第十六話
翌日、窓の外に見える人の人間が増えた。これはただごとではないと、姉が対応しているのも確認した。
やはりなと思う。あのお婆さんの被害だけでは済んでいないようだ。
どころかだ。行方不明者の数も増えているらしい。メイドたちが噂をしていたのを耳にした。さすがの父も放ってはおけないということで町へと向かっていった。
「まず間違いなく、この町に敵がいるね」
『それで、検討は付いてるの?』
「たぶん騎士団の中にいると思うよ」
予想にはなるが、これはほぼ確信している。
理由は単純。まず初めに、騎士団が来たときから表面化し始めた。そして二つ目、神父が死んだ直後にリエルは襲われていない。
もし最初から町に潜んでいた場合、体力が削れているうちに狙うのが得策だからだ。
「そろそろ動かないといけないかな……」
顎に人差し指を当てて考える。この町で動きにくくなる前に、犯人を特定しておきたい。
相手のテリトリー化が進めば、それだけでも不利である。
「本当はもっとゆっくりしときたかったんだけどね。思ったよりも早く餌がかかってしまったようだ」
『……嬉しくなさそうね』
「そりゃあ嬉しくないさ。お互い殺し合っててくれたほうが楽だったから」
といったところで、結局のところゲームはもうすぐフェーズが移動し始めるころだろう。どっちみち動き始めないといけないとは思っていた。
殺し合いには総じて、一時的な協力関係を結び始める傾向がある。利害の一致というやつだ。
彼女から言わせてみれば、弱点を増やす行為だと思ってしまうのだが、犯罪者でも社会性は捨てられないらしい。
リエルとしてはその組み始めてまだ連携が薄い時に動き出したかった。
「ま、見てられないよね。一般人にも被害が出てるみたいだし」
呟いて、彼女は自室のドアを開ける。
レイが目の前に現れた。肩を飛び上がらせビクつくふりをする。
「なんの御用でしょうか? お嬢様」
相変わらずの冷めた目線。上からの威圧的な態度。本当に形式的に仕事を行っているといった様子だ。
「えっと外が騒がしいので……何があったのかと」
「お嬢様には関係ありません」
「しかし、お父様も出ていったと聞きました。町の中で何が起こったんですか?」
「……数日前から行方不明者が続出しています。その多くが若い兵士や冒険者だそうです」
怯えた表情を見せながら、なるほどと頭の中で整理する。
「それで、あの門にいる人たちは行方不明の家族ですか?」
「あれはまた違います。墓の死体が掘り返されて怒っている人たちですね」
「え? そんなことあったんですか?」
聞き返すがこれ以上喋る気はないようだった。まだ何か用かと尋ねて来る視線に、怯えた表情を見せる。
リエルはそのままゆっくりとドアを閉めて自室に戻る。
『何よ外に出られないじゃない』
ロイスの憤りにまぁまぁと言う。
「相手はボクのことはわかっていないだろうから、そこまで警戒することではないよ」
『でも、時間がないんでしょ?』
「焦ってるのは相手も一緒だよ。情報的アドバンテージがあるのはむしろボクの方だね」
相手が狙っているのは早期決着だ。事件を起こしていき、あぶり出そうとしている。ここから見るだけでも、相手が外から来た人間だと丸わかりだ。
「さてロイス。また蝶になってもらうよ」
『えーまた?』
「まぁまぁ、探ってほしいのは死体をなくした人間たちの身元さ。ボクの予想通りなら、何らかの武芸に精通したものの墓だと思うから」
冒険者、兵士、格闘家、歴戦の戦士。そこらあたりの人間の墓が暴かれていたのなら、大当たりである。
急かすようにブレスレットをせっつくと、彼女はため息を漏らした。窓を開けると、不満気に飛んでいく。
しばらくすると、ロイスはヒラヒラと帰ってくる。ブレスレットに戻ると、大きなため息をついた。
「それでどうだった?」
『あんたの予想通り、師範がいなくなっただの冒険者仲間だだの騒いでいたわ』
「やっぱりね。これで敵のギフトの能力がだいたい読めてきたよ」
続きを期待するような息づかいに、ロイスは椅子に座った。
「死霊使い。またはそれに準ずるもの。狙っているのに武芸者が多いのは、使える駒を増やしているからだね」
『……え、だったらこの騎士団たちがいる場所は?』
「そうだね格好の的だね。でも、多分一番狙いたかった獲物を逃したっぽいから計画を変更したかもね」
サイドテーブルに指を置く。思考を整理するように、机を爪で鳴らした。
『獲物?』
「ホグワット・ハイヤード。戦場の鬼と呼ばれた百戦錬磨の戦士──ボクの父さんさ」
その言葉を口にしながら、リエルは騎士の内情をどうやって探ろうか思考を巡らせる。




