72 お嬢様の優秀な冒険部隊
私の方で対処するにしても、ダンジョンがどういった物かを調べる必要が出てくる。
だからと言って、王都にすらまともに出られない私が、同行の許可が降りるとは到底思えない。
そもそも魔物がいるところに行くってこと自体が無理よね。
「私の方からも、よろしくお願いします。グセナーレ様、彼に力を貸して頂けませんか?」
「今は難しいところですね……」
「せめて一階層だけでいい、頼む。報酬も増やす」
報酬が出るのは有り難いところだけど、決めるのは私ではなくて皆に決めてもらいたい。
なんとなく、結果は見えているけどね。こういうことを容易に決めてしまえば、今後何かがある度に私を利用してくるだろうし。
どう返すのがいいか……あ、そうだ。
「そういうことを言ったのではないのです。現段階として、各地にいる冒険部隊の報告がまだ上がっていないのです。ですので、この街にどれだけの戦力がいるのか把握できていません。それを踏まえて、今この場において決断するのは難しいのです。すみません」
ギルドマスターの様子からして、ダンジョンというのはそれなりに脅威なのだろう。
学園長からも申し出があるみたいだし、これはある意味チャンスなのかもしれない。
「少し質問をしていいですか?」
「ああ、勿論だ」
「今回のことは、学園長からのお願いでもありますよね?」
「ええ、まあ。彼は私の友人でもありますから……それが、なにか関係が?」
「いえいえ、そうではありません。私から一つお願いがあります」
学園長は何やら考え込んでいる。
お願いというのだから、私に対してあれこれと考えているに違いない。
多分どれもこれも見当違いなのは間違いない。
「わかりました。グセナーレ様のお願いであれば、私も致し方ありません」
「ありがとうございます、学園長。私の提案は、ダンジョンを探索するその代価として、私を退学にしてください」
「無理です!!」
即答がすぎる。
考えることもなく一瞬で却下されちゃったよ。
「だったら、Eク……」
「無理です!!」
最後まで言わせて……
「いいですか? 出来の悪い生徒が、あのような場所にいていいはずがありません。他の生徒が到底納得できるものではありませんし、あまりにもおかしいのですよ。クラスメイトの皆様は大変優秀で、誰もが認める存在です。では、私はどうでしょう?」
「しかし、それは……」
私は手を叩き視線をこちらへと戻させる。
何でかわからないが、二人共表情が引き攣っているようにも思える。
「私はこれと言って何の才もない人間です。それなのに、今はAクラスの一員です。これに納得する生徒が本当にいるとお思いでしょうか? 私が落ちこぼれのクラスに転落すれば、丸く収まるとは思いませんか?」
学園長の顔色がどんどんと悪くなっている。
え、えぇっと。私そんなにおかしなことを言っているのかな?
「今のは仮の話です。もし私の意向を汲み取っていただけるのなら、私は全力を出す……かもしれません」
私がダンジョン探索の許可を出せば、危険だろうともあの狂人たちは全力で突き進みそうね。
あれだけ無茶をやってきたにも拘らず、未だに死亡者がいない。そこは救いだけど、今回ばかりはそうとも言ってられないわよね。
こんなことのために皆を利用していると分かれば、皆は怒るかもしれないけど……私だって好き好んで無視されたいわけじゃないよ。
「私にグセナーレ様の、クラスを変えろと?」
「誰も損のない話。そうは思いませんか?」
実力のない私にはあのクラスはどうなのかと毎日思っていた。
実技の授業時間は、一人残って教室で自習。最近では、図書室で借りた本をただ読むだけの毎日。何処のクラスに行っても同じだとは思うけど、問題が起きる前に対処をしておきたい。
「グセナーレ嬢。俺からも頼む。俺にできることがあれば、何でも言ってほしい。このとおりだ」
学園長はなにかに怯えるように震えているし、ギルドマスターも深く頭を下げている。
このまま話を進めるのは無理みたいね。何がだめだったんだろう?
「わかりました。ダンジョンの件については一度持ち帰ります。私の言ったこともなしで構いません」
「本当によろしいのですか? 私はグセナーレ様のご期待にそえられないのですよ?」
「先ほどのは、私の我儘です。ダンジョンの件は、話がまとまり次第ギルドに向かわせます。ですが、期待に応えられる結果が得られる保証はないので、過度な期待はしないでください」
「それで十分だ。感謝する」
私は用意されていた紅茶を飲み干し、学園長の部屋を出た。
少し歩いて大きなため息を漏らす。
「退学はダメだったか……」
「どうかされましたか?」
声の先にはさっきここに案内をしてくれた、公爵家のご令嬢が立っていた。
なんでまだここにいるのだろう?
「いえ、少々込み入った話だったので、考えていただけです。それよりも、もしかして待っておられたのですか?」
「はい。グセナーレ様は、この学園のことは詳しくないようでしたので、教室の方までご案内しますね」
「ありがとうございます」
教室に向かうまでの間、彼女は私のことをよく聞いてくる。
どこにいたとか、普段は何をしているとか、そんな当たり障りのない会話をしている。
私が言葉を濁しても、『気にしないでください』と、サラリとかわしている。
「着きましたね」
「ありがとうございます。本当に申し訳ないのですが、もう一度お名前を伺っても構いませんか?」
「はい。クレアローズ・ソルティアーノです」
数日後、遠征から戻ってきたバナンたちに、ダンジョン攻略を進めるように告げた。
多くの冒険部隊は、最近暇を持て余していたのか、やる気になっているのはいいことだと思う……というかね、殲滅だの駆逐だの、物騒なことを言うのはどうなのかしら?
それにしても、彼女は一体何なんだろう?
確か……確か……公爵家のご令嬢。




