77 お嬢様が攻撃される!?
私と同じような経験をしているクレアと、友だちになり仲よくなったものの。
ただ本を読むだけの学園にも少しは前向きに通うようになっていた。
とはいえ、クレアは公爵家のご令嬢だから立場というものがある。
そのため学園内では極力、私に対して近づかないように注意をしている。
あまりよく思われていない私といることで、彼女に危害が及ぶのは避けたほうがいい。私はそう思い、すれ違っても、挨拶することもなく通りすぎる。だけど、クレアは学園が終わると、屋敷へ訪れることもある。
二人で話を弾ませ、楽しい時間を過ごしていた。
これは幻想だ、私が思い描いていたもので、事実はまるで違うものになっている。
「イクミ様、おはようございます」「イクミ様、もっと食べないと大きくなれないですよ」
「イクミ様、このお料理も美味しいですよ」「イクミ様、馬車に乗りますよ」「イクミ様、足元に気をつけてください」
これが朝からのクレアである。
食堂で朝食を食べているけど、公爵家ではどうしているの?
私はもともと少食なの。美味しいのは知ってるよ。
「あの日からというもの、クレアはいつも隣にいる。なぜこうなっている? 屋敷では友だち、学園では、少し距離を置くでよかったんじゃないのだろうか? 私にはこの子が理解できない」
「イクミ様、何言ってるんですか? お友だちなら、いつも一緒でいいではありませんか?」
クレアは私と同じクラス。
であれば、これまでのことを考えれば離れるのが当然。
そういえば、学食のところでもこの子は周りの視線を無視していたよね。
メンタルどうなっているのかしら?
「今日は何にしようか」
私は相変わらず実技はできないため、
学園長の配慮によって、実技の全て免除ということを言い渡された。
ダンジョン以外にも何か裏があるのだろうけど私にとってはありがたい話でしかない。
再び学園長に呼ばれたら、入った瞬間から土下座していたから正直驚いた。
「イクミ様?」
実技の時間は、一人で図書室に通い過ごしているか、借りた本を教室で読んでいたのが当たり前になっていた。
とはいえ、クレアは私を誘ってくるがあの子にはどう説明しても理解してもらえない。鍛えればなんとかなると言われても、怪我をしてしまうことが問題なのに。
「イクミ様!」
「ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてた。どうしたの?」
「今日も図書室ですか? 走るだけでもいいと思います」
手を振って走るような動作をしているが……クレアにはついていけそうにないから無理だよね。
「借りていた本を返さないといけないしね。ちょっと調べたいこともあるから。遅れるから早く行きなさい」
クレアはむう、と声を漏らすように言うと頬を膨らませ、後ろからは「ブハッ」と吹き出すようにアイツが両手で顔を隠して震えていた。
何を見ているのだか……監視されているのはわかるけど、それでいいのか?
図書室はもはや常連であるから、司書からは結構信頼されているのか何も書かなくても借りていいことになっている。
それはそれでどうなのかと思うが……何かあれば学園長が責任を取るらしい。
本を借りて教室へと戻ろうとしていると、見るからにガラの悪い連中が歩いている。
壁に背中をつけて避けていたはずの私を、連中は取り囲む。
「私に何か用ですか?」
「特待生様が、こんなところで授業サボってて良いのか?」
それを言うのなら、お前たちはどうなんだといいたい。
よりにもよって一番面倒なのがいるとは……
「私は特待生というわけでもないのだけど。それより何か御用ですか?」
「ちっ、いちいち気に入らねぇ。この忌み子が」
イミゴ……?
どういう意味なのだろう?
発言の感じからして、あまりよくない言葉なのだろうけど、意味がわからないとさすがにどう返答をすればいいのか困る。
あの試験の日に、よく分からない因縁をつけてきた人よね?
私の前に立ちふさがる二人の後ろには、見覚えのある顔。
顔を覚えづらい私でも、敵意を向けられたのだから名前はともかく顔ぐらいは覚えてしまう。
「用がないのであれば、勉強の邪魔ですので」
「おい、やってやれ」
彼がそういうと、手下らしき男子生徒が手をかざし「ウォーターボール」と、学園の敷地内だというのに私に魔法を使ってきた。
本来禁止されている行為にもかかわらず、頭から大量の水を被せられる。傷つけられるようなものでもなかったが、頭上からの衝撃で私は廊下に倒れ込んでしまう。
私の様子を嘲笑い、手元から落ちた本を蹴り飛ばして、アイツらはいなくなる。
「はあ」
何かしらされるとは思ったけど、こんなことをされるとはね。これならまだいいか……魔法で作り出されたものだから、しばらくすれば元に戻るのだろうけど。それより、私や服よりも、借りた本が濡れてしまったのが問題だ。
「現象によって変わったものだから、きちんと元通りということはなりそうにないわね」
教室へと戻り、濡れた上着を脱いで椅子にかける。頭では分かっていても、これが水ということに変わりはない。
ブラウスもスカートもぐっしょりと濡れて肌に張り付き、少し肌寒い。
とはいえ着替えなんて持ってきていないし、どうしようもない。
椅子を窓際まで移動して、日の当たる場所に座る。上着と本を窓辺に干しながら、教室に置いてあった別の本を読み始める。
魔力が無くなれば自然と消えるらしいけど……一体いつになるのかしら?
だけど、本にできてしまったシワが戻るとは限らない……
前の屋敷で作らせた奴隷たちのお風呂のように、今実在している物を変化させた場合は魔力が無くなると消えるということではなく、変化させるのに魔力を使っているためあのまま残る。
ここで疑問が生まれる。彼は魔力を使って、空中にある水を集めた。
その水は魔力で作り出したか、水蒸気を集めたものなのかどちらなのか? こういう場合、どっちが先に乾くのだろう……
この服はちゃんと綺麗に乾くのだろうか? ルビーにバレなければいいのだけど。
あの本弁償させられたりするのかしら?
学園長が責任を取るということになるが、今回のことを報告する?
私がミスをしたことにする?
どの道、面倒なことに変わりがない。
今は読むものもないし、ぼーっとしているしかないわね。
「なんだ、アイツ頭おかしくなったのか?」
「気持ち悪い……なんなのよ」
「皆様、どうされたのですか?」
「ソルティアーノ様。あの忌み子が、ずぶ濡れのまま窓際に座っているのです」
「通してください」
廊下が騒がしいと思ったら、実技が終わっていたのね。さすがに、教室に戻ってきたら水浸しの人間が平然と本を読んでいれば、騒ぎになるのも無理はない。
「イクミ様!? これはどうしたのですか?」
「ああ、もうそんな時間なのね。こんな格好でごめんね。まだ濡れてるけどしょうがないかな……」
「何かあったのですか? こんなものしかございませんが……」
ハンカチを差し出されたが、この状態だからあまり意味はない。
窓辺に干していた上着を手に取ると、ぽたぽたと水が落ちる。まだ全然乾いていない。
クレアはその上着を受け取り、驚いた表情で私を見ていた。
「いいよ。ありがとう。まあ、今回も私が悪かったことだし、迷惑かけてごめんね」
「何を仰っているのですか? このようなこと……」
上着を返してもらおうと手を伸ばすと、何か大きな布を被せられた。
それに驚き、バタバタとしているとバランスを崩し倒れるところをクレアが支えてくれた。
「クレア。グセナーレ様をどこか別の場所へ。服は後で代わりの物を用意させよう」
「殿下!?」
聞き覚えのある声に、布を引き剥がすとキラキラ美男子が顔を真っ赤にして怒りに満ちた目をしていた。
彼が、上着を着ていないため、改めて布を確認するとどうやら彼の上着だったらしい。
「この服はあなたの? 別にいいよ、ありがとうね。後、二時間もすれば下校だし」
「イクミ様。失礼いたします」
「わっ、ちょっと」
クレアは私を抱きかかえて、走り出す。




