ出そうとしてた時は初期銃のパチンコ装備させてひたすらリセマラしてたかな」「パチンコなぁ。どっちかっつうと【弓士】の領分だろパチンコって。威力が人力なんだし」「それでいったら魔導銃も魔力依存だし人力じゃない?」「機械銃くらいか?いやそれだって魔力込めるぞ、割合が軽微なだけで」
そんな会話を交わしながら私もノートを置いて【端末呼び出し】。
魔導銃の正式名称で検索を掛けてみてもやはり全くヒットしない。過去相場などを合わせて検索してみるとヒットするので存在自体はしているようだが……魔導銃自体がもの凄く希少なようだ。そして競売の履歴にある魔導銃はとても気軽に購入出来る値段では無い。今、出品されている魔導銃も億からスタートである。ふぁっきゅ。
「競売にある魔導銃クソ高いね。適正レベル30程度のヤツなんだけど、販売額の桁が想像のふたつもみっつも違ったわ」
「そらそうだろ。レベル30適性なら現実だとトッププロ用だぞ……想像以上にヤバイな魔導銃て。年々流通量が減ってって、もう最近じゃ競売でも珍しい部類なんだってさ」
「やば……。ていうかエンジ社って企業名で魔導銃作ってる会社すら無くね?」
「オレも検索してっけど物流やら倉庫やらのエンジ社は見つかっけど、銃製造のエンジ社が見つかんねーんだよなー。こりゃおばさんの話通り貴族が関わってそうだわ。この一般庶民が調べた程度では届かなくなってる感じがよ」
◇
明日の予定を互いに確認していればそこそこな時間になっていた。
「もともと明日明後日はそれぞれソロでの活動予定だったし、【巫女】の特殊条件満たすにもソロ活動必須だしで丁度良いね。天井スキップもついでにこなせると来て一石二鳥だ」
「そうだな。観測画面のおかげで物品確認の手間がまとめて省けた事だし、予定は前倒しでいいだろ」
「ラジャであります班長……空梅ちゃんに無体な事しないようにね」
「どんだけ心配しとんねーん。大丈夫だっつの!」
マッキーはそう言って玄関前でガンケースを手の平でぽんと叩く。
にしても銃かぁ……、今となっては全く縁も無く魅力も感じない代物である。
私も中学時代に楽しい楽しいとはしゃぐマッキーに付きあって射撃場にお邪魔した事があるが、10メートル先の的でさえまともに当てれなかったのだ。隣で機嫌良くバスバスと的のど真ん中を射貫いていたマッキーとは違い私に銃の才は無いなとすっぱり見切りはつけられた。投げた方が圧倒的に命中率高い。それに、
やっぱ直接殴るなり斬りつけるなりした方が気持ち良いし!!
うん、我ながらこの世界に染まったなぁ。
「銃サイコー!まぁでも格闘美女がマジ正義なのは変わらんがな!」
「いや和風軍服少女のが絶対可愛いから」
ちなみに戦封じの首輪は酔月呪の魔導具という表示になり、脅威の魔力消費量大で生成量の項目がマイナス492。マッキーの方はマイナス487とあり、微妙に性能が違っていたが、どちらにしても莫大なマイナスなのは変わらない。まぁ魔物のドロップ品が主な素材のオーダーメイド。工場生産の規格品でも無いんだから当然性能が個々で前後するのだろう。
マッキーを家まで父が車で送り届けて貰って帰って来れば終業時間。
店を閉めて夕食食べてお風呂入ってと色々と雑用を済ました後、父・母・妹に件のディスプレイを見せてみた。
「んー、僕にはパソコン画面が真っ暗になったままで何も見えないけど美鳴さんはどうだい?」
「私にもミラちゃんが言ってるような画面は見えないわ。その学園の端末と同じ仕組みなんじゃないかしら?スズちゃんはどう?」
「真っ暗画面のままー。お姉のPCが壊れたとかじゃないの?」
「壊れてまーせーんー。んじゃここに表示されてるの写すからちょっと待ってね」
コピペが出来れば楽なのだが画面を表示させれば基本的に見る事しか出来ない。
例外はPTメンバーへのリンクといった表示を切り替え出来る程度。終わるにはPCを強制終了するしか無いという不親切が過ぎる観測画面なのだ。ちなみにスマホでPC画面をパシャリと撮影しても真っ暗画面しか写っていなかった。本当に謎技術だ。
家族でも見れないとなると、やはり超常存在の干渉を考えざるを得ない。
父が持ってきた簡易鑑定魔導具や魔力波検出機などをごちゃごちゃ操作しているのを横目に紙に模写る。
写し取ったステータスや諸々を見せ、装備を付け替えたりしてアクセサリーの性能も鑑定出来ると証明すれば両親は難しい顔をした。
「へぇ、なるほどなるほど……いやコレは凄いね。魔力波が感知出来ないから魔導具とは言い難い。数値的には本当にただの電気が動力のディスプレイだね」「でしょ」
「ほんと。ねぇミラちゃんこれ私達のステータスも見れないの?」「学園の端末と契約できればワンチャン?もしくはこの端末間って文字が接頭についてるけど【集団形成】ってスキル使えるようになったらいけるかも」
「お姉の身体能力2て何。道場であんなボロクズにされても2て事は、やっぱあそこヤブだったんだって!訴えてやろ!」「御鈴ちゃん、道場は身体を鍛える目的だけじゃなくて探校の受験資格の為には必須だしそもそも技術と根性を鍛える場所だから、ヤブなんて言わない。てかマッキーも同じ2だったし」「セイちゃんも2なの!?じゃあその表示がバカって事ね!」
妹様によるセイちゃん呼びも随分と慣れた。はじめて呼ばれた時のマッキーの顔は忘れられそうに無い。やはりコミュ強は自称なだけでは、と私は訝しんだもんだ。
わいわいと騒がしく自室に集まればやいのやいのと会話が弾む。そこに父から投げ込まれる爆弾発言。
「まぁ明日にでもちょっと僕は知り合いに相談してみるよ。この部屋ごとかミラちゃんを盗撮、盗鑑定?してるのは間違い無いんだから」
「そうねぇ、便利ではあるけど年頃の娘の個人情報が公開されてるのはちょっとねぇ」
「えっ、ちょちょちょっと待って待って。コレが見れなくなったら困るんだけど!それで無くても学園に入ったのはステータス確認出来る魔導端末目当てでもあったんだし、それ以上の性能のこのサイトっていうか観測画面を切り捨てるなんてあり得ないって!!」
出現魔物やダンジョンの安全性や交通の便なども理由に入るがやはり自身のステータスを客観的に確認出来る魔導具が支給されるというメリットはとても大きいと考えて受験したのだ。その思惑はあり得ない性能の観測画面登場で霞んでしまったが、もし観測者が不快に感じて表示してくれなくなったりヘソを曲げられたりしたら困る。
「ミラちゃんの意見も分からなくも無いけどね。そもそも簡易鑑定魔導具を超える性能の鑑定は歴とした犯罪なんだよ?警察といった公職や貴族方にしか許されてないんだ。……僕のスマホからだと『ホライゾンビースト』って単語を検索しても変化起きないし……本当に何なんだこの現象は」
「でもアナタ、ミラちゃんの戦力値が異常なのは私達にとっては今さらですけど、よそさまからすれば驚愕ものよ?まさか半日の探索でレベル2に上げてくるなんて思わなかったし」
「それはまぁ、でもレベル低いうちは比較的上がり易いから……ああ、そっか。戦力値の上がり幅が尋常じゃないのもあったね」
両親が私のPC画面とスマホを操作しながら色々相談していると、妹ちゃんに袖を引っ張られた。
「お姉の戦力値とか喋っちゃダメって昔にきつぅく約束させられたけど、この67って異常なの?」
「あー、同級生。というかダンジョン入りたての人はレベル1で大抵戦力値ひと桁だから、異常と言えば異常かな」
「そんなものじゃないのよスズちゃん。私でさえレベル22で戦力値97、お父さんはレベル23で戦力値98なんだから。ミラちゃんがレベル1の時点でどんどん戦力値上げてるのが分かった時は簡易鑑定魔導具を修理に出したりして、てんやわんやだったのよ」
「ミナリさんはミラちゃんの修行に付き合ってかなり戦力値が上がったからねぇ……」
「私は元々83でしたからね。でも戦力値上げたのはアナタもでしょ。私に抜かされた時はずいぶんと焦ったみたいだし?」
「んんっ、その話は置いておこうか。まさか戦力値の中身がほとんど魔力関係で決まるなんて知らなかったし、戦力値100を超えると恩恵もそこそこな優遇制度があるけど色々義務が発生するから」
「当時は本当に困惑したわよねー。未成年に従軍義務が発生したらどうしましょうって」
「あったね。その心配は杞憂で、百超える事も無かったけど。まぁ探索者養成校入ってDAするようになったからそっちはもう時間の問題かな」
母と父が続けた言葉にほぇ~と興味無さ気につぶやく妹ちゃんの頭を撫でる。さらさらとした髪が手に気持ち良い。
「スズちゃんは探索者目指さないんでしょ?」
「うん。お姉みたいに道場通ってゲロ吐いて血吐いて毎回どっかの骨折るほどの怪我とか絶対耐えらんないし。お姉知ってる?そういうのマゾって言うんだって!」
「んな!?だ、誰がそんな汚い言葉をスズちゃんにっ!?」
「お姉の中学同級生だった先輩。ほら道場で堂々と盗撮してたカメラ君いたでしょ、お姉が金的して悶絶させた人」
「はぁ!?あんのカメ野郎ッ。違、違うんだよスズちゃん!私はマゾなんかじゃなくてね」
長々続いた家族会議の結果は、なんとか現状維持に収まった。
何といっても通常の手段ではアクセス出来ない。加えて魔力波も観測出来なかったから一時的な魔導具化でも無いという物証もある。
それに通報した所で真っ暗画面からノイズと共にステータスっぽい表示が映るなんて一般的にあり得ない。仮にバレたとして手の込んだ悪戯かと思いましたと主張すれば言い逃れも可能だろうという論理武装。
とりあえず上級国民な方々からもし突っ込まれてもしらばっくれたらいい(そもそもいち平民に対して興味も持たない)として、結果をマッキーに連絡してみればあちらの家庭でも大体同じ結論に至ったらしい。とりあえず何かあれば互いに相談として連絡終了。ついでに学園の教員へ提出する書類を魔導端末使ってデータ送信、完了。これで今日すべき事も全部終わり。
部屋で一人になって、クローゼットから明日持ち込む予定の品々を取り出し並べてみる。
観測画面のおかげで物凄く手間が省けた。本来なら二週間・三週間掛けて調査する予定だったアビリティ組み合わせ用の品々。
アビ組みとは端的に言えば、装備が持つアビリティを部位ごとに整えて複合アビリティや特殊アビリティを発現させる事だ。
例えば霧樹木の肩当てには【霧盾】というアビリティが、霧樹木の冠には【遠視】というアビリティがついている事に加えて、同時に装備すれば【霧透視】というアビリティが新たに発揮される。霧樹木の腕輪と首輪のセットでも【霧透視】は発現するし、【霧透視】のアビリティに関しては他の様々な装備の組み合わせでも得られるようになっている。
だがこれだけ発現しやすいというのに、一般の探索者用掲示板でも学園内掲示板でも全くその話題は見つからない。むしろ霧樹木系統のドロップアイテムはハズレやら木材扱いされているくらいだ。ギルドの買取さえ拒否される扱いなのでこちらは本当に知られていないのだろう。
まぁ霧樹木の肩当てに魔力を通して【霧盾】を発現させても前方にもやっとした霧の塊が出るだけで特に有用そうには見えないといった見た目の問題も原因だと思う。手を突っ込んだらすり抜けるし、煙幕というほどの濃度も範囲も無いし。
学園ダンジョンの霧が出る環境層ではほぼ必須と言っていい霧系統のアビ組みなのだが、未知というより常識的に木製ドロップはハズレという話が一般的過ぎるのが弊害となっていそうだ。
これらも観測表示の特記事項の項目に表示されたのをマッキーと確認済みで、ゲームと同じ組み合わせでも表示された事に安堵した。ダンジョン外では濃霧と言われてもそこまで酷い霧など巡り合えず、本当に効果があるのか確かめようが無かったのだ。まぁダンジョン内の霧は魔力を帯びていそうだし恐らく通常空間で発生する自然の霧とは別物だろうと思われる。
そして手に取り【装備】した木製の棒のPC表示は【霧樹木の棒】で魔力消費小。と書かれていながらも生成量の箇所のマイナスは9という今の私にとっては大きな数値。
見た目ただの木の棒である。アビリティ表示は無し。
このハズレドロップがダンジョン内階層を行き来する為に必要なピースのひとつであると気付ける人間がいないのは仕方無いかもしれない。
荒唐無稽に過ぎる話だし、原作ゲームで主人公が偶然発見するエピソードを覚えて無ければ私でもゴミとして捨ててる。そのエピソードを発生させるにも幾つか前提クエストをこなさなければならない面倒なものだった。
ウチは幸いながら探索者装具類販売店。ダンジョンドロップ品の売買資格があり、過去に持ち込まれ二束三文で買い取りしていた。ギルドじゃ買取拒否されてるコレは木材扱い、薪程度の値段であるから持ち込まれる事など滅多に無い。
そんな品であるが、もしかしたらと譲って貰ったものを確認すれば今回めでたくビンゴ。もちろん全部が全部というわけではなく、ただの木の棒やらガラクタも混じっていた。閑話休題。
特殊なアビ組みに必要な物品はこの棒に加えて2種あり、全て店に売られて来た時にお小遣いはたいて親から買い取った経緯がある物品らだ。
長らく自室のインテリアと化していたペットボトルほどの大きさの白い直方体の木型と木皿。ただの木型にしか見えない少々ホコリを被ったインテリアを入手した当時は装備出来るかマッキーと躊躇いながら試した思い出がある。魔力を込め過ぎて初めて破裂させた時は焦ったなぁと思い出して少し笑みがこぼれた。
もちろん今日は観測画面を見ながら試してみたし、きちんと【装備】出来たのも確認済み。
【霧樹木の積木】魔力消費1と【霧樹木の木皿】魔力消費5。
【霧樹木の棒】も合わせて合計で魔力消費15,私の生成値を上回る数値で観測表示の魔力値が徐々に減っていくが魂宣すれば生成量が上回るので全く問題無し。
その間に追加表示された特記事項の内容は、【霧渡り】という複合特殊アビリティ。
原作ゲーム通りであれば、学園ダンジョン限定で階層を自由に移動可能にするアビリティの筈だ。
「くふっ……」
大勝利を確信してにやにや笑いが漏れた。
霧球域ゲート エリア、霧の境界の中で無いと確かめられないが早く試してみたい。そうすれば泊りがけでの階層移動や高いお金を払って装甲車や宙空車で階層移動なんて面倒事をスキップして、学生がたむろする階層や民間プロが入る階層をすっ飛ばせるのだ。
まぁ一度は踏破しなければならないのだが、それでも移動時間の短縮といった恩恵は凄まじい筈。
もちろん倒せる魔物は選びに選ぶ予定だが、超高効率の狩りを実行に移せる予感に口がにやけてしまう。他に有用なアビ組み装備を両親から借り受けられたのも期待度を高めてくれる。
「ふふっ……くふっ……」
マッキーは巡回員やギルドに提出しなければならない行動予定表をどうするかと頭を悩ませていたが、馬鹿正直に書かず、適当に端折ればいいと思うしそう伝えれば眉間に皺を寄せてため息つかれたものであるが置いておこう。そんな事は些事だ些事。はっはー!
ともかく、レベルさえ上げてしまえば学生の間に降りかかる災難など耐えるも跳ね除けるも自由自在。
明日から授業開始と共に部活動仮入部期間が始まるが私は放置一択で帰宅部予定。関わらざるを得ないのは三週間後になる、初のEクラス合同DA。まずはそれまでにジョブを得られるレベル5まで上げる事が目標だ。そしてそう上手くいっても、将来的にやはり問題は、探索者優遇制度によって貴族が関わってくる事。徴兵される前に貴族の吟味が入るというし、庇護者の年齢が20歳未満だったり探索者養成校在籍だと猶予期間を得られたりするらしい。
ギルドの庇護か、貴族の庇護か。
ツテが無ければギルドの庇護となるだろうが、ギルド傘下のフリー探索者だと猶予期間は得られないし、後ろ盾となる担当者がしっかりしてないと木っ端下衆貴族に目を付けられかねない。
「うーん、牙閃……二之華伯爵家のポニーテールちゃんが在籍してるかもか。20年以上経ってるし子供がワンチャンいるかもねって笑ってたのにまさか本人達がいるかもしれないとか、どうなってんだろこの世界……」
貴族事情は貴族間で完結する為か、民間には簡単な経緯結果も滅多に報道されない。
それにどこそこの貴族の未成年なんて名前すら調べる気が起きない。
なぜなら軽い気持ちでネットで調べようとしたら警告が画面上に表示されるのだ。『この検索結果は貴族家の私的情報に抵触する可能性があります。許可を得ている場合のみ続けてください』という警告文が。
それを無視して調べようなんて気は起きなかった。絶対通報がいく仕組みだし家族に必要以上の迷惑掛けたくない。まぁマイナーなブラウザソフトなら警告文も出ないかもだが、【電脳士】のようなジョブもある世界。そんな危険を侵してまで知りたいとも思えなかったのだ。
私が高レベルになれば家族をダンジョンに連れていってパワーレベリングする予定ではあるのだが、多分両親は成長限界に至っているだろうから先に限界突破クエが必要で、妹様の説得に手間取るかもだしで、中長期的には割と予定が詰まっている。
経済的にや社会的に追い詰められたら海外に飛び出せるようにパスポートとか海外ギルド員の資格取得とかも考えておいた方がいいかもしれないしで頭がこんがらがりそう。
まだまだ先の話で半ば妄想だと考えていたが、思っていた以上に現実感を帯びてきた未来予想図に資金集めや資格勉強といった直近の課題もまた思い浮かび、なかなか寝付けない学園入学式の夜。
部屋の窓を開けて天頂を見上げれば、なんとなく地下の天井を突き抜けた先の夜空には、煌めく星々を従えた天満月が微笑んでいる気がした。
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〇漢解除
安全に罠を解除する器用さや技能あるいは魔法・魔術を使用せず、愚直に罠を発動させ耐える行為を指す。
ともすれば愚者の行いだが、他者の痛みを肩代わりする自己犠牲精神の顕れとも取れる。
取れる手段がある場合には回避した方が賢明だろう。見知らぬ素材を食し倒れる事が多いヒトならば猶更だ。




