第二章 其の十
ミサのあと、康介たちは広場に出ていた店で適当に昼食をとった。
カミーユが推していただけのことはあって、広場には軽食の類の店が立ち並び、人だかりが出来ている。軽食の店以外にも、子連れの参列者目当てに珍しい玩具などが売られた店も開かれ、広場はカーニバルさながらであった。子供たちは興味津々といった具合で、目を輝かしながら、あちらこちらの店先をうろついていた。
子供たちに引っ張られていた康介は、最早足が棒になって動かず、休憩がたにベンチに腰を下ろした。運動とは縁遠く、へとへとになるのも無理はない。
其の横に、コロナも腰を下ろした。
康介は背を伸ばしついでに、コロナの顔を盗み見た。康介とは対照的に、コロナはまだまだ涼しい顔をしている。体力的には全然問題が無いのだろう。
先の一件以来、コロナは拗ねてしまい、康介が話しかけても口をきかなかった。こうしてベンチに並んで座っているのに、無言のままと云うのは気が重かった。ましてや、広場には大勢の人で賑わっている。華やかさの中にあって、二人の周囲だけが低気圧の中心の如く、重苦しい雰囲気が漂っていた。
何と声を掛ければいいのか困り、話の切り出し方に康介は四苦八苦する。頭の中で、文面をごね回していると、
「あっ」
、と子供たちを見守っていたコロナが小さな声を上げた。
「あれ、カミーユじゃないかしら」
コロナが指し示す方向を見ると、カミーユが息を切らしながら走っていた。
カミーユは血相を変えて駆け寄ってくると、咽喉を詰まらせながら云った。
「皆、サーニャを見なかった」
「いや、見ていない」と康介は首を振った。
カミーユの慌てぶりに何事かと思い、他の姉妹兄弟地も集まってくる。カミーユは他の姉妹たちにも視線で尋ねたが、皆首を振るのみだった。
「拙いわね」
カミーユは苦々しく云った。
大人しい筈のカミーユは珍しく慌てていた。しかも、彼女らしからぬ、鋭い目つきをしながらだ。
「どうしたの?」とコロナが訊くと、カミーユは「此れを見て」と一枚の折り畳まれた紙切れを見せた。
文面は以下の通りであった。
――ターニャが居なくなってから、もう一ヶ月が過ぎています。だけど、手掛かりはありません。エルシールお姉ちゃんが、頑張って捜してくれているのは知っています。だけど、ターニャはきっと心細い思いをしている筈です。だから、私はターニャを捜しに行きたいと思います。また、ターニャの居場所を皆に知らせる良い考えがあります。
だから、きっと、この手紙を読んでいる頃には、皆に一杯の心配を掛けた後だと思います。御免なさい。でも、私には此の方法しか思いつきませんでした。クレスタには私が無理を云って手伝って貰ったので、どうかクレスタのことは叱らないで下さい。
皆に愛を込めて、サーニャ=セレスタ。
其れを読み終えた瞬間、康介は狼狽した。
サーニャとクレスタは、ターニャを捜しに行ったことは明らかだ。
コロナも同様の考えであったようだ。眉を険しくしながら、
「確かに此れは拙いわ。エルシールさんは?」
「まだ、これから知らせに行く」
コロナはもう一度、文面を読み返しながら、「『皆に知らせる良い方法』と云うのが気になるわ。莫迦なことを考えているんじゃないかしら」と舌打ちした。
「カミーユ、貴方はすぐにエルシールさんに知らせて頂戴。康介、私たちは子供たちといったん孤児院に戻って、其の後手分けして捜すわよ。分かった?」
「ああ」
康介は首肯する。
そして、サーニャとクレスタの捜索が始まった。




