第6羽 龍の国――見えざる天狼館
――竜の国。
天狼館は、竜の国のはるか高い空を飛んでいた。
アキトは窓の外を見つめる。
「……あれが、竜の国……」
眼下には、広大な大地。
遠くには街が見える。
そのさらに先には、深い森が広がっていた。
しかし――
「……静かですね」
スウィッシュが呟く。
「以前の竜の国とは、少し違います」
街の一部には、壊れた建物。
ところどころから煙が上がっている。
「何があったんだ……」
アキトが呟いた。
アークは窓の外を見ながら、静かに言った。
「敵に攻撃されたんだろうな」
その時だった。
《戦闘区域への接近を確認》
天狼館の中に、機械音声が響いた。
「戦闘区域?」
アキトが振り返る。
《搭乗者の戦闘適性を確認します》
三人の身体が淡い光に包まれる。
「えっ、なにこれ!?」
《対象――アキト》
《対象――アーク》
《対象――スウィッシュ》
《身体能力・反応速度・戦闘適性を解析》
アークは自分の身体を見ながら笑った。
「天狼館が俺たちを調べてるみたいだな」
「調べるって……何するんだよ」
《適合武器を生成します》
「武器!?」
アキトが驚く。
天狼館の中央から、三つの光が現れた。
その光は、それぞれの前へ移動する。
そして――
アキトの前に、一振りの剣が現れた。
「……剣」
アキトは恐る恐る手に取る。
ずしりとした重さが伝わってくる。
「これが……俺の武器?」
《適合武器を確認》
《戦闘経験・身体能力を考慮し、基本武装として生成》
「基本武装……」
アキトは剣を眺める。
まだ名前はない。
ただの剣。
今のアキトに必要なものとして、天狼館が作った武器だった。
その隣では――
アークの前にも剣が現れていた。
「剣か」
アークが手に取る。
そして同時に、腕へ小さな装具が装着された。
「なんだ、これ?」
アキトが尋ねる。
アークが腕を動かす。
カシャン。
装具から、狼の牙を思わせる刃が展開する。
「……!」
アキトが目を丸くする。
アークは刃を見て、ニヤリと笑った。
「こいつは面白ぇな」
《副武装――天狼牙装》
「天狼牙装……」
アキトが名前を繰り返す。
アークは腕を振る。
天狼牙装の刃が鋭く空気を切り裂いた。
「剣だけより、こっちも使えってことか」
アークは剣と天狼牙装を交互に見る。
「悪くねぇ」
そして――
スウィッシュの前にも、一つの武器が現れた。
長い槍。
装飾は控えめだが、穂先には龍を思わせる意匠がある。
スウィッシュはそれを手に取った。
「……槍」
一度、軽く振る。
空気を切る音。
スウィッシュの動きには迷いがなかった。
アキトが驚く。
「使えるの?」
「はい」
スウィッシュは槍を構える。
「この槍には、覚えがあります」
「覚え?」
「初代の頃から、天狼館に伝わってきた武器の一つです」
アキトが槍を見る。
「じゃあ、すごい武器なんじゃ……」
「いいえ」
スウィッシュは静かに首を横に振った。
「今は、ただの槍です」
「ただの?」
「はい」
スウィッシュは槍を握り直す。
「武器は、使う者によって変わります」
「いつか私自身の武器にできれば、それでいいのだと思います」
アークが笑った。
「なるほどな」
その時――
天狼館のシステムが再び反応した。
《三名の武器生成を完了》
《現在の戦闘能力に合わせた基本構成です》
アキトが首を傾げる。
「基本構成?」
《武器は使用者の成長に合わせ、改良・再構成が可能です》
「……成長したら、武器も変えられるのか」
《肯定》
アークが面白そうに笑う。
「じゃあ、これから強くしていけるってことだな」
スウィッシュも頷く。
「天狼館には、まだ私たちの知らない機能があるのかもしれません」
三人が武器を確認している、その時だった。
遠くから、何かが飛んできた。
「……敵だ」
アークが窓の外を見る。
複数の飛行兵。
アキトが剣を握る。
「こっちに来る!」
しかし――
飛行兵たちは天狼館のすぐ近くを通過した。
そして、そのまま何事もなかったかのように遠ざかっていく。
「…………」
三人が顔を見合わせる。
「……今、通ったよね?」
アキトが言う。
「はい」
スウィッシュも首を傾げる。
アークが窓の外を見る。
「いくら高いところを飛んでるとはいえ……」
天狼館を見上げる。
「こんなデカいもん、普通なら見つかっていいだろ」
「見つかったら、まとにされるぜ」
「……なのに、何もしてこない」
三人は揃って不思議そうな顔をした。
天狼館は何事もなかったかのように、空を進んでいる。
そして――
天狼館の中央。
そこに置かれていた一つのペンダントが、淡く光った。
「……?」
アキトが振り返る。
スウィッシュが持っているものとは違う。
アキトは近づいた。
「これ……何だ?」
ペンダントが、さらに強く光る。
次の瞬間――
ふわり。
ペンダントが宙に浮いた。
「えっ?」
アキトの目の前まで飛んでくる。
そして――
カチッ。
まるで最初から決められていたかのように、アキトの首元へ自然に収まった。
「……俺に?」
アキトがペンダントを握る。
しかし、天狼館は何も答えない。
ただ、中央に淡い光が走った。
まるで――
「持っていけ」
そう言っているようだった。
アキトはペンダントを見つめる。
アークとスウィッシュも、黙ってそれを見ていた。
そして天狼館は、竜の国の空を進み続ける。
三人の新たな武器とともに。
まだ始まったばかりの、竜の国での冒険へ向かって。
――第6羽・了




