39 お嬢様とエルフの子供
魔法を使おうにも、魔封じ首輪がその魔力に反応し中心にある宝玉が光り魔法を妨害するらしい。
それさえ無くなれば、彼女にとって唯一の好機。
だけど、彼女の力では何重にも巻かれた縄を引きちぎることができない。
「あのね、私を人質に取ろうものならそれはかえって逆効果になるかもしれないよ。こちらは迷わず子供を人質に取るでしょ? そもそも、私の奴隷たちは何をしでかすかわからないよ? たとえば、村を探し根絶やしにするとか?」
「そのような戯言を……ッ」
そんなことになるわけない。
だいたい村が分かれば、こんな面倒な人とさっさとおさらばしたい。
「そうですね。もし、もしもです。お嬢様がお前程度に殺されたのでしたら。私はこの世界にいる全ての、エルフを消滅させるだけです。もちろん、そのためなら手段は問いません」
ルビーさん、ほんとどうしたの?
今更だけど……本当に今更だけど。
バナンの言う通り、エルフに関わるのはやめたほうがよかったのかもしれない。
この人を買ったことを後悔している。
かと、言って子供だけだと……あの子たちがどう思うか。
そういえば、親父さんがなにか言っていたっけ。
「お嬢が殺されたりしたら……か。姉御の言うように、エルフを見たら殺せ、になるかもしれん」
え? ルビーならわからなくないけど、何ゆえバナンまで?
「ええ……とまあ、ここには私のこととなると頭のおかしいのが多いからね。まあ、冗談だから安心してね」
「イクミ様。私は本気ですよ、こいつは、イクミ様を馬鹿にした。殴りたくてウズウズしてますから」
この三人の気迫に、彼女は一体どこまで耐えられるのだろう? ルビーは別格だけど。
それにしても、この三者三様の言うことが怖い。
私ってなんでそんなに愛されているの?
慕ってくれるのはよいのだけど、さすがに行き過ぎてないの? 流れに任せた冗談なんだよね?
そうだといいのだけど……彼女は、ルビーから突き刺さる視線から逃げられないようだし。
「あ、あの。それよりもいい加減、名前を教えてくれない?」
「だんまりのようですね。イクミ様、私に考えがあります。よろしいですか?」
「うん、いいわよ。手荒な真似はしないようにね」
「はい。もちろんです」
クロは子供たちの前に座るが、皆怯えていて肩を寄せ合っている。
その様子だと、それなりに怖い目に遭わされたのか……
何をするつもりかはわからないけど、いざとなれば大声で言えばクロも止まると思う。
なにかの策があるかもしれないから今は任せてもいいかな。
私はルビーを少しでも正気に戻らせないと。
「ねえ、村に帰りたい?」
「え?」
「あのね……イクミ様はあなたたちを村に帰してあげると言っている、偉大でお優しい御方なの。そのような御方が、わざわざあなたたちを守るために、奴隷商人から解放した」
かなり話を盛っているけど、エルフの子供はクロの言うことに少し困惑しているように見える。
私だってそんな言い方をされると不審でしかないわよ?
「つまり、助かったんだよ。そう、イクミ様のおかげで!」
「本当に? 痛いことしない?」
「イクミ様がそのようなことするはずないでしょう。イクミ様の心の広さと、温かい慈悲溢れる姿を見ても……」
「クロ、いい加減にして。まったく」
私はクロの頭を軽く叩き、意味のわからない熱弁を止めさせた。
まったく、子供たちが戸惑っていることに気が付かないのかしらね。
このままだと話は進みそうにないし、三人からすればこの人は邪魔な存在になる。
「たとえばだけどね、バナン。この人だけもう面倒だからこのまま解放する? 子供たちの村は、皆の力を使って探すか……」
「私は反対です」
「どう使おうと勝手だがよ。やるって決めたんなら筋は通すもんだろ。さっきのこともあるんだし、他のものにも示しがつかなくなるぜ」
それもそうよね。
使ったお金は、この子たちのためというより、私のためになったのは間違いない。
だからといって投げ出すのも、気に入らない。
「はい。ごめんなさい。もう言いません。……ということになったけど、あなたの提案は変わらない?」
私のお腹がくぅっと小さく音を鳴らしている。
エルフの子供たちからも先ほどから何度も聞こえている。夕食の匂いに誘われているのだろう。
私がいると皆そのまま食べないだろうから、子供たちを優先させますか。
「あのエルフのことはとりあえずいいわ。クロ、子供たちの枷を外してあげて。さすがに魔法を使われると面倒だから首輪はそのままで。私もお腹空いたし、皆ご飯にしましょ」
バナンとクロに連れられて、広場の方へと子供たちを連れて行った。
彼女の舌打ちに気づいた、クロがキッと睨みつけている。
その程度のことを一々気にする必要ないのに。
それから、子供たちには二人ほど付き添わせ、ある程度自由にしたのだが……冒険部隊の皆は子供が好きなのだろうか?
私には恐れ多くて構えないから、その分を子供たちに……?
ここにいる全員、実はただの子供好きなのでは……私は首を何度も振って、余計な想像を振り払う。
とにかく、打ち解けてくれるのなら別にいいか。
目的を忘れていないとよいのだけどね。先に、逸脱したのは私かぁ……
「おい、私はなぜここにいる」
「なんでって、そこにいれば子供たちが無事なのがわかるでしょ?」
一人だけ離れたところだと可哀想なので、わざわざこっちに連れてきたのに、この言われようにも慣れつつある。
というよりも、面倒なので諦めたという方が合ってるかな?
「あの子たちだって、あんなに楽しそうにご飯食べてるじゃない。あなたも早く食べなさいよ。毒なんて入ってないんだし」
「お前たち人間族が言うことなんて誰が信用するか」
「美味しいシチューなのにね」
私は、持っていたスプーンで彼女に用意されたシチューを掬い口に入れる。
いつもながら美味しいわね。
「ほら、大丈夫でしょ?」
「お前が口にしたものを私に食べろというのか」
いや、本当に面倒くさい。
どの道食べてもらわないとこれから先、倒れられても困るのは私たちなんだよね。
どうすればよいのやら。
「いらないの? 美味しいよ?」
「人間の施しなどいらん」
面倒くさい。
本当に面倒くさい。エルフってこういう連中なの?
気絶してくれたほうが楽だと思い始めたよ。
「もう本当にうるさいな。ルビー、バナン、クロ。なかなか片付かないし、無理やりにでも食べさせてあげて」
「かしこまりました」
バナンは彼女を羽交い締めにし、クロが強引に口を開け、ルビーが嫌そうな顔をしつつスプーンを口に運ぶ。
その後は思っていたとおり早かった。
空腹だった彼女は、一口目を吐き出そうとした。
だけど、その旨さに我を忘れルビーからスプーンを奪いものすごい勢いで食べ始めたのだ。




