13 お嬢様は街に行く
モンスター、ゲームやアニメではよくある話に登場する生き物。この世界では魔物と呼ぶべきか。
人々を襲い、場合によっては村が壊滅することもある。
そんなのがいる世界だし、冒険者がいないとたちまち人が住めなくなる。
街の治安維持の役割も担っているのだから、冒険者たちは保護されているのだろう。
しかし、罰金というのも少し厄介だな……
「護衛の対象がそれなりの商人。もしくは重要な品物の破損や損失。それだと膨大な金額をギルドが負担できるはずがない。バナンは借金奴隷だから、護衛対象が暗殺でもされたのかしら?」
依頼を受けた段階で契約が成立したとなれば、契約の重さから逆算すればこの辺りが妥当な線だと思う。
ありえそうなことを言っているのだが、バナンは驚いた表情を見せていた。
「お嬢、あんた本当はいくつなんだ?」
「ピッチピチの十歳」
スカートの裾の少し手前を軽く掴み、左足を下げ、首の角度を少しだけ右へ傾ける。
満面の笑みを浮かべ可愛さをアピールする。
しかし、俺のとった行動は、バナンだけではなく周りにいた奴隷たちを凍りつかせていた。
彼らはきっと突然の行動に戸惑っているだけ……そう思いたいというか……おぅ、沈黙が辛い。
「かわいい」
「「「え!?」」」
まさかのルビーの発言に、そこにいた誰もが驚きの声を上げていた。
俺もその一人なのだが……俺が可愛さをアピールすれば周囲を凍りつかせるのに、ルビーが「可愛い」と言うほうが破壊力があるってどうなんだろう?
「なにか?」
ルビーの鋭い視線が奴隷たちを捉え、全員がびしっと姿勢を正している。
統率力に関してはルビーが適任かもしれないな。
「え、お、おう。お嬢は可愛いよな、な?」
「あ、ああ。うん、そうだよな。は、ははは」
「そうだよ、よく見りゃかわいいよな。ははっははは」
バナンの硬い言葉は、隣にいた者、そのまた隣へ伝染している。
何だよその乾いた笑いは……もう止めてくれよ。
誤魔化すためとはいえ、やるんじゃなかった。
近くの街なので歩いていくのかと思ったら、俺だけ馬車に乗せられルビーが御者をしている。ただ、馬車というものはかなり揺れる。
窓の外を見ると、当然アスファルトのような道ではない。これなら揺れて当然か……他の奴隷は左右に分かれて歩いている。
なんというか、俺だけ高待遇でいいのだろうか?
お嬢様と呼ばれているから、こういうものなんだろうけど。
中に招こうものなら、ルビーに怒られ奴隷たちの拒絶反応も大きいだろう。
「少しは慣れたけど、当たり前と思うにはまだまだ先のようだな」
窓の外を眺めていると、城壁のような立派なものじゃないが、俺のいる屋敷より大きな壁が見えてきた。
街の規模は思っていた以上に大きく、壁よりも高い建物の屋根がちらほらある。
あの街にどれだけの人が暮らしているのだろう。
どんな生活をしているのか、調査する必要もあるな。
「この辺りの街は、どれもあれぐらい大きいのかしら?」
「お嬢、危ないですぜ。その話はついてからにしましょうや」
正論だな。窓から身を乗り出して話すには、この揺れは危なすぎる。
おとなしく街に着くまで、窓の外から見える風景を眺めつつ、尻の痛みから、クッションが欲しいという思いが頭から離れなかった。
「ここが、プルートの街でございます。お疲れでしたらどこか休めるところを探しますが」
軽く酔ったのと、硬い座席で少し痛みが残る尻を撫でていたことで、余計な心配をさせてしまったな。
だけど、次からもこの馬車に乗るのなら、何かしらクッションの代わりになるものを用意していたほうがいいな。
そこで思いつくのが枕というのも情けないが、何もないよりかよっぽどいい。
それにしても、今来たばかりで帰りにも乗ることを考えると気が重くなる。
「大丈夫。ギルドは中央広場の近くだっけ?」
俺だけキョロキョロと、あちらこちらを眺めているせいか、皆が足を止め、俺が動くと当然のようについてくる。
ルビーからも何も指摘されないので、俺の好きにさせてもらおう。
「なあ、あれは注意しなくてもいいのか?」
「構いません。お嬢様はあなたが思っている以上に聡明ですから。ああやって楽しんでいるように見えて、頭の中では想像もつかないようなことを考えていらっしゃるのですよ」
「そうだな」
ひとしきり街をぶらついてみたが、それほど活気のある街ではなかった。
途中、荷物を落とした奴隷が、主人らしき男に棒で打たれている場面にも出くわした。周りの誰も、それを気に留める様子はなかった。
街の人たちの服装は、バナンたちに用意した服とさほど変わらない。俺のように着飾った人が逆に珍しいみたいだな。
貴族の娘というわけでもないのに、こんな格好をしているせいか、街の人たちの行動や視線からは、距離を置かれているのを感じる。
色々と課題もあるようだな。正直なところ、今のような姿よりも街にいる人たちの服装が俺には似合っている。
二人の侍女がそれを許してくれるとは思えないが。
「ここが冒険者ギルド?」
ルビーに案内を任せて、しばらくすると大きめの建物の前で立ち止まる。
三階建てになっていて、この辺りにある家と比べてもかなり大きい。
街の外から見えていたのは、この建物だったのか?
「お嬢は俺たちが守ってやるから安心しな」
「お嬢様をお守りするのは私の務めです」
これもお約束といえば、お約束なのかな。新参者や、今の俺のように不釣り合いな者が絡まれるという……一昔前の西部劇か?
注意をしながら、バナンが扉を開ける。
しかし待っていたのは、誰もいないガランとした空間だった。
右を見ても、左を見ても冒険者らしき人は誰もいない。
「ああ、出払っているのか。ちょうどいいぜ」
何がちょうどいいのか、どんな人がいるのか知りたいんだけど……皆の様子からして冒険者たちがいたというのなら、何が起こるのかは予想できるな。
普通に考えて、バナンたちだけならともかく、問題は俺だよな。
「ええ、そのようですね。さ、お嬢様、中へどうぞ」
受付に座っている人の所に向かうのだが……カウンターの前には椅子もなく、俺の身長だと顔だけが覗く程度だ。
こういうものを見ると、自分が子供だと実感させられるな。
今はちょうど成長期に差し掛かるところだから、これからぐんぐん伸びるはず。
「おねーさん。冒険者登録ってどうするの?」
受付の人は、ルビーの顔を見て、バナンの顔を見て、カウンターの向こうから覗いている俺を見つけると、引きつった笑顔になっていた。
声はすれども姿が見えず、ようやく見つけた相手が子供だったのだから、困惑もするか。ごめんね、小さくてさ。
「え、えっと。登録は基本的にはどなたでも……規則で十八歳からなんですが、失礼ですがお幾つなんですか?」
「年齢制限があったのか。ちょっと残念だな」
「お嬢様? もしかして、冒険者になるおつもりだったのですか?」
「それも面白い話だけど。質問ですが、冒険者に登録すれば依頼が受けられますよね?」
「はい、登録をしていただいた方にこのようなギルドカードを発行しております。このカードを通じて依頼の受諾、完了にも使用します。魔力での登録になりますので、他の方がカードを使うことはできませんよ」
ギルド管理はカード方式か。そして、魔力で管理しているから不正はできない。しかし、それは依頼に限っての話だ。
「では、次の質問です。仮に私が登録をできたとして、あそこにあるような依頼、薬草の採取や討伐を私でない誰かが、私の指示のもとで完了した場合はどうなりますか?」
「つまりどういうことなのですか?」
「ちょっと言い方が悪かったのかも。薬草の採集を受けたとして、その薬草をこのバナンが集めて私に譲り、私が完了の報告をした場合、これは不正になりますか?」
この話だけで、今後の生活が一変するかもしれない。
できることなら大丈夫であってほしい。
これが可能であれば、屋敷にいる元冒険者を使って金が手に入る。
受付の答え一つで、この先の道筋が大きく変わってくる。




