14話 再会とはじめまして 後編
◇
私達のノンデリ発言を躱したヤツヒコは徳岡さんへと顎をしゃくって場を譲った。
「さっきの言葉の中にあった、牧野さんが考える、いざという時ってどんな状況を想定しているか聞いていいかい?」
「あー、壱海公爵家の没落、というか魔災が起こって家督継承者がいなくなった時とか?きちんと血族証明できたらヤツ、磯辺くんに壱海公爵家の当主の座が転がり込む事になるから。ただ選択次第で刀京の一部が水ぼつ――」
マッキー達が話している間、手持ち無沙汰に辺りを見回していれば、かなり遠くの木々の隙間にトカゲの群れが見えた。こっち来ないかな……ただ散発的に見掛ける群れはなぜかどれも小規模。中型個体なんて一体も見ないし小型種が数匹程度。林や森が近くに無いからだろうか、それとも私が午前中に通ったルート近くだからまだ新たに出現していないだけか?
ややもすればどうやらこちらに気付いたようで、駆けだした様子。小型種のイノシシトカゲが七匹。危険性など皆無。この程度ならここからの射出だけで殲滅出来る。が、どう動くのか気になるので徳岡さんとヤツヒコの動きを見せて貰おうかな。もともと彼等の初討伐の助力の為だったんだしこの同盟組んだの。それにまあ、私の予想通りに木偶のような鈍さだったらマジで4月中に退学しそうだしヤツヒコ。
「それ!ほらヤツヒコ!僕が言ったことに間違い無かったでしょ!?」
「元から疑っちゃいねえよナミ」
「そうは言っても最近のキミからはやる気が微妙に感じられないんだよ!キミは当主になれる器なんだって!」
「あぁ、分かった分かった。現実味が無さすぎんだよ大事過ぎて。って、チビの方!魔物が来てるぞ!」
二人が戦おうと私より前に出始めたその背中を見つつ思う。
ここまでの話を聞くに、貴族家としては徳岡さんの情報を話半分に聞いていて、ヤツヒコが公爵家当主となる可能性があるから庇護は与えておくか程度の考えのように伺える。
原作シナリオ通りに魔災が発生し壱海公爵家上層部が壊滅し、ヤツヒコが魔災を治めるなら労せず壱海公爵家と太い繋がりが出来るのだろうし。何も起こらず壱海公爵家が揺るがずとも、現状維持で将来的にそこそこ役立つだろう将兵になるという話。彼等に庇護を与える見返りはそれで十分なのだろう。
しかし徳岡さんの方は分かっているのだろうか。当主になる可能性は多くの命が失われた後に発生するという事に。まあ、私達は20年以上後の世界だし悲劇とか無いわラッキーと能天気に過ごしていたからこれまでの所業について文句は言わないが、これから自分達の住む場が水没するとなったら、悲劇が起こってないだけでこれから発生するかもと分かってしまったからには、防ぐように動きそうなんだよねぇマッキーって……そうするとヤツヒコは公爵家当主にはなれずじまいだぞっと。私だけなら家族と周りにだけ伝えて引っ越し先探すだけになりそ。
そんな考え事を中断してそこそこ近寄って来た先頭の小型トカゲの前脚を石を射出してぶち抜けばころころとヤツヒコの前まで丁度良い感じで転がって行った。残りのトカゲ共は着弾した衝撃に驚いたのか、元々左右に別れるつもりだったのか、ふた手に別れようと身体の向きを変え始めた。このトカゲ共は数が増えるとこういう小賢しい真似をしだす事が多い気がする。
その動きを止めようと数が少ない方の先頭へもう一発射出しようかと狙いを定めたら、先にマッキーが飛ばした石片がソイツの頭部を潰し貫いていった。絶対ドヤ顔しているので隣は見ない。その代わりに逆側のを潰しておく。
ヤツヒコはヤツヒコでゴツい青龍刀のような幅広の湾曲大剣を転がってきた相手に振り下ろして討伐。一瞬振り返って来たその顔は何とも言えないものだったが、直ぐ様身を前に出し動きが止まっている群れへ突貫。
振り降ろしは力任せの一撃という感じで、振り降ろした後は体幹はブレてるし剣は土に埋まってたしで、割と違和感がある。
何かと思ってトカゲの死体と叩きつけられた地面の跡を見れば分かった。これ装備出来てないわ。切れ味がまったく伺えない。なら魔力が枯渇して……無いな。魔導端末の表示をチラリと見れば良好の二文字。お高そうな大剣だしレベル1で装備出来るなら魔力も高いんだと勝手に思っていたが、そんな事は無さそう。
それに相手が止まっていたから当たったものの、実に雑な振り降ろしだった。まさに筋肉任せで普段しないような動作なのだろうぎこちなさが見て取れたのだ……戦闘慣れしてるかと思いきやまさか、ずぶの素人?それとも実力を隠す感じの演技?貴族と関わりの無い私達に隠す理由なんてあんのか?無いでしょ、つまり素か。
で、そんな木偶のような体たらくでもまだ前に体を張るようだ。探索衣もひらひらとしていて装備出来ていない。それでいいのか次期公爵家当主(仮)。貴族生徒なら普通にあり得ん選択肢を取るなぁ……この辺りが主人公たる所以なのだろうか。浅層だからいいけど、命いくつあっても足りない気がする。
話を振った方がいいのだろうか?
ちらりと徳岡さんを確認。彼はヤツヒコの一振りを回避したトカゲに槍を突き入れ、疑問にも思っていない様子。服の張り付き具合と刺し傷から装備も出来てそうだし、彼の槍はそんな要求魔力が高そうな一品でも無い。こっちは何も心配無さそう。
どうやらどちらとも前に出て肩を並べる形が彼等二人で納得済みの戦術のようでいて……徳岡さんがヤツヒコをフォローするようにトカゲに対して槍で牽制したりしている。
まあ武器のリーチ的にそうなると思うけどもっ、ヤツヒコの方をチラチラ気にしてるのは探索衣を装備出来ていないと気付いたからか?武器は予備の武器なんて持って無さそうだし今回は仕方無い。私達がフォローするとして、次に戦闘が起こりそうなら探索衣にきちんと魔力を通す事とマッキーが持ってる牛筆教員製の直剣貸してあげた方が良さげ。あれなら要求魔力が低く作られてる筈だし装備も出来るでしょ。
そんな算段をつけつつ、徳岡さんの死角の草むらに身を潜めようとしていたトカゲに向かって石を射出して仕留めておく。
同盟を組んではいるが、基本的に他所の班のやり方に口出すのはマナー違反。敵対関係になってもおかしくない暴挙であり、立場的に上の者しかしてはならない。もちろん結果を出さない班が混ざっていたら話は別だが。
まぁ、徳岡さんを続けて見ていれば槍を丁寧に振り回してすでに2匹目を貫き軽く討伐していたので、うん、問題無いね。
マッキーはヤツヒコの様子を注視しており、スリングショットを構えていつでも動けるような体勢。そして丁度ヤツヒコの背後から飛びつこうとしたトカゲの脳天に石弾を射掛けていた。ナイスショット。経験を積ませる為かギリギリまで待っていたようだ、何とも甲斐甲斐しい事だね。
ん……、しかしこれ、動けば動くほどヤツヒコはやはりかなり一般人寄りな動きだと分かる。ケンカ殺法とでも言うべきか……道場でどんな稽古させられていたんだ?対魔物の動きをしていないし身体強化ももちろんしていない。魔力を活かした動きを徳岡さんの方はしているというのに、ヤツヒコお前、まさか稽古サボってたとかそんな感じか?門下生見習いによくいたぞこういう動きのチンピラ未満のタコ共。
完全に格下だ。こんなのにガン付けてた自分自身が情けないよ。仮に戦えば弱い者苛めにしかならない。原作主人公という色眼鏡で過大評価していたらしい。
そんな呆れた内心を胸に秘めつつ私が戦帯を鞭のようにしならせ最後の一匹を空中に巻き上げてヤツヒコの目の前に放り投げ、彼が唐竹割りでトカゲの体を大剣で頭蓋を砕き仕留めて戦闘終了。そこで初めて見た年相応の満足気な面を見れば、毒気も失せた。魔力通してないせいでお高そうな刃が若干潰れてるけどとにかく魔物群の初討伐おめでとう……。これ、シタシタコンビにも負けそうだね……。入学式の日によく啖呵切れたもんだよホント。
まぁ私が勝手に相手を原作主人公だからという理由で上に見ていたんだし、実際の動きを見たら落胆ってのは、我ながら酷い。まあ関わりも薄くなりそうだしもう放置でいいだろう。興味も失せた。死ぬなら誰も見ていない所でよろしく、とまでは口に出さないが……徳岡さんコレの面倒見てるのか、大変そう。
怪我も何事も無く群れを処理できたのでマッキーが会話の先端をつないだ。
「てかさ、現実問題、物語じゃ主人公組が活躍してたけど魔災とかそういうのは他の貴族家や民間のトッププロに情報渡して対処して貰ったらよくないか?子供の頃に手紙送りまくったって言ってたけどコレに関してはどういう反応が返ってきてんだ?」
「いやぁ、ウチと縁がある貴族家の他には送ってないんだよね。ウチってその貴族家に仕える士族御用達の代々続く槍守り組だった縁もあって、その送りまくったっていうのは、その貴族家に何通も送ったというか何というか……」
「ガキの戯言と切って捨てるには物騒過ぎるっていうんで当主自らお越しくださったんだよ。俺の顔も確認したいってな」
「ん?その縁あるならなんでE5組?E組どころかD組C組、その貴族家の家柄次第じゃB組の供回りにも配置されそうな気がするがな」
マッキーのつい口に出てしまった感じの疑問に苦々しい顔をしたお二人さん。言いたく無さそうな空気なので聞きに徹してたけどぽつりと呟く。知りたい気持ちはあるが好奇心で貴族間事情なんぞに首を突っ込めば大やけどしそうだ。
「最初に言ってた別の貴族の横槍ってやつじゃない?私達には遠い話だよきっと」
「ああ、そういえば……まぁ貴族相手ならオレ達から関わる事も無いだろうが、オレ達にどういう立ち回りを望んでるのかとかさあんの?」
「いやぁ、牧野さん達ってふっつうの一般家庭出身なんでしょ?どの貴族からでも士族からでも下知があれば抗えないんだしむしろ知らない方が安全だと思うんだ。特に女の子なんだし。僕達が知りたいのはまぁ端的に言えばゲーム情報だよ」
「ナミの言う通りだ。あんま興味本位で首突っ込まれても今の俺達じゃ助けるのも難しい」
自己評価できていて何よりだね。あなたももっと修行した方がいいよきっと。そんな相手の言葉にマッキーも一瞬言葉を飲み込んだようだ。
「……あーね。OK、詳しくは聞かないでおくよ。ならゲーム情報の何が聞きたいんだ?こっちはそっちが進めるイベントの進行具合とか他の転生者情報共有して貰ったらいいか程度なんだけど。あ、空梅ちゃんと関わるしE5組の仲間メンツどうするかの方針も聞きたいな」
「あー、一番知りたいのは【霧渡り】の連続イベントについてなんだ。保険医とやり取りしていったのは覚えてるんだけど興味無い会話イベなんてボタン連打でスキップしててね。最初の糸口さえ謎っていうね……もちろん【霧渡り】出来るようになったら僕達の都合優先だけど便乗させて上げてもいいかなって思ってるよ。あと空梅ちゃん達は譲ってあげるよ。そもそも一般の女子とは距離置く予定だったしぶっちゃけE5組の女子達は基本どうでもいい。でも剣崎君と本少君はマストで弓張君に織田君といった主力メンツには声掛ける予定だよ……そうだね、上代舞桜以外の女子はお好きにどうぞ。あ、シタシタコンビももちろん要らないから」
「ナミは金髪と話しててくれ。俺はそっちの――紺髪がずっと浮いてる事の方が気になってんだ、石の投擲方法もな」
やっと少しは腹を見せあう事が出来たかと内心で嘆息していれば、ヤツヒコの声にマッキーと目を合わせる。
ヤツヒコからの呼び方が変わった。
原作ゲームでは、侮るのを止めたか好感度が上がったかだ。まぁ徳岡くんというブレーンがいるのだからその癖を都合良く利用、演技しているのかもしれないが私達にはそれで意味は通じる。敵対しない、という意思が込められていたのだろう。
コレが主人公くんか……。
肩を竦めて青い空を仰ぐ。これは簡単に別れられそうに無い。
まあ班長が残るというのだから残る。それでいいやと諦観。それより徳岡君の方を警戒した方がいいかもしれない。
会った時から気になっていたけど徳岡君の性格は前世と様変わりしてるようだ。以前はもう少し言い方にも気配りが垣間見えたものだけれど……15年も現世で男として生活していればまぁ変わるかと頷き合う。私達が変わったように向こう側も善し悪しあれど性格変わっているかもという想定はして来た。
指先を力なく左右に揺らしてアイコンタクト。どうにもならない。
徳岡君のナチュラルに酔ってるような言動に少し心配になるが……少なくとも喫緊の危険があるわけでも無いようだし放置でいいだろう。相手もこちらからの干渉を望んでいないようだしね。
マッキーがちらりと私の仕草に目をやってから、服をちょいと摘まんでヤツヒコの方へ一瞬目線を遣って肩を竦めた。ああ、探索衣を装備しろと伝えろって?私が?ふぁっきゅ。
私のやさぐれを無視してマッキーは徳岡くんと話し出し
「オレ達は【霧渡り】イベントにゃ手を出すつもりはひとっ欠片も無いがこの現実で進めて大丈夫か?貴族にバレれば絶対一悶着あるだろ。オレらは貴族の教員とかに厄介系生徒ってカテゴライズされたく無いからそのイベント群にゃ近付かない方針だけど」
「なるほど、賢明だね。まぁ僕達は心配無いさ、それなら【霧渡り】が出来るようになっても声掛けは控えた方がいいかな?」
「ああそうしてくれ。オレ達はオレ達のペースで進めるつもりだからさ。まぁ情報としては持ってるが裏付けとかは取ってないからな?【霧渡り】イベントの始まりは教職員の古語教員と歴史担当教員の――」
あちらは任せるとして、こちらに近付いて来るヤツヒコへ胡乱な目を向ける。
浮遊しているといっても拳一つ分地面から浮かせてる程度で大きく目立つような事はしていない。遠目には変な歩法の流派と思われる程度に抑えているのだ。
この調整は周りに被害を出さない為の調整、昨夜と今日の成果でもある。観測画面の魔力消費量可視化によってそれまで曖昧に感覚的に行っていた事を意識的に調整出来るようになった。昨日の猛吹雪のような有り余る生成魔力を消費させまくった魔力放出と比べれば、省コストで中効果、プラスで目立たないといった所か。もちろん装備によるアビリティの恩恵があってこそ可能になった制御である。
そして誰が近くにいようがダンジョン内で浮遊を取り止める選択肢は無い。この二人や他生徒の興味と私のジョブの為のダンジョン内行動では圧倒的に後者の方が重要に決まってる。
浮遊移動はダンジョン内でジョブを得てからもずっと続ける予定だ。ホライゾンシリーズ的には【巫女】には飛行のスキルはあるものの決して覚えやすい方でも無いので、使って使って使い倒して絶対に取得したいのだ。可能であればジョブ獲得と同時に関係するスキルが発現すればと願っているまである。
まぁこの熱意の主張は一旦置いといて、私の足元を指差して開口一番「ソレどうやってんだ」というヤツヒコに限らず、この浮遊に関して伝えられる事は一言で済むのでそれで通す。
「浮いてるといっても魔法じゃないよ。石もね。単なる魔力操作、人によっては魔力制御って呼ぶ技術の一種。ショップに売ってる装備品で補助はしてるけどね。あなたはまず探索衣を装備したら?」
「ああ?わけわからんいちゃもんつけてくんな……なるほどな。確かに近くで見てみりゃ、装備品が身体を持ち上げるような特殊なアビリティじゃ無いみたいだな。補助っつうのはどんなだ?」
「体重軽くするのと魔力関係のバフくらい。レベル相応のね。だからヤツヒコが真似しようとしてもあなたが持つ魔力属性次第としか言えないよ。体重は私の倍以上ありそうだし浮くのは大変かもね?それはそうとして装備って知ってる?」
「しつこいぞ。言葉のお勉強がしたいなら辞書でも持ってきて引いてやろうかチビ」
「ああ、そう。そんな認識でよくダンジョンに挑む気になれたね」
「ハッ、実際大したこと無かったしな……ふん、確かに端末表示じゃジョブ未定でレベルも2。確認させて貰うが魔導具でも無いし習得結晶で【浮遊】か【飛行】覚えたってわけでも無いんだな?」
「無いね」
尋問みたいな聞き方してくるじゃん。コイツはやっぱり私と同じコミュ症の類だな?
アライアンスの表示項目は設定済みで戦力値は非表示にしているが、レベルとジョブと健康状態、魔力の4項目は表示している。彼等も同じ設定なようで、魔導端末の項目を確認した時にレベル1でジョブが未定で健康状態は良好で魔力は生成中と表示されていた。
「まあ見て分かるようにもちろん自力習得を目指してはいるよ。それに個人的に言わせて貰えば習得結晶は嫌いなんで」
「それならいい」
「あ、換金対象としては好きだよ?」
「聞いてねえよ」
そうかい。コイツ絶対コミュ症だわ、私よか重症。まぁ生い立ちを考えればそれも仕方無い。幼少期はそれこそ拷問のような暴力を受ける毎日だっただろうし。回復魔法・薬の悪用だわな……。
貴族派による弾圧ルートっぽい道筋を辿っている主人公らに思うところが無いわけでは無いが、まあ意地悪をしたいわけでも敵対関係になりたいわけでも無い。
……
しっかし、こちらを睨むように無言で顔を向けられると体格も相まってこけおどし感がすごいが……もう言える事なんて無いぞ?
「……」
「……あのさ、そう見られても何を聞きたいのかさっぱりなの。【読心】スキルなんて持ってないんだから言葉を喋ってよ。魔力操作に関してなら貴族と繋がりがある磯辺君たちの方が何か特殊な事とかしてそうって考えてたんだけどね。むしろこっちは貴族に関わると思ってそっちの魔力操作について聞かないように自制してんのに。なに?聞いていいわけ?どういう修行してるのかとか何ていう教科書教材で学んでいるのかとか魔導具とか使ってるのかとかどんな術式があるのかとかすんごく興味あるけど」
何も知らないんだろうけどね。徳岡くんが側にいてどうしてこんな修行不足知識不足のまま放置されてんだ?この不遜な態度のせいか?
「チッ。随分と買いかぶってくれてるようだがな。魔力操作自体、教科書で学べる事以外全く知らねぇよ。術式が載ってる本なんざ魔法教練本程度だろう?それ以外の、貴族家が誇る術書・秘伝書をおいそれと貸してくれるわけねえだろ。それと俺の物言いもそうだが、テメェもケンカ売ってるような言い方にゃ気を付ける事だ」
「ご心配無く。ケンカは割と得意なんで」
「心配なんざしてねぇよ。……てめえのその魔力操作、具体的にどうやるんだ?」
「いや、あのね。魔力操作も術式の情報も取り扱い要注意なんだよ?それこそ貴族だっておいそれと教えないんでしょ……はぁ……まぁ私も詳しいわけじゃないし独学だかんね。言える事なんてほぼ無いよ。探索衣に魔力を通して装備するのとは別で、浮遊は単に魔力を集めて編み込んで放出してるだけ。他に伝えようが無いんだよ。魔力属性って個々人で違うんだから、魚が鳥に羽の動かし方を聞いてるようなもんだよ多分」
「わけの分からん事を……はんっ!ヒレと翼程度の違いなら十分似通ってるじゃねえか」
「そういう意味じゃないっつの。事実マッキーに出来る事が私に出来なかったり、逆も然り。それとは別に知りたいなら教わる側の態度ってもん気にした方がいいかもね。徳岡君に言われてるんじゃないの?本来は貴族生徒なんだろうけど今は平民装わなきゃなんでしょ?」
一応伝えた。うん、伝わってる感が微塵も無いけど伝えた事は伝えたぞマッキィィィ。もういいでしょコレで。
教えて貰えて当然という、物を頼むように見えない態度もトラブルの原因になるのだから。こんなの私には是正しようが無い。
原作ゲーム主人公はコミュ力を高めていなければ会話選択肢が広がらない仕様で、初期ヤツヒコは基本的に男女関係無く『無理矢理吐かせる』(戦闘になる)だったり『さっさと言え』(逃げられる)とか命令口調で毒づくなどしか選択出来ないのだ。
まぁ現世の探索者界隈じゃ割とこのくらいの蛮族性は珍しくも無いんだけど……それはともかく。原作と比較すればこのヤツヒコはコレでも大分丸い性格になってる。協調性がかなりプラスされてるヤツヒコだ、コレでも。徳岡君が甲斐甲斐しく世話焼いた事が伺える所でもある。武力に関する事以外に従事させられてる感じか?
「はっ。別に気になっただけだ。魔力を集めて編み込んで放出、か。ふん!それで浮けたら世話ねぇぜ。具体的な術式が気に触るならイメージはどんなだ」
「……あなたの魔力属性とか聞いていい感じ?」
「駄目だ。俺の魔力属性は関係ねえだろ……あるのか?だが駄目だと言ったのは何も悪意で言ったんじゃねえ。庇護されてる貴族家との契約に含まれるからだ」
マジでコイツッ。オレは教えないけどお前は教えろを地でいくね。まあ隠す契約しているという事実から二属性以上はほぼ確定か。二属性でも珍しいのに、最終的に全属性ってほんとお前は何なんだ。
魔力に関わる話は取り扱い要注意。まぁ貴族家が研究してる術式に関しては、と限定すれば私はたしかに当て嵌まらないけど。
仮に雪結晶の魔力形、その術式を伝えたとして、それが貴族にまで伝わっても問題は無い、と思う。そもそも魔力属性が多種多様であるし、珍しければ話を聞かれる程度はあるだろうが、術式の有用性評価欄に身分を記入する欄があるこの国で、平民が自慢した所で流されるだけ。
雑魚がイキがってる可愛らしいね、程度だろう。
本業を探索者としている者でないと戦力値百を超えないので貴族からしたら一般人の魔力操作なんてお遊びにしか見えないという話は納得だ。
だが時々、教科書やネットにも書かれていない術式を鼻高々に自慢していた連中が消える事がある。術式関連で有志による情報集積サイトが作られたりもするが、いつの間にか消える。それこそ巫女の配信者で良い!と思った者ほどすぐ配信を止めてしまうように。
貴族はとかく自身の権威を脅かすモノに敏感という話。そんな話や事例や噂は原作でも現世のネットでも事欠かない。
私が子供の時にお遊びで作っていた魔力の形は多種多様だ。雪と聞けば思い浮かぶ六角形の魔力塊を基本として枝葉を伸ばした幾何学模様に魔力を編み込めば色々と現象も効力も変化した。これらの知識は独学であり努力の結晶である。マッキーであれば教えるし教えて来たが実際に効果が発現したものは数える程度。
それらを初対面のヤツヒコに教えるか?
否だ。
心が狭いと笑われようが、教えた所でヤツヒコの命を救うような効果のものなんて無い。しかも致命的なイベント相手はすでに潰し終えているという話で本人とその周りは安全と来た。
火属性の者ならば火を形作るように魔力を形成するのが当然のように、私の浮遊は雪属性でないと話にならない。
発言からして、浮かんでいるのは気になるが魔力属性自体はどうでもいいという感じも鼻につく。
ははは、誰が教えるか!!ふぁっきゅ!そのお貴族さまの所から対価を借りて来るぐらいの事言えんのか!話にならんわ!!ペッ!!
……落ち着け私。コイツは次期公爵さまの可能性あり次期公爵さま……。敵対NG敵対NG……。
「……他人のイメージなんてそんな有用とも思わないけどね。見たまんまだよ、吹雪のイメージ。私から出てる風冷たいでしょ」
「吹雪だぁ?ああ……言われてみれば」
「雪女って知ってる?知らなきゃ子供向けの絵本か徳岡くんにでも聞いてどうぞ。そっちの方がよっぽどイメージしやすいから。後、私から聞いたって事、私達の話、特に魔力属性については推測だけでも言い触らさないようにお願いね」
「そうかい、その口止めに意味があるとは思えねえがな。何にしても随分と魔力の扱いに長けてやがるな」
なんでコイツは尋問みたいなコミュニケーションしかせんのだ!?ふぁっきゅううう!!
マッキィィィィ!まだそっちの情報交換終わんないのかああああ!?
そんな事を内心で叫びつつ、愛想が一欠片も無いヤツヒコの態度に威嚇笑顔が深まる今日この頃。
何でもかんでも話すと思うなよ。私達個人の事は一切話さんからな。
「……」
「……」
そうして睨み合っていれば会話が途切れる。今回も視線を先に外したのはヤツヒコの方。私の勝ちだ。腹パンされない状況で助かったな、ダンジョンに感謝しとけヤツヒコ。ペッ。
内心でひと通りやさぐれて、少しクールダウン。
「……」
まぁヤツヒコからしてみれば、見ず知らずの相手に色んな事把握されてるってのは結構なストレスかもしれない。
それに割と好き勝手口撃しちゃったからな……事実だから謝らないが、なぜこれほど一週目ヤツヒコが我慢強くなってるか考えるとため息が漏れる。
……どれほど苦渋に塗れてきたのか想像すると腹が重くなってきた。私が過ごした小学時代が可愛く見えるくらいに酷かった筈だ
ああ、くそ。気に入らない。……気に入らないが、私の方が精神的には年上なのだ。うむ、余裕をみせて我慢してやろう。
互いに目線は合わせないままに口を開く。
「雪の結晶は知ってる?」
「あ?」
「私のこの浮遊もどきの術式の基本形は雪の結晶の形に成形した魔力塊。樹枝六花の形だね。基本的に雪属性は六角形型の術式陣の反応が良いんだ。魔力塊を六角形に成形するのも、六つ配置する陣を組むのも魔力反応が良いから。樹枝六花以外でも角板の形じゃ吹雪く量が減ったりする代わりに雪の粒が硬質化したりして――」
教えた所で恐らく使えないだろうけど、仕方無く、とても仕方無くだが使ってる術式を軽く伝える。
このヤツヒコには使えないだろうが、原作ゲームのように、いつかのヤツヒコならば活用できるかもしれない。
私が今いる世界線にゃ全く関係ないだろうがね。仮にこのヤツヒコは死んでも記憶を保って別の平行世界の過去に行けるかもしれないが、私達は彼が死んだという結果の世界で生き続けていくのだから。
基本的な情報を言い終えて改めて口止めを頼んだ後に、ヤツヒコがおもむろに口を開いた。
「……口下手か?そんな事をしながら戦闘なんざ不可能だろ。嘘つくならもう少し頭を使って考えるんだな」
血管キレそう。いやキレたわ。長々と丁寧に説明してやって最初に出て来る言葉がソレかよ。こちらを嘘つきと決めつけるノンデリも大概しろよノッポヤンキーが
「口縫い合わせるぞ修行不足の唐変木。ほぼ意味の無い筋トレばっかしてそうなてめえの常識なんぞ知らんわたわけ。装備も出来てないお高い大剣振り回して満足か?ばっかじゃねーの。ほとほと呆れたわ、徳岡くんの足を引っ張ってるようにしか見えねえんだよタコ」
「……」
「そこで見てろ」
戦帯をしならせ近くの岩を上下に斬断。軽く飛び散った瓦礫を引き寄せて、無造作に手ではたいて破砕。
「てめえはコレが筋肉鍛えて出来るようになるとでも思ってやがんのか?石を装備して空中に浮かすのも、戦帯を装備して意のまま操るのも、岩を叩いて砕くのも、全部が全部魔力を使ってこそなんだよ。装備っつうのは物に魔力を通す事だ。誰もが習う基礎中の基礎をそのすっからかんの脳みそに刻んどけサボり野郎」
徳岡くんが修行方法なんかを伝えてない理由を考えていた。貴族から伝えないよう強制されてるのかな、とか。それなら将来的に士族に迎える約束が結ばれているそうだし強くさせない理由が無いな、とか。じゃあ別の貴族、たとえば壱海公爵家がそうするよう強制してきたのかな、とか。
でも違った。コイツのは単に修行不足に勉強不足。無残な過去があったとして今を蔑ろにしていい筈が無い。道場で習う装備すら知らないなんてのもちょっと意味が分からないし。受験問題にも確か出て来たぞ。普通の中学生は魔力が無くて装備をする概要は文字を追うのみとなるが、コイツはすでに魔力があったにも関わらず試そうとすらしなかったという事だ。
やる気が見れないなんて徳岡くんの苦言もあったしサボって筋トレでもしてたのだろう。術式知識を教えるんじゃなかったかな。よくこれで道場経験1年以上という受験要項をクリアできたもんだ。
魂宣とかの技術もまったく欠片も知らないように見受けられるし。
ホライゾンシリーズの映画やアニメでやっていたような霊格神経の拡張訓練とかさえしなかったのだろう。
魂宣が出来ていれば魔力に関する感覚が多少は鋭敏になるので、なんとなく相手の魔力を感じ取れるようになるものだし魔力操作にも手応えを感じれるようになる。まぁそれでもなんとなく程度でしか無い。レベルも低く、ジョブの恩恵も無く、スキルも無いから相応の代物でしか無い。魂宣という技術も習熟していくものなのだ。だからこそ事ある毎に魂宣、暇が出来れば魂宣、魂宣するのだ。せっかくのダンジョン内なのにしない方が勿体無い。つまり今の現状。ああ、勿体無い。時間が無為に過ぎていく……。魔力器拡張修行でもするか。しよう。もっとド派手に魔力使い倒したいがマッキーに止められてるし。
マッキーと徳岡くんのふたりはこちらの様子を見つつも話を続けている。まぁちょっと離れているから何を話しているか謎だが、徳岡くんの顔は晴れ晴れとしていて笑顔だ。怒りを隠す為の笑顔じゃない、よね?いや、勝手に伝えたのは悪かったかもしれんけども、さすがに探索衣を装備しないままこれからもDAしていくとか冗談でも笑えないし。
ちなみにヤツヒコはさすがというか、ゲーム通りの主人公仕様であれば魔力属性を増やしていく事が出来る。
全ての魔力属性にそもそも適性素養があり、周回を繰り返していけば最終的には全属性になれる。だがまぁ、目の前のヤツヒコは一周目という話。それだとクリアまでで増やせて二属性程度。序盤だと初期属性のみだろう。その初期属性はプレイヤーが選べたのだが、この現実では謎。さらに現世では魔力属性も千差万別、数多くの種類が蔓延っているのだしで、全属性に本当になれるのかも謎だ。
まぁもしかしたら徳岡さんが何かしらテコ入れして増やしているかもしれないね。それで褒められまくって修行しなくていいと勘違いでもした?ありえそうだ。
なので私の雪属性も得ようとすれば身に着けられるのかもしれない。
まあ才能と野心に溢れたゲーム主人公そのままのヤツヒコであれば、魔力属性を得ようとして私にもっとガツガツカツアゲしてくるがそれも無し。徳岡くんに止められているのかな?魔力属性を増やす方法はたいてい絆(好感度)イベントを最終段階まで進める事だったしね。
ただ飛行キャラにスポットを当てる為かもしれないが、ゲームでもヤツヒコに飛行能力はつかなかった。
まぁ学園のイベントが進めば魂宣に関しては勝手に使うようになるだろうし、好感度イベントも絡む。だから徳岡君に睨まれたくも無いしこれ以上の下手な口出しはすまい。
ちなみに魔力属性に合った現象規模・影響が大きく、且つ術式を介さない超常現象の事を魔法というが、魔法は貴族や士族といった上流階級が扱うもので、一般人が使えるのはアヒルに混じった白鳥程度に珍しいと見られる。ジョブを得た時に、稀にだが神から魔法を授けられる事もあるそうだが、そちらもやはり術式陣が無くとも現象を発現させられるので魔法と呼ばれる。魔術というのは人が編み出した技術なのだ。
そんな羨望を込めた希少性からも習得結晶は高値で取引される。
そういった様々な事情から魔力を『鍛える』や『慣れ親しむ』なんて概念は全く一般的では無いのが現世だ。いわんや魔力操作。走り傘や魔力壁程度なら一般的であるもののそれ以上となると一気に希少になる印象を受ける。まぁ術式を構築するより魔力をまとわせた拳で殴る方が早いし強いと考える人が多いのもあるかも。
特に簡易鑑定魔導具や魔導端末の戦力値という表示がいやらしい。
まるで身体を鍛えれば戦力値が上がるような表示だし、実際そう間違った誘導をするサイトやニュースや教科書が主流だ。
戦力値なんて呼称で魔力の事を殊更隠す風潮はマジで害悪だと思う。このヤツヒコもまんまとその術中にはまってそうな筋肉だし。ふぁっきゅ。
ヤツヒコとの会話が途切れたまま、つらつらと考え事をしつつふたりの方へ近寄っていけば、聞くとは無しにマッキー達の会話が耳に入った。
「――じゃあ直近のD・C組の勝負は特に何か仕出かす予定も無しか。確かにグッドエンディング目指さないなら別に勝ちにこだわる必要も無いだろうし」
「D・C組の勝負って何?」
「「え?」」
徳岡君の疑問の声につい声を上げてしまった。
「序盤の舌下コンビのケンカから始まる戦闘チュートリアルの事だよ」
「そうそう。あーもしかして要所でセーブして周回せずにスチル埋めていったタイプ?」
「あはは、いやー、もしかするとそれ以下かも。パッと見で好きな子のエピソードを動画で見てプレイは途中でやめちゃったんだよね|ホライゾン~学徒の牙閃~《RPG》は。だからやり込んでは無いっていうか。同人誌描く時に必要なトコは動画で見ればよかったし、当時はゲーム自体興味も薄かったっていうか。やってきた原作ブレイクも好きな二次創作とRTA動画を参考にしてたっていうかそんな感じなんだよね」
片眉上げてマッキーと目を合わせる。
よく死なずに来れたな徳岡くん。
ちょくちょく聞こえた自慢話(とある悪徳貴族や悪徳政治家の屋敷へ無断侵入、違法薬生成の証拠を掴む為に貴族家が運営する病院に侵入、危険兵装の取引現場盗撮、廃棄された旧地下街に潜む不法滞在者の通報など)は一般人が聞いてもホラ吹き野郎と鼻で笑われるだけだろうが、全てゲームであったエピソードな事を知っている私達にとっては十分に可能性有りと分かるし、その行いは英雄願望ありきの蛮勇にしか思えないものだった。
結果的には大成功とはいかないまでも全て成功、というか生き抜いてみせて、貴族の庇護を受けれたという事なのだろう……徳岡くんにも主人公補正とかあるのだろうか。
牙閃をよく知らないと謙遜するものの、それだけの行動をレベル1で行ってきた度胸は凄まじい。ヤツヒコの照れ隠しのようなニヤついている表情から見栄張った嘘という線も薄いだろう。
マッキーと二人で無謀なパパラッチ共を見る目でいれば片眉上げて訝しげにヤツヒコが噛み付いてきた。
「なんだァ?気に入らねえなその目。いちゃもん付けられる覚えはねえぞ!」
「ああすまんすまん、そんなつもりは無いぜ。学生寮に入ってるなら危険も少ないだろうし、生きてて大勝利だろ?だがまぁ主要シナリオがもう完全に参考になんねぇって事を把握出来ただけでもほんとに助かったわ。サンキュー徳岡くん磯辺くん」
「ほんソレ。情報ありがと。私達も自衛に動こうと思ってたけど、ぶっちゃけ足手まといになりそうだし関わらない方がいいね」
「あはは、そうしてくれるとこちらも気兼ねなく活動できるよ雪小路さん。今後は何か他の前世持ちの情報あれば教え合うくらいでさ!」
「OKOK。まぁ徳岡くん達が頑張った原作ブレイクにゃ手ぇ出さないから安心してくれ」
「僕何かやっちゃいました?ってね。いやいや、言ってみたかっただけ!ちょっとヤツヒコまでそんな目で見ないでよまったく!僕とヤツヒコならどんな困難も乗り越えられるんだからさっ」
隣の主人公サマを見れば満更でもない顔をしていてそれは徳岡くんも同様、マッキーを見れば笑顔を浮かべつつハイライトが消えた目になっていた。
そして私の中での関わりたく無い生徒ランキングで徳岡くんが急浮上。
だからといって見捨てるのも忍びないのかマッキーは今後起こり得る学期末試験までのイベント情報や魂宣についても語っていたが、もうそんなの起こらないでしょと終始ヘラヘラした笑いを浮かべている徳岡くんに果たして意味があったのだろうか……。
「そういえば牧野さん達は学園内にいる時は戦封じして戦力値隠してるみたいだけど、それいつまで続ける気なの?」
「んー、オレらは安全なレベル上げ目的で入学したからなーこんな時期から戦力値がちょいと変な事知られたくねぇんだ。生徒会とか貴族関係者に変な横槍入れられる前にジョブ獲得したいからさ。原作ゲームにゃ無かったがこの学園の伝統なんだろ、入学直後で戦力値が高い生徒をパワーレベリングに誘うってヤツ。ソレ受けてジョブの誘導なんざされたくねぇし」
「隠し通す気は無い感じ、でも自由にジョブを勝ち取りたいわけね。情報持ってるもんねそりゃ気持ち分かるけど、まぁ~……その感じだとどっちにしろかな。はっきり言っておくと戦封じ持ってる生徒ってギルド側だけじゃなくて当然学園側でも把握してるんだよ。将来的に戦力に成り得るからさ。一番最初に確認する事が戦封じを持ってるか否かなんだって、スカウトするかどうかの基準。だから戦力値隠す意味無いよって伝えておこうと思って。むしろアピールすべきだと僕なんかは思うよ」
「その物言いからして徳岡くんはそのスカウト役担っていたり?」
「はは、バレバレか。ほんとそういう察しの良い所変わんないね雪小路さん」
「おいナミ、いいのか?」
「彼女たちなら大丈夫でしょ。あ、僕がそういう役割担っているっていうのは他の平民生徒には黙っててね」
げ、すまんてマッキー、だから笑顔でこっちを睨むなよ。多分察しがついてても踏み込みたくなかったんだろうな。はぁ失敗した。慣れないカマかけなんてするもんじゃないな。
そんな自省をしていたら機嫌よく徳岡くんの勧誘言葉が続いた。
「まぁ、まさにその勧誘役のひとりが僕で本来はE5組担当。だから君たちは担当外っちゃ担当外だけど一応知り合いだしさ。牧野さんが言ったパワーレベリング、正式には組筆頭候補の優先実習が来週頭なんだよね。三週間後のE組合同実習に先駆けて行われるんだ。クラスの筆頭にはそのクラスの統制を期待される感じだね。もしかしたら貴族生徒の目に止まるかもしれないし、一応レベルを上げられる他にも色々メリットあるんだけどね?」
「例えばどんなのが?」
「あ、牧野さんも興味出て来た感じ?例えば、そうだなー希望の部活や委員会への推薦状が貰えたりレンタルショップの優遇制度を利用出来たりだね」
「レンタルショップの優遇制度?」
「そっち、はー、たしか貸出予定期間が被ったりしたら優先的に回して貰えるとかそんな話だったかな」
「貸出装備の種類が増えたり安くなったりは?」
「しないしない!そんな実利というか金銭が絡むのはランキング戦順位くらいでしょ。今回のスカウトはあくまで高等部1年の組内秩序の為だからね。金銭が絡まなくても名誉名声求めて普通の平民なら飛びつくもんなんだよ」
君たちは違うみたいだけどさ、と妙に気取った仕草で肩をすくめる徳岡くん。マッキーに目を合わせて肯けば、意を受け取ってくれたようで金髪美女が肩に掛かった髪を払って口を開く。
「オレ達は普通とは言い難いからな。徳岡くんにゃ悪いがその程度の優遇ならジョブを自分の好きに選べる自由を選ぶぜ」
「だろうね。【銃使い】と【巫女】だっけ?その班構成には疑問しか無いけどこれから人集めだもんね。それぞれなれるよう応援してるよ。もちろん心変わりして実習に来てくれたら歓迎するし。まぁ【盾士】系か【足軽】系のどれかを強制されるだろうけど、ハズレジョブじゃなくほぼほぼ確実にそのどれかになれるんだから悪くは無いと思うよ?」
「ちょっと前までは【騎士】も視野に入ってたんだがな、昨日判明したオレの魔力属性的に向いてないんだわ」
「へぇ?随分と立ち位置が違うジョブにまた……まぁ魔力属性については聞かないよ。もちろん話してくれるならいくらでも聞くけど、僕というよりヤツヒコの属性は秘密なんだ」
「そりゃ残念。宮仕えは気苦労多そうだな、頑張ってくれ。役にゃ立てねえが応援はしとくぜ」
その言葉をさいごに少しの間、沈黙が広がる。さってそろそろ解散かなという空気の中で徳岡くんが口を開いた。
「……ここからはちょっとしたひとりごと。入学式で挨拶した貴族生徒の方に見せて貰った一覧表があったんだけど、入学式の最中にどうも鑑定していったようでね。注目って感じの戦力値高い生徒が十数人ピックアップされてたんだ。その中には残念ながら牧野さん達の名前は無かったけど、今日その呼び名が聞こえたからつい声掛けちゃったんだよね」
驚いたよ、と呟いてから俯き加減に目線が若干下へ向かう徳岡くんが続けて言葉をつむぐ。
「……無いとは思うけど解放ルートとか救済ルートなんて目指してないよね?」
「無い無い。テロリストにも宗教家にも近付かんよ。つーか刀京府から出た事ねーし!言ったろ?この学園に来たのは少しでも知ってるダンジョンで安全なレベル上げ目的だって。危うきには近寄らずだよオレらのスタンスは。ちなみにその戦力値高いって生徒ってどの程度だったか聞いていいか?」
「あはは、そうだよねー!いやー安心したよ。救済ルートの方は壊滅させたっていっても生き残りはいるだろうから気を付けてね。で、戦力値に関してはー、一番高い子は19で、続いて3人17弱。この上位四人はジョブ持ちでレベルが高いからまぁ戦力値が高いのは当然かな。E1組の生徒だけどまったく羨ましい限りさ。どこかの貴族の隠し子かツテがあってダンジョンに潜れたんだろうね。で、ヤツヒコが15で5位。僕が14だね。そこから少し落ちて戦力値10前後が数人、他十名くらいが7から5だったかなぁ。まぁレベル1なんて戦力値3が普通だしね。僕は勧誘以外も仕事頼まれちゃっててさ、その表にも載らなかったような子達、君たちみたいな戦封じ着けてた連中にもコンタクト取らなきゃなんでちょい忙しかったりするんだ。あはは」
そこでヤツヒコが面倒そうに口を開いた。
「戦封じしてる連中ってなぁ今は戦力値が低くても将来的に高くなる傾向があるらしくてな……オレはお前らの用心深さを評価するぜ」
「ん?ヤツヒコそれどういう意味?」
「……後でな」
「ああ言いたくないなら別にいいけどね。まぁ牧野さんたちもそう気を落とさずに。戦力値ばかりは生まれ持った才能だからさーお互い気にせず頑張ろう?初日にレベル上げられる二人ならこの学園内でも良い線いくと思うよ!」
「いや、徳岡くん、戦力値は修行で上げれるぞ」
「え、牧野さん何て」
「だから、修行で戦力値ってか魔力は高められるぜ。もう体がほぼ大人だから成長幅は少ねえだろうが、レベルの事考えたら少しでも修行した方がいい」
「はい?いやいや、さすがにそんな話聞いた事無いんだけど」
「騙されたと思ってやってみろって。やり方教えっからさ」
「はは、いや別に今更教わる必要は無いかな。これでも道場じゃ結構しごかれてきたからね」
「いやそういうんじゃなくてで」
そんな感じでのらりくらりとのたまう徳岡くんに顔が引きつりそうになるのを我慢。戦力値を自慢するつもりも無いが、上には上がいるし……今の二年にいる枢パイセンとか入学時点で百を超えてたって噂だ。
にしても戦力値隠しててよかったああ。貴族が大多数の平民に興味持つ筈ないと分かっていても鑑定程度はやっぱりしてたんじゃん。最大魔力量、魔力器が判明する詳細鑑定で無くて運が良かったというか、大正解だったわ。まぁ、ギルドと連携すれば知られるだろうけど、わざわざいち個人を指定するなんて事はまず無い。部活動で頭角を表したり、学内ランキングで上位に上がるなどして目立たなければそもそも注目されないのだ。
そして、まさかの徳岡くんが修行方法覚えて無かったとは……。ホライゾンシリーズじゃ当たり前に語られていた方法で常識であったけれどこの様子を見る限り、本当に知らないみたいだ。私も所々ど忘れした事は多々あれど修行方法は覚えていた。そういえばオブネ君も記憶は途切れ途切れの穴あきだと言ってた事あったし、前世持ちであってもその記憶を完全に覚えているわけじゃないのかもしれないね。
マッキーの話をむしろ熱心に聞くのはヤツヒコの方で、徳岡くんは上の空という感じなのは放置して、私は意見を求められた時だけ口出しし我関せずと索敵や素材採取に精を出す。
ただそれもそう長く続かず、修行話も途切れて間もなくダンジョンを出る事になった。結局、戦闘は小型種七匹討伐の1回だけで直剣を貸すような事も無くなった。
外に出ればまだまだお昼と思っていたが、もう放課後という時間帯。そんな夕日に照らされる中で、徳岡くんは寮にいる生徒にアポを取るんだと忙しそうにヤツヒコと相談していた。勧誘へとこれから繰り出すのだろう。今回のDA経験は良い会話の糸口になりそうだともしたたかに笑っていた顔は自信に満ち溢れたもので、マッキーの心配心は伝わって無さそうだ。




