↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

12話 2ndDA

 ◇ ◆ ◇


 受付を経て更衣室を借りて、学園の探索衣に着替えてからダンジョン内へ。

 濃灰色基調の迷彩柄である探索衣は制服のようにタイや帯を外して武器にしたり出来る箇所はないが、所々にプロテクターが付いた動きやすい造りで見た目はシンプルなタクティカル(コンバット)ウェア。ただしなぜかヘソ出しだったりふともも部分が剥き出しだったりする。考えた装備担当者の癖でしょこれ。いや縫われている術式陣の関係とかだったら失礼過ぎて申し訳ないが装備すれば全身にピッチリ張り付く事になるし女性用探索衣は胸が強調される衣装でもあり……まぁ慣れるしか無いか。

 装備して発現するアビリティも物理薄結界と体表を覆うシールド機能は頼もしいのだし……まさかこっちが物理的な防御機能とはね。制服の方の耐異常薄結界の方はどうも気温調節のような機能もあるようで少し暖かったから着比べた時にこっちでいいやってなった経緯がある。


 そんな事を思い返しつつ、霧球域(ドーム)ゲートに足を踏み入れ、深い霧の中である霧球域(ドーム)エリア内で昨夜の魔導具のひとつ、積み木のような木製模型に十分な魔力を込めて地面上に設置。

 設置といっても置いただけだが、これが【霧渡り】の際の目印になる筈なので現段階ではコレで準備完了。帰還地点の設定という感じ。


 そして進行方向へと数十秒も歩けば騒がしい音が徐々に聞こえ始め、霧球域(ドーム)エリアを抜けて霧に覆われていた視界が急速にあける。

 快晴。昨日と変わらず五月蝿いほど魔物の声が響き渡るサバナの光景だ。

 恐竜が栄華を誇っていた時代にはこういった光景が広がっていたのだろうか。

 早朝のおかげか視界内に生徒や一般探索者の姿が無い事を確認してから、鞄から取り出した戦帯を天女の如く揺ゆたわせて、魂宣し下方へと吹雪かせて身体を浮き上がらせる。


「んふっ」


 轟轟と唸る風音が少しうるさいが、身長を超える程度にぶわりと浮き上がれば、口端も釣り上がる。

 何の気兼ねも無く魔物討伐である。興奮して声が漏れても仕方無し。昨日は検証事も多くて物足りなかったんだ。


 授かる神の恩恵(ジョブ)はダンジョン内行動で決定される。

 それは、魔物から逃げて避けまくっていれば【逃走者(ランナー)】やら魔物から身を隠していれば【擬態者(ミミック)】といったジョブにされかねない事でもある。工夫せずに真っ直ぐ進み敵を殴るばかりでは【猪武者】や【愚鈍者(フール)】にされるかもしれない。

 そんな事は御免だ。


 見敵必殺《サーチアンドデストロイ》にも工夫(作法)を求められるのがホライゾンシリーズの常識。

 まぁすでにダンジョン内で敵対者複数の誘い出し、連続戦闘5回以上、情報収集(話し合いや採集)行動などの否定要項を満たしているので上記のジョブになる事はほぼ無い筈。まぁ原作ゲームには無く、現世特有のジョブ【お喋り屋】とかの可能性は上がっているかもしれないが。


 今現在装備しているものは武器5種(戦帯、小餓鬼刺突刃《ゴブリンスタッブレイド》、小鳩嘴刃《スモールピジョンビーク》、小鳩爪刃《スモールピジョンダガー》、石)、防具6種(探索衣、小鳩羽毛飾り、霧樹木の脚絆、雲の髪飾り、綿マフラー、学生鞄)、装飾品5種(腕輪2種、足輪2種、首飾り1種)。

 これほどの数を装備出来るのは魂宣の効果が大きい。例の観測画面で確認する限り魂宣のおかげで魔力生成量が二倍程度に上昇する事が把握出来て、私であれば30弱もの魔力生成値がある。


 そこに小鳩爪刃《スモールピジョンビーク》と小鳩羽毛飾りと雀の脚絆で発動する複合アビリティ【軽身功・序】や腕輪足輪首飾りの5種で発動する【魔体適応・小】などが足される。

 今纏っている装備性能全てを簡潔に纏めれば、身体が身軽になり【軽身功・序】、魔力生成値及び魔力制御が上昇し【魔体適応・小】、小型魔物への殺傷能力が向上し【スモールキラー】、刺突属性の攻撃力も増し【貫通強化・小】、気配が薄れ認識され難くなり【雲の如く】、動作音が抑制され【静音】、不意打ちを警戒でき【即意即応・序】、魔法の連続発動可能【コンティニュイティー】となっている。


 これら特殊なアビ組みに加えて装備自体が持つアビリティ(基礎能力向上系や蜥蜴系魔物へのダメージアップ、探索衣の【物理薄結界】など)が多種多様にプラスされているのが現状。


 ゲームでいえば序盤における前衛遊撃魔法職の最適解だと胸を張れる。装備性能だけなら10層前後までこれで大丈夫な筈。

 一般的な探索者は装備品ひとつひとつの性能が高い物を選ぶのが当然という考え方で、弱いものを組み合わせて何か効果を得るという考え方がまったくといっていいほど無い。それもこれも民間にある簡易鑑定魔導具のしょぼさ故だろうけど、まったくもって酷い話だ。まぁ使わない装備品に魔力を回す余裕も無いのかもしれないが。

 私はその点、ありあまる生成量に物言わせて装備しまくり、探索者用店舗でも売れ残る安物扱いの小鳩(スモールピジョン)シリーズなどを借り受けた結果である。それもこれも観測画面の恩恵が無ければ出来なかったのでありがたやーと感謝の念を送っておく。

 もっとも特定装飾品5種で発動する【魔体適応・小】と【コンティニュイティー】だが、後者の方はジョブを得るまで魔法を覚えられないので発動していても意味が無い。現時点で私が出来るのは自前での魔力操作のみだから。


 ……いや、もしかしたら吹雪かせているこの現象は魔法にカウントされるのか?自力での構築だし魔術カウントだと思うのだけどまぁそれも検証していけばいいか


 本来は一つずつ試したり実戦で使用して感覚で把握していくしか無かったアビリティ確認だが、観測画面の恩恵によって半端無い事になった。見積もっていた予定の数週間分のアイテム確認期間が一挙に解決したのだ。それらの作業もまた楽しめたろうが、やはり時間も労力も費やさなければならなかったので助かったという思いが優る。学園近くの貸しロッカーを借りてダンジョンと往復しなければならなかっただろうし割と目立つのを覚悟しなければならなかった。その時は探索者用装備品販売店(うち)の宣伝でもするかと思っていたが、まぁ別にいいだろう。


 武器以外でも、竹刀袋に入れた【霧渡り】用の棒は背負った鞄に括り付けたりしているので、受付嬢さんに「長物に武装変更ですか」と首を傾げられたが「サブウェポンのお試しです」と適当に返答して切り抜けられたので問題なし。実際、初日の見た目とずいぶん変わってるし。


「って、お守りの事完全に頭から抜け落ちてたね……」


 この装備構成は昨晩の自室でステータス確認しつつの実験済みの装備編成だ。

 魔力消費も切り詰める事を念頭に置いていたのですっかりお守りの事を忘れていた……移動にも戦闘にも魔力を使う事を考えれば今以上の消費はさすがに控えたい。


「ん、まいっか」


 なのでお守りの検証は明日以降にしよう。まぁこの探索でレベルが上がればどうとでもなるだろうし。それにお守りの確認は観測画面で中身を確かめてからでもいいのだし急ぐ事でも無い。お守りというからには持ってるだけで効果あるかもだし。


 値段の高い品、魔力保有量が大きい物品ほど強いのは当然だが物品を扱う(装備する)のにも必要魔力量が大きく、何なら家の倉庫にあった猫人曲剣《ペシャメルソード》など確かめてみると魔力消費量が17だった。

 魂宣すれば私でも装備は出来るが、装備ペナルティはどうしようもない。試してみれば相変わらず僅かな時間で両腕が凍えて手の平は柄に張り付き指先の感覚が無くなるほど冷えた。ふぁっきゅ。

 剣に適性ある探索者でもきちんと装備するには学園卒業出来る程度のレベルを必要とするだろう。そう思いネットで軽く調べた猫人曲剣《ペシャメルソード》の評判は、斬れ味鋭く使いやすいが消費が大きいプロ用の装備などと書かれていて、然もありなんって感じ。


 並んで情報収集魔導具。

 周囲の敵性存在、魔物や攻性魔力波などを探知したり出来る高性能魔導具(中型)だが、こいつはなんと魔力消費量289だった。私の魔力属性に適性が無い為でもあろうが一瞬その表示が出た次の瞬間には装備から外れ、魔力枯渇させられて驕っていたと鼻っ柱をぶっ叩かれた思いだ。

 マッキーは私より適性があるようで魔力消費量が変わったがそれでも魔力消費量157。ぶっ飛んだ消費量である事は変わらず私同様一瞬で魔力枯渇状態へ。

 大きさも結構なデカ物で、魔導具という分類だが魔導機に分類されてもおかしくない重量・容積であるし、説明書の使用想定でも魔導車といった車体とかに取り付ける型であって人が持ち運ぶ想定でも無かった。その上超高価である。探索に持ち込もうだなんて大それた考えでした……。


 まぁ情報収集魔導具(小型)の方だったらマッキーでも中学時代に起動出来ていたのだが……そちらは起動維持数秒、探知範囲数メートルという使い物にならない代物でノーサンキュー。確実に電力で動くソナーや双眼鏡を持ち込む方がマシ。小型のモノはむしろ買った人から詐欺だと訴えられかねない性能じゃないかコレと憤った程。


 ちなみに父は適性があるらしく、中型の方を使い始めて数分間も起動維持させる事が出来ていた。見せて貰った時は二人して「「なんでぇ!!?」」と叫んでしまった。適性有る無しで魔力消費量が桁違いになるようだ。


 つまり人によって魔力属性が違うように適性がある装備もまた違っている。ゲームでは誰でも一律同じ魔力消費量だったのに、嫌なところで現世は細かいのだ。まぁ逆に適性がある装備は魔力消費を抑えられるし、観測画面によって私達は一目瞭然に知る事が可能。やはり観測画面は凄まじいチート性能である。使える内に使い倒さなきゃという使命すら感じるッ!


 というのも適性の無い装備を、無理に装備しても良い事が無いからだ。憧れと現実の差の程度は人それぞれだが、探索者にとっては致命的になりやすい。

 物理的にも、人生設計的にも。

 前者は単純に魔物に殺されやすいから、後者は裏付けが取れていないが成長限界が低くなる(レベルアップ時の魔力成長も低くなる)から。畢竟、適性がある装備を得る事は探索者にとって命を掛けるに値する。観測画面はその適性を数値で可視可するのだから知られたら妬みやら嫉みで物凄い事になりそうだ。なので家族には厳重に口止め済み。調査しようとした父には特に必要性も危険性も口すっぱく言い募って、母からも援護が飛んできたので心配はもう無い。


 それはともかく。装備品によっては装備出来たと思ったのに、あまりに重たくて持ち上げる事が出来なかったなんて話もある。この場合は身体強化分の魔力すら注いでしまった事が原因の大半。その状態だと他の装備品が外れてしまっていたなんて事も起こり得る。

 現世では大概の戦闘動作に魔力を必要とする。

 幸いなのは魔力生成、魔力回復速度がとても早い事くらいか。戦闘時に枯渇すると致命的であるが日常ではあり余るという感じ。


 まぁレベルが上がっても私達の身体能力値が2のままだった時点でおかしいと思ったのだが、どうやらゲームの筋力値などは現世で言えば魔力による強化した後の値に相当すると考えて良さそうだ。つまり何をするにも魔力運用が前提。

 魔力が超重要要素だと結論付けた幼少時の私は本当によくやった!未来の私から拍手喝采を送りたいほどだ。ブラボー!


 私はレベル2で戦力値67の魔力値65。レベル1時点では戦力値54。

 これは眉唾ものながらネットに載っていた情報、同じレベルの貴族と比較しても大きく上回るほどの戦力値であるっぽい。

 貴族は戦力値など当然ながら公開したりなどしないが、有志の検証ではこのくらい無いと理屈に合わないと記載されていたのがレベル1で20という戦力値。上位貴族はさらに上回る筈と書かれていたが、つまり私は貴族に匹敵するか上回る程度の魔力素養を持てているという事だ。これを知った時は自身の努力の成果にじわじわと喜びが胸に広がったものだった。


 普通の新1年生は普段防具である探索衣を【装備】して、攻撃する際のみ武器を【装備】したりしてと切り替えるような魔力の節約をしなければまともに戦えないそうだ。何なら移動中に魔力が枯渇して装備が外れた事に気付かないまま戦闘を行い大怪我するのが毎年一定数出るらしい。


「する事は変わらないし」


 低空浮遊状態から木々の上辺りまで、ぶわりと浮き上がって枝や幹を蹴りつけさらに空へと舞い上がる。

 【念力士《サイキッカー》】などの一部のジョブは浮遊や飛行といった移動用の魔法やスキルを覚える。

 ゆくゆくは単なる魔力放出では無くそういった技能の運用でどうにかしたいが、今は空中移動の練習でもある魔力制御修行。その一環だ。

 悪目立ちするなとマッキーから口すっぱく言われたので遠目に人影が見えたら止めるか考えるが、授業開始初日の早朝に学生の姿などギルド内にすら無かった。民間のプロ探索者っぽいのが数人程度で、そちらは関わらないし関わって来ないだろうから問題無し。


 腰辺りに生成制御している吹雪の術式は相変わらずしっくり来るほど私に馴染む。

 魔力制御の方法も千差万別。

 個人毎にやはり感覚が違ってくるし、技術自体は貴族家それぞれが連綿と伝え研究しているそうだ。

 技術体系や貴族家によっては秘伝・秘術や秘奥と呼ばれ隠される類の奥の深さが魔力制御には有る。また貴族の慣習には、大雑把に言えば『みだりに広めるべからず』という不文律があるそうで、術式関連の知識伝授を民間の道場や探索者間で大っぴらに宣伝したりすると首に縄を掛けられるという話。


 本当貴族ってヤツは……。


 ただそれはどこも同じ。海外でも似たような状況らしく、海外遠征していたという探索者が配信で愚痴っていた。人類という種全体に対して上位者が魔力制御に関して箝口令を敷いているようなものだ。

 まったく教科書の内容といいこの世界は秘密主義が多すぎる!

 

 ゲーム主人公(ヤツヒコ)なぞは魔力制御を意識する事も無く思った事を即実践出来ていたようで貴族に驚かれるエピソードなんかもあったが、そんな一部の天才の話は置いておこう。まるで参考にならない。意識せずに高速機動出来たらそりゃ修行なんてしなくていいなんて思考になるわな。それを咎められるエピソードがあって初めて修行という項目が脳内(メニュー)に出るゲーム主人公(ヤツヒコ)は本当に参考にならない輩《やから》なのだ。


「ふんっ、私には私なりの道があるっての」


 千里の道も一歩から。多少心が乱れたが空中移動に支障は無い。

 速度は地面を飛び跳ねるようにして走るよりは圧倒的に遅いが、森の中を頭上警戒しながら進むよりはマシという実用性も鑑みての行いだ。

 地べたを歩くのは修行にならないし、巡回員も移動中の生徒を見掛けてもわざわざ話しかけに追いかけては来まい。

 まぁ顔隠し用に【装備】はしていないが暗めの迷彩柄のフード付きマント、烏外套《クロウマント》を羽織っているので遠目には顔などほとんど見えないだろう。気配が薄れ認識され難くなるアビリティ【雲の如く】も発動してるのだし。


 学園生徒とも思われず不審者扱いされる可能性の方が高いくらいだ……ん、そっちの方が不味いか?

 ちょっと烏外套の前面ボタンは外して学園探索衣アピールさせとこ。


 そんな事を連連考えていたら近くの枝から独特な高いいななき声。イノシシトカゲの警戒声。見つかってしまったようだ。これは仕方が無い。こちらが見逃すならまだしも向かって来るなら容赦はしない。【逃走者《ランナー》】(笑)などと指差し笑われるような無様は晒せない。相手が中型であろうと真正面から


「――ぶちのめす」


 近くの木の頂上付近の幹に鉤爪めり込ませこちらを威嚇していた中型に浮かせていた金属片を射出。

 動かずに声上げるだけだった中型トカゲ男の首根元を後ろの木の幹ごと貫き砕きトドメに戦帯で脳天を叩きつけてやれば落下中に黒い霧を霧散させ落ちていく。ん、投擲物射出の威力高すぎね?昨日とは装備品がガラリと違うとはいえ、あっけない中型の散り様に片眉がはねる。

 まぁ戦闘自体はまだまだ終わりでは無い。

 下方の枝木にいた他の小型トカゲ達の内数匹が飛びかかって来た、が丸見えの跳躍などハエ叩きより容易。戦帯の両端使ってまとめて叩き落してやれば地面と激突前に討伐完了の黒い霧を霧散させた。戦帯の腹で叩いた程度では昨日の時点ではほぼ倒せていなかったのに、全て撲殺である。

 うーむ、昨日の手応えとまるで違う体感。攻撃性能が高まってる。そりゃ【スモールキラー】とかのアビリティが多重発現しているとはいえ……衝撃強化なんて無いのに、ここまで変わって来るのか。


 そしてやはり結構な数のトカゲ共が樹中に巣食っていたようで続々と幹を伝って登ってくる様子を確認。甘んじて待つわけも無く、石も射出し数を減らしていく。ただやはり手数が足りないし百発百中とはいかない。


「もっと精密操作が必要っと。集中集中……」


 視界が開けている樹上ゆえに、相手の頭上を取っているだけで物凄く優位に戦えている。

 時々、背後や横側から連携するように飛び込んで来るが、小型であれば手傷も負わないと分かっているので冷静に一匹ずつ丁寧に。

 無駄な大振りなどせず丁寧に速く鋭く威力調整も意識して効率的に、切り裂き突き貫き叩き落とす。


「あはっ」


 一撃で小型をまとめて5匹以上まとめてぶちのめせれば、上手くいったと口から笑い声が漏れた。



 戦闘を続ける中で思ったのは、当然ではあるのだが浮遊を維持しようとすれば速度が出ない為に回避が難しいという事。そして速度に注力すると周りの把握に支障が出る。

 昨日は噛みつかれたまま機を見て振り払っていたが今回はそもそも噛みつかれないような立ち回りをするという目標があった。けれど存外難易度が高かったようで背中に飛びつかれる事二回目。

 即座に戦帯を操って弾いたりするも、汚れを付けずの討伐はなかなか難しい。


 探索衣を装備している事で発動している【物理薄結界】のアビリティと身体強化に回している魔力でトカゲの牙や爪は皮膚にさえ到達していない。魔力を編み込み魔力壁を作る必要性なんて皆無。噛まれても甘咬みより優しく圧された程度にしか圧迫感が無かったが、深い階層に潜る事を思えばこの防御性能に頼り切りになるわけにもいかない。

 この浅層にいる間に立ち回りを修正しなければ命の灯火は簡単に吹き消されるだろう。

 支給されてる制服や探索衣が浅層にいる間は無敵アイテムのようにも思えるのは罠と思って、出来る限り回避を心掛ける。深く潜るほど前衛は防御では無く回避しなければならないのだから。ただし盾役は除く。


 だがまぁ確実に昨日より手応えが軽い。中型種相手ですら骨や上皮の硬さに苦戦する事も無く豆腐に包丁を入れるようにスルリと戦帯で肉骨を断てた感触。

 アビリティだけで随分と変わるものだと実感しつつ、帯を振って着いた血を払う。


 遠距離攻撃手段を持たない魔物相手は自身を囮に飛びかかって来る所を浮かせた武器群で突き入れるなり殴り飛ばすなりで一方的な狩りとなる。まぁ頭わるわるな魔物だと侮れば背中に飛びつかれるので油断も出来ない。

 討伐後の霧散で落ちる魔石やドロップ品のいくつかは戦帯を操って空中で拾えたが、そんな余裕もそれほどあるわけも無し。


 そうしてしばらく。

 自身の息遣いと遠くから響いてくる魔物の鳴き声だけで辺りが静かになったのを確認してフンッと鼻息ひとつ。殲滅完了。

 ドロップ品は、全て拾っている間にまた襲われては進めないので放置。売却値段安いし別に、惜しくも無い。荷物持ち(ポーター)が必要とされる理由がちょっと分かってしまったけど。拾い集めるの面倒過ぎ。



 入った霧球体《ドーム》ゲートの侵入位置が悪かったのか良かったのか、昨日と比べてスタート地点から中腹辺りまで進んでも周りに草原地が少ない。

 おかげで亜熱帯の林上をずっと幽霊の如くすいーっと移動。その間、他の探索者を全く見掛けない。時期が時期とはいえここまで人を見掛けないとは。30分ほど前に遠くの空に宙空車を三台ほど見かけたけどその程度。多分朝ギルドエントランスで見掛けた民間の探索者連中だろう。

 まぁ学園授業始まって1日目だし1層だしでこんなものか。

 ただ……


「広過ぎね?」


 思うのはただひたすら広いという事。広すぎるだろ1階層なのに。


 風の向きに差し込むように浮遊したり、背中側にも吹雪の術式を構築したり、少しでも行軍スピードを速めようと枝木を蹴りつけたりと工夫しつつ、魔物の群れも草原地帯でぶち当たれば不意を打たれる事も無く宙空から一方的な狩りと出来て手早く討伐もする。

 草原を超え、林・森中でも何回か群れと会敵殲滅しつつ超え、また広場のような草原を超え、林を超えと繰り返し、次の層へ行くための霧球体《ドーム》ゲートまで後少しといった所で時間を確認すればもうお昼前。

 半日掛けて突き進んで9層どころか、2層にやっと到達出来そうというのはちょっと想定外。

 3年のE組生徒の実習で移動に四日間、片道2日間掛けての目的地が5層と聞いていたからもっと短時間で辿り着けると思っていた。先輩方を舐めていたかも。


 【端末呼び出し(ターミナルコール)】して魔力量の項目を確認すれば『良好』の二文字に変化は無い。

 空中を移動中に魔力切れとか正直緊急救援呼ぶ羽目になりそうなのでそこだけは注意しているけど、浮遊や装備で消費する魔力より生成速度の方が上回っているのは変わりなく、長年の感覚からしても問題無し。ほっと一息。やはり自身の感覚だけでなく文字だけでも第三者に保証されると安心感が違う。これなら上空からフリーフォールしても十分浮力は保たせるだろう。


 ジョブを得られれば自身の魔力残量も正確に把握出来るようになるのだろうか。正直魔力生成速度が早くて0か満タンかが常時で中途半端な魔力量の把握が微妙な点が少しの不安要素であるのだ。0、つまり魔力枯渇状態の事であるが、あの心細さには今だに慣れない。よくマッキーは魔力枯渇状態で授業を受ける気になれるものだ。


 まぁとにかく階層が広いのは移動訓練に丁度良かったと割り切る。

 入った頃と比べて違いが分かる程度に速度を上げられるようになったし。幹や岩を蹴り砕いた勢いでの跳躍を利用した浮遊は結構楽しい。まあ何かしらの感知でもあるのか遠くからトカゲ共が喧しく主張してくるが、コイツラはもうほぼ作業的に処理出来るようになった。

 戦いや狩りと呼べるものでも無くなり討伐も慣れてきて魔石を取り落とす事も減った。プチプチを潰す感覚と言えるほどでは無いけど、もうほぼ処理対象としか見れない。試せそうな事は試そうと色々とし新たな知見も得れたし。

 マッキーと合流出来たら検証項目についてちょっと伝えないとね。


 そんな事を考えつつ跳び移動していればまたもや鳴き声。どんだけいるんだお前ら(クソトカゲども)は。一層には他にもツノウサギとかいる筈だろ。どうしてトカゲばっかり出て来るのやら。


「またか。魔力差察して逃げてくれればいいのに……向かって来るなら容赦はしない!!」


 魔物が逃げ出す基準は魔力の多寡では無く、レベル。これはレベルという概念が神々からの恩寵、与えられている神秘だからと言われている。威圧にも関わる話ではあるが実際の所は不明、体感としてこの現世情報は正しいと思ってる。が、とりあえず私が下方後方に吹雪かす中を突き進んでくる地上のトカゲ共を処理しよう。


 魔物相手に手加減も自制も必要ない。空中で姿勢を反転。足を天頂へ向け、自身の頭を地面方向へ、目線は群れの中心にいるやや大き目のリーダー格たる中型種に。重い雪玉を足元に創造しソレを蹴りつけ、重力のくびきを自ら引っ張るように速度を得た墜落紛いの速攻。

 戦帯というリーチのある武器に自身の魔力属性である雪気を纏わせ掬い上げるように縦一閃。中型の体を左右に分断した後、地面へクレーターを作りつつ倒れ込むように五点接地し、中型・小型トカゲどもが入り交じる真ん中で回転。戦帯を左右の腕それぞれから伸ばして二回転もすれば中型種も小型種も区別無く上下に分断されて大体が討伐完了。経過時間は十秒も掛かって無いだろう。

 討伐後の黒い霧が凝って出来る魔石が地面に落ちる前に戦帯の腹で受け止めれば回収も楽。ポイっと背中の鞄に放り込みつつさっさと上空へと舞い上がる。背負い鞄からジャラリと鳴る音。拾っているのは中型種ばかりだが、それでもそれなりに集まってそうだ。

 なにか風に紛れて騒いでるような、そんな歓声に似た騒めきが聞こえた気がして辺りを見回すもそれらしき人影は無し。

 気のせいかな、さっさと進もう。


 ◇


 そうしてようやっと2層への霧球体《ドーム》ゲート前に到着。

 霧球体《ドーム》ゲートを背中にし冷風を纏って汚れを粗方吹き飛ばし鞄から取り出したタオルで「洗浄、洗浄……」と呟きながら汗汚れを拭った。少しだけ周りより高い丘上の草原地に腰を下ろして【端末呼び出し(ターミナルコール)】。ステータス画面を表示。


「んー、ソロだし経験値総取りでちょっと期待してたけどレベル2のままかー。あんだけ倒してレベル5どころか3にも上がってないとかどんだけー……まぁいっかおっ昼おっ昼~」


 気持ちを切り替えお弁当だ。鞄を開け小さな魔石を掻き分けお弁当箱を取り出す。


「マッキーは今頃おべんきょの最中かなぁ。よくやる気になるね……空梅ちゃんかぁ、本当にいるのかねぇ」


 いまいち私はゲームの登場キャラが現世にいると確信を持てないでいる。

 主人公にヒロインに舌下コンビと四人も反証人がいるが……まだ登場キャラ達の子供という方が納得出来る。よく似た他人の空似であって欲しい願望混じりか、と苦いため息を吐く。


 彼等が実在するとなると、味方はともかく敵に回りがちな有能貴族や、弱者を舐り倒す怪僧とか、害悪でしか無い邪教団とか、獣害チーマーとか迷惑ギャングなども出て来るかもだし、そんなのと好き好んで相対したくないのだ。敵対者は生活費にもなる魔物だけでいい。心の底から面倒な相手は現世にいないで欲しいと願う。

 テロリスト団体や反社組織や邪悪そうな宗教団体を現実に複数確認出来てる時点で叶いそうに無い願望か。ただのモブ的な組織ならいいのになぁ……。


 アンニュイな気持ちになったがカニクリームコロッケを頬張れば甘辛い味わいに幾分か気分も上向く。ポジティブな事を考えよう。


 もぐもぐ……


 魔導端末で学内掲示板にアクセスして最近の話題でも確認しとこうかと梅おにぎりにかぶりつきながら思考操作していく。

 昨日の巡回員が言っていたように端末を装備すればわざわざ手でボタンを押さなくても魔力による思念伝達が可能なようでかなり便利に使える。

 目の前に浮かせて色々操作していればトカゲのいななき声が聞こえたので見ずに、魔力探知でアタリをつけて石片を射出。

 外れたようだ。


「むぅ……」


 と唸る。ブロッコリー苦手なの知ってる癖にどうして入れたのだ母よと嘆きながら口に放り込み咀嚼。

 得も言わぬ苦味が口内に広がる前に顔を上げてそこらの石を数個追加で装備して、位置確認。雪の魔力増し増しした雪礫にして射出。さすがに今度は命中。爆散!グッキィルゥ!

 小型が一匹でいななき声上げながら突っ込んで来るとか自殺志願者か何かでしょ。何だったんだ今のトカゲは。


「魔物って何考えてんだろ」


 狡猾に見える時もあれば、今回のような大間抜けと出くわす時もある。個体差だろうか。にしてもお頭《つむ》の差が酷いが。お、ツノウサギだ。実物は初めてだなと思いつつやはり同じように突っ込んで来たので同じように処理。うん、トカゲと何も変わらんね……。


 【気配察知】や【魔力感知】や【魔力探知】といった感知系スキルがあれば相手の居所を視覚に頼らず察知出来る筈だけれど、苦戦している。

 理屈としては魔力を薄く広範囲に広げればいいと分かっているのだが、一定以上広げると自身の魔力が触れている感覚が薄れていき、何かひとつに触れればそちらに意識が集中して他方面へ広げていた魔力が霧散したりといった事を繰り返している。自身からの距離が離れれば離れるほど制御も感覚も曖昧になるし、魔力も繋ぎとめようとしなければ自然霧散もしていく。

 とかく感知・探知系統の魔力操作は本当に難易度が高い。


 実際には魔力で把握するより耳に届く音や目に入る姿で発見する事ばかり。

 ため息を押し殺して深呼吸。出来ないものは仕方無い、練習あるのみだ。


 マッキーは装備で【気配察知】を補うと言っていたが私は感知系技術は自力で身につけたい所だ。近接もするのだし。

 ウチにあった【気配察知】の指輪も試したが魔力消費量が12と高めで装備するにはコスパが悪すぎた。さらに発動させても普段との違いが分からない程度の効力。扉挟めばもう分からなくなる程度とか装備する意味が無い。

 やはり私には索敵系の才能が無いのだろうか。父の血統的にあってもおかしくないと思うんだけどね。


 うさぎ型リンゴをパクリと口直しにし、ごちそうさま。箸を揃えてお弁当箱を鞄にしまえばタイミング良く魔導端末から呼び出しコール。コール元は、牧野正(マッキー)か。思考操作で通話開始を選択すれば聞こえて来るいつものハスキーボイス。


「もしもしー牧野だけど今大丈夫かー?」

「はいはいこちら雪小路ーお昼食べ終わっての休憩中だから別に問題無いよ。空梅ちゃんとは会えたかー?」


 さらに草原奥から走って来るイノシシトカゲ2匹に狙い定めてそこらの石を遠距離シュート!爆散!エキサイティン!沈黙を確認!ゲームセット!

 イチ〇ーのようなレーザービーム射出だと内心でCMのようなアテレコをしつつマッキーの声に耳を傾ける。


「おうよ!パーフェクトにコミュったぜ!っておいノイズというかこれトカゲの威嚇声じゃ……?あぁ、まぁいいか。さらに連絡先もゲットしたぜ!」

「おー、本当にいたんだ。9割方失敗すると思てた。一歩前進おめでとー」

「酷くね?まあー……、パーティーに関してはE5組で気になる子達がいるからそっち優先したいみたいだ。ほらカップルになる二人の橋渡しするっていうエピあったじゃん。どうも原作と似てる状況みたいでその子らを小学からずっと焦れったく見てたんだってさ。んでふたりの事を見届けたいとか何とかで、初対面だしPT参加は保留って返事貰った。けど仮入隊も考えてくれるって!」

「そかそか、なら本当に彼女ってジョブが【恋弓士(キューピッド)】になるかもしれんね。というかゲームと違ってPTに人数制限も時間制限も無いんだしそのカップルPTが気になるならずっとそっちに所属するんじゃ?」

「あー、カップルになったら二人から離れたいらしい。破局したら男の方をぶちのめして女の子の方とPT組みたいんだってさ」

「え、空梅ちゃんて主人公(ヤツヒコ)とラブラブになる可能性あんのに現世じゃ同性愛者な感じなん?」

「いやそういうのじゃ無くね。分からんけど……まっこっちはそんな感じだな。空梅ちゃん達と午前中ずっと講義一緒だったしそのカップル二人とも友達《ダチ》になったぜ。そっちは今何層よ?」


 男はともかく女の子諸共友達になるとか、コミュ力お化けか?不安なコミュ力かと心配してたが杞憂だったか。

 にしてもだ。知ってた。その質問が来る事は。予想通りだよ。残念だ。

 予測可能回避不可能なその弾丸《しつもん》は私を容易く撃ち抜く。だが足掻けるなら足掻くべき。


「まぁあ?私に掛かればダンジョン攻略なんて容易いし?浅層の魔物とか紙風船みたいなもんだし?雪属性は伊達じゃねぇって感じ?」

「ほぉん?」

「一度刺せばそれだけで倒せるし?楽勝すぎ勝ったわ風呂入ってくるって言えるレベル」

「おおーさっすがユッキー。いよっ不屈の敗北者。さすが†月夜之撃滅天使†さんは一味違うなー」

「撃滅天使(前世のハンドルネーム)はやめろください」

「で何層?」

「……まだ一層の奥部っス」

「声ちっさっっっ!!別に責めもしねーし煽らねーっつの。命掛かってんだから、つって一人で行かせたオレが言うのもアレだけどな。まぁ装備も観測画面(アレ)のおかげで新調出来たし昨日の様子見る限り大丈夫だろって思ってたがどうよ実際に経験してみた感想は」

「サイッコー!無双ゲーの感覚味わえた。やっぱ装備って重要だわ」

「ははっ、そりゃいいな。で、昼からアレ使って外に出て合流できそうか?」

「すぐさま試せるよ。霧球体《ドーム》ゲート背中に飯食べてたから。今から【霧渡り《アレ》】使えるかどうか試して行けそうならダンジョン外に出るんで合流しよか」

「あんま急がんでもいいぞー。こっちは端末装備してDA用の設定を色々いじってっからよ」


 端末モードには幾つか設定があり、平常時・静音時・DA時の3種類の他に自身で設定するカスタムモードがある。

 静音時はいわゆる機内モード、DA時はPTメンバー間のみ位置情報を確認出来たり常時通話中になる設定で安否確認や連携に声を張り上げなくても済むモード。ただ隠密作戦には当然ながら向かないのでそういった際はカスタムしなければならないだろう。

 この魔導端末は単純に使うだけなら魔力消費は学長が負担するのだが、装備すると魔力消費微小で、DAモードだと魔力消費が増える。といっても観測画面で確認した限り消費魔力量は1。だがされど1。

 私達のような魔力生成値を持たない新入生なら端末を装備できてもDAモードにした途端に防具か武器かが外れかねない。そう考えが至れば昨日の巡回員の執拗なおすすめは何だか邪推してしまう。


「あ、すまん、前言撤回。なんか急いで貰った方が助かるかも。今ギルドのエントランスにいるから東側の霧球体《ドーム》ゲート前で待っとくわ。ダメそうなら早めに連絡くれなー。後、合流した時多分驚くかもだけどどうにもならんかったんで、うん、まぁ早く来てくれー。あ、合流する時はアレ関連仕舞っておいてどうぞ」

「うんむ?いやまぁ言われんでもダンジョン外に出る時は竹刀袋に仕舞っとくよ。どこから邪推されるか分からんのだし。今からアレ使って出てみるわー」


 ほいほーいと軽い返事を聞いて通話終了。【霧渡り】をアレと言葉を濁している所から周りに人がいるのだろうね。

 さってと何か急かされたし早めに向かうかと霧球体《ドーム》ゲートに入り一分ほど進み2階層に一度出てから振り返り、再び霧球体《ドーム》ゲートへ。霧球体《ドーム》エリア内である霧中で30秒ほどの中間辺りで立ち止まる。


 ちなみにこの霧球体《ドーム》エリアの霧は特殊なのか複合アビリティの【霧透視】でも見通せない。

 視界はぎりぎり足元が見えるか程度の霧の濃さで端末間集団形成によるPTを組んでいるか、手を繋ぐなどの接触が無ければ霧球体《ドーム》エリアの外に出る地点はそれぞれ離れた位置となる。


 鞄から【霧渡り】に必要な物品を取り出し装備を整えいざ実験。

 直方体の木型模型を足元に、木皿をその上に設置。そして木の棒を両手に掲げるように取り全てに魔力を通し【装備】すれば、3種それぞれから白い煙、霧が吹き出し物品表面を黄金色の幾何学模様が走る神秘的な光景が顕現。


――木型模型は灯台の役割、私の頭上程度の空中に浮いて淡い双光線をクルクルと回りながら放ち

――木皿は羅針盤、木模型同様に宙に浮くも私の眼の前で止まり木皿の幾何学模様から浮き出すように黄金の針が2本形作られ

――木の棒は櫂(かい)(オール)、木の棒の先端から漕ぎ出せるようになのか仄かに光る半透明の面、パドルでいえばブレードに当たるヒレが発生し、足元からも仄かに輝く半透明の舟がせり上がって来た


「ぅおおおおおお!!??」


 体を持ち上げられる感触に心がわき立つ。この反応からして成功も成功、大成功でしょ!羅針盤の行き先は一つが目の前の灯台を示している筈で現在地。もうひとつが今朝ダンジョンの一階層に入る時に設置した木型模型の筈。

 一階層を示す羅針盤の針先に従って櫂を船縁につけて地面に流れる白霧の川の中へ突っ込み、漕ぎ出す。


「はっはー!良いね!良いね!ファンタジーさいっこう!」


 櫂(かい)を一回漕ぐ毎に魔力を持っていかれる感覚があるが、すーっと抵抗も軽く進み出す舟漕ぎははじめての体験。なかなかに面白く楽しい。音は静かだが、気持ちザバザバと進めていく。そうすればやがて目線の先にクルクルと回る双光線を発見。灯台の光のように目立つものだ。

 その真下まで来ればふわりと全ての超常現象が黄金に輝く粒子を舞い散らし、輝いていた幾何学模様と一緒に消え去った。

 残されたそれぞれがまた見た目が単なる木製製品へと元通り。

 3種の魔導具を全て竹刀袋の中にまとめてしまう。

 木型模型だけは魔力を込め直して地面に放置するか迷ったが一旦持ち帰る事にする。通常空間と隣接する帰還地点のものだしいつでも設置しようとすれば設置できる。この灯台の役割を果たす木型模型だけがゲーム内では消費アイテム扱いだったが、この現実ならば複数回何度も使える気がするね。魔力的にも時間的にもそこそこの期間保ちそうだ。アビリティの有用性やらも含めてマッキーに忘れず伝えないとね。


「ふぅ~~……凄かったぁ。で、これ外への方角どっちよ?」


 まぁ2階層から戻って来たならまっすぐ進めばギルド支部内霧球体《ドーム》ゲート広場に出るかと歩き進めば、間もなく霧が明けた。

 昨日ぶりに見上げるギルドの刀京ダンジョン支部の壁。半球状の大きなダンジョン入口を囲むようにさらに規模の大きい建物が造られてたそうで屋上や壁の至る所から魔導大砲や魔導銃の銃口が霧球体《ドーム》ゲート側、つまり出てきた私の方向を見ているわけでこの威圧感はなかなか慣れないものだ。


「おーい!ユッキー!!こっちこっちー!」


 そんな気分を蹴飛ばすような脳天気に明るい聞き慣れた声に苦笑。

 戻って来れた実感が湧くまま顔をそちらへ向ければ、表情が抜け落ちた。多分今瞳からハイライトが消えた真顔になってる。

 ――マッキーの他に、見知ってる気がする男子と、見知りたくない男の姿。


「誰?」

「おうユッキー!こちら徳岡《トクオカ》波《ナミ》君と!磯辺《イソベ》八比古《ヤツヒコ》君デス!!」


 マッキーのやけくそ気味な大声が示す通り、男の片側、|その頬にある特徴的な青色のダイヤマーク《原作ゲーム主人公サマ》を見て眉が跳ね上がったのだった。



 ■■■ ■■■ ■■■


〇霧渡り

 はるか昔に、貴船の霧界を治める存在が認めたヒトと結んだ契約のひとつ。

 そのヒトの一族はその契約をもって大いに鍛え栄えたが、ある日、忽然とその姿を歴史上から消す事になる。

 その血を受け継ぐ者は現世に一人足りとも存在しないが、今なお契約違反を犯した魂たちは地獄の業火で苛まれ続けているようだ。

 栄耀栄華を極めた血族から鼻つまみ者として排斥されていた傍系が生き残ったのは運命の悪戯か。その傍系も現在は壱海公爵家と徒人の中において仰ぎ見られる一族として成りあがっているが、歴史の中で失伝した契約は忘れ去られて久しい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。