54 お嬢様は慕われている?
「お嬢様。お久しぶりにございます」
「再びこうして、お目にかかれて光栄です」
「皆ごめんね、忙しいのにお邪魔して」
「とんでもございません、お嬢様にお仕えするのが私たちの役目。お嬢様もご健勝で何よりでございます」
あまり顔を合わせていないのに、皆元気そうでよかった。
でも、もう少し周りの目も気にしてくれないかな?
すごい目立っているからね?
「来てくださるのなら、先にお声をかけていただければよろしいのに。こんなむさ苦しい連中、全部叩き出してやりたいぐらいですよ」
周囲にいるお客さんに向かって、何を言っているの?
「私が思いつきで来ただけだし、お店が移転していたなんて聞いてもいなかったのよ」
まあ、トパーズから逃げたかったのもあるけど……
「あと、このテーブルは?」
「ここはお嬢様専用ですから。いつお越しいただいてもいいようにしております」
私専用って、そこまでこの店に貢献はしていないとは思うのだけど。
むしろ皆を雇ってもらって助かっているぐらいだし。
なんだか、女将さんも私に対しておかしくなっていない? もしかして、料理部の人たちがなにか吹き込んでいる?
「そ、そうなんだ。ありがとう」
仕事のこともあるから、早々に注文を済ませて待つことにした。
「おい、ありゃまずくねぇか?」
「グルドラの連中はもうおしまいだな」
「まあ、ここじゃないところで頑張ればいいさ」
「どうすんだよ。ここは最近見つかったダンジョンに近いんだぞ?」
「もしお前が出禁になっても、俺たちには関係がないからな」
「ま、待ってくれ。おい、なんだよ、仲間じゃないのか」
ええー、そこまで言うことなの?
なんだか申しわけないのだけど、私も挑発しちゃったし……
最近見つかったダンジョン? そんな報告あったかな?
以前に比べて冒険者の数は多い。バナンはダンジョンは無視をしているのかな?
「女将さん。あの人を許してあげて。もし、謝罪があるのなら受け入れるから。それで穏便に済ませてもらえない?」
「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら……私はかまいませんが」
「それでどういたしますか?」
威勢が無くなった大男は、私の前に土下座をしていた。
そこまでしなくていいのだけど……これって、もう立ってもいいよって言えない流れ?
「すまなかった。このとおりだ」
「あなたの謝罪を受け入れます。以後どんな相手だろうと、絡まないことを約束してください」
「分かった」
「私の方こそごめんなさい。皆様、騒がせてしまい申し訳ございません。一杯奢らせていただきたく思います」
昼間っから酒を飲んでいるんだろうし、これでチャラでいいと思う。
漫画でもこういったのはあるし……あれ、反応がないのだけど?
「はぁ、かしこまりました。お嬢様」
女将さんはグルドラに近づき耳元で何かを言うと、ガタガタと震えだし始めた。
ちょっと一体何を言ったのよ、聞きたくても聞けないじゃない。
「この御方はイクミ・グセナーレ様。知らない奴はよーく覚えておくんだね」
こわっ。ここにいる全員が私を見ている。なんなのこれ……
私何もしてないよー、私だけ悪者扱いになっていない?
「それと、今日は好きなだけ飲んでいきな、お嬢様に免じて私がおごってやるよ」
そんなことを言っていいのかしら?
揉め事の発端は私だし……これはこれでなにか恩返しを考えないといけないわね。
「お前たち、どうしたんだい? 誰も注文はしなくていいのかい?」
その言葉に歓喜の声を上げ喧騒は戻り、グルドラは泣きながら酒を飲んでいた。
何を吹き込まれたのかわからないけど……大事にはなっていないかな?
「あまり長居をするのも悪いから、皆を呼んできてもらえるかしら?」
「かしこまりました、連れてきますので失礼します」
奥から、ぞろぞろと現れた私の奴隷たち。
「イクミ様」
「お嬢様」
「みんな元気そうで何よりだよ」
一人ひとり、握手を交わし労いの言葉をかけていく。
「ああ、この手は一生洗えないです」
「料理を作るのだから、ちゃんと洗いなさい。ね?」
「はい、お嬢様」
みんな元気で本当によかった。
放ったらかしの主人だけど、名札を大事にしてくれるのが少し嬉しいよ。
少ししか見ていなかったけど、チロは私より年下なはず。
こうして向き合うのも、いつ以来かしらね。私が少しだけ見上げないと目が合わない。
というよりも、私が成長していない?
「これは一体何の騒ぎですか?」
まあ、かなり騒がしいのはわかるけど……あの人は確か?
「受付の、お姉さん?」
机を叩いていたのが印象的で思い出した。
「お嬢さんは……もしかして、また余計なこと始めるつもりなんですか?」
「余計なこと?」
「いいですか? バナンさんを使ってダンジョン攻略は絶対にやめてくださいよ。最近ようやく冒険者の方が増え始めているのですから。いいですね、絶対ですよ?」
バナンが依頼を総取りしていたから冒険者が減ったのだっけ。
ダンジョンの話が上がってこなかったのは、バナンも煩く言われていたのかしら?
今は遠征と周辺の魔物の素材集めで、成り立っているから大目に見ていたのかもしれないわね。
「バナンっていやー、数多くの奴隷を使ってSランクになったっていう」
「あの嬢がバナンの主か?」
「俺も前に聞いたことがある、なんでもバナンは数年前に奴隷だったって話だ」
そう言えば、ランクがどうのって報告があったわね。
バナンたちはこれと言って変わった様子もなかったし……そもそも、Aの次がSってどういう意味なのかしら?
「へー、この街ではバナンは有名なのね」
「当たり前ですよ。この街始まって以来のSランク冒険者なんですから。まさか私の担当から、冒険者最高峰が誕生するなんて思いもよりませんでした」
最高峰。Sって一番上なんだ……え? でも、バナンだよ?
あのバナンが冒険者の最高峰?
普段見ている私からは想像もできないのよね。
私から見れば普通のおっさんだよ?
「そうなんですか、よかったですね」
「そうですね。話だけだといいですよね? 私がどれだけ苦労していたか分かりますか? 来る日も来る日も増え続ける素材の山に埋もれる毎日」
ああ……この感じ懐かしい。
「久しぶりだな。その節は、世話になった」
「ルキアさんじゃないですか。最近見かけないと思ってはいたのですが。今はどうされているのですか?」
「イクミ殿の護衛として仕えている」
「お嬢様の護衛?」
意外というべきか、ルキアに対し普通に話しかけている。
今思えばバナンの登録から一度もギルドに行ったことなかったわね。
私が冒険者ギルドに用事もないし当たり前といえば当たり前か。
「お嬢様。よろしければこちらをどうぞ」
「ありがとう。えっと、ミルファ。いただくわ」
オレンジジュースかな? 結構美味しいかも。
「美味しいよ。それに氷も入っているし冷たくて丁度いいね」
「お嬢様が、私の絞ったジュースを飲んでくださって……はぅ。お、おいちいですか?」
もしかして、お前もか?
トパーズ……お前のせいなのか? トパーズがどこでも、私に対して子供扱いしてくるから皆に伝染しているんじゃ。
「え……ちょっと大丈夫?」
今日は色々と波乱の一日だった気がする。
皆から慕われているのは悪い気がしないけど。




