11話 二日目 朝
◇ ◆ ◇
「おはよーさん」「おっはー」
中学時代から続けている早朝マラソンに出掛ければマッキーと合流。特に中止の提案無ければ毎朝集合している。中学時代はどちらかの親に送り迎えして貰っていたが、もう探索者資格を得たのでひとり歩きも問題無し。とはいえ出来るだけひとりでの出歩きは忌避されるのは変わらないし、まだ天井の魔導灯も弱光という薄暗さの早朝なのでどちらかの家で落ち合う事にしてる。
そして地上に出ていつも通りに帝居大庭公園を一周するルート。一般人に相当する平民(戦力値百以下の人)に開放されている道は二種類ある。
外側のランニングコースはダンジョン経験者用で、内側の道はダンジョン未経験者用もしくは歩行者用である。魔力の有る無しで分けられているのは事故防止の為もあるが、速度がまったく違うので自然とそうなる感じ。ひとつしか車線が無いランニングコースでも内外で分かれるから、その辺りはマナーとして躾られている。当然ながら戦力値100以上の探索者は外側と車道だ。
こういった配慮があるのに加えて、この辺りは何やら結界が常時展開されているらしく魔物の脅威が無い特別な地上地域だ。そんな場所であるのに一部が平民にも解放されており自由に行き来できるとあって、この帝居大庭公園のランニングコースは朝陽も出てない内から毎日大盛況なのである。通える範囲に住む探索者関係者は来ないと浮く。一日休んだだけでもそれはもうびっくりするくらい総ツッコミを受ける事になる。強制でも無いのにね。まぁ将来の探索者同士のつながりと考えれば善し悪しも善しに傾くだろう。
地上では吐く息が白くなるほど肌寒い季節であるのだが、そんな薄明かりの中でもそこかしこで息切れ声に混じって怒鳴り声が散発的に響く。
「こぉらぁぁぁ!」「そっちは貴族さまんの敷地じゃけぇ!」「叩っ斬られたくなかったら戻ってこんかい!ワレェ!」
「「「すみませぇん!!」」」
現世では貴族専用の道路やら建物やら敷地があり、4月になって新中学生がいそいそと出てきて間違う所を見掛けるのはもはや風物詩。そして周りの人達が一斉に注意するのも慣例で、「これこれ。これがあると四月になった実感わくわー」という声が聞こえるほど。
そんな声を背景に顔見知りに挨拶されれば応えていく。ここに通いだして4年目に突入、さすがにもう常連と言っていいだろう。
「おはようっミラちゃん達はもう今日から外側かい?」「おはようございます。昨日にDAしたんでー」
「セイちゃんおはよー!朝から会えるなんて今日はついてるぜ!」「うっせ。どこ見て喋ってんだ助平野郎」
中学時代、というより一昨日までであれば戦封じを着けたままだったので内側道を1時間ほど掛けて1周したものだが、今日は外側道に入って走行。驚きの1周約15分。それでも周りに合わせて軽く流した感じでマッキーと共に汗ばむ事も無い運動量だと実感。高レベル者も全力で走ったりはしないし、むしろ話ながら走る人が外側道は圧倒的に多いのだ。
この劇的な運動能力の上昇はやはり魔力の恩恵。
一昨日までと比べて段違いの体感は爽快の一言。
「え、セイちゃん!?もうそっちなの!?」「あ、いた!!セイ先輩とミラ先輩!」「ぜえぜぇ……」「探校に入ったんだって?ガンバレー」「はっふっはっふっはっ……」「苗字で呼びなさいよ馴れ馴れしい」「先輩たちはそんな事気にしませーん」「昨日入学式だろ?今日で外側って事は」「うぉ!?ユキノお嬢!?なんでこっち側……」「おー」「入学式ん日にダンジョン入ったんか」「気合入ってんなー」「アネゴもついに外側かー」「セイちゃーん」「【走り傘】もさまになってんじゃん」「げえっ!?お嬢!?」「あ”?」「おっはー!がんばー!」「おはーお互いにー!」
顔見知りも自然と増えて、小学から続く後輩にも手を振ったりして挨拶も飛び交う。
マッキーは外行き用の猫被りモードである。私はまぁ小学時代にボコボコにした先輩方にはいまだにビビられているようだが……なんにしても探索者になった数人には私のTEKKENで心が折れる事無かった根性が備わってるみたいだね。ただお嬢呼びはヤツラのせいで広まってる気がして青筋が立つけど。
一昨日までなら、この地上にある公園で走れば当然ながら風が耳元で唸るものだし顔面と言わず全身に風の抵抗を叩きつけられたものだ。けれどそんな不快さからはもう解放された。魔力を意識して進行方向へ流線型に形成し自身を覆えばほぼ無視する事まで可能になるからだ。
衝撃を受け止める魔力壁と呼ばれる技術より遥かに劣る防御性能しか無いが、走行時の抵抗(主に風)を和らげる目的のこの魔力操作技術の通称が【走り傘】。円状に成形した魔力塊に魔力線を繋げるだけで発現するお手軽魔力障壁。物凄く薄く柔いが、とはいっても魔力塊に使う魔力濃度を高めれば雨くらいは軽く弾けるようになり、中学時代はこっちずぶ濡れで向こうは涼しい顔という格差に悔し涙を流したもんだ。
もちろん私達は練習済みで、このマラソンコースでは初お披露目。非常に快適である。
これに慣れるとほこりや砂が目に入ったりしていた昨日までのマラソンは何だったのかという心境になる。罰ゲームに違いない。はっはー!
坂の勾配もそこそこあるこの道は慣れない者には厳しい。
内側道でぜぇぜぇ言っている中学生達よ、私達も一昨日まではそちら側を走ってたよ。頑張りたまえ。
ついでに何人かがランニングコースに隣接する広場で組手、いやケンカをしてるのはもはや日常風景なので割愛。金属棒を振りかぶってガンガン打ち鳴らしていて、初見の中学生などは顔を青褪めさせる者もいるが、それ以外はいつもの事と放置だ。時々レベル差を見せつける威圧をする輩も出るけれど、そういうのは大抵近くのプロ探索者が即鎮圧に動く。この場はじゃれ合い程度ならまだしも命のやり取りをする場では無いときっちり分からせるようだ。小学と違って刃物や飛び道具を持ち出す者も滅多にいない事もあり、やはり年を経ると角が取れて社会性を得るというか、秩序が築かれていくようである。
時々道端に倒れている人には公園の管理人やボランティアみたいな人達が、休憩所にある最低等級回復薬を生成する魔導具で生み出した液剤をぶっかけ回っているので放置で問題無い。回復薬のおかげで傷害罪なんて実質無いし物理的な後遺症も残らない。トラウマは、まぁ残る人は残るのだろう。探索者の姿を見ただけで回れ右したり体が震えだすって人もいるそうだし。
輩というかならず者な探索者くずれもまたいて、そんな連中は一般人に横暴な振る舞いをしたりするので、正規の探索者としては風評被害を少なからず被っているのだ。そんなならず者はこんな朝早くから真面目にランニングなんてのに参加しないようだけどね。
早朝ランニングは習慣付いてて毎日走らなきゃ気持ち悪いまであるが、無駄に顔が広い横にいる巨乳金髪のせいで違う意味で悪目立ちするのは避けられない。まあ視線の大半をマッキーが自業自得で受け持つので私は構わない。
それよりも周りが顔見知りばかりとはいえ、ひとりきりで動く方が目立ってしまう。この国、治安がよろしくないので必ず複数人で動きましょうという教育を子供の頃から叩き込まれるからだ。そういう点ではマッキーに感謝しか無い。私は男子との交流なら少しはあるが、女子との交友関係は狭いのだ。
後輩なら妹を通じて何人かに慕われているようでもあるが、同級生からは猛獣のように恐れられ、近付いたら短い悲鳴をあげられるし、私をよく知らない者たちからは遠巻きにされる距離感。だからまぁ、マッキーのおかげで早朝ランニング中ぼっちにならずにすんでいるのだ。
ちなみに魔力のおかげか、私達ふたりとも風邪など生まれてこのかたひいた事無い。雨に打たれようが雪に塗れようがへっちゃらなのである。健康バンザイ!
「ついにこっちに来たか!雪小路ぃぃついでに牧野ぉお!!」
「うっさ」「うわ出た、しかもオレはついでかよ」
ランニングコースでは無くマナー違反上等の広場内で並走してくる上半身裸の変態不審者。中学の道場稽古でボコして以来絡んで来るひとつ年上の門下生。近くにはやはり数人ほど同じ門下生の姿が、全員が全員体も温まっているようだ。中にはクソセクハラ糸目野郎も混じってる。ほーん……
「センパイ、私たちと違う探校でしょ。もう絡んでこないでどうぞ」
「知らん!問答無用!隙ありぃイイ!?」
広場から大声上げて突っ込んできた変態が繰り出して来た六角金剛杖が私の魔力壁を紙障子みたいにあっさり破いて貫いて来た先端を頭を逸らして躱した勢いのまま体を回転させつつソイツの懐へと飛び跳ねる。地面と体が平行になりながらも回転蹴りを鳩尾へ叩き込み、顎が突き出た所を肘撃ち、反動で下がった体を左足で地面を蹴るように支えながら右足で再度鳩尾を蹴り飛ばす。
耳に入って来る歓声やら罵声やらはシャットアウト。続いて飛び掛かって来た他門下生たちをテキトーにあしらいつつぶっ飛ばし、クソセクハラ糸目野郎は念入りにボコボコにしていれば広場のそこら中で乱闘が始まり誰も彼もがもみくちゃに。マッキーは、なんかうまい事端っこで後輩女子に囲まれて巻き込まれていないみたいだ。というか近くに大人の探索者の姿もあるし、後輩たちと一緒に観戦してやがるので放置。
それからは私もいくつか重たい拳を腹やら顔面やらに貰ったがカウンターでアバラを砕いてやったりとそこそこにハード。まだまだ朝の|ゴールデンタイム《もっとも人が多い時間帯》でも無いのにコレか。まだランニング二周も終えてないんだけど、中学までと違ってやっぱ外側ランニングコースは乱闘が付き物になるようだね。まあ仕方無い!三年間内側コースから乱闘模様を見て来たんだから外側を走るという事はそういうものなのだと分かってる。つー事でっ次ィ!掛かってこいやぁ!
朝のランニングと広場での体操を終えての帰り道。あれからマッキーも乱闘に加わっていたようだが総じて品の良い人達との稽古という感じの場にいやがった。ふぁっきゅ。何が違うのかやっぱり品行とかそういうのか?まぁ別にいいんだけどね、体思いっきり動かせて気持ち良いし。二人並んで歩きつつマッキーが上機嫌に口を開く。
「いやぁ健康優良児としては、まっこんなもんっすわ。身体軽いかるーい」
「まぁね。ちょっと前まで外側の人ら速すぎぃ!って思ってたけどいざ魔力持ったまま走れれば全然余裕。ここまで違うかね。魔力が有るか無いかの差ってやっぱ無茶苦茶デカいよね」
「それな。周りもいうてオレ等よりレベル高いんだろうけど全然ついていけるわ。中学時代のタイムと比べると呆れるやら笑えるやら。ただあんま動くと胸が痛ぇ」
「横でバルンバルンさせてたのわざとか思ってたけど素だったんかい。そのジャージも中学ん時のだし……ただの布を【装備】してもそりゃあんま意味無いね。走り傘はしてたけど身体強化は?筋繊維保護とか瞬発強化とか部位強化とか色々練習してたのにさ」
「ああ、魂宣ほどじゃねえが身体強化すっと目立ち過ぎるのがな。ユッキーもそれで乱闘ん時は常時は使って無かったんだろ。本気過ぎるのはあんまな、それに【装備】するとタイツみたいにぴっちり張り付くしそうすっと野郎どもの視線がだりぃ」
「乱闘とは言うけどじゃれ合いみたいなものだからね、ただ装備するしないどっちにしても視線は大して変わんないと思われ……ウチで買ってった魔導具の下着だけでも【装備】すりゃそんな動かんでしょ」
「あー、そっか。完全に中学ん時の意識のままだったわ。そかそか探索用に買ったヤツだもんな、魔力保ったまま過ごせるんだしもう着て来ていいよな確かに……明日からそうするわ」
「ん、普段使いすべき。快適さが全然違う。私もこれから戦帯持ち込もうかなぁ、まさか初日から乱闘に加わる事になるなんてね」
「オレからすりゃなるべくしてなった気がするがな。センパイ達もテキトーに言葉で嫌がればあれ引いてたぞ?」
「問答無用とか言って突き入れてきた相手を見逃すとかあり得なくない?」
「ああ、いやそっか最初の切っ掛けはあの半裸パイセンだったっけか……にしても中学時代のマラソンと全く違ってて別の生物にでもなった気分だぜ」
「分かる。ダンジョンの中とは違う、なんか新鮮な感動があったよね」
「ああ、こう意識のスイッチっつうか、ダンジョン外じゃ家ん中じゃないと戦封じ外せ無かったしさー。なんか新鮮だわ魔力保ったままこうして屋外でも動くの。……すぅぅぅぅ……空気うめえええええ!!」
「うっっっっさ。まぁ気持ち分かるけどね」
私ん家と違ってマッキーの家は戦封じを付ける事に厳しかったからなぁ。
それはともかく。
原作ゲームの登場人物達のように強くなる為にはやはりダンジョンに潜らねばと強く思う。昨日DAをして改めてそう思った。
ドロップアイテムも子供の小遣い程度にしか今は得られて無いが、中層辺りにまで潜れれば儲けの桁が変わる筈。さらに深層となれば蒐集欲さえ満たせる。さらにさらに魔力が高まれば身体的な恩恵すら増すのは自明。美貌であったり全盛期の時間であったり寿命であったりがプラスされるという噂はほぼ確実。存在進化を重ねれば超越者としての道も開けるのだしDAしない理由が無い。
「授業かぁ。ユッキーはマジで全コマDAなんだよな」
「オゥイェス。昨晩、担任教員宛てに時間割り書類とかもデータ提出済み」
「ああ、昨夜急に担任から届いたメールにユッキーの時間割り書類あったから見させて貰ったよ。班長《PTリーダー》の欄に同意チェックしといたがマジでアレなのか、いや聞いてたし予定通りではあんだが実際に見るとこう、いいのかこれでって思いが湧き上がってくるってか……」
「へー班長にも共有されるんだ。通って良かったよかった。さすマキ以心伝心オールオッケー!グッジョブ!」
「はぁーご機嫌だな。つーか予定通り進めるなら、ダンジョン内で巡回員が空振るの確定か、どうすんだ?」
「どうもしないよ?単純に会わなかったで通す」
「そらそうなるだろうが、他の階層で会ったら?」
「呼び止められないよう無視して魔物に突っ込めばいいっしょ?こっちが応援呼ばない限り討伐中の横殴りはマナー違反だし、戦闘終わったら次の階層目指してとっとと移動するつもり」
「つまり無視一択かよ。ひでえ計画だな。巡回員PTが絶対ギルドに報告入れるからなそれ。探索終了時の報告でオレを呼ぶなよ?」
「それは約束できない。来なかったら、なんか班長からそんな指示を貰った気がする、で通すね」
「ふざけんな。マジで止めろ。まぁ天頂スキップは任せるが無理すんなよ暴走ロリ娘」
「ロリじゃねえ」
悪態をつくものの天頂スキップの事で心が浮足立つ。今から楽しみだとほくそ笑んでいたらマッキーが神妙な顔をして口を開く。
「オレはまず事務室寄ってから……空梅ちゃんとは校門前で顔合わせのが良いよな?フラグ的にも」
「ん、んん?いやフラグ関係なんて覚えてない。まぁストーカーと間違われんようにね」
「心配無用っ!オレコミュ強だし」
「どうだか、心配になって来た。脳みそピンク色になってないか確認しとけ?てか本当に本人、というのも変だけど性格とかPT役割希望とか色々確認しなよ?」
「オレの事よかユッキーは自分の心配しろよ」
「昨日の感じからしてこっちこそ心配無用だって。というかソロで出来る事確認がてら【霧渡り】の為にも階層進めときたいし。いうてジョブ取得は早いほうがいいでしょ。経験値稼ぎはやっぱり大型仕留めた方が効率良いだろうし。魔導端末からアクセス出来る学園掲示板見たら事前情報通りにE組ってどの学年でも環境層以外にいると嫌がらせ受けるんだって。この辺り原作シリーズとほぼほぼ変わらん雰囲気っぽい。だから3層4層は混み合う前限定、天頂スキップ行けそうなら学生が少ないっていう8層9層まで足伸ばした方がいいでしょ」
「いや8層9層は無茶し過ぎだろ止めろバカ。飛行型の魔物もいんだ、空中戦が自由自在ってわけでも無えだろうが。先輩らは5層遠征でも一週間つぎ込むんだぞ」
「私らの戦力値的には全く問題無いっしょ。一般学生なら回復薬使わなきゃいけなくなる小型種の噛み傷とか、赤くなる程度だったし」
行きに2日、実習2日、帰りに2日、一日休み、という一週間ルーティンの行軍練習兼ねた徒歩での遠征演習が学園高等部では組まれている。もちろん上流階級組は宙空車や装甲車を使って半日で目的階層へ移動しているとの事。
ダンジョンの入口、霧球域ゲート は外から内へはどこからでも物理的なモノであれば何でも通す。それが車両であろうと戦闘機であろうミサイルだろうと探知系以外なら来るもの拒まずだ。
昨日のDA時も中央の霧球域ゲート へ向けて飛んでいく学園所有のヘリや宙空車の姿を見た。だが移動がそれで全部賄えるかというと非常に難しい現実がある。まず何より一層一層が広大なわけだが、人間とみるや襲い掛かって来る魔物は地上空中水中どこにでもいる。
道路などの人工物も魔物は餌とする事が多いようで保持しようとするだけで警備を必要とするし、侵入場所をきちっと測って霧球域ゲートを進んでも階層に入れば予定位置とズレてるなんて事もザラにあるようだ。
だが大体の侵入出現位置は調整可能。
東から入れば東方面のどこか、空中から入ればもちろん霧球域エリア内も足場は無く、霧球域ゲートの真上から侵入すればダンジョン内には階層の天頂付近に出る事だろう。
そう、天頂スキップというのは霧球域ゲートの真上から落下、フリーフォールしていく移動手段の事だ。ゲームでは決して出来なかった方法であるが、漫画などには登場していた。それを行っていた登場人物は空飛ぶドラゴンにパクッと喰われてしまっていたが。
「別に【霧渡り】が本当に使えるなら天頂スキップなんて無茶せんでも、片道だけでも護送空輸頼んでもいいんだしさ。すんげえ高い運賃必要だけど」
スキップと名付けられていても、何事も障害無く進めるなんて事は無い。
鳥類や虫類といった飛行可能な魔物はもちろん、自然環境の脅威が想定される。
高位探索者や貴族たちは宙空車やホバー機、ヘリといった航空機を運用するわけだが、学園ダンジョンでは13層に雷の環境層が存在する。突入したら着陸場所を探す余裕も無く雷撃によって墜とされるという話だ。
なので12層までなら航空機による空輸が成立している。超高価タクシーであり片道ひとり数十万。それでも車や歩きと比べれば段違いの時間効率で半日で到着予定。そんな事情もあり12層の中央霧球域ゲート付近はさながらキャンプ村と言っていい規模の建築物が軒を連ねている事は学園パンフレットにも載っているし配信もされていたりする。
「行きだけとかあやしまれるの確定じゃん。ナイナイ、必要無いよ。それに自分の力以外での移動を踏破と認めてくれるか微妙だし」
「D組連中なら経済力も自分の力だって言いそうだが」
「そんな人間側の事情なんて知った事じゃないでしょ、魔導具側からしたら」
原作ゲームと違い、階層を移動するという一点だけでも物凄く時間が掛かるのが現実。
そこで活きるのがアレら。外なので言葉を濁しているが、昨夜確かめたアイテム3種である。
三種が揃って初めて霧から霧へと階層を任意に渡る事が出来るアイテムシリーズ。
原作ゲーム上では自力で進んだ階層へのみ任意移動出来たので、いきなり行った事も無い20層とかにスキップなんて事は不可能とみている。
なので複合アビリティ【霧渡り】を活かす為にはダンジョンをタッタと進める必要があるのだ。
とりあえず学生どころか外部探索者さえ寄り付かないという9層、そして長期目標として14層まで足を伸ばしておきたい。
7層までは学生の主戦場。その中では3・4層が環境層と呼ばれる階層でその障害となるのは主に濃霧と沼。他階層は学生の中でも貴族組といった上流階級が幅を利かせ、E組など集団実習時以外は追い払われるそうだ。学園側にレベル上げを一定期間隠すなら上位組が忌避する環境層、その中でも環境が特に厳しい4層、そして9層が適しているだろう。
ちなみに現世では階層数x2が適正レベル帯と言われているが私達の魔力値は飛び抜けているので全く参考に出来ない。
「移動中を見られりゃ学生はもちろん一般探索者にも怪しまれるか」
「空輸はだから無いね。ぶっちゃけダンジョンってだけでもう楽しいし。中にいるだけでテンションぶち上がるし。魔物ぶちのめすのもドロップ集めるのも最っ高!だから自分の足で踏破すんのは役得まである。車とか航空機とか無粋だよ。ロマンが無い」
「昨日の様子からそう言う気はしてた。あんまり雑魚相手でレベル上げんなよ?【格下キラー】とかいう珍妙なジョブが現世にゃあるんだからな」
「それ逃げてく魔物を追いかけてまで倒し続けたらってヤツでしょ。昨日の様子見る限り多分まぁ大丈夫じゃないかな。仮に逃げ出してったら追いかけようとも思わないし。マッキーの協力しようにも勧誘とか人伝に情報収集とかそっち方面私じゃ足手まとい過ぎるしね。適材適所ってヤツ」
「おう。空梅ちゃん連れてくから期待しててくれ」
「まぁ……がんば。魔導銃関連の申請忘れないようにね……空梅ちゃんに無理強いはしないでよ?本当に無理矢理はダメだからね?」
「ああ!任せろ!」
空を見上げて決め顔で決意表明されてもなぁ。
予定聞いてみたら校門前で待ち伏せるとか何とか……やろうとする事ストーカー染みてるのは何なんだ。
それより先に職員室にでも行ってまず本当に在籍してるかどうか確認した方がいいと思うんだけどなぁ。
マッキーはそれこそ無粋だろやら運命やらフラグがどうたらと言ってこっちの意見を鼻で笑ってくれやがったので尻を叩いておいた。叩き返されたが、徳岡さん探した時のように現実的に動きゃいいのに。
まぁ校門前にゃ見た目ごっつい警備員が数人立ってるからケンカ騒ぎにゃならんだろうが、私がいても案山子程度にも役に立たんのは明白。
カカシの真似事に時間取られるくらいならDAでしょ常識的に考えて。
「んじゃ、DA申請よろしくマッキー」
「ああ!って、え?オレが参加しないDAでもオレが申請すんの?」
「そそ。だってDA申請は後方支援員がいないなら班長の役割。中学でもーそー習いましたー」
「いやそりゃそうだけど、班員でも申請できる……はぁ申請書類の項目埋めるの面倒なだけだろ。まぁ多分確認にオレにも連絡来るだろうからいいけどさ」
「昨日受付嬢と作ってたのをコピーしてちょちょいと手直しすればよくない?」
「簡単に言ってくれるなおい。まあそうするんだが、あー、絶対受付で不審に思われるヤツー。ソロでDAなんて滅多に聞かないんだが……、後で合流予定にしとくか。期間は日が沈む前までとして、攻略順路は適当に東から入るとして……あー、本当に巡回員に未発見とか報告されたらどう誤魔化すかな。てか巡回員て探索PT探すのか?巡回ルート上にいるのだけ報告するのか?クソ、昨日聞き出しておきゃ良かった。目的……言い逃れ用にまぁ探検って名目で肉付けしていくか、えー、魔物の生態調査・確認および討伐実習、階層環境の行軍習熟ー……申請通るのかコレ」
「昨日の三年のミノスって呼ばれてたガタイの良い先輩。あの人って一年の二学期まではずっとソロだったらしいよ、学園内掲示板に載ってた。枢パイセンもソロだし、そのおかげでソロでDAも刀京魔導学園ならありっちゃありって雰囲気っぽい。だから大丈夫。自信持って!」
「お前が言うな。あのごっつい先輩とロリロリなユッキーではビジュアル的に受ける印象がなぁ……、あ、通ったわ。しかも正式に。受付で作成させられんの本当に初回のみなのか……?にしてもガバガバじゃねーかこの申請。返信の早さ的に絶対中身確認してねーだろ」
「おー、さっすがマッキーさんきゅ!これで朝礼HR出る必要が欠片も無くなった。直でダンジョン行ってくるからしくよろー」
「おまえマジか。初日だしさすがにクラスで自己紹介とかやると思うんだけど」
「いやマッキー、中学と違ってE組って1クラス200人前後だよ?覚えきれないし自己紹介なんてやんないでしょ。必要があれば各自でしろ、じゃない?私にゃ必要ナイナイナイアガラ~らら~」
「そりゃゲームのE5組の話だろ。ったく」
原作シリーズでは現世事情と比べて1クラスの人数ももっと少なかった。
班《PT》員集めるのも探索者には必須のコミュ能力だから各自で鍛えろというエピソードだ。正直命の危険があるのだから教員がしっかりフォローしろと思うが刀京魔導学園のDA態勢に自信があるのか、E組で不祥事が発生しても揉み消す自信があるのか……。
この流れが推測通りなら授業進行も大体ほぼ同じと想定出来るので、その場合HRに出席せずにDAの方が学園教務部好感度は上昇する。ゲームでは。というか現実の入学式でもDAが優先されるみたいな事を言っていた。だからマッキーにとってもメリットのある話であるのだ。
ただまぁ、現実的に考えれば正直班員ひとりをダンジョンに突っ込ませてるだけで教師全員の好感度が上がるかというとノーだろう。中には普通に訝しむ人もいると思う。ファイトだマッキー。何とか切り抜けてくれたまえ。
もし仮に初日からぶっちかとか、班員ひとりだけにDAさせるとか何考えてんだとか、そう教員に詰められても同様。私は知らぬ!!!!
まあ、牙閃という原作ゲームでの授業初日はシタシタコンビに因縁付けられる所から始まる流れがある。この辺りは確認済みだが、朝のHRで、DA申請の手順とか授業登録とか部活仮入部の話とかは多分あるとは思う。思うが故に必要無い。時間の無駄である事はもちろん、大事なのは学生がダンジョンに来ないタイミングだという事。この人が少ない時間でしか出来ない事を進めるべきなのだ。
「ユッキーはコミュ力鍛えた方がいいと思うがなー、まぁそこらはオレがフォローするつもりだけどさ」
「いやいや私店員としてお客さんと話したりしてるからね!?コミュ力無いみたいに言われるのは遺憾である!」
「らっしゃっせーありっしたーしか言わんヤツにコミュ力期待してねぇんだわ」
「んな事ない!?風評被害デース訴えマース」
「ホントかよ」
マッキーは頭を捻ってるが、とんだ冤罪掛けられたもんだ。私ほど肉体言語に長ける店員なぞいないぞ!
まぁそんな事より今はダンジョンだ。思いを馳せれば頬も緩む。
ほむほむと目を眇めて春の朝空を見上げる。良い天気だ。絶好のDA日和!
◇
平民用の運行バスを利用しての登校。
中央区は帝居がある帝室エリアと貴族エリアと高層ビル郡があるエリアとで分かれているがこれは地上部という上流階級が住まう世界の話。
主に平民が生活するエリアは当然ながら地下にある広大な平民用居住区であり、主な移動経路は地下鉄と地下街を走る魔導バスだ。貴族からは地階のモグラなどと蔑まれるのが平民である。
だが地下といっても全く閉塞感は無い。太陽光を模した魔導灯はもちろん、窓や天井・壁の至る所に時間変遷で移り変わる偽日光で満たされた空間には緑もあり、公園などの公共エリア空間は自然を模した環境が再現されて空はもちろん投影されていて雨風すら人工的に模倣されている。むしろ一定の気温に保たれた快適な過ごしやすさがあるからだ。
前世の東京と比べると地下街は桁違いに広くなり天井までもがバカ高くなり、地下三階と言われても地上とほぼ変わらない程度に発展している。まぁこれは天州国東部地域の主要都市であるからこその文明度なのかもしれないが、魔導文明は黄金期を更新し続けているように思う。
魔物から避難する民間人を収容する為に地下がどんどん拡張されていったと中学で習ったが、それは建前で地上でワイワイキャイキャイと騒いで貴族の目に止まれば悲劇待ったなしとなるからでは無いだろうか(偏見)。
「本物の空かぁ……」
見上げた先は風を受けて流れる雲。肌に照り付ける日光。探校を目指す理由に地上に出られるから、という声がある。
子供の頃は「大袈裟な」と冷笑していたが、地下の空地や公園に在る自然と違って、やはり地上と地下では生命力の脈動が違うように思う。
「ん、風も心地良し」
乗り慣れないバスが地下と地上を繋ぐトンネルを通り過ぎて、学園近くの停留所に到着すれば、マッキーと校門で別れ、社へジョギングしつつそんな事をつらつら考えた。
昨日の学園内の社に寄った際には教員に付いて行ったのでスルーしたがここにはちょっとした秘密がある。
請願機能というものが原作ゲーム内には存在したのだ。いわゆる神頼みであるのだが原作ゲーム通りであるならば取得経験値アップやドロップ率アップなどをお賽銭を投げ込むと同時にDA1回分の間、祝福してくれるのだ。
実際に効能があるのかどうかは昨日と比較すれば分かる事。それとは別に、狩りに行く前にお祈りするのはホライゾンファンならばしない理由が無いというもんだ。
手水舎で手を洗い口を濯ぐ。この時柄杓に口をつけてしこたま叱られた記憶がある。マッキーともども境内で正座させられたものだ。もちろん前世の話では無く転生してからの話だ。
あの時、そういえば叱ってきた巫女服を着たお姉さんは存在進化していたのだろう。今思い出せば背中のスリットは、羽の出し入れの為では無かろうか。人化スキルによって町中では全く見掛けない異形の姿。生で見てみたいものだ。
そんな事を思い返しながら、からんからんと本坪鈴を鳴らして腰だめから静かに賽銭を入れればちゃりんちゃりんと涼やかな跳ね落ちる音を聞く。一歩下がり二礼二拍手一礼。原作ゲームではお祈り項目はひとつだけという制限があったが現実なのだ。お祈りし放題である。
(探索成就、開運成就、商売繁盛、家内安全、開運招福、交通安全、延寿福来、健康祈願、豊作祈願、悪霊退散、除災鎮宅厄除祈願……ええっと、探索成就(ドロ率アップ)、良縁成就(レアモンスター遭遇率アップ)、諸願成就(全運アップ)っ!!)
お守りに書いてあった文字を思い起こしながらのお祈り。
さらに社務所、平民用の売店にある自動販売機で緑の心願成就お守り(1000円)、黄色の金運向上お守り(5000円)、青の戦勝お守り(8000円)、赤の厄除けお守り(9000円)、白黒の陰陽お守り(1万円)を購入。
原作ゲームと同じ効能があるのならボッタクリとは全く思わない。気休めというにはお高いお値段で財布に直撃するがっ、PT費用からの捻出だ。購入完了。このお守り達はそれぞれが別のパッシブ効果を持っているのだ。
全部装備すればドロップ率・獲得報奨金・取得経験値・物防魔防率・全運(運が関わる事全般)が上昇する。懐が寂しくなろうと買う価値があるっ!
【装備】してどのくらい魔力消費するか分からない所が怖いが、詳細は家に帰って観測画面を見れば分かるだろう。
ついでにおみくじも引いておく。なになに――
『天は高く風向き良し。その拳は先を見据え、脚は今を踏みしめる。されど海にはご注意を。思いもしない海産物があなたの胃を直撃するかも。ラッキーアイテムはサーフィンボード。銃を懐に携えていれば下手なナンパは回避も可能』
……うん、なんだこれ。前半は良さげだったのに後半に掛けてまるで夏の海みたいな文言だね。季節外れなくじが引かれないまま入れっぱなしになってたのかな。まぁ、前半部分が景気良さげだしヨシとしよう。私の中の現場ネコも同意してる。
ステータス確認出来る家の観測画面は、ダンジョン外でも学園内や朝のマラソン地域でも見る事が出来なかった。ただし自宅からちょい出た辺りまでは私のスマホでは観測画面に切り替わり、父さんのスマホを私が操作しても切り替わって見る事が出来たので、私個人と家の周囲に何か目に見えない理由があるのだろうねと父さんがため息をついていた。超常現象についてアレコレ考えても仕方無いね!
閑話休題。お守りらを大切に鞄の奥に仕舞い込んで背負い直せば準備完了。いざ二度目のDAに赴かん!!
■■■ ■■■ ■■■
〇おみくじ
引いた者の吉兆が書かれているという占い。
別世界ではいざ知らず、現世の占いはなかなかどうして莫迦にしたものでは無い。
力を持ったヒトが相応の時に引くよう何かしら仕掛ける悪戯気な存在もいれば、
ヒトでは計れぬ人智を超えた存在が託宣を人知れず得るよう因果を操る事も、稀にある。
荒唐無稽な事物が書かれていたとしても、読み解き備えるが良き運勢を引き寄せる第一手段だ。




