13話 再会とはじめまして 前編
◇ ◆ ◇
学園の霧球体ゲートから出てきたら、東通用門の方からマッキーに加えて男子生徒二人に出迎えられた件について。
どちらとも弱くは無いが、決して強くは無い。ともすれば一撃で伸せるだろうという第一印象。道場の底辺から下位辺りの門下生達とそれほど変わり無い練度のように伺える。優男の方の得物は背負った槍で、ガタイが良い方は大剣だろうが、どちらも警戒感が薄い。構える前にヤレると確信できる塩梅だ。
そんな見分をしつつ、黙りこくっていたら場を繋げようと共通の知人であるマッキーが口を開く。
「あーこっちはユッキー、雪小路ミラね。ユッキーももう見当ついてるだろうけどそっちの徳岡くんは知ってる徳岡さんな。顔も面影あるっしょ」
「あはは、えっとこっちだとはじめましてだね。僕は1年E5組の徳岡波。名前は変わらずだけど歴とした男子やってるからよろしくね」
テノールの甘い声を出したのは柔らかな雰囲気をもった見た目中性的な男子。
顔を見れば、その性に曖昧な雰囲気はややもすると軟弱さを醸し出すものだが背は高く、マッキーより頭一つ分は上背があり探索衣の上からでも見れば分かる引き締まった筋肉。なかなかに羨ましい筋肉の盛りで、見た目だけは少女漫画から出て来たような優男。そしてどこか前世で見た事ある顔の面影を残していた。美形度は段違いなのは現世ではあるあるなのでいいとして、名前が同じなのに性別が違うと、うん、私達が何か言えるものでもない。今は流そう。
ただ右耳にしてる黄金に輝く羽のデザインをしたイヤリングはケバケバしくて似合わないと思う。
魔導具だろうけど……原作で見た事あるようなデザインだ。そうか、これからは本人の力量もだが、装備にも警戒してく必要があんのか。道場じゃあんまり経験出来なかった分野だね……。
「俺はDAと聞いて来たんだ。テメェらとよろしくするかどうかは考え中だ」
そしてもう一人は古いヤンキー漫画に出てきそうな黒髪リーゼント気味のツンツンヘアーで一房額に流した彫り深面に切れ長深青瞳の男。同い年とは思えないほどのガタイの良さを誇る図体は探索衣を筋肉で引きちぎれると言わんばかりにパツンパツンで肩幅もゴツイ。鳶ズボンにタンクトップ着てタバコ咥えれば土方のおっちゃんで通じる渋顔。威圧感あるその姿は初見ならばヤの付く裏稼業に従事してるようにしか見えない。
だがまぁどちらとも見掛けの筋肉はあるようだが、魔力が物言う世界なのがこの現世。どれだけ筋肉を鍛えようが、結局はこけおどしとなってしまうのだ。一般人からすれば恐ろしくとも、私の見立てでは将来性にどうぞご期待くださいという感じ。
加えて徳岡さんと同じデザインの黄金イヤリングを左耳にしていた。お揃いですか。そして特徴的なのが片頬にあるダイヤマークに似た四角形の青い痣。
ワァー。|ホライゾン~学徒の牙閃~《RPGゲーム》の主人公サマじゃないですか。
チラリとマッキーを睨めば下手な口笛をふいて我関せずの姿勢。そこに徳岡さんが声を上げる。
「ちょっとヤツヒコ。僕たちの状況的に確定で敵じゃない人は貴重なんだからケンカ売らないで」
「ふんっ。で、本当にこのチビも前世持ちなのか?」
「はい?」
恍けてみせてから、そんな事まで話したのかともう一度マッキーを笑顔で見ればぶんぶんと顔を横に振っていた。
「はっ、下手クソな演技かましてんじゃねえよチビ」
愛想は要らんね。真顔に戻して片眉上げてメンチ切り。戦いのゴング鳴らした覚悟出来てんだろうな
「さっきからチビチビうっさいよデカブツが。唐変木は黙って口縫い合わせてろ」
「なんだァ?猫かぶりはもうしまいかおチビちゃん。まともに自己紹介も出来ねえなら小学からやり直してこいよ。見た目相応にな」
「1年E3組雪小路御良!希望ロールは前衛か遊撃。あなたこそまともな自己紹介してから言って欲しいねチンピラ君。どこのどちら様が何様ぶってるわけぇ?」
「俺は磯辺八比古だ。ナミとは小せえ頃からの腐れ縁。組も同じだ。希望ロールは前衛」
応えはするのか。素直に意外。無視されると思ってた内心隠して互いに気にいらないとガン付け合う。
こういう手合は道場で死ぬほど経験した。
つまり目を反らした方が負けという単純明快なルール。道場では目をそらした次の瞬間には腹に蹴りが飛んできてよく吐かされたものだ。互いに譲らなければどちらからともなく得物を振り上げたもので、時々道場主から周りも見ろという注意喚起なのか私や相手の脇腹へ砂球(砂利を詰めたバスケットボールみたいなもの)が飛ばされて来てガンつけてる間にも意識は視界外にも向くよう矯正された。
その視界の隅では、マッキーと徳岡さんがのんびりと言葉を交わしている。
「あー、相性悪くないかもと思ってたんだが……。ユッキーってコミュ障深まって喧嘩っ早いわ直情径行だわの性格が道場通いと小学の経験で悪化したまであるんだよ」
「え、前世以上に?そうなんだねー。まぁ女子の道場通いはキツイだろうしね。僕らが通っていた所でも女子で半年続いたら根性ある珍しい扱いだったし。正直、男ってだけで大分この国じゃ生きやすいけど平民の女の子だと逆にね。貴族だと反対に女性の魔力量が重要視されるから優遇されるんだけど……にしても牧野くん面白がってない?」
「徳岡さんに言われたくねぇなー」
「あはは、さん付けされるのも久しぶりだよ。にしても背も胸も大きくなってしまってまぁ……」
「オレもくん付けなんてユッキーのオヤジさん以外にされた事ねぇわ。にしても徳岡くんになったら性癖変わるかと思ったんだが、そんなしかめっ面で胸睨まれんの初めてだぞ」
「あはは、その無駄な脂肪もぎ取ってやりたいくらいにはね。三つ子の魂百までじゃないけど容姿の好みだけで言えば断然雪小路さんだね。まぁ彼女も背丈は低めでも胸あるし本当に男って奴は……」
「あの大きさであるって言えんのか?」
「は?」
「じょ、じょーくイッツァジョーク。なはは、にしても、長身爆乳の良さが分からんとは。本当に男かよ徳岡くん」
「小声でも聞こえてるよ。面白くも無い冗談も相変わらず絶好調なようで何よりだよ。あと牧野さんよりはボク断然男してるから」
隣が和やかに盛り上がっているのに苛立つも目を逸らさなかったら相手の方がマッキー達の方へ顔を向けた。私の勝ちな。反射的に蹴りをかまそうとするのとほぼ同時にマッキーが笑いながら間に体を挟んで来た。ので踏みとどまる。
「ちょい、マッキ?そこどいて」
「アホ。こんなダンジョン近くで何しようとしやがった」
ああ……ジョブ選定確率はダンジョン内行動だけが影響すると聞いていても、実際にそうなのかは分からない。ダンジョン近くであるのは間違いないんだし【悪漢】の可能性を上げるような行動は、まぁしない方がいいか。関係無いと思うけど、ここはマッキの顔を立てよう。命拾いしたなヤツヒコ、ペッ。
「おいナミ。本当にコイツらと一緒にDAするのか?」
「うんもちろんそのつもりだよ。まぁちょっと二人共見た目変わり過ぎで顔が引きつりそうだけどね、あははっ……」
「理由は?しょうもない話なら俺は降りる。一人で十分だ」
「まぁまぁ待ちなよヤツヒコ。僕は知っての通りこの世界の情報通であると自負してるけどね、それでもこの二人には及ばないってハッキリ言えるんだ。情報が大切だってヤツヒコも分かってるだろ?」
マジかよと呟いたヤンキー男が胡散臭そうな目つきでこちらを見下ろして来た。主人公サマが何ぼのもんじゃいと睨み返す。
事情知らずにならともかく徳岡さんに聞いて無かったのか?入学式イベントのモード選択肢を。
その情報聞いててカオスモード選択するような発言したとかなら許し難い暴挙。自信過剰野郎なら絶対何が何でもPT加入は断固反対するぞ私は。
「おん?おまえやるか?こちとらトカゲ蹴散らす巫女サマやぞ。リアルで土の味噛みしめさせてやろうか?あ?」
「……コレがかよ」
「あはは、そういう文句も懐かしいな。また聞けるとは思って無かったよ。あ、ヤツヒコ。情報通なだけじゃなくて今その子と戦ったらキミが負けるかもよ」
「何?」
そう言って徳岡さんがヤツヒコの肩に手を回して秘密の相談よろしくこちらに背を向けてボソボソと小声で相談し始める。
その背中を見つつ徳岡さんが言っていた懐かしいという言葉に嘘は無さそうだと感じた。まぁお喋り経験低い私じゃかたりを絶対見破れるなんて思い上がりでしかないけど、マッキーが前世の知り合いだと確信してるならそうなのだろう。
にしても徳岡さんにゃひとつ言っておきたい。ヤツヒコに将来的にも負けるつもりは一片たりともありゃしないと。
それはそれとしてゲーム開始時と20年以上もズレてなんで今現在に生えて来たんだコイツ。
そんな事をつらつら考えていたらマッキーが苦笑しつつ話しかけて来た。
「ユッキー格ゲーモードからそろそろ戻ってこーい」
「別にそこまでキレ散らかして無いよ。相手の無礼を咎めただけ」
「どうどう。どっちとも輩レベルは同じくらいなんだわ」
「馬でも無いし不本意過ぎる評価に異議もうしたてー」
「ははっ、なぁユッキーも徳岡さんいたら勧誘しようって話してただろ。卒業後も職業探索者するなら人数も必要だし横の繋がりも大事だしさ」
「いや確かにしてたけど、問題児がついて来てるじゃんよ。徳岡さん、くん?だけなら否やは無いけどさ……」
「なんかあの二人どうも親友同士って感じでさ、徳岡くんだけーっていうのは拒否られたんだよっ。そしたらお試しのDAに行くって言うし、レベル上げてノーマルエンディング目指すって話すしで。それなら初回にPT別の同盟組んでで保険としてついてあげるくらいの協力をしてもいいかなってさ?顔つなぎっていうか。向こうさんからしたら女子二人の面倒見てやるか程度の気持ちかもだが」
苦笑するマッキーへ肩をすくめる。PT別と聞いて一安心。早く言ってくれ。
こちとらトラブルメイカーが正式にパーティーに加わるのかと戦慄したぞ。お試しのDA協力ね、それなら構わないけど……
「そんな関係なのにヤツヒコの奴入学式でカオスモード選択したんだ?親友って言われてもどこにいたの徳岡さん」
「オレもそれ気になってさ、流れは聞いたぞ」
昨日の騒動は入学式後すぐに徳岡さんが面会予約していた庇護して貰ってる貴族生徒に挨拶に行っている間に起こった出来事と、うん。挨拶はつつが無く終わったが、貴族生徒の帰りに付き合うべく供周りをしつつ移動し講堂から出てみれば、入学式イベント騒動のあの場面に出くわしてその貴族さまと一緒に仲裁に割って入ったと……
「ふーん……忠告というかアドバイスというか事前に言ってなかったわけ?」
「さぁな、その辺りは濁されたぜ」
「それでそんな貴族生徒が庇護者ってわけね。平民に寛容な質ではありそうだし、原作開始前段階で庇護受けるって随分と思い切ったね徳岡さん……で、当然マッキーも下心あるよね?」
「言い方悪いぞ。まっ打算的に言えばヤツヒコの情報が得られるのはありがたい。イベント、事件の発生が分かるし善悪敵味方どっちに転ぶか分からない注意したい連中を警戒出来る。聞いてみた感じレベル1で、前世があるとか時間を繰り返してるとかいう特異経験も無いらしい。問題だった関係性も好感度が高い徳岡さんが間に立ってくれるなら大丈夫だろうし、生き延びられたら将来大物確定だろ?それに他にオレ達みたいな前世持ちがいるかもだし、情報提供し合うくらいの緩い協力関係が落とし所って考えてる」
今日は顔合わせみたいなもんだ、というマッキーの言葉を自分なりに咀嚼すれば、巻き込まれて死にそうな気もしないでは無いけれど、そのくらいの関係性なら危険も少ないという判断だろう。てっきりその貴族生徒に徳岡さん達を介して渡りをつけようとしてんのかと思った。そんな考えは無くて安心だ。ヤツヒコの近くは危険性が高すぎるし。なるほどメリットがある事は分かった。相手のメリットは、ああ、なんかさっきチラッと言ってた原作情報が知りたい感じかな。
現状、観測画面のお陰で強くなれる道筋がかなり開けた事で余裕はできた。
それでも会ったばかりの彼等とガッツリ人生共に歩もう、とはならん。スリルは味わえそうだが、単純に性格合わなそうだし。
ただゲームだと主人公と好感度が一番高いキャラが脅迫受けたり誘拐されたり生贄にされたりするので、徳岡さんの覚悟を思えば手助けしたくなるのも分からないでは無い。
ノーマルエンディングの中の親友エンドでも目指しているのだろうか。確かに社会的地位も名声もお金も暴力パワーも手に入るルートではあろうけど、すでに貴族に庇護されてるというのであれば、事件が起こる前提がだいぶ崩れてる気がする。いや確実に前提崩壊してるでしょ。
徳岡さんが何かしら原作ブレイク起こして頑張って安全性を高めた感じだろうか。
それだと緩い協力関係を望んだのは徳岡さん側?成果の上澄みを掠め取られると徳岡さん側の方が危惧、警戒しているのかも。
そこまで思考が至ればやはりマッキーが提案する程度の関係性がお互いにとって良いように思える。互いに情報交換程度ならアリ寄りのアリ。私達は原作に関わりたいわけじゃないし。ただ……
「【霧渡り】は?」
「あー、知ってるのかもしれんし、知らなかったとして、教えると庇護して貰ってるっていう貴族にまで伝わりそうな所がな。どういう状況か聞き込んでからが丸いだろ。ヤツヒコが側にいるなら【霧渡り】に至るイベントをクリアしない理由が無いだろうし、観測画面の方もオレらからは言えん。(貴族に)万が一知られたら取り上げられるだけならまだしも、何されるか分かったもんじゃないからな」
言葉少なに問えば以心伝心。【霧渡り】の恩恵はデカい。
観測画面も同様に。それ故に知り合いだろうと安易に開示など出来ない。向こうが知ってて明かして来るなら受け入れるが、多分知っててもおいそれと口には出さないだろう。
【霧渡り】が使えるダンジョンが学園ダンジョンに限られる点がそれを助長する。
学園ダンジョンは階層移動の為の手段を宙空車や装甲車などで補っており、その運用はギルド支部と民間の装甲車開発販売企業の連携に加えて学園を傘下に治めている貴族達の小遣い稼ぎに利用されている。味方になる後ろ盾が無いままケンカ売るような事を平民がしても良い事などひとつも無いだろう。
公開するメリットを考えれば、E組の平民生徒達からは称賛されるだろうし学園ダンジョンに通う探索者全体の戦力アップにも繋がりやすくなるはず。学園ダンジョンに限られるとはいえ研究者などは色めき立つだろうし社会的にも表彰や賞金程度は期待できるかもしれない。
逆にデメリットといえば小遣い稼ぎしていた勢力に恨まれ、深く進む程魔物の危険性が増大するのだから安全を謳っている学園で死傷者が出かねない事。また魔力消費がそこそこあるので一般生徒ではなかなか利用できない点も最初の内は妬みを買いそう。
ひとつの学園という小さな範囲でも長い目で見れば天州国民にとって確実に有用だろうが、短期的には貴族やギルドに恨まれかねない。
貴族なら意図的に発見者情報を、死者を出した探索者や家族達の恨みを向けさせる程度に誘導なんてお茶の子さいさいだろうし、迂遠な事をしないでも直接叩き潰すなど造作も無い。もっとも怖いのがこれだ。平民に無闇に力を持って欲しく無い勢力や利権を保持したい勢力などが私達や周りに直接手を出してこない筈が無いのだ。
他にも私達が抜きん出る為のアドバンテージが失われる点なども見過ごせない。
公表するならするで取る手段・方法を慎重にしなければ、デメリットは私の想定以外にもきっとまだまだ出て来るだろう。
人類皆仲良しこよしで貧富や実力の差が無くなるなんて夢見がちな事を考えていれば利用されて絞り尽くされる。どれだけ自分達の価値を上げられるかが大切なのはどの世界でも一緒。私達は一握りの天才や世紀の発明家でも何でも無い一般女生徒に過ぎないのだから。
貴重な情報を抜き出されて口封じなんて結末も真っ平御免だし、そんな面倒を解決してまで家族でも無い他人に寄与したいと考えるほど博愛主義や名声名誉の承認欲求なんてものを私達は持ちあわせてはいない。
こちらもボソボソと小声でマッキーと話してる間に、向こうでは意見がまとまったらしくヤツヒコ達がこちらに近寄って来た。
「チビでも魔物と戦えるなら文句は無ぇがな。お守りなら御免だぜ」
「そっちこそトカゲに噛まれたからって泣かないでよ?筋肉ダルマの泣きべそなんて地獄の絵面だから」
「まぁまぁまぁ!僕も牧野さんから聞いた所からの推測でしか無いんだけどね。期待してもいいんだろう?」
「おう!組めば分かる事だろうがオレ達はもうレベル2に上がってるしな。装備もツテ使って揃えられたから2階層も視野に入れてるぜ」
「ほぉ?1年の1学期中は1階層に留まるよう先公が言ってたが学園開始直後でなかなか骨があるじゃねぇか」
「そうそう、その装備品も気になってたんだよね。見た感じ量販店に売ってそうな品かな?何か特殊なのとか持ってたりするの?僕達は家からの持ち出しなんだけど、どこで装備品整えたとか聞いてもいい感じ?」
どうもーと笑うマッキーが私にアイコンタクトして来たのでにっこり笑って
「牛筆教員から貰ったもんと女性探索者に人気の探索者用装備品販売店で揃えたんだよ、いたって誰でも手に取れる物ばっかだし。まぁ貴族関係者から見れば安物だよ。私達の小遣いで揃えられたくらいだからね」
コレとかそこらの石だよ、と浮かせていた石を手に取って放り投げる。正真正銘そこらで拾った石だし、全く自慢出来ない。実際手に取った石をしげしげと観察しつつも徳岡さんは苦笑いだ。石もバカにしたもんじゃないよ?
実家が探索者用装備販売店である事は言わない。貴族関係者を顧客にしたいとも思わないからだ。現状の運営で上向きに回っているのだから家族には関わって欲しく無いまである。
貴族が調査に乗り出せば一瞬で把握される程度だけど彼等からの報告で話題にならなければわざわざ気にするような事柄でも無い筈。
マッキーが魔導端末を示しながら続けて口を開く。
「とりま、端末の臨時班間同盟締結機能使ってダンジョン内に入っていいか?人がいないとはいえあんま往来がある所で長々と話すもんでもないしさ」
マッキーの装備品は昨日とほぼ変わらず制服から探索衣に変わった程度だ。魔導銃を出していない所からも警戒度が伺える。
同盟を組めば所属メンバーの相対位置確認や同盟間通話が可能になるし霧球域ゲートを通過してもメンバーがバラバラになる事も無い。
そういえば緊急救援信号には同盟機能が利用されているそうだ。付近の全PTに同盟申請が飛ぶという仕様。ちなみに班間で得物の取り合いや横殴りはマナー違反であるので端末で動画を撮影しギルドに報告すれば罰金などの処罰も科す事が可能。もっともそんな手続きをするような探索者は稀とも聞く。正統な権利ではあるが、その場で解決出来なかった癖にと周りから舐められかねないからね。姑息な野郎という噂が広まる方が探索者にとっては痛いだろう。
閑話休題。
相談するならダンジョン内で、というのは大賛成だ。
ダンジョン内で情報交換するとレベル経験値は貯まらずとも不要なジョブ(【愚鈍者】や【狂戦士】や【刹那主義者】)の足切りになるから。彼等もそんなジョブ願い下げだろうし賛成してくれるだろう。
狂戦士は強さだけはあるのでワンチャンあるかもだが、敵も味方も見境なく攻撃するようなスキルばかりになるのでそんなのは絶対パーティーはおろか同盟メンバーにも入れたくないぞ私は。もし希望されても断固反対する所存その2だ。
◇
霧球域ゲートを抜けた先でぼちぼち狩場に良さそうな広場に移動しつつ情報交換。
いや情報交換という名の徳岡さんによる独演会。自慢話とも言えるだろうか。
彼等の現状をまとめれば、とある貴族の庇護下に入れたが別の貴族から横槍を入れられE5組スタート。どこの貴族家かは教えて貰えなかった。
そして卒業後に高待遇を受けたいなら最低でもA・B組が除かれた学内ランキングで50位入り、上位になれば文句無しという話らしい。
原作ゲームと比べれば物凄く緩く感じる。少なくとも生死が掛かっていない状況に私とマッキーの肩から力が抜けた。まぁランキング参加者の人数が原作と違って10倍近いから大変っちゃ大変だろうが……この現実じゃ三千人超えてるからなぁ……。
そこから始まる怒涛のひとり語り。イケメンに転生成功した事に喜んだ徳岡さんはゲーム知識を活かして小さな頃からはっちゃけにはっちゃけたらしい。
幼少時にはもう現世が牙閃の世界だと確信し、未来に起こる悲劇を無くそうと匿名の手紙を連日に渡って有力者に投函し、霊格神経・魔力生成能力を得ようとダンジョンを探し求め、義賊である怪盗と連絡を取ろうとし、教授連中に未来で判明する理論の概要を送り付け、過激派宗教団体が隠している武器倉庫の在処を通報したりと聞いてるだけで八面六臂と言っていい活躍だった。他にも色々とうたってくれたが、確かに自慢したくもなる内容と言わざるを得ない。出生がただの平民だったらテロリスト認定されかねない事もやってるし。
そして運命なのか何なのか、九歳の頃にヤツヒコが連れ込まれたダンジョンと、徳岡さんが偶然たまたま発見侵入したダンジョンのタイミングが同時で、そこで出会いと一波乱があって説得脱出面倒を見るというコンボを叩き出し親友関係へ。
これらもまぁ、生きてて良かったねという感じ。
幼少期からダンジョン探す難しさは分かるから。それでも原作ゲーム情報から位置が大体分かるとは言え何も壱海公爵家のダンジョンに侵入せんでも、とは思う。貴族管理のダンジョンに不法侵入なんて、バレたら死罪なのだ。
ギルドの管理下に無いから霧球域ゲートの周囲を壁にもなる建物で囲って無いし、警備員がいなくなる時期があるのが原作ゲーム同様だったのであれば侵入出来なくは無かったのだろう。
私も所在が判明しているダンジョンで侵入出来そうではあるから、何度か考えた事はある。家族の事がよぎって実行には移さなかったが……まぁ、一旦置いておこう。ここまでは良かったんだ。ここまでは。
で、もちろんこの世界はゲームと違いクエストクリアすれば全てのべつ幕無しとなる理由もなく、現実なので各所からの反応が当然存在する。
悲劇を起こさせない為に潰されたテロ組織や邪教勢力や悪徳貴族家の残党が跋扈したり、テロ用兵器が摘発されるも多くが全く未知の武装組織に渡ったりしていたとか、違法薬製造元を潰した筈なのにその違法薬が別ルートで発見されたりと、大元は締めたが枝葉に別れて細々と生き残りが活動しているようで現在状況は少しばかりややこしい事になっているそうだ。少しばかり?耳がおかしくなったかな?
「んん?それって……」
「ちょっと失敗はしちゃったよね。まぁ全部が全部一網打尽だなんてフィクションじゃないんだから無理って話さ」
「原作ブレイクの駄目な方じゃん、え、徳岡くんそれマジ?」
「マジなんだよね。ああ、でも心配しないで。きちんと後始末は貴族家のいくつかが動いてくれたし、対処はほぼ完了してる。僕たちも今はもう身を潜めずにすんでるからね」
「テロ組織も邪教勢力も潰された組織の残党取り込んで大きくなったりするし、そうなるともう原作ストーリーなんて役立ちそうにないね」
「あはは、そりゃそうかもね。中でも酷いのはボク達ふたりとも報復対象として賞金首にされちゃった事だね。もちろん裏社会側限定だけど」
厄ネタ背負ってんねぇ!?それで身を潜めずにすむってんだから貴族の庇護って本当に影響力半端無い。少なくとも子爵家以上かな。
それはともかく。
賞金首にされた話を聞いたと同時にマッキーとアイコンタクト。指先二本をだらんと曲げて顎触り。以前に二人で決めたジェスチャー、拒否という意味だ。共通理解を得られて安堵。了承のジェスチャーを返して硬い声を出す。
「無理」
「助けてあげたいけどそりゃオレ達じゃどうにも出来ないな。こちとら平民家庭出身のただの女子学生二人だぞ?」
私達は匙を投げた。無理。これは無理。私達は魔力素養こそ高いかもしれないがレベルもたったの2。漫画の主人公みたいに俺に任せろといって全て背負い込んで敵対組織を平らげるような蛮勇は持ち合わせていない。
銃といった対人兵器だけに止まらずトッププロ並みの高レベルならず者達や魔導戦車や戦闘ドローンを多く持つ暴力組織から賞金首にされたらどうにもならないのだ。平民じゃ生き残れない。せめてもっとレベルが上がっていれば話は違ったのかもしれないが、現状、テロ組織や邪教勢力のような大勢が所属する反社会組織と敵対すると詰む。それは貴族勢力でも同じ。どこかと敵対しないように庇護の傘に入れたらベストなのである。
つまり、こうして出会っている事さえ危険かもしれない。事実洒落にならんのだ。今住んでる地域は幸いな事にまだマシだが、この国の治安と倫理観はマジで終わってるから。この二人と仲良しだと思われれば、吊り上げる為の餌として拉致されかねない。
賞金首を取り消させるような反則技や裏社会への権力やツテなんて当然無いし、そもそも今の私達には身を守る術すら無い。
流暢に気分良く自慢気に話して貴族の庇護を得ている優男へ、マッキーでさえドブに流離う雑草を見る目を向けている。
「待って待って、その危険性は分かってるからPTに入って欲しいとまでは望んで無いよ!まだ前提情報だからさ!原作ブレイク色々やっちゃいましたっていうね」
こんな事ならアライアンス機能すら使うんじゃなかったっていう後悔の顔だなマッキー。同感だけど。教員用端末で確認できる履歴見られたらすぐ分かっちゃうんだよね、どことどこが組んだ経験があるのかとかさ。
お前たちは貴族の庇護に頼れるのだろうがよぉっ……!
私達の視線を分厚い面の皮で受けて何なら語尾に音符マークさえ飛ばしそうな調子で続けられた内容は、徳岡さん達の通報により助かった勢力からの庇護が得られたという話だった。ただ貴族家から家族共々守護されるように取り計らって貰ったものの、ここでヤツヒコの血筋が問題となった。
彼は壱海公爵家の庶子なのである。それもシンデレラのようにいじめ抜かれたタイプで幼少期に死亡したと世間では思われている筈の人間。
幼少期に限らずこの世界でのイジメというのは主に暴力。回復魔法のあるこの世界では弱者からしてみれば拷問と大差無い暴力。
ボコボコにされ、頭を打ったりして動かなくなっても回復薬さえかけとけば良いでしょ、という考えがまかり通っている。
実際それでほぼ死なず、後遺症もほぼ無い、というのだからやられる方はたまったものじゃない。
閑話休題。
彼は年少時にダンジョンに連れ込まれ、公爵家主催の生贄の儀式で死んだ事になっている筈の厄ネタ積載野郎である。
「おいナミ、そんな事まで」
「問題無いよヤツヒコ。彼女達はすでに知ってる事なんだし、組分けから平民生徒で間違い無いし特異な背後関係があるならE5組配属だから。なら何か行動されて余計な手出しされる前に情報提供して上げた方が互いに手間が掛からない」
二人から見えないようにマッキーが背中に片手を回して、撤退合図。
了承の意味を込めてマッキーの背中に軽く手を当てる。
後はタイミングだけだ。出来れば向こう側が興味を失ってこっちは仕方無くという形に持っていければベター。
「ソレはそう。庶子な事とか知ってるしな、裏付け情報サンキューくらいの感動しかねぇわ」
「神降ろしの儀だっけ。その生贄だったんでしょ、設定通りなら」
「チッ。気味が悪ぃな。死海で溺れかけた時の儀式の詳細なんざ知らねぇよ」
死海という前世で言えば三途の川的な表現をして舌打ちするヤツヒコが幼少時に遭った災難は、壱海公爵家が一部領土を失った事に起因する。魔物領域と化した地域を取り戻そうとして、失敗が続き、絶対に死んではならない当主が力を得る為に生贄捧げてーという儀式だった筈。まぁ魔物領域から取り戻す為というのはお為ごかしで、本音は当主が不老不死になる為でしたーというオチだったのが原作ゲーム事情。なので気持ちよく悪役断罪とばかりに主人公勢が討伐に乗り出せるのだ。
終盤で一番好感度が高いヒロインが攫われてやっぱり儀式の生贄にされかけるんだよね。
助けられなかったらバッドエンドで退学だったかな。現世基準で考えると、公爵家の所有ダンジョンに無断侵入だけでも死罪なんだから退学って公表されてても実は死んでますとかになっていそう。
徳岡さんが感心したように頷く。
「そんな儀式だったんだ、僕も内容は知らなかったな」
なんでだよ、というツッコミを堪えていれば、マッキーが疲れたように提案した。
「あー、もういいか?警戒し過ぎッて笑われるかもしんねえけどよ、裏社会から賞金掛けられてんなら正直言ってオレらにゃ手に負えねえし、もう貴族様の庇護貰ってるってんならむしろオレらは邪魔物だろ?時間貰っといて何だが、縁が無かったっつうことでお互い今後は知らぬ存ぜぬで別れようぜ」
この同盟自体はマッキーが提案したものだけど、現状、彼等を釣る餌役として拉致されかねない情報ばかり……。さすがにダンジョン内で同盟相手を殴り飛ばすのはNGだ。せめて解消してからだね。一発くらい殴っても許されるでしょ。
「まぁまぁ待って待って。そんな言うほど危険も無いからさ、もう少し話を聞いて欲しいな。庇護して貰ってる貴族家としてはヤツヒコ本来の出生は公表しない方針でさ、戸籍もちゃんと別に与えられたんだ。平民の磯辺八比古というね。だけど将来的にはその貴族家直轄近衛隊に取り立て士族として迎える約束もすでにして下さってるんだよ」
だから何だという話だ。将来有望な士族候補と今のうちに繋ぎが出来るならお得だとでも言いたいのだろうか。生憎、問題なのは今というこの時間を無事に過ごせるかどうかという安全性に関してだ。目を細めて誰何する。
「貴方たちは貴族さまに安全を担保されてるだろうけどね、こちとらレベル2の平民探校生なんだ。裏社会の、それこそ邪教勢力、混然一沌教の信者信徒が賞金目当てに出張ってきたら為すすべなくバッドエンド直行って分かって言ってる?」
「大丈夫さ。ただの平民にはまだ話が降りてないようだけど、弾圧ルート元凶の混然一沌教は数か月ほど前に潰されて教主は国外逃亡、信徒はチリジリ。もう8割方そちら方面も鎮圧して貰っているんだ。特にこの刀京魔導学園周辺は御貴族さまのご子息ご息女が通われるって事で治安なんか最優先で維持されてる。君たちは知らずに恩恵を受けてるけど、この辺りは天州国内でも指折りの安全地帯なんだよ?」
知ってるし実感もあるよ。いちいち話の腰を折ろうとも思わないが国土安保税やら治安維持費やら一般庶民が国や貴族にお金や魔力を払ってるのは小学生でも知っている。が、優先順位なんかはまったく公表されないものだから、確かにその辺りは知らないねと内心で吐き捨てる。
彼等が最優先で治安活動してるのは彼等の為であって、一般庶民なんて眼中に無い。一般人が事故や事件に巻き込まれた所で動くのはいつだって警察組織の庶民出身者であって、組織内の貴族関係者や士族が一般人の為に出張って来る事なんて無いのだから。
「へー……そりゃ普通に嬉しい知らせだね。混然一沌教ってエンディング次第じゃ不安を残す生き残り方するのに」
「そうなんだ?まあ現実ではこんな風に身知らぬ間に誰かが事件を解決してくれてるもんさ……少しは不安を払拭できたかな?」
原作の親友エンドやノーマルエンド後、どこかの山奥で復讐を誓うワンシーンがある混然一沌教。時期的に原作開始前ギリギリだったわけだが、それでも国外逃亡したなら直ぐにどうこうという話にもならないだろう。複数の貴族家が動いたなら国内で立て直しすら難しいだろうし。
マッキーが目を細めつつ口を開く。
「少しはな。それじゃ賞金ってのはどこの勢力から掛けられてんだ?」
「いやー捕まる実行犯が十人前後の小規模組織が多くてね。そういった末端を使い潰してる事は間違いないんだけど、大元はあまり敵対したくない勢力らしくて現状どうにも動けないみたいでさ」
敵対したくない勢力?話振りからして貴族同士の抗争か。こちらとしては邪教やテロリスト辺りと比べるとまだマシだが、それでも安全とは言い難い……。
マッキーをちらりと見れば肯きを返されたのでそのまま口を開く。
「でも意外だね。庇護して貰ったっていう貴族さまが主人公くんを隠すように動くなんて。公爵家から預かり賃くらいせびったり政治利用してもおかしくない気がするけど、派閥の娘さんと婚約させれば壱海家と繋がり出来るんだし?」
「ユッキー別の考えも出来るぜ。ゲーム通りの扱いなら認知すらされねぇし。そんな子はいないって突っぱねられるぜきっと。遺伝子鑑定とか霊格鑑定とか隠しておいていざという時に備えるとか予備扱いじゃねぇの、いうて庶子だし使い道は限定されるだろ」
エグイ言い回しのマッキーに内心で戦慄しつつも、恐らくこれでヤツヒコは激昂――
「ハッ、テメェらデリカシーって言葉を知ってるか?」
しなかった。むしろ知っていたと言わんばかりに鼻すら鳴らす余裕の態度。
ゲームでは似たような事を言われてブチギレたヤツヒコだが、私達の言葉に激昂する気配も無し。なんだかゲームより大分性格が丸くなってる?私達は互いに横目を合わせて確認。
(これで怒らねーとか、もうすでに誰かさんから助言でもされてたっぽいな)
(私は別れたい)
(いや……なら相手が知りたいって情報をさっさと渡す方針で、引き留めて来るってのはそういう事だろ)
(ラジャ)
そんな心情の声を汲み取ったやり取りを一瞬で交わして私は口をつぐむ。対外交渉は確実にマッキーのが頼りになるし、班長であるマッキーが最終判断をくだす。それに私は従う。自分がポンコツな事くらい自覚してるしね。
私とマッキーのコンビネーションをケンカ売ってると捉えてヤツヒコからぶち壊してくれたら楽に別れられたろうに、これ以上の罵倒だと尾を踏んづけて敵対関係にまで発展しそうなんだよなぁ……冷静過ぎでしょこのヤツヒコ。




