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第十五話

 リエルは今日は自室で魔物の本を広げていた。アンデッドという項目の位置を見つめている。


『何真剣な顔をしてるのよ?』

「調べ物。気になることがあってね」

『……その本はどこから持ってきたのよ?』

「これでもうちは色んな本が書庫にあるんだよ。それに別にこれは珍しい本でも何でもないよ」


 これは魔物好きな奇特な人が作った図鑑である。今では生態系を理解して、討伐するのに役立っている。一般でも売られていてどこでも目にはいる本である。

 使用人に頼んで持ってきてもらった。レイには勉強とだけ伝えている。


「スケルトンは……あった」


 スケルトン──骨の魔物。始めは人の死骸から生まれると思っていたが、魔力が人の恐怖を具現化した姿。そもそも、人が魔物に変わると言った前例はない。


「前例はない……ね」


 曰く魔物と人間の構造は違うという。人間の死んだ細胞に魔力が定着することはないらしい。


『で、何がそんなに引っかかってるのよ』

「いや、あのお婆さんが言ってたことが少しね」

『まさか蘇ったとか言う馬鹿なこと言うんじゃないでしょうね?』

「そのまさかさ」


 総じて老人のボケた行動と捨てられがちだが、それには必ず原因がある。

 例えば不思議な声が聞こえた場合は、動物が入り込んでいる可能性がある。人を見たという場合は、実際に泥棒の被害に遭ってる可能性もある。

 その人間が幻覚持ちと断定されない限りは、嘘と断定はできない。


 ましてや、町中を普通に歩いている人の話だ。何か起きているのは丸分かりだろう。


「墓荒らし? いや、それはないな」


 今この瞬間で墓荒らしをする必要はない。騎士が常駐しているときにしてしまえば、目立つことは分かりきっているからだ。

 参加者ならなおさら行わないだろう。


「違うな。今だからこそ行われたんだ」


 しかし何のため?


 ゆっくり本を閉じる。部屋の中にあるものに近づいた。兄が置いた魔法式が組み込まれた人形である。

 人形の腹を殴りつけた。


『なんだ!? 異変か!?』


 すぐに兄のナハトのビジョンが映し出された。


 思ったとおりとはいえ、兄が妹の部屋を監視してるのはやっぱりキモいなと思う。

 笑顔を作って最大限の妹像を演じる。


「お兄様、ちょっと聞きたいことあるんだけど」

『な、なんだ無事かリエル……異常を感知したから何かあったと思ったぞ』

「異常ってこれ?」


 兄が仕掛けた人形を見せる。彼は明らかに動揺したように視線を揺らしていた。


『な、なんでわかったんだ?』

「あはは、お姉様が来たときに監視してるって言ってたよね? さすがの私も気づくよ」

『こ、これはお前を守るためにだな! 決してやましい思いはないんだ!』


 監視してる時点でやましいも何もないと思うのだが。そこを議論していてはいつまでも進まない。


「お兄様、そんなことより人間の死骸が魔物化した前例があるかどうか教えてくれる?」

『それはないな』

「……絶対?」

『絶対』


 言い切るには何か確信的なことがあるのだろう。


『そもそも、死骸が魔物化するなら土葬ではなく火葬が主流になる。動物の死さえも危機になる』

「……確かに」


 つまるところ、この世界のあり方レベルで否定されているということだ。


『……で、何のために聞いたんだ?』


 その質問にリエルは図鑑を見せる。


「取り敢えず魔物のことについて知っておくのは役に立つかなって」

『ふっ、お前に魔物の知識は必要ない。なぜならこのナハトが守ってやるからな』

「……あーはいはい」


 ナハトが何か言いかけていたが、リエルは椅子に座って黙って読書へと戻っていった。しばらくは心配そうにしていたが、諦めたように彼はため息をつく。


『また何かあったら呼んでくれ。ただ、その人形は特製だから丁重に扱ってもらうと助かる』

「どうせ壊したところでまた仕掛けるでしょ?」

『……ぐ。取り敢えず、授業の続きがあるから離れるぞ。本当に大丈夫か?』

「大丈夫大丈夫」


 まだ心配そうにしていたが、少ししてからビジョンは切れた。


『……あんたよく平気ね』


 通信が切れてからしばらくして、ロイスの呆れたような声が漏れた。


「何が?」

『いや、あんなのに監視されてて』

「あんなのって言っても、世界的大教授だよ。知識は信頼できる。それに新しい魔法もいくつも開発してる」

『……あんたの家ってなんでそんなに優秀なの? ていうかむしろなんでそんな家が地方貴族なんてしてるのよ』


 彼女の言葉にリエルは苦笑を浮かべる。


「父は次男坊だから仕方ないよ。あとボク自身も姉と兄が優秀なのは困ってる」

『あんたも異常よ』

「ボクはただ前世の記憶を持った無能な女の子だよ」


 その言葉にロイスは何も答えなかった。

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