↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

3話 小学から中学にかけて

 ◇


 特に感慨も無く、五体無事に小学校を卒業。

 親しい友人が出来る事も無く、クラス端っこの陰キャとして存在していたがイジメなんてものには会わなかった。修行と思わなければやってられないケンカなら腐るほどしたが。

 それというのも武術の授業(教練)などが授業に組み込まれており、組み手では大人げなく本気を出した私が学年主席であったし、戦(いくさ)封じの首輪を着けてる事は一目瞭然、公然の事実であり、仲良く話す子ができる筈も無かった。教員からも親からも一般人なら口酸っぱく注意するように指導されていたのだろう。

 戦(いくさ)封じを着けさせられて(魔力が捨てられ続け)る状態とはいえ、小数点以下の魔力でも体内で常に生成される私と、魔力生成器官が起動していない完全に魔力0の子供とでは身体能力に差が出るのもむべなるかな。小学三年くらいの時にはもう戦(いくさ)封じをしてても軽自動車ていどなら投げ飛ばせたからね。

 

 この国、幼少時のニュースで見知ったように暴力が身近にあるが、それ故に暴力による報復もまたやはり恐れられている。

 戦(いくさ)封じを着けて道場に連日通うような子の親が報復に来たらたまったものでは無い、とそんな感じのような事をこそこそと喋っている同級生がいた。目を向ければ逃げるように背を向けたし、席から立ち上がれば脱兎の如く駆け出したので追いかけはしなかったが。暴力による無言の牽制、そういった力で秩序が保たれているのは確かだ。

 美少女何ソレ、可愛いとか惰弱と同義、パワーこそ正義なんだ、そんな小さな世界が小学校だった印象。


 この天州国とよく似ている。危ういようでいて均衡が保たれている。闘技場などといった、暴力も組み込んだ経済活動によって社会さえ回っているようで何とも言えない。袖の下とか忖度よりもまず武力を背景にした交渉手段はいかがなものか。TV番組でもどこそこの企業には有名な探索者集団《クラン》が所属してますからねーとか、〇〇貴族傘下の近衛隊と衝突したどこそこの警備部隊は愚かさ極まってますなとか、訳知り顔でコメンテーターが話題にして、武力衝突やら傷害事件程度はお茶の間のネタになるのみで裁判沙汰にもなりゃしない。

 魔物の襲撃ニュースが無い日は無いし、前世日本より厳しい統制下なのは明らかだが、家族や隣人を護るという意識は際立っているように思うし魔物という共通の敵に対しては団結する、意外にも普段いがみ合っていてもそこはブレない。まぁ押し付け合いとか現場レベルの小競り合い程度はありそうだが……。


 まあそんな中でも暴れるヤツは暴れる。特に探索者を目指していると公言してるヤツに多い。そして教員も探索者を目指すなら多少のケンカなら放置、授業に遅れないならむしろケンカを推奨さえしているようだった。何と言っても教員が私を名指して「(ケンカしてる)そいつらを殴って黙らせろ」とかごく普通に指示するのだ。


 自分が上、相手が下、お前が上にいるのが気に入らないという序列付けはこの地域の小学校内秩序には必要なもの、なのだろう。そういうものだと受け入れなければやっていけない。

 小学入学当時は、野蛮やら悪ガキ同士がわめいているという冷笑系の態度で関わらずにいれたが……実技で学年主席などと目立って来て、将来探索者目指してんのかという問に是と答えたのが切っ掛けか。ケンカを吹っ掛けられる日常となり、多勢に囲まれてボコボコにされたり、反撃し返したりといった毎日に変貌した。ふぁっきゅ。

 中には大勢に囲まれ四肢の骨を砕かれ靴を舐めさせられているヤツもいた。目撃した時は丁度隣に教員がいて「洒落にならん」と懐から回復薬取り出し割り込んだが……。本当にヤツラは小学生か?被害者は身ぐるみはがされてたし、やってる事が前世基準で無くとも明らかに刑事事件相当で、やっちゃいけないラインをぶっ飛ばしてる。だが前世と違って幸か不幸か、骨折程度の傷なら回復薬で簡単に治るのがこの現世事情。つまり被害届なんて制度自体はあるが一般的ではないし、教員が助けに入った軟弱野郎だと笑われる小学校でもあるのだ。ふぁっきゅ。

 多数相手はもちろん、タイマンでも子供のケンカとみくびってはならない。

 回復薬があるこの現世、やっちゃいけないと言われてもどうせ治るしの精神でぶっ飛んだ攻撃をしでかす戯《たわ》けもまたいるのだ。目潰し、金的、首絞め捻りに、頭部狙っての鈍器によるフルスイング。急所狙いの悪ガキどもは実際油断ならないし、鉄パイプやレンガブロックを思い切り叩きつけてくるボケカスどもは手加減や気遣いなんて概念を生まれる前に落として来たのだろう。

 当然私も狙われたらやり返した。

 慈悲など無い。

 髪の毛掴まれてエルボー顔面に貰った時は鼻の骨折られたしね。あれのおかげで手加減無用という事を学べたもんだ。

 嚙みつかれて指を喰い千切られかけた事やクロスボウといった武器まで持ち出されて射られた事もあったが、回復薬で問題無かった。当たり所が悪ければ普通に死にかねないと思うのだが、教師が言うには頭部や心臓を貫かれても矢を抜いて回復薬掛ければいいと真顔でのたまうのだから反射的に「正気か?頭わいてんのか?教員免許返上しろよボケナスが」と言ったら殴り飛ばされた上にボコボコにされて首の骨も折られて意識喪失目前までいったが回復薬を掛けられて復活した。これが教師の所業か?元探索者という武術を教える教師だったわけだが、唯一在学中で頭が上がらなかった相手だ。ふぁっきゅ。

 こういったバイオレンスな日々を過ごした小学時代。


 回復薬にも質の良い悪いがあるが、明確な等級区分は戦力値が基準にされている。等級が上がれば上がるほど、掛かる費用も桁違いに跳ね上がる。ただ小学に備え付けの魔導具には低級回復薬を生成するモノもあるし、こちらを使えばもちろん無料で且つ十分な効き目という。今のところこれで間に合わなかった怪我なんてのは見た事ない。

 指や眼球といった体積的に小さな部位欠損程度の回復であっても確実に問題無し。体験済みである。前世の手術より遥かに安価で安全で回復も早いのは間違い無い。というより比較にならない奇跡だと思うのだが、あまりにも安売りされていてありがたみが薄い。リハビリ期間も手術時間も必要無いし、虫歯にも効くらしい。魔力を得た今世の私は風邪を引いた事も無ければ虫歯になった事も無いが。

 ただ治療費という名の回復薬代は負けた方が支払うというか、ただの泣き寝入りであるのだが、こういった習慣がこの地域限定なのかまかり通っているのは正直どうかと思う。この国の常識ではどうなのだろう……。ネットでも割と負けた方が悪いという論調っぽいので一般常識なのだろうか……。私は無料のしか使った事無いが、裕福なお坊ちゃんは中級回復薬を持ち運ばせてわざわざ使っているらしい。


 明らかにやり過ぎた生徒(不必要な追撃や探索者を志していない生徒への暴力など)はさすがに厳重に教員による躾(回復薬を使用させず一週間ほど負傷継続&回復してきたら再度の折檻&延長)がなされたようだが、この世界の人間は魔力器官が起動していなくとも丈夫なようで、普通に死んだと思った子でも回復薬によって息を吹き返す場面もそこそこ目撃した。


 そんなこんなで、私はやらかしてくる奴等を人間の子供とは思わなくなった。畜生が精々だ。小学3年生時点で大抵のイキったクソ畜生共はぶちのめして、私が小学高学年になった頃には後輩たちを躾終えて妹ちゃんが安全に過ごせるように睨みを効かせて、卒業となった。

 まぁこれは杞憂であって、探索者志望のヤツ等は自分と相手の直接的な差を気にする習性なようだ。だから人質を取ってどうこうといった悪知恵を働かせられるような脳みそを持っていなかったのは双方にとって幸運な事だった。妹ちゃんは探索者を目指してないと公言してるので、そちらの方が大きかった気もするが。



 こんな獣畜生のほうがよっぽど理性的と言えるような狂気的小学時代を経て、私は地元である刀京府信宿エリア地下三層の中学へと進学。

 十二年間地下で過ごして来て、温度や湿度といった環境自体は地下とは思えないほど快適であるのは確か。開発者には足を向けて眠れないね。空調魔導機のおかげで風もあるし四季みたいに季節ごとの温度変化もあるけど一年通して過ごしやすい環境である。日光やらが再現されてる天井魔導灯のおかげで地下とは思えないほど日差しが自然だし、定期的な水滴散布で農業による野菜収穫はもちろん酪農なんかもしてる地域があるようだし、緑も元気に小動物や虫なんかも普通にいるしで凄まじい技術だ。完全に食・住を管理されてる感じでここだけ見るとわりと楽園なんだけどなぁ……。


 閑話休題。

 人数的にはひとクラス50名で1学年10クラスと、なかなかの圧迫感を覚える人数の中学。前世じゃ考えられんね。現世じゃ五人兄弟とかざらだし何なら十人を超える兄弟姉妹という家庭もちょくちょくあるくらいだ。

 それでいうと二人姉妹の私達、雪小路(ゆきのこうじ)家はこれから弟妹が増えるかも……いや、なんかもういいわとか母さん言ってたっけ。


 そんな事を取り留めなく考えつつ座席表を眺めていたら、私と同様に前世と全く同じ名前の人物を発見。

 その子をちらりと見てみれば金髪赤眼で性別も変わっており、何より私は小学時代の悪名が轟いている事もあって大抵の同級生から遠巻きにされてるため、その子には近寄り難かったが、幸いな事に相手の方から訊ねて来た。


「もしもしそこの紺髪紫眼の、あー、雪小路《ゆきのこうじ》さん?つかぬ事聞くけどホライゾンシリーズって知ってる?」

「あーはん?牧《まっき》、野さんね。知ってるよ。知ってるついでにホライゾンウォッチ(FPS)でボコされた屈辱が蘇ってきたぞおい」

「え、……いやさすがに根に持ち過ぎだろ!?十年以上前だぞ!?」

「忘れません、勝つまでは。てのは冗談だけど、よっすひさしぶり」

「へっ、豆柴の遠吠えはやっぱり生で聞かねえとな。つーか、おひさ、でいいのか?」

「いいでしょ。つーか今やったら吠え面かくのそっちだかんね」


 と、互いに前世の記憶持ちな事が判明。ひとしきり出会えた事を喜んだ後、チビだったマッキーのビフォーアフターにウッソだろお前と互いにツッコミしあってゲラゲラ笑い転げてしまった。

 牧野正(まきのせい)、通称マッキーと再会。ならばあのイカれた部長、天垂(てんすい)翼仙(よくせん)もいるのかと探し回ったが影の形も見当たらずとりあえず二人で放課後探索者道場に通う日々となった中学時代。


 私達は二人とも魔力を鍛える必要性を感じている。いや危機意識といってもいいだろう。とにかく魔力がないと何をするにしてもダメだよね、とそういった情報交換をすればお互い戦(いくさ)封じを着けていたのを確認してまたも笑い合った。ダンジョンに出来るだけ早く侵入すべきといった思考も一緒だったようだ。


 授業も小学から引き続き難易度が高く、前世のアドバンテージは算数・数学程度。歴史や理科はもちろん前世日本とは様変わりし新たに覚え直しだ。国語も一部の漢字程度に見覚えがある程度。さらに魔術・魔法関係の基礎知識に教練という実技も加わり一日八限。休みは日曜日のみ。

 当然ながら厳しい。復習的な物事に加え、精神年齢が周りと倍ほどある私達でさえ難しいのだ。落ちこぼれが出るのは必然。

 だがそんな事は許されない。

 成績不振やサボりには徹底した制裁が課される。教員によるOHANASHIだ。パワハラどころか超絶ブラック企業並の躾である。これも全部、教員という大人は魔力持ちであって、魔力を持たない中学生が何人束になろうとぶちのめせるし、怪我は養護教員などによる回復魔法や回復薬で傷も残らないという超常現象が日常化しているせいだろう。


 反面、教員による理不尽な犯罪行為は小学同様にまかり通ってるしで被害者の保護者が弱ければ泣き寝入りだ。時々ダンジョンで鍛えてお礼参りする強者をニュースで見掛ける事もある。私もレベルを上げたら小学の武術教師にお礼参りしようかなと一時期考えていた。ちなみに復讐やかたき討ちは拍手で誉め称えられるお国柄であるが、貴族が相手だと手のひらを返すダブルスタンダードも標準装備である。ふぁっきゅ。


 まあその辺りはやはり戦(いくさ)封じ持ちである私達とその周囲にはある程度の牽制(親が探索者資格持ちである事などは調べればすぐ分かる登録システムがある)があって、幸いながらあり得ないレベルの理不尽には会う事も無かった。

 宿題をやってこなかった班員の連帯責任で顔面を殴り飛ばされる程度はあったが、これは私やマッキのような実技上位者(武術)に下位者を統率させる時の正当性を持たせる意味もあるようだ。


 サボり連中にてめえのせいで殴られたんだからちゃんとやれと指図できるわけ……いやそれでもやっぱ腹立つわ、なんで他人のせいで殴られなきゃならんのだ。それに指示とか指導教導は教員がしろや。お前らの仕事だろうが。連帯責任とかおクソ。ふぁっきゅ。


 などと、二人でやさぐれた時期もあったが、指導室に呼び出されるような経験はせずに済んだ。まぁ授業中に眠ってしまっても、蹴り飛ばされる程度で痛み自体はそれほどでも無く、教室から物理的に叩き出された衝撃の方が当初は大きかった。自分が悪いよなぁと自省した事もあって目が覚めた後でよし反撃するか、とはならなかったのだ。私は。探索者志望のサルどもは自省する事なく顔真っ赤にして教師にウキャーと飛び掛かってはぶっ飛ばされる事を繰り返す。やっぱりヤツラに脳みそなんて上等な代物は無いに違いない。

 前世日本の平成・令和は本当に平和だったんだなと今更ながら噛み締める塩梅。もう大分薄れてしまって遠い異国のようにしか思えないが。

 まぁそれでも狂気的な小学より中学の方がはるかに秩序があって過ごしやすい。獣畜生も齢重ねれば悪ガキ並の理性は得るという事か……まぁ中学の教員の方が全体的に明らかに暴力(魔力)を威圧的に使ってるからかもしれない。ギャグ漫画みたいに天井に頭めり込ませた生徒とか殴られて窓から校庭に落ちた生徒とか出ない日が無いし。中学の教員は武術教師以外も容赦が無かった。


 それに酷い詰め込み授業なのは中学卒業で成人と見做されるからでもあるだろう。必須科目以外の外国語科目や家庭科他様々な科目が選択授業制になっているが、どれもこれも即戦力とみなせるようにか、選択したあとは、例えば家庭科であれば実際の飲食店や縫製企業などに実習という名目で数か月単位で派遣される徹底ぶりなのだ。


 私達ふたりが選択した授業は『探索教導』。探索者養成校を受験する為には前提条件をクリアする必要があって、これはそのひとつ。学校指定道場はいくつかあるのだが、そちらでの一年以上の稽古期間が無ければ受験する事さえ出来ないのだ。


 これが本当にきつい。

 小学生まではお客様扱いでそこそこどころかかなり手心ありの手加減モードの道場だったと分からされた。戦(いくさ)封じを着けさせられているとはいえ、年上の高校生や大学生はもちろん体が仕上がってる門下生相手との組み手ではほぼ負け確。彼等の多くはすでにダンジョンに入って魔力を持っているからだ。

 容赦無しの鉄拳や木製の武装によって至る所に打撃を喰らわされる。青あざはもちろん骨が折れる事も日常茶飯事。回復薬や回復魔法があったとしてキツイ。

 選択授業開始一ヶ月で女子で残っているのは両手で数える程度となったし、男子も半数近くが止めて別の選択授業・志望へと変わっていった。


 ただ前世と同程度に中学卒業15歳で即就職という人は少ないようで、一般の高校を目指す人は多いようだ。中学も2年になれば探索者養成校志望者はかなり少なくなった。まあ暴力を生業とするには、戦いに自信を持てないと選べないだろう。


『地上に輝く本物の太陽を見たければ探索者を目指せ』


 なんて書かれたポスターなんかも中学では貼ってあったりする。なんとも詐欺みたいな広告だ。まぁ探索者養成校は地上にあるから間違いでは無いんだけど……。過ごすだけなら地上より閉塞感を覚えないほど広大で整理された地下街の方がよっぽど快適だろう。それに帝居大公園のように平民にも解放されてる地上エリアもあるんだし、言うほど特別感があると思わない言葉であるが、どうやら一般的には地上の輝かしい太陽というものは皆の憧憬になってるようだ。連日賑わない事が無いほど地上の公園が人気スポットになってるのだし、朝陽を見れば涙を流す人さえいる。まぁ植物を育てられる地下の魔導灯でも感じ得ない熱を伴った陽の光は、よく考えるととてもありがたいものである。


 魔物が存在し毎日関連する事件報道などもあり、鍛えようと考える子もそれなりに多い。が、それ以上に探索者の道は険しいのだぞと心を折りに来る道場の面々。

 酷く暴力的であるが、実際に探索者となった時に命が掛かる場面で根性を見せれる者でないと務まらない仕事なのは確か。道場での稽古で音《ね》を上げる程度の根性無しに探索者は無理だから辞めろ、命を落とすだけだ。と、そんな訓示が込められる実践稽古。であるが……


「知った事かっつうの。クソセクハラ糸目野郎ッ……つぶして引きちぎってやっからなあああ……」

「おうかましてやれー」


 まあ私達はそんな高尚な事を考えてる相手ばかりでは無いと分かっている。セクハラとか可愛いもので、中にはこちらの道着を狙って半裸にして隙あらば組みついて来て下着の中に手を突っ込んでくる下衆野郎さえいるのだ。

 そんな事が何度も続いた後、道場主に直談判し許可をもぎ取って戦(いくさ)封じを解除しての模擬試合。私達に前科がついての戦(いくさ)封じ装着の場合だったら、こんな許可さえ取れなかっただろうし本当に運が良かった。が、そんな事より試合だ。


 溜まりにたまった鬱憤を晴らすべく、いつも通り鼻の下伸ばして無防備に腕を伸ばして来やがったソイツの薄汚い手を握りつぶすのが初手。

 肉皮に指先を食い込ませ魔力で強化された握力でソイツの骨を砕き折った感触をそのままに手前に寄せ、顔面をぶん殴る。

 当然ながら鼻骨頬骨そこらを砕いた感触があり意識が喪失したようにカクンと倒れ込もうとしやがったので、そいつの股間を膝蹴り強打し叩き起こす。意識が戻れば同箇所に連撃、腹やら胸やら殴り易いところもサンドバッグのように追撃していたらストップが入った。


「おらおらおらおらおらおらおらああああああ!!!」

「やめっ!止めんか!」「意識喪失してるって!!」「うお力強え!?おいお前らも止めるの手伝え!!」

「ああ”あ”!?んの程度回復薬で全快だろが!!まだだ!まだまだ許さん!!!私の怒りボルテージは一ミリも減ってねえぞおおおお!!」


 と、そんな事を羽交い絞めでマッキーや他門下生に止められつつ怒鳴りつけるも一旦中断。2先(最大3戦で2勝した方が勝利)試合なので応急処置後の次の試合(糸目野郎)でも大体同じ展開だ。最初に掴みでは無く殴りに変わった程度の差で対処も変わらずぼこぼこにしてやった。ぺっ。

 コレでめでたくセクハラ下衆野郎を潰せたので個人的にはスッキリ。


 ちなみに治療費などはセクハラ糸目野郎が全額(少額)負担(レベルが高くなると無料の低級回復薬では効果が薄い)で、こっちには道場主と学校の指導員からの注意勧告と反省文提出、外周走10周程度の罰。止めの合図が入ったのに相手を殴り続けたからだそうだ。ふぁっきゅ。

 相手を尊重しようの精神などでは無く、格上(今回であれば審判)の命令に従わなかった事に対しての反省となる。ふぁっきん道徳。


 まあ審判も用意された正式な試合だったし負けた方が悪い、というのがまかり通る世の中なので勝てば大体問題無い。前世だったら絶対逮捕されてるし下手したら死んでたかもしれない程度の怪我を負わせた自覚はあるし、私も普段なら追撃まではしない。多分。今回は怒りを抑えられなかったのだ。


 現世の人間は前世の人間と比べものにならないほど丈夫でしぶとい。低年齢でもそう感じていたが実際に魔力を得たヒト相手だとよりそう感じる。試合などで相対していると、どこを殴っても堅く弾力があり、体表がまるで分厚いタイヤのような感触なのだ。さらに魔力を活用した術式を組まれて、魔力壁とかを作られたりしたら、強化鉄鋼の盾を構えられている感じで、こちらの戦封じを付けて(魔力枯渇状態)の素手だとどうにもならない。

 また回復薬や回復魔法が優れているのは周知の事実だが、だからこそ性別関係無く弱者はなぶられるのを回避する為にも鍛える必要があると私は思うわけだ。が、鍛錬訓練を理由に組手相手の言いなりに成り下がってたまるもんかという話。


「おつかれさんユッキー。男じゃなくても縮み上がる光景だったぜ」

「はん、あの程度で戦闘不能とか情けないったら無いね。探索者してりゃ片足ちぎれても動かなきゃなんないってのにさ」

「でもあいつの顔見たか?めっちゃアヘってたぜ、下半身血で染まってたが臭いがイカく」

「うっせええ!無理!マジで無理!耳が腐り落ちるわ!!」


 ちなみに道場稽古での剣道のような模擬試合は稽古始めの1年間に集中する。だから最初の1年間さえ乗り越えたら、探校受験資格をひとつ満たす事に加えて、まぁ門下生からも学校からも根性ありと認められるようで以後は体力作りが主体となる。

 以後の稽古内容は走って武器を振って跳んで走って武器を振るという繰り返しであり、とにかく体力を付けろという鍛錬に変化した。受けはするな回避をしろと、型もへったくれも無いような一撃離脱闘法だが、対大型魔物用と対小型中型魔物用の二種類の戦闘訓練を学べる。もちろん走行中や武器を振りかぶる瞬間を狙って砂袋がどこからともなく投げつけられたりするのでハードといえばハードだ。気を抜いてたら普通に骨折やら反吐を吐く事になる。


 そんなこんなな生活を送りつつ、幸いながら自身含めて周囲が魔物に襲われる事は終ぞ無かったが、遠方に住む親戚の叔父さん叔母さんが探索者ランクが下がるほどの後遺症が残る重症を負った事件があり見舞いに行ってその傷跡(一般的な回復や浄化では治せない特異汚染が残存し、高位治癒者の都合待ち)に生々しく直面した事で気を引き締める事となった。


 ◇


 探索者養成校の受験資格を満たす為には道場への出稽古の他に、多種多様な武器武装の取り扱い基礎の講義なども受ける必要がある。座学がメインだが、それぞれのメンテナンス方法などを学べてこちらは殊の外興味深かった。

 まあ中学の実技で使う木刀やら木槍やら防具やらの手入れをさせられる所に思うところが無いわけでは無いが、子供の人数も多いし教員だけでは手が回らないのだろう。年に一度くらいは専門の業者が入ってちゃんと手入れするようだしあまり文句も言えない。


 変わったところで言えば、最近のマッキーは射撃場での試射を気に入ったようで機嫌良く銃のカタログを眺めていたりするが、もしかしたら将来的に恩恵《ジョブ》の選択肢に銃関係を入れてるのかもしれない。前世じゃシューティングゲームばっかりしてたイメージあるし。ただ彼女の魔力属性に、回復適正やら金属適正やらある事を色々と実験して確認して来たが、道場では拳脚を主軸にしているしで謎だ。どういう将来像を見据えているのやら。

 個人的には金食い虫の【銃使い(ガンナー)】系は微妙。なのだがこの辺りはお互い協力し合うもんだしって事で探索者装備販売店(ウチ)の方で装備探しの準備でもしとくかと勝手に動いてる。ウチの家業が家業だから装備の担当は私なのだ。魔導銃だったら弾薬費用も大分抑えられる筈だし。まぁ直接聞きもするけどね。


「マッキーってそういや希望恩恵(ジョブ)何なわけ?」

「あん?前言った通り【聖拳士《モンク》】系だぞ。ああ、銃雑誌《コレ》か?これは趣味だ趣味。ホライゾンウォッチ(FPS)みたいなな。まぁ実銃も撃ってみりゃ楽しかったけど。思った所に命中したら気持ち良いし、引き金引いた時の反動も威力も、こう、これぞ暴力!って感じでな!すげえ楽しい。でもまあたぶんオレの魔力属性的に不向きだかんなー機械式のでも弾に込めた魔力が反発して暴発とか洒落になんねえから、銃は趣味止まりだな。魔力属性は生まれ持っての才能《ガチャ》だし、こればっかはしゃーねーわ。残念無念って感じ」

「ふーん……進路は?私は以前と変わらず刀京魔導学園目指してるけど」

「あー……まあ一番無難だよな。探索者資格取る為にゃ探校は絶対通わんと駄目だし……他の探校も似たり寄ったりだしでそれならまだ知識が活用出来そうなそこが第一志望になるよなぁ。生徒数に比例して貴族生徒多いのがちょっとアレだけど逆にチャンスでもあるし……ユッキーこそ将来の展望はどうすんだ?探索者資格取った後の話な」

「探索系企業に就職か起業だけど、とりあえず強くはなっておきたいね。貴族傘下って進路でも強さがあれば何とかなるでしょ、あと個人的には空飛んでみたい」

「そりゃそう。あー、貴族配下になっても気にしない感じ?」

「飼い殺しはされたくないけど、探校で良い縁結べたらって話じゃない?管轄ダンジョン多く持ってる貴族家配下は実際魅力的だし」

「分かる。ゲームみたいに自由にダンジョン潜れそうにないもんな。だが平民に優しい貴族家なんぞSSR(超希少)だぞマジで」

「ソレネー、やっぱメンバー集めての起業が一番丸いのかなぁ。ギルド所属でもいいけど未確認ダンジョンの探索とか行かされたら寿命マッハな気がするし、フリーの配信者はケンカ売られまくるのが面倒そう。軍と競技者は無し。足並み揃えるのなんてもう私には無理だし、女探索者の競技者って裏に行かされそうだから」

「裏て、現実はゲームじゃねえんだからさ」


 分からんぞ?

 それはともかく、探索者、そして探索者養成校。

 天州国の話題の中心と言っていい探索者という職業だが、もちろん専門の学舎も全国に何百校と存在する。在籍者数十人程度という小規模校から数万人という大規模校までピンキリだ。

 ゆくゆくは軍人やら警官やら貴族直属の近衛隊やらを主な就職先に挙げる制度の学校ではあるのだが、とても見覚えのある名前の学校があるのだ。前世の娯楽作品であったホライゾンシリーズに頻出した学校、それが国立刀京魔導学園。


 ホライゾンシリーズの格ゲーでも刀京魔導学園出身という背景持ちのキャラは多くおり、現役生徒だったり教員だったりが登場したし、ネトゲではクエスト発行のNPC《ノンプレイヤーキャラ》などとして出演し、映画やRPGではまさに舞台となった学園が刀京魔導学園だ。

 ただ見つけた時はすでに小学生だったので中学から入学しようと調べてみれば小中高大学までの一貫教育で、初等部中等部の入学条件は貴族や其れに準ずる身分、つまりは上流階級の子息子女のみとなっていた。なんじゃこりゃあ!と憤慨してもどうにもならないわけで、高等部の受験を突破するまでお預けと相成った。

 まあおかげで進学した先の中学でマッキーと再会出来たので結果的に良かったのだが、私達のような前世持ちなら刀京魔導学園を目指すだろうという予想も当然つく。


 それに加えて気になるのが前世に通っていた高校の所在地ともろ被っている事だ。ちなみに自国の形を見れば前世日本の地形と近似している。ユーラシア大陸は見る影も無かったし前世と住んでる住所も違うしで偶然と言えばそれまでだが前世との関連を感じざるを得ない。

 そして前世の部長の住所は高校の隣。現世では刀京魔導学園のバカデカい敷地に完全に吸収されており連絡の取りようが断たれていたのであった。


 原作シリーズの現代ものは大体2000年前後が舞台。私達の入学予定年は202X年と年代がズレているし過去といっても近年だがゲームなどで起こった色々な事件が少数程度だが実際にあったのは確認済み。なので私達は楽観的に過ごしている。なんといっても国が国として機能している現状は、グッドエンドないしトゥルーエンドかハッピーエンドを迎えた世界線という事だから。さんきゅーまだ見ぬ主人公ちゃんくん天州国を救ってくれて。おかげで地下街が水没するとか魔物群の餌箱になるとかのバッドエンドを考えずに済む。


 そして調べた限りで期待が持てる事もある。

 刀京魔導学園のダンジョンについては出現魔物やドロップ情報他、内容を大まかに把握出来ている事。お行儀の良い強さの魔物が浅層には並んでいるから神々の恩寵(レベル)を得やすいだろうし、何よりも自己ステータスを確認出来るという端末型魔導具が支給されるメリットが大きい。

 原作知識がどこまで役立つかという問題はあるが、何も指針が無いよりは遥かにマシだろう。


 刀京魔導学園の高等部入学を目指して勉強はもちろん実技も頑張る中学時代。


「とりまダンジョンに早く潜りたいー」

「分かりみが深い。つうか戦(いくさ)封じ外して道場に通いてぇ」


 家ではお淑やかな言葉使いを心掛けているが、マッキーと二人になると引きずられて前世っぽい口調になってしまう時もある。

 それはさておき、ダンジョン探して二人で周りに内緒で攻略!なんて事をしなかったのは、戦(いくさ)封じの装着問題もあるが、ゲームや映画と同様に貴族や探索者協会が管轄していないダンジョンなどではヤクザマフィア半グレ盗賊野盗連中の根城にされてたり初見殺し的な魔物の巣だったりと命の危険が半端ない事になっている為だ。

 生存率などお察しで運良く序盤のレベル上げに適したダンジョンに入れるなんて楽観的にはなれないし、前科も付きかねない。ゲームでさえ野良ダンジョンは最低15レベルは欲しいくらいで、探校が管理運営するダンジョンでその程度は上げてからでないと逃げる事すら出来ずに人生終了《ゲームオーバー》だろう。

 レベルさえ上がっていれば良いカモに出来ようが現状こちらが美味しくいただかれる側である、売買的にも性的にも食料的にもと三重苦なので絶対遠慮したい。


 父方の祖父母もまた探索者だったのだが当時未発見だったダンジョンに挑んで未帰還者扱い(MIA)となったと聞いた事もあってレベルを上げるのは高校入学から(恐らく)知ってるダンジョンで、と二人で相談済み。

 ニュースにも出たくないしね。毎年のように出るのだ、ダンジョンに入って未帰還者となった未成年者の顔写真がニュースで。仲が良かった級友の言葉や親が嘆く様子の報道なんて見たくないし、させられない。


◇


 戦(いくさ)封じを外して苦痛を感じるまでで5分。

 つまり魔力枯渇状態の0から魔力全快までに5分未満という事。この生成量が多いのか少ないのかは分からないが、魔力量だけに限れば父や母曰く、目を見張る程度に増えているらしい。大らかな二人にしては珍しい反応だったが、頑張りましたと両手を掲げれば褒めて貰えたので善しとする。この世界、鑑定系の便利な技能や魔法もある筈だが、民間にある簡易鑑定魔導具では細かな数値はおろか魔力属性すら分からず微妙に不便なのだ。


 魔力器は絶対に大きくなっているとして、魔力生成量も比例して増えているのだろう。

 ふっふっふっと謎笑いをしていれば、妹ちゃんが寄って来た。

 彼女はよく分かっていないようで机の上のプリンを所望されたがコレは私のだからあげな……仕方が無いなぁと上目遣いに免じて進呈。母によく似た妹のピンク髪をさらさらと撫でつけてほっぺをぷにぷにして膝に乗せてほっこり。体重増えたようで重くなったなぁと感慨深げに呟けば顎に頭突きを貰った。痛い。まさかもうレディな自覚が芽生えているとは。母よ笑い所では無いぞ。


 ダンジョンに正式に潜れるようになるのは、貴族関係の例外を除いて成人とされる15歳から。探索者養成校の合格と共に天州国の退魔省とギルドの双方から探索者資格が認定されるのでそこからがスタートとなる。

 スタートダッシュを掛けて稼ぐとしても三十年そこらで引退というのが一般的探索者業界だ。戦力値が上がると全盛期が長くなる事もあり50歳前後で道場を開いたり、貯めた資金で開業したり、警備員に雇われたり、ダンジョンの資材採取採掘に転向したりといったのが一般的な探索者で、成功者とされるエリート探索者は現役中に貴族の近衛隊に入隊する事と言われている。

 この例でいえばウチの両親は物凄く早く引退したわけだが、今も探索者資格を更新しているので現役でもある。ふたりは探索者としての成長限界が見えたのですっぱりと諦めて、今は亡き祖父母や知り合いの支援もあって商店を開く決断をしたとか。


 その辺り、将来を具体的にどうしようか悩めどもマッキーと班《PT》を組むのは既定路線で、起業するか探索業企業に就職するか貴族の配下目指すかは臨機応変かつ柔軟に対応していこうと相談済み。もうすでに運命共同体と言ってもいいだろう。

 まぁ夢破れても父さんからウチで店員していく道もあると保険のような話もある。危険も無いしと物凄くプッシュされたが最終的に引き下がってくれた。回復魔法や安価な治療薬のおかげで前世とは比べ物にならない程の傷害を叩き込まれる道場に長年通い続け血反吐吐きながら努力して来てやっとこ刀京魔導学園に入学できるのであるから、まぁ、うん、揉めないで良かった。父といえど私の拳がうなるところだった。


 ただ貴族とはよっぽど良い人格者だと確信持てるまで関わりたくは無い。

 傘下になるだけならともかく、近衛や直臣を目指すなら、人格者且つ同性じゃないと危険過ぎると相談済み。ホライゾンシリーズに毒され過ぎかもしれないが、現世のニュースを見る限り貴族の配下がエリートコースとはとても思えないのだ。身分差というものが前世日本じゃ考えられないくらいに厳然と存在するのがこの天州国。


 例えばテレビで報道された火奈革地域で発生した強姦事件。はじめは被害者が一般人で加害者が謎だったのだが途中でその女性の関係者が「殺傷権をひけらかされたらしくてー」と発言した途端に流れが変わる。殺傷権とは簡単にまとめると貴族が持つ権利で、民間人を害しても罪に問われないというものだ。

 加害者に貴族の可能性が出た途端に報道が別のニュースへと切り替わったなんて事が時々ある。貴族に対して批判的な報道なんて滅多に無い。あってもすぐに別の番組や録画放送へと切り替わるのだ。


 婦女暴行という反吐が出る内容だが貴族が関わる報道は半年に1回はある。酷い時は、同じ犯人による事件で一週間で五件なんて報道もあった。どんだけ性欲まみれの猿なんだという話だ。ちょん切ってしまえばいいのにと口から漏れて父は半笑いに、母と妹からは肯きが返された。

 続報では加害者である貴族は当たり前のように名前は伏せられむしろ擁護するような内容に変化。さらには被害者の戦力値が低いといった自己防衛力を高めなかった事への怠惰さなどが槍玉に挙げられたりして、批判が貴族に向かわず、当然ながら警察機構に捕まる事も無い。むしろ優秀な子供を授かるのだから謝礼をしなければならないのではって頭イカれてるとしか思えないコメントを笑顔でのたまう輩さえいる。


 私が憤っていたら親から簡単に現世ならではの性事情を説明して貰えた。


 戦力値が近ければ妊娠し易くなり、逆に戦力値に差があり女性側が上の場合は望まない限り妊娠する事も無いらしい。体内の魔力が異物判定すれば受精したとて無意識的に排除するからだそうだ。これで妊娠したのなら、立て続けに事件を起こしたこの貴族はお察しの出来損ないだと自ら喧伝する事になる。なんせ探索者でも無い一般人を襲っているのだ。ネットではすでに下手人の特定もされてるようだが、相手が貴族とあってオモチャ扱いはおろか嘲笑の的にもなっていない現状にはもやもやとする。まぁ批判的なコメントは削除されたか、警告でもされてるんだろう。貴族の情報を検索しようするだけでデデンと警告のポップアップが表示されるほどの監視社会だし。

 ちなみに貴族が相手でも実際に生まれてくる子供が血筋的に戦力値が伸びやすい優秀な子になるという話は眉唾物だとか。


 このニュースで被害者が受けた苦痛に対して賠償させるべきだとプンプンとお茶の間で憤っていたら、「家の中だからいいけど外で貴族批判なんてしないように」と注意された。ブーブーとぶー垂れるそんなやり取りを親としていたらテレビから


「――二十年くらい前はこういった貴族に天誅を下す義賊が出没していましたが今はどうしているのでしょうね」


 という新顔のコメンテーターの発言がお茶の間に響いた。『貴族に天誅を』というくだりでウチのお茶の間どころか番組陣さえ凍った気がする。「もう番組に呼ばれないかもねこのコメンテーター」という父の声が響いた。世知辛い大人の事情というやつだろう。とかく貴族批判には敏感な世の中である。


 その翌日、「義賊ってホライゾンシリーズのゲームにいたよねえ」とマッキーと駄弁りのネタに。貴族の威光も地下の中学にまでは届いていないのだ。

 「いたこたぁいたが、そんなもんどこの世界でもいそうなもんだろ。ロビンフッドとか石川五右衛門とか」と一蹴された。ホライゾンシリーズの義賊が生きていてハッピーエンドを迎えていたら退魔省の大臣になっている筈。だが今の退魔大臣は聞いた事も無い見知らぬおじさんなので、過去に存在していたとしてもこの現世では生存ルートに入って無かったようだ。無念。



 監視社会でもあり秩序がある程度保たれているといっても、前世日本と比べると確実に治安が悪いのがこの国。一人歩きなんて夢のまた夢。そんな事は絶対に駄目と口酸っぱく言われる程度に治安が悪い。特に夜に出掛けなければならないとなったら大通りや貴族区画近辺が精々。夜だと複数人でも危険だし、その危険性に男女の性別など些細な差である。まぁそれもこれも探索者資格を得ればお咎め無しだし、得るまで我慢といったところ。


 弱い者が食い物にされるのは世の常なのだ。それに男女の差は確かにあるが、危険性でいえば性差よりも魔力格差の方が顕著だ。

 中学3年時の春、同級生且つ私達と同様に戦封じの首輪をしていた男子が孕まされたらしく原級留置、つまり留年した。当然ながら大騒ぎになった。魔道具で男でも孕ませる事が出来るとその時に初めて知ったのだ。

 男が妊娠した場合、子を取り上げる時は帝王切開一択……回復魔法はあるけどさぁ……。

 相手が貴族だと中絶なんて許されないらしい。つまりは男も十分危険な世界だという事。ちなみに魔導具を使用する場合、男が男に、はもちろん、女が男を孕ませるのも可能な世界なようだ。


「ねえマッキーさー、性別って何なんだろうね」

「んな事言われてもな。つーか寄生卵型魔導具で無理させてるだけあって母体?にも子供にもあんまりよくないようだぞ」

「開発者が異常過ぎるのか、そんな異常が常識みたいに広まってる世の中がアレなのか……」

「魔力高まれば存在進化する世界なんだし身体構造を前世と一緒に考えてっと頭バグるぞ。それに多分兵士の頭数増やす為のアレだろこれ。元は軍事技術からの横流しだって授業の資料集で見た事あるし、たしか後遺症が酷くて動けなくなった兵士を活用しようと、腹に埋め込んだのが始まりだったんだっけか。ほら世界史で習ったろ人類の三大危期、中期の14世紀あたりで開発されたらしいぞ」

「げろげろ……今はもう人の心気にしてたら人類根絶するような時代じゃなかろうに」

「当時の指導者層からしたら便利だったんだろうな。なんか僅かながらでも回復阻害汚染を浄化できたっぽいし……倫理道徳より有用性が上回ったというか、利便性が高いとなかなか手放せなくなるんだよな」


 戦時下、という単語が脳内によぎるが、それを言い始めれば天州国が成立する以前からダンジョンや魔物が存在するこの世界で戦時下でなかった時代など無い。国どころか人類の存続が危ぶまれた時代もあったようだし。この寄生卵型魔導具も元々のモデルは|数千年前に滅んだ文明遺物《ロストテクノロジー》、遺失物(アーティファクト)の一種かもしれない。

 やれやれと肩を竦める。

 私に限ればそも性自認は女でも、男であった精神性はそれほど変わっていないと自覚している。野郎と恋愛とかゲロゲロで、けれど前世で女の子に興奮していたように欲情するかというとそれほどでも無く、性欲が健康欲に変換されてるんじゃないかと疑うほど。


 どうも魔力というものは身体成長の他にも様々な生理現象や感情にも影響を与えるらしいが、個人差が大き過ぎるらしく類例をいくつか学んだ今でも未だによく分からない。そも学者でも何個も派閥が別れているらしいので素人の私ではチンプンカンプンだ。



 中学も卒業まで半年ほどになった今日この頃。外見は成長していくにつれ前世の最後、ホライゾンビーストとやらで設定した容姿に近付いている。

 背丈も150センチまで後少しという所まで伸び、長い紺髪に紫瞳に、スタイルも黄金律を目標にしたせいか胸などもそこそこ育ってきた感がある私より、マッキーの事だ。

 彼女は高い背に比例して胸も急成長しているようでスポーティーな視線を向けられる事も多くなっているようでうんざり度合いが最近とても深い。金髪爆乳美女に設定したらしい。ご愁傷さまである。私を見習うといい。走っても胸筋の躍動を感じる程度の慎ましやかさである。背が低いのは生活する中で不便な事も多いが、鏡を見て気分《テンション》上がるくらいにはナルシストになった自覚はある。

 道場主とか教員とかからは普通にそんな事関係無くぶん殴られるのは変わらないけど。マジで元探索者という輩は戦闘とそれ以外は別の事柄とスッパリ分けてる節があるね。それはそれ、これはこれというヤツだ。ふぁっきゅ。


 ◇


 そうして時は流れ、ついに15歳というこの国での成人を迎えた。で、もうすぐ探校生《高校生》という事で、戦(いくさ)封じの鍵を自身で管理出来るようになったのでこれ幸いとずっと外しっぱなしである。おかげで中学校内でも修行が捗る、捗る。

 妹ちゃんと外出中でも魔力を循環させたりといった修行も可能となった。


「お姉《ねえ》、外でも首輪付けなくていいの?」

「首輪言わない。成人したから戦(いくさ)封じはもう無用の長物となったのだよミスズちゃん」

「ほえー、なんか新鮮。それじゃセイちゃんも外せるようになったのかな。おめでと?あ、そんな事よりマカロン売ってる。ねえお姉《ねえ》お祝いに買って☆」

「逆ぎゃく。普通逆でしょ」

「お祝いされさせてあげる!」」

「よー分からん言葉になってるから。まあいいけどさ別に。お小遣いどうしたのさ。私もそんな持ってるわけじゃないんだよ」

「推しグッズに食われたのー」


 この娘、将来だいじょうぶかな。不安になってくるぞ小学生。後少しで中学生か……姉として非常に心配だ。まあ頭の出来が私と違って良いようで地上の進学校である有名中学に推薦を貰えたみたいだしで心配する方がアレか。通学が大変そうだけど……。自宅からだと護送とかになるんだろうか。私達の探校とは方向が違うしなぁ……。

 とりあえず親にも同じマカロンを買って帰宅。

 ちなみにこの国、探索者関連のグッズは前世のアイドル並に存在する。私はそんな物より筋トレグッズを優先するが、この身体ぜんぜん筋肉付かないんだよね……食べても食べても肉も背もつかない。まぁ毎日道場で血反吐吐いてるし、腹に詰め込んでも道場主からパンチを貰えば全部おじゃんだ。おろろろと尊厳もろとも吐き出してしまうから。ふぁっきゅ。


 ◇


 さらに時は過ぎ、小学と比べれば平穏だった中学を卒業し、マッキーと共に国立刀京魔導学園高等部の合格を勝ち取ったのがついこの前で、本日は入学式である。


「あー……良い天気。入学日和だわ。……やっと、現代モノのホライゾンシリーズ、その舞台かぁ、実際どんな塩梅なんだかねぇ」


 暇になったら聖地でも巡礼するかぁ。朝陽はいつも通り熱はなくとも晴れ晴れと、窓を明けて空気を吸えば爽快の一言。

 そんな時間を堪能していたらスマホへ着信。コール元は……牧野正、マッキーだ。


「おはおっはーどしたよ今日は朝練無しだよー寝ぼけて出掛けてたかー?」

「おっすおっす、いやそりゃ知ってるよ。違って、マジでオレも今よー分からんくなってんだけどさ、とりあえず試してくんね?PCで『ホライゾンビースト』で検索してみてくれ。今すぐに」

「ん?別にいいけど、ちょい待ってねー」


 なんだなんだと、言われるまま自室のPCを起動。

 『ホライゾンビースト』と打ち込み検索すればヒットするのは相変わらずのドキュメンタリー番組や希少な動物紹介や危険な魔物一覧サイトばかり。漫画やゲームや映画などひとっ欠片もヒットしない。そもそも娯楽作品自体が少ない。下へ下へとマウススクロール。


「前調べた時と同じでなーんもヒットせーん。ドキュメンタリーに動物紹介やら危険な魔物一覧やらばっか。マッキーは違うの?」

「マジか。いや今調べてた時は……ちっと下へ下へ画面スクロールしていってくんね?」

「ん、別に言われんでもそうしてっけど……って、げげっ、壊れた?」


 全く関係無い検索結果がブラウザ画面を占める中で、突然ディスプレイが白黒パズルのようにバグったかと思えばタスクバーすら無くなって画面全てが白黒入り混じる砂嵐表示《スノーノイズ》へと変化。


「うぉい!何もしてないのに壊れた!」

「それだ!」

「それだじゃないよふざけんな。あー再起動で直るかこれ、最悪壊れたのディスプレイだけであってくれー」

「ちげーよ!再起動なんかすんな!そこから画面にノイズが走ってさ――」


 電源ランプはついてるし、PC本体もいつも通りで特に変な異音などは聞こえない。

 ただマウスもキーボードも反応しなくなっている状態。

 ボタン同時押しのタスクマネージャ起動すら反応せず、あきらめて強制終了しようとPCの電源ボタンに指をかけた時、白黒画面にざざっと魚影が通り過ぎるようなノイズが走った後に、文字列が表示された。


――観測点:雪小路(ゆきのこうじ)御良《みら》

 深度:1

  霊格印:天幽

 種族:普人種

 恩恵:未定

 人間性:求道者/剛毅

 存在値:1

 戦力値:54

  身体値:2

  魔力値:52

   魔質:【雪】

   魔力器:52

   魔力生成:11

   魔力出力:38

 特記事項:特異因子【介入】付与個体


「――ステータス画面みたいなの表示されたか?」


 そこには私の名前とステータスと思しき詳細が表示されていた。




■■■ ■■■ ■■■

回復薬:

見渡せば種々様々とある肉の器を再生させる事を目的とした薬剤。

もちろん紛い物もあれば、古き呪いを利用したモノから最新の研究成果を反映させた治療薬まで多様だ。

ただそれらの多くは、かつて地上を席巻した旧支配種が創造した道具、今では遺失物と呼ばれるソレの性能に及ばない。

ソレに魔力を注ぐだけで造られる液剤は、魂の情報を参照し肉の器を再生させる。例え肉片が残っておらずとも問題無い。

旧文明の大破壊にて喪失を免れたソレは、まさに福音としてヒトの繁栄を支える一助となり、千年を超えて研究された結果、ヒトはソレの粗悪な模造品を形にするに至った。


戦(いくさ)封じ:

ヒトがヒトを罰する際に使用する道具のひとつ。

霊格神経の存在すら知り得ていないヒトが、魔力を一時的に封じる結果を神々に求めたが故に、夜天の神が気まぐれに手を差し伸べた。

かの神はその造り方を戯れにヒトへと伝えたが、その実態を知らずに使用するヒトの姿を見ればかの神の忍び笑いが聞こえてくるようだ。

『魔力の器に穴を開けるが如し戒具』とヒトは表現するが、実際にしている事は魔力の汲み出し或いは搾り取りである。そしてその転送先は神の酒蔵と聞く。

趣味の悪いかの神は、ヒトがもたらす一滴にも満たない魔力を醸成、或いは混成し酒を造る事を楽しんでいるようだ。

特に珍しい気質のおさな子の魔力を好むと聞く。神からすればヒトはみな幼子であろうが詳しく聞こうとも思わない。

もっとも、世に広まる多くの戦(いくさ)封じは粗雑な模造品であり、魔力制御に長ける存在であれば搾り取られる魔力を留めさせる事も可能だろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。