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第二話

 朝を告げるは教会の音。

 昨日のロイスとの話から一夜明け、リエルは何時も通り起床した。銀色のセミロングの髪を整え、服を整える。

 鏡で一通り自分の姿を見やると、問題ないなと頷く。


『……こう見ると普通な女の子ね』


 腕のブレスレットから、ロイスの声が漏れる。彼女が偽装のために化けたそれを、リエルが身につけているのだ。


「褒め言葉として受け取っておくよ」

『……皮肉よ』


 聞こえてくるロイスの声を無視して、部屋から出る。


「お嬢様おはようございます」


 直後、待っていたメイドたちに頭を深く下げられた。

 おはようと返す。すると、彼女たちはリエルを食堂へ案内を始める。


『一応使用人がいたのね』

「……どうしてだい?」

『身の回りのことは一人でやってたじゃない』


 貴族令嬢といえば、使用人が手伝ってくれるイメージがあるものだ。しかし、リエルにはそんな使用人はついていなかった。


 一応の体裁上、ご主人として扱ってはくれる。簡単な清掃なども行ってくれる。しかし、それだけだ。

 兄や姉のように、手取り足取りとまではいかなかった。


 食堂に入ると、父がチラリとこちらに目をやった。しかし、すぐに興味をなくす。母は逆におはようと伝えてくれる。

 リエルはおはようございますと返すと、自分の食卓へとつく。


 兄は魔法学校に、姉は騎士団に通っているためにいない。いつも二人に近況を尋ねる父は、とても静かだった。


 メイドたちが見張る中、食器の鳴る音だけが響く。朝食をさっさと済ませると、リエルはすぐに席を立つ。


『……本当に期待されてないのね』


 ロイスの言葉には答えない。頭を下げてから廊下へと出ると、そのまま玄関へと向かった。


「それで、ボク以外の犯罪者のことはわかっているのかい?」


 使用人たちに特に声をかけられないまま、リエルは堂々と歩きながら確認する。


『わかってたら昨日話してるわよ』

「だろうね。そんなに期待してなかった」

『……む、そう言われると癪に障るわね。少なくとも、私の兄か姉がついてるわ』


 玄関に辿り着くと、そのままドアを開ける。朝日の眩しさに目を細めながらも、門に向かって歩き始めた。


「……で、その兄や姉は何人いるんだい?」

『わからないわ。お父様には何人も妻がいたから。それに、全員が全員参加してるわけじゃないの』

「まったく、人間に倫理を説く前に、自分の倫理を見つめ直したらどうだい?」

『……ぐうの音も出ないわね』


 門を潜ると、そのまま町へ降りるように歩き始めた。


『どこに向かうの?』

「まずは動ける範囲で歩き回ってみようかと。籠っていたところで、何も始まらないだろ?」

『乗り気じゃない割には、積極的なのね』

「先手を打たれるのが嫌なだけだよ」


 戦いは始まる前から決着はつくと言う。相手の情報を知ってるか知ってないかで、大きな差がつくのはどこの世界も一緒だ。

 一秒遅れただけでも、致命傷になる。……命の取り合いをするのなら尚更である。


 それにできれば試したいことがリエルにあるのだ。


 昨日あのあと、ロイスは参加にあたって一つのギフトと呼ばれる能力をリエルに授けた。この世界での魔法とは異なり、本人の感性に左右されるスキルになるらしい。

 彼女に聞いたところでどのようになるか分からないとのことなので、自分で知っていくしかない。


 これで神の娘を名乗れるのだから恐れ入る。


 再び鳴る教会の鐘に耳を傾け、町の様子を眺める

 買い物する親子。学園に向かう学生。見回りしている兵士。依頼の話をする冒険者。

 平和そのもので、大きな事件はなさそうだ。


「まだ平和そうだね」

『昨日の今日で動き出す人はいないわよ』


 その言葉に、どうだかと肩をすくめた。


「そんなに我慢強かったら、犯罪者になんてなってないさ。しかも目の前に、ニンジンが吊るされてる状態なんだから」

『でも、動き出せば狙われるって分かるはずよね?』

「それがわかってないからバカなことをして前世を棒に振ったんだろ?」


 そのリエルの言葉には、どこか自嘲気味たものが混ざっている。それを悟られないように、表情を隠す。


 ふと、人だかりができているのを目撃する。兵士たちが野次馬たちに近づかないようにと警告していた。

 この町は比較的平和だ。だからこそ、こういった騒ぎはよく目立つ。

 リエルも興味をそそられた一般人を装って近づく。兵士が捜査しているのを、影から見やった。


 見えたのは干からびた死体。血を抜き取られたようなそれは、まるで吸血鬼にやられたかと見間違うほどに惨たらしい。

 服装的には女性ってところだろうか。年齢までは詳しく分からないが、ファッションセンスからして若そうだ。


 早速かと、リエルは眉一つ動かさずに心の中で漏らした。

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