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15話 放課後

◇


 ダンジョンから出て、ギルドへ帰還。

 素材採取もしておいたので背負った鞄から素材が溢れていた。が、採取物の換金額を四等分したら飲み物代程度。もちろん朝のDA分は私だけなので別枠だ。そっちは中型種の魔石が多かったからそこそこな金額になった。もちろん二人で等分だ。マッキーはマッキーで情報収集って仕事してくれてたわけだし。さてこれで妹ちゃんにお菓子でも買って帰ってあげようかな。

 とりあえず転生者情報があれば共有しようという話で決着して、名前だけは知ってるという子から誰それという子まで分かっているだけでオブネ君含めて何人もやはりこの学園に来ているようだ。ヤツヒコ(原作主人公)へ接触してくる子は分かり易く、それ以外にも原作キャラの周辺には前世と名前が同じという子がそこそこ蔓延ってるという話。蔓延るて……。まぁ他の組なのにE5組へ来る生徒が異様に多かったらそうも言いたくなるか。中には先輩も混じっていたようだし一学期初日からE5組は大盛況だったとの事。マッキーも言っていたが宮仕えは大変そうだ。

 報告書作成で私は午前中の分だけ伝える事が多く時間が掛かったので同盟(アライアンス)は解消し二人と別れ、ギルドを出ればマッキーと私の二人きり。どちらからともなくため息を吐いて私は仕事疲れの中年のようにぼやいて労う。


「……んあ~……お疲れ様、マッキー。にしてもあそこまで警戒心無かったかな徳岡くん」

「おつかれ。オレ達が女子になって生活成長する中で警戒心が高まったとは逆なのかもな。士族の槍守り組の家系って事は平民の中じゃ上澄みだろ、貴族の護衛はもちろん財閥の令息令嬢にも顔が効くっていうし、一般人から見りゃ大分上の立場だわな。そのせいかおかげか何でか害意に疎くなったとかかね?それに、喋りたくても喋れない事抱えまくってテンションおかしくなってたんだろうなぁ……本当に色々手を出してたっぽいし」

「15年だもんねぇ……前世で知り合いだからって口軽くなりすぎてた気もするけど」

「いや、ラインは引いてたな。結局具体的な貴族とか侵入先ははぐらかされたし、侵入様子見証拠集めってだけで盗みとかにつながる言葉も無かったし……まぁ想像はつくがな」

「これ見よがしに黄金の羽モチーフのイヤリングとか特徴的な装備してたもんね」


 鳥命八陣シリーズの魔導具。全てケバケバしい黄金の羽がモチーフとなっている装備品8種だ。中でもイヤリングはそれ単体で致命打を受けてもHP1で生き残れるアビリティが付いていた。この性能もだが、ケバケバしい見た目に反して全ての鳥命八陣シリーズは生存能力に特化していて、全て揃えれば発動するアビリティ【金光八陣】は装備者が死んだ時、即座に全回復でPT全員復活とかいう破格の性能を誇る。


 国中に点在する八つの魔導具を集めなければならないのだが、当然ながら入手難易度も高く所在が曖昧なものが半数以上。その中でもイヤリングは在り処が確定している魔導具のひとつだが、悪役貴族の屋敷内にあって決してレベル1が忍び込んでどうにか出来るものでは無い。通常プレイでは侵入する事さえ出来ず、物理的に扉が存在しない宝物蔵に安置されているからだ。もちろん周囲の警備兵や召喚獣・使役獣に見つかればレベル1などひとたまりも無い筈。

 というかイヤリングが1セットでふたつとして、ふたりで片耳ずつ装備してアビリティ効果が発揮されるかも謎だ。そもそも現世じゃHPって何って感じで、首飛ばせば即死だし……。繋がってたら回復薬で復活もできようが。


「あのイヤリング持ってるって事はすり抜け系のアビ装備も無いとおかしいだろ。ほれ、あーなんて名前の貴族家か忘れたが、確か汚い仕事請け負ってる系の貴族家の家宝。忍者の代用品、隠密系魔導具の【朱隠(あけがく)し】。あれに付いてる【影人隠《かげびとなばり》】のアビが無いとレベル1で出入口が無い部屋にある鳥命八陣シリーズとか盗れっこねぇ」

「たしか貴族家と同じ名前じゃなかったっけ?朱隠支《あけがくし》家」

「あ、同名だったか。現世の社会で習った貴族家が多すぎてごっちゃになるんだよな」

「それにマッキー、鳥命八陣シリーズは正攻法かもしれないよ?正面から交渉して借り受けてるとか、庇護してるっていう貴族が気を利かせてその貴族家に頼み込んだのかもしれないじゃん?」

「徳岡くんの話聞いて本当にそう思うか?」

「良い子ぶってみただけ。ダンジョン出る前にちゃっかり外してたし、犯罪しそうにないマッキーに自慢したかっただけかなあれは。まぁ【影人隠《かげびとなばり》】って便利だったよねぇ。終盤辺りならジョブ【上忍】のキャラ育ててスキルとして覚えられるけど、そこまで育成するの大変だし。人間種に対して天敵みたいに効果発揮するタイプだったよね。ダンジョン攻略じゃ微妙だけどクエスト依頼系じゃ大活躍した記憶ある」

「ああ、俺も愛用してたわ。潜入(スニーキング)ミッションじゃアレひとつあるだけでイージーモードだったからな」


 【透明化】【静音】【消臭】【魔力波隠蔽】【魔力臭散らし】に【扉・壁すり抜け】が統合されたスキル・アビリティが【影人隠《かげびとなばり》】。その有用性は作品を超えてホライゾンシリーズの掲示板でもたびたび話題になるほどの便利具合だった。

 マッキーが羨ましそうにため息を吐いた。


「はぁ、いいなぁ【朱隠(あけがく)し】。黄金イヤリングなんぞより絶対そっちのが有用だろ……仮に本当に【朱隠(あけがく)し】持っていたとしたら絶対秘密にするか。イヤリングも校内じゃ付けてなかったんだから今回のDA(ダンジョンアタック)でもポケットに隠すなりしてりゃ良かったのに」

「苦労したって自慢気にしてたし。詳しく話も出来ないんじゃせめて見せびらかす程度ってあれでも抑えてたんじゃない?もうぼくが手に入れてるから侵入したって無駄だよ的な自慢混じりの通告?」

「かっー!……まあ心底羨ましいがオレらにゃどうする事も出来なかったしな。にしてもレベル1だろ?鳥命八陣シリーズにしても装備して魔力枯渇しないのは何故だ?ヤツヒコが適性の化け物だったとしても魔力が保つ筈ねぇよな?」

「単純に装備してないだけでしょ。【朱隠(あけがく)し】だって壁すり抜ける時にだけ装備(魔力流し)すればなんとか保つとか?」

「ああ、そっか。現世じゃそういう切り替え(スイッチ)式のが一般的か……いやそれでもレベル1なら蔵前に辿り着くまでの道中でも使うだろ。起動維持できるだけの魔力量ぜったい足りねえって」


 私達は常に全部装備してるからね。節約するどころかDA(ダンジョンアタック)中は成長の為に魔力は消費すべしって方針なのだ。


「んーそれなら、原作には無かったけど現世にはあるじゃん魔力貯蔵系の魔導具。建設業者とか運搬業者が使う業務用の。民間のはバカでかいけど貴族関係者なら携帯出来るような小型の貯蔵系魔導具持ってるのかも」


 うーむ確かにそれなら……、とマッキーは苦笑して首を振った。そりゃ貴族の蔵に盗みに入って根こそぎ持っていったかもしれないって仮定の話だしね……。怪盗に話を聞こうとしたってさらっと言っていたが、空振りを恐れての事だったんじゃないかなとと今だと邪推してしまう。

 ふと思いついて口を開く。


「裏社会のテロリスト共から賞金首にされたっていう原因、【朱隠し】もあるんじゃない?」

「いや、所在が判明してたらテロリスト共より朱隠支家が黙っちゃいないだろ。つか【朱隠し】って普通に考えたら入手無理だろ、アレ貴族依頼のクリア報酬で仲間になる忍者キャラの固定装備だし」

「朱隠支家って確か取り潰されてるよ。知った時にマジかぁ!?って驚いた記憶あるし」

「マジ?いつよ?何の名目?」

「最近、って言っても今からなら5年近く前じゃなかったっけ?さすがに名目なんて覚えてないってかそんなの書いてなかった気がする。受験にも出無さそうな、貴族総覧って資料集あったじゃん?確かそれに載ってた。ていうか攻略本作ってる時に絶対マッキーにも言ったよ」

「え、マジ?すまん覚えてねえわ貴族総覧っつうとあの鈍器になりそうな資料集だよな。どこそこの地域を治めてる貴族家って情報と曖昧な自慢話しか載ってない、小学でも中学でも毎年買わされたクソ高いやつ……そっかぁ。なら【朱隠し】持ってる忍者が徳岡くん側に付いてる可能性も……いやレベル1のこどもに組する筈ねえよな。やっぱどこかで手に入れた可能性のが高いか。そのお取り潰しのどさくさ紛れとかで」


 この世界が本当にホライゾンシリーズ関連世界なのか半信半疑だった時期にも色々調べたし、小学の頃に知って驚いた記憶は鮮明にある。様々な情報でホライゾンシリーズと差異があり、それでも似通ったところも、全く同じという情報も混在していて何度も検証し直したものだ。


「はぁ……まぁしゃーねえ。時期的に可能性だけなら他の前世持ちの関与も仕業もあり得るし……止めとくか」

「何考えたか当てよっか?時系列考えたら徳岡くん達が家宝を盗んで、朱隠支家はその家宝を失くした失態から取り潰しを受けたかも、でしょ?」

「ドンピシャだよクソ。まぁでもそんな筈無いわな。誰が持ってるにせよたかが魔導具ひとつ紛失でお家取り潰しはありえんだろ。何かしらの失態あって家が潰れた後に家宝やら血族の流出があったって考える方が自然だ」


 ホライゾンシリーズファンからしたら【朱隠し】という装備品は、PT枠に上忍などを加えなくて済む便利アイテム(朱隠し家の忍者キャラの好感度を最大まで上げれば他キャラへ付け替えさせられる)であるが、確かにマッキーがいうようにたかが魔導具のひとつ。家宝であったとしても歴史ある貴族家は数多くの財宝を蔵に納めているはずで代用品もある筈。加えて【忍者】系のジョブなら似たようなスキルや魔法を使えるので絶対に無ければならないような代物でも無いだろう。ましてやお家取り潰しに発展する筈も無し。


「何にしても明日からオレもしばらく一日中DAにするかなぁ」

「え?そうなんだ。私は歓迎だけど、ちょと意外かな。マッキーの事だから徳岡くんにお世話焼きに行くかと思ってた」

「さすがにねーよ。人様のモン分捕ったって犯罪自慢してたようなもんだぞ。まぁ後ろ暗い事してる悪役相手ならざまぁみさらせよくやったって思わなくもないが、貴族に犯行おかした連中って一緒くたに見做されたら後ろ盾無い平民のオレ達がいの一番に切られるっつーの。それにフグが膨れたみたいに警戒してたし……ユッキーも気付いてただろ。目つきやべぇよ、胸もがれるかと思ったっつうの」

「あー、そっち方面の?まぁそりゃね。マッキーって黙って立ってれば美少女というかもう美女寄りだもん。色仕掛けでもされるかと警戒したんでしょ」

「まったく失礼なっ!でかいだけで人を色情狂みたいによお!」


 中学までなら勘違い野郎がよーと一緒になって憤慨出来たが、最近のマッキーは牛筆教員にしてたみたいに微妙にあやしい所があるからなぁ……。


「オ、ソウダネ」

「だろ?それにちっとダンジョン内でお喋りの時間取り過ぎた。無いとは思うが【お喋り屋】みたいなジョブになっちまったら泣くに泣けねえ。だから次のDA(ダンジョンアタック)は戦闘主体だ」

「ラジャ。まぁ泊まり込み前提の遠征してたら移動時間と休憩時間が8割って聞くし気にし過ぎだと思うけどね、とりま徳岡くん達は放置で関わらない姿勢。相談されたらって感じのつきあい、でオケ?」

「そだなー。メールのやり取りは最小限にな。付き合いの深さの証拠・槍玉に上がり易いし、【電脳士】とかの情報屋の縄張りだから今まで通り極力使用は控える事。前世の関係で関わるなら人目のつかないダンジョンとかで合流してのやり取り、対外的には顔見知り程度の薄さを維持。こんくらいか。まっ無事卒業出来たら将来性はあるんだし……」

「公爵家当主は望み薄としても、貴族か士族になるなら平民探索者が連絡取るのは無礼にあたるかもよ?」

「むしろその頃にゃオレ達はレベルは限界突破してジョブもクラスチェンジしてるし魔力も高まって存在進化か種族進化してるだろうし、むしろこき使われそうな事を心配すべきだな。ま、そこまでいってたら実力で撥ね退けられるだろうが、いや仕事貰えるなら歓迎すべきなのか?」

「まだまだ遠い話だけどねー」


 遠い目をして夕日を見上げれば雲は素知らぬ顔で流れている。

 もう下校時間か。まだまだ全然暴れたりないなぁ……隣に歩くマッキーもこっちの心情を流すように喋り続けている。


「聞いた感じ二次創作参考言ってたが、弾圧ルートで致命的なイベントでの相手潰し終えてるし裏社会から賞金首にされていようが、貴族家の庇護は手厚いしでそう滅多な事は起きなさそうだ。反面こき使われてる感じだったがな。装備的にも貴族子弟準拠だったし、きちんと装備出来ていればダンジョンの中層くらいじゃないと死なんだろ。んな態勢出来てる所にわざわざ睨まれに行こうとは思わん」

「なんか男ばっか集めようとしてなかった?」

「ソレな。だがまぁクラスの男女比率的にゃそうなるのも仕方無い。ってのは表向きで、多分キャラ愛が暴走してる面ありそうだよな」

「ん、集める予定のメンツ聞いた時徳岡さんらしいなぁって思ったし」

「転生しても魂にこびりついてたんだろうな、腐臭が」

「マッキーはヒトのこと言えないでしょ」

「んな事ぁねえ!オレは空梅ちゃんのおっ、心の清さに感銘を受けてって、まぁその話は置いといてだな。現実的に考えりゃ一般の平民女子を貴族の血筋(ヤツヒコ)に近付けさせんなとでも命令されてんだろうよ」


 そこでマッキーが指をひとつ立てながら確認していく。


「邪教をぽこじゃか創りまくる宗教家が潰されてんなら上代(カミシロ)舞桜(マオ)ちゃんはほっといても勝手に【聖女】になるだろうし弾圧ルートなら徳岡くん達が闇落ちさせねえだろ。今朝の人だかりも凄かったしな……」

「そんなに?」

「おお、祭りん時みたいにE5組に人が溢れてたぞ。学年違う先輩方も何人かいたし」

「全員が全員、前世持ちとは考えたくないねー」

「ソレナ。今朝オレがE5の教室で見た女子メンツのいくつかは原作通りのグループで固まってたが群がってる連中もいたし……ただまぁ、E5組はもちろんだが、E3組クラスメイトも面倒なのが多かったぜ?ユッキーは来んくて正解だったかもな。探索者目指すヤツはやっぱなんか自信に溢れてるヤツ多くてマジで常識ねえの」

「例えば?」

「ケンカばっかで思い出したくもねえわ。空梅ちゃん達とはラインズで情報交換毎日するが、ジョブ【恋天使《キューピッド》】取れるまでは下手にDAとか誘わない方がいいだろうし……つっても近い内に1度だけでもダンジョンに入れて霊格神経を起こさせねえとな。数日程度誤差だろうが早けれりゃ早い方がいいに決まってる。講義は空梅ちゃんに合わせるとしても、DAの休み合間程度でいいわ。コネ作りは合同実習終わってからの方が楽だろうしな」

「まっ、それなら予定の前倒しプラン進めてイケそうで安心したよ。あ、そういえば魔導銃どんな感じ?試し撃ちしたんでしょ?」

「滅茶苦茶良かったぞ!観測画面で確認したときゃ魔力消費少な過ぎて不安に思ったが、っぱ本物は手応えがまるで違え!今日も使ってみたかったんだが、徳岡くん達がいたからなぁ……実戦投入は明日だ明日。ああ、あと魔導銃の噂結構有名ぽかったぞ。数年前からなんか有力貴族家が財閥とかに手を回して集めてるようでな。射撃部の顧問とか先輩、あとプロ探索者の何人かから同じ話聞いたからほぼ間違い無い。とりあえず平民にゃ手が出せない感じ。まじで助かったぜユッキー」

「まっ壊さないようにね。ツテがあるって言っても現物は渡した分しか無いんだから」

「当然だな。肌身離さず持ってっから失くす心配もないぜ」

「んじゃこっちの報告としてはー、2階層入口側に積み木置いて天頂スキップの準備は出来たから、明日一階層で繋がるか試して行けそうなら移動して天頂スキップしてく予定。だからマッキーはまぁ午前中はソロになるかも?」

「ああ魔導銃の慣らしに丁度良いわ」

「13階層くらいにいけたらいく?」

「止めろバカ野郎。雷耐性装備なきゃ打たれてお陀仏だろうが」

「私らの魔力量なら多分耐えれる筈だけど、まぁジョブ得てからのが安牌か。予定通りに各階層に積み木置いてくるね」

「おう」


 ◇


 空梅ちゃんがジョブ取得する頃には私達は相当階層進めてる気がするが、現時点ですでに魔力差があるのでパワレベリングになるのは間違いない。ダンジョンでの発見や検証結果などとそんなこんなを取りとめなく話しながら帰路についてみれば校門で言い争っている濃灰色制服(平民生徒)の集団を発見。


「何か騒いでるね」


 とりあえず直視はせず視界内におさめて警戒しつつで歩みは止めない。マッキーはちらりと確認して私を盾にするように身を縮めて素通りしようとする身動き。コミュ強なマッキーにしては珍しい。私を前に立たせるって事は殴り飛ばしても問題無いって感じの知り合いなんだろう。近付いていけば言い争いの声が耳に届く。


「ハッ!ボンボンの腰巾着どもがえらっそーにしてんじゃねえよ!ビビってんのか?あ?」

「E組の、それも搾りかすの5組のカスどもが随分な大口叩いたもんだ。盗っ人を知ってて庇い立てするなら同罪だぞ」

「わぁお髪型と似て湿ったキノコみたいだねお宅ら。そんなんじゃモテないぜ、おっとパパママにねだったお金見せびらかしたら股開くようなのしか相手した事無い感じ?いやおたくらの湿り気具合からして経験すら無さそうだな全員。ハハッこりゃ失敬。童貞どもは家に帰ってひとり寂しく寝る時間だぜ、それとも眠らせて欲しいのかなあ?」


 制服の色からどちらも平民生徒なのは間違い無いが、ネクタイの色からして1年同士。

 根暗そうなひょろひょろ達は発言からしてC組かD組の内部組なのだろう。キノコヘアーな彼らのシルエットは雑魚キャラとして時々ゲームでもエンカウントした。これあれか序盤のE5組への制裁エピソード?それにしては、内容が……。チンピラ側は因縁つけてるようにしか聞こえないし。

 赤髪短髪が喧嘩っ早そうで、黒髪ワカメヘアーの長広舌の終わりをもって殴り合いが始まって、少し遠くにいた私達には飛び火しなさそうなので観戦としゃれこもう。


「授業開始初日っていうのに血の気が多いね」

「見りゃ分かるっしょユッキー、マジで講義出なくて正解。こういうしょーもないケンカがあちこちで発生しててだな」

「……え、カオスモードの影響とか?」

「違うって少し聞きゃ分かるだろ。本当にしょうもない理由で難癖付けてるだけだぜ、季節柄のアレだアレ」

「ああ……最初に序列つけたがるよね。この地域の子達っていつも四月は乱痴気騒ぎだし、火の粉は払っての放置しか無いね」

「国がそんな気風だしな、ただ数がな……今朝だけでケンカ騒ぎ何回起きたと思う?廊下で2件、E5組内でも1件、E3組で朝のHR(ホームルーム)待ってたら、3グループがケンカ始めて他クラスまでやってくる乱闘騒ぎに発展。その朝のは風紀委員会がやってきて鎮圧してったが、授業中に口喧嘩が起きて教員に鎮圧された所見たの10回超えたぞ。授業中毎回1回以上ケンカ騒ぎが起きてんだ。中学時代が恋しくなるとは思わんかったっつーの」

「私の小学時代よりマシじゃん」

「ユッキの小学マジでイカれてね?」

「実際異常だったと思うよ、探索者志望の子はほぼ放置でケンカ推奨で勝手にやってろだったし……まぁ、人数多いし。ああ、じゃああれだ。貴族へのアピール。組筆頭は自分こそふさわしいんダーって考えてる新入生もいるんじゃない?」

「そういうのも中にゃいたな。風紀委員会にボコされてたが(ユッキーがいたら血の海作ってそうだったな)」

「聞こえてるよ?私はそんなケンカっ早くないっての。……あ、分かった。マッキーが原因で何個かケンカ騒ぎ起きたんだ?」

「はぁ……勝手に盛り上がって勝手にケンカし出すサルどもに頭痛くなっても仕方無くね?」

「意外。マッキーなら殴りとばすと思ってた」

「ユッキーお前、今もだがオレ達校舎内で戦封じ付けてる事忘れてるだろ」

「いうてまだダンジョンに未侵入の子達ばっかでしょ?ほとんど中学までと一緒じゃん。相手になんないんじゃない?」

「魔力枯渇状態で複数人まとめて相手出来る自信はねーわ」

「あーはん?んじゃ私が明日見本を見せてあげるとしますかぁ!」

「止めろガキ大将。今アピールしてどうすんだ。時間の無駄でしかねえだろが」


 そんな会話をしつつ少しずつ近寄っていけば他にもぽつぽつと観戦者が集まって来た。

 原作の初日はゲーム主人公(ヤツヒコ)と下舌(シタシタ)コンビのケンカ程度しか無かったが、現世だとやっぱり違うようで。

 喧嘩っ早い赤髪と煽り倒す黒髪ワカメヘアー……もしかして下舌《シタシタ》コンビ?現実《リアル》になるとチンピラ感増し増しで入学式でチラ見したシタシタコンビと同一人物か分からん。相対するのはキノコたちとどこかで見たようなぽっちゃり生徒。


「礼儀ってヤツをしつけてあげるよお!!」

「やってみろやゴラァッ!!ぐぼぇ!?」


 手前のキノコが赤髪をぶっ飛ばせば、奥にいるぽっちゃり生徒が黒髪に殴られていた。


「おぐっ」

「はっ!ざまあないね!って、オブネエエエ!?何やられてんだ!!後衛だからって動かねばならんのだぞおおおお!!」

「ぼぼぼ、ぼくは!ぼくはああ!?」

「暴力とかやだよねぇ!怖いからさあ!!お前みたいなデブがどうやってこの探校に受かったか当ててあげようか!ははは!言葉にするのも嫌になるね!見下げ果てた根性無しが!違うのか!?違うのなら吠えてみろよ!お坊ちゃんが!!ほらほらほらあああ!!」

「オブネエエエ!!魔物相手にしてたお前はどこ行ったああああ!?」

「ち、ちがっ……あっ!?ああああ!!ちがう!!ぼくだって!ぼくだってえええええ!!」


「オブネ君じゃん」

「オブネだなぁ……」


 どっちのサイドもチンピラ同士に変わり無しだが、知り合いが混ざっているのを見てげんなり。ただケンカマナーなのか何なのかキノコたちは観戦に回ってるのが3人で、オブネ君とひょろいキノコの二名のみが参戦という感じ。

 こういうケンカで対戦人数を合わせようとする心理は何なんだろう……。騎士道精神?でも複数人でよってたかってひとりを攻撃する時もあるしな。キノコたち側のプライドだろうか。多分E組相手に人数差でボコしましたとか恥に該当しそうだしB組に知られたら評価下がるとかもありそう。


 というか校門前の警備員は止めんでいいんか?とちらりと確認してみれば、見てはいるけど動く気配皆無。むしろ観戦者に混じってるし見世物が始まったくらいにしか思って無さそう。銃に手を掛けてすらいない。彼等は目の前の学園生徒と違って力量ありそうだがやる気は無さそう。まぁこの程度のじゃれ合いなら回復薬も使われない程度で収まりそうだしね。武器も持ち出さない素手のケンカなんて珍しいくらいだ。オブネ君も殴られっぱなしだが体幹なんかはまったくブレてない。あれならダメージなんてほぼ0。レベルも年上の門下生程度にありそうな雰囲気だし攻勢に出れれば逆転するでしょ。

 そんなオブネ君も声が震えていたが、何回か殴られてる内に私達と一瞬目が合って、何故かキレたようでシタシタコンビの片割れを持ち上げて校門へ投げ飛ばしていた。


「よおおおおおし!よくやったオブネ!」


 歓声をあげる後方キノコ達はひとまず置いておいて、投げ飛ばされた黒舌っぽいワカメヘアーは猫のように身体を反転させて壁に着地、反動利用しての反転反撃。跳び膝蹴りをオブネ君の顔面へぶちかました。ただ、オブネ君の体勢はそれでもほとんど揺らいで無い。きっちり相手の動きを見て腰を落として片足後方にやって威力を完全に耐えている。まぁ両腕は飾りかというほど胸の前でファイティングポーズ取ったまま微動だにさせないところはどうかと思うが。


「オブネエエエエエ!?」

「はっはー!ざまあないね!……そんで赤下あ!!お前はそんなひょろいキノコに何度ぶっ飛ばされてんだ!華麗なぼくをごらんよおお!そんな雑魚に殴られるなんごぼぇ!?」

「よぉぉぉおおおおし!!いいぞ!オブネエエエエ!!」


 オブネ君による反撃の拳が黒髪ワカメヘアーの脇腹へともろに入った。あれは痛い。体勢と位置が悪かったから致命打には程遠いが、少しの間呼吸できなくなるくらいにはめり込んで、ワカメ野郎は面白いくらいゴロゴロと転がって行った。

 対してオブネ君の方は魔力のおかげか、ニーキックなんぞ大したダメージになってないだろう。ケロっとしてるし。全然平気そうだ。


「そそそ、その程度じゃ僕に勝てないよ!」

「そうだ!そんなサルどもの蹴りなんざお前には効かん!!追撃だ!行けえええオブネエエエエ!!」

「ごほっ、ぐっ、は、は、は。ちょっと手加減してあげていたら調子に乗り過ぎだよ童貞くん。少しギアを上げていこうかなああああ!!」

「き、き、来なよ!お前の蹴りなんて怖くなんか無い!」

「そうだあああ!オブネエエエエエ!!そこだあああ!いけえええ!!」


「黒舌あ!?てめえこそんなデブに何手こずってんだ!ぉぐぼぉっ!?」

「よそ見とは余裕だねえええ!!手癖が悪い貧民風情がそんな事してちゃ駄目だろおおお!」

「ぺっ、意味分かんねえ冤罪吹っ掛けて来やがるクソキノコどもが!テメエの拳なんざ毛ほども痛くねえんだよおおお!!」

「手加減してあげてるのが分からないのはみじめだねえええ!!」

「ぬりぃんだよ攻め手がああああ!!」


「なんか1対1が二組って感じのケンカになってるね」

「へっ、後ろのキノコたちがオブネに夢中なせいでひょろキノコの方はちっと哀れなくらいだな」


 内部組はすでにジョブも持ってる筈だし、いざとなれば威圧も使われるだろうにどうして絡むかね。

 そんな中マッキーは周りと比べて小声ながらも白熱してるケンカに、いやオブネ君に声援を送っていた。


「よしっ!んだよ、結構戦えんじゃん。そうそう魔力あるんだから負ける筈無いっつの。おっ!よく防いだ!そこだっイケッナイス!」

「オブネくん頑張ってるね。ダメージ無さそうだし実際余裕じゃないかな。問題はE5組がダンジョンに入り出したら、か」

「そうだな。魔力持ってジョブ取得してはじめて土俵に上がるみたいなとこあるもんな。そういう意味じゃオレらもうかうかしてらんねえなってつい観戦しちまった。ユッキーさっさと行こうぜ。キリがねえってシタシタコンビもあれで体力だけは無駄にあるみたいだからしつけーし」

「ん」


 E5組か。話を聞く限り前世持ちも相当数いそうだし、戦封じ着けてた子達も多そうだが……。

 あ、またシタシタコンビぶっ飛ばされてら。まぁ、内部組の相手にゃならんわな。


 ちらりとマッキーを見やれば首を振られる。OK。さっさと離れよう。このケンカの趨勢が逆で、オブネ君が劣勢だったり女の子だったりしたならマッキーは助けにも動くかもだが、運動神経無さそうなキノコ君が不良達をぶっ飛ばしている光景なら別にいいやってもんなんだろう。あはれなり。


 校門を通り過ぎ大分離れた所で振り返ってみれば不良君達がまた立ち上がって飛びかかっていくところだった。さすがダンジョン探索を掲げる学園に来る人材と言うべきか、根性はあるようだ。

 その間にマッキーが端末から誰かに「東第2校門前でケンカしてる生徒がいますよー通行人も足止めて撮影してるかもー」と連絡していた。


 事情を聞いてみればあのチンピラ二人は舌下(シタシタ)コンビで合ってるらしい。さらにどうも昨日の巡回員のナンパ的な事と似たような感じで本日近寄られて鳥肌が立ったとのこと。マッキーが嫌そうに顔をしかめて簡潔に言うほど思い出したくも無い様子。これはからかうと後が怖いので止めておこう。



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東アジア014ダンジョン探索者ギルド塔京魔導学園支部

 四月二日

 報告書作成者:四宮楓 受付3等陸曹


探索班《PT》ランクF:【正雪境界】班《PT》DA(ダンジョンアタック)リザルト

 班長:F等級探索者:牧野正(まきのせい)

 班員壱:F等級探索者:雪小路(ゆきのこうじ)御良《ミラ》

 DA期間:四月二日12時41~同日15時53:班長

      四月二日12時41~同日15時53:班員壱

      (四月二日07時02~同日12時41:班員壱 のDAは別紙①を参照)


同盟《アライアンス》

探索班《PT》ランクF:【黎明海陽】班《PT》DA(ダンジョンアタック)リザルト

 班長:F等級探索者:磯辺《イソベ》八比古《ヤツヒコ》

 班員壱:F等級探索者:徳岡《トクオカ》波《ナミ》

 DA期間:四月二日12時41~同日15時53:班長

      四月二日12時41~同日15時53:班員壱


      

 討伐報告

 魔石換金金額:9円

 ・小型トカゲ魔石3個x3円:9円

 討伐確定報酬:3円

 ・ヤンノ蚊  多数x0円:0円

 ・小型トカゲ 3体x1円:3円

 討伐部位売却金:0円

 ダンジョン産素材売却報酬:1,340円

 ・赤霧花 22個x20円:440円

 ・火時蔓 3巻x300円:900円

 貸与品金額:-0円

 ・緊急用狼煙:未使用:0個x(-0)円

 刀京魔導学園支給品:-0円

 ・回復薬:使用済み:2個x(-0)円

 支払い合計金額:1,352円


 鑑定結果:

牧野正(まきのせい):戦力値2(※枯渇状態)→戦力値2(※枯渇状態)

雪小路(ゆきのこうじ)御良《みら》:戦力値2(※枯渇状態)→戦力値2(※枯渇状態)


途中経過報告者:無し


聞き取り事項:主に連携相談と採取を主目的に活動したとの事。周囲の地形探索と装備に慣れ親しむのに時間を使い、魔物が遠目に見えたら距離を取り交戦は控えめにしたという話。魔物との戦闘は怪我もせずこなせたようだが回復薬は使用した模様。掠り傷でも癒える様子を眺めるのは面白いとの言あり。


所見:学園入学初日から引き続きのDA。連続日数2日目。積極的にDAに臨むもダンジョン内では慎重な姿勢なようで好印象。初日とは打って変わって採取PTのような活動をしている報告だったが魔物討伐に不安は無い様子。またアライアンスを組む前の討伐記録は別紙①を参照、そちらでは初日を超える勢いで中型種を討伐しているので、ヤンノ蚊やツノウサギ、イノシシトカゲ、トカゲ男などに対する忌避感は全く見られず臆病な気質では無さそうだ。

こちらの午後からのDAにおいては男の子二人PTとアライアンスを組むなどコミュニケーション能力に問題は無いように見受けられる。戦闘に適正がある印象を受けるも慎重さを重視しているようで中学までの道場指導が良かった事が伺える。班長である牧野は薬学や救急手当実習なども受講しているようで1日目とは変わり後衛を目指しているような印象を受けた。本日の装い昨日と変わらず片手剣とスリングショットという武装に学園指定探索衣。近接戦に不安があったのか問えばそういうわけでも無さそうで色々と試している最中との事。雪小路の武装は変わらず戦帯に学園指定探索衣。雪小路は朝から熱心にDAを続けた様子だが(要領を得ない回答、コミュ力にやや難あり)探索に集中していた様子で斥候(スカウト)技能の受講を勧めても良いかもしれない。ただやはり装備の様子を見る限り戦力値に優れているように見受けられるので回復(ヒーラー)職を得られるよう誘導すべきと学園の担当教員へ連絡済み。


添付資料:無し

備考:(上級職員による追記、閲覧レベルCの別途書類E壱 有り)


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(別途書類E壱)

閲覧レベルC 

刀京府中央平民区戦(いくさ)封じ対象担当官 六画浦吉良之助:

〇探索者優先育成対象者選定の件について

 以前に赤の家が報告したとも聞きましたが、私から改めて報告し――(中略)――、二名ともジョブを得ていないレベルとは思えないほど戦力値が高く、特に雪小路は貴族生徒含めても類を見ないレベル1時点で戦力値50超えの凄まじい逸材。一年前の馬大や枢すらも遥かに超えているのです。簡易鑑定魔導具による戦力値鑑定を隠す警戒心も評価に値する。学園担当教員の指導方針は自主性を重んじるという学園方針と相違無く期待薄であり――(中略)――、総合的に鑑みてジョブを得る前にギルドの優先育成対象に推薦する。以下に対象者の詳細鑑定値を記載――(中略)――。



六画浦 上級職員への通達 刀京魔導学園ギルド副支部長:

 以前にも他職員より推薦があり却下したが、ギルドの優先育成対象には入れれない。この二名はすでに星指(ほしさし)侯爵家から手出し無用と通達があった対象者である。惜しむ気持ちは非常に理解出来るが接触は今後とも控えるように。特に雪小路は星指侯爵家だけでなく天州国の退魔省からも経過観察要請があり注目されている。担当下級職員にもレベルD以下の情報を開示し、守秘義務契約を結ぶ予定だ。

 そして今年はすでに3月下旬をもってギルドの天州国支部全体で優先育成対象の規定人数を超過している為に4月の現時点でも育成対象者を増やす事は不可能という事情もある。その旨、勧誘ノルマからの開放は各上級職員に通達済であり確認されているかと思う。

 他支部や他校でも確認しているが、このような魔力溢れる若者が多く出現する事態は実に二十数年振り。2000年から2003年に掛けて天州西域で発生した魔災および事件事故等の発生理由や、その予兆と思われる出来事などを含めた注意喚起の報を今一度読了しておくように。


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