↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/7

天狼館 第7羽「王子の決断 ― 竜の国・最初の戦い ―」

天狼館から降りた三人は、竜の国の大地を歩いていた。


アキトは、首に掛かったペンダントに触れる。


「……これ、なんなんだろうな」


天狼館の中心に置かれていたはずのペンダント。


それが何の説明もなく、自然にアキトの首へと移動してきた。


アークも不思議そうに眺めている。


「俺にも分からねぇな」


スウィッシュもペンダントを見る。


「……私にも分かりません」


「ですが、今はこの国の状況を優先しましょう」


三人の前には、広大な大地が広がっていた。


遠くには森。


その向こうには、いくつもの街が見える。


しかし、ところどころから煙が上がっている。


戦いが起きているのだ。


スウィッシュは、その光景を黙って見つめていた。


「……故郷なんだよな?」


アキトが尋ねる。


「はい」


スウィッシュは静かに答えた。


「私は、この国で生まれ育ちました」


「王都にも住んでいました」


アークが振り返る。


「だったら、王都へ行けばいいんじゃねぇのか?」


スウィッシュはしばらく黙っていた。


「……本当なら、そうしたいです」


「ですが――」


スウィッシュは周囲を見渡した。


「今の私たちには、情報が足りません」


「敵がどこにいるのか」


「どれほどの戦力なのか」


「王都が今どうなっているのか」


「何も分からないまま向かうのは危険です」


アキトは頷いた。


「じゃあ、どうする?」


スウィッシュは地図を広げた。


そして、王都から離れた場所を指差す。


「ここへ向かいましょう」


「ここ?」


「私の叔父が治めている領地です」


アークが地図を覗き込む。


「叔父さんの町か」


「はい」


「王都からは離れていますが、ここなら情報を集められるかもしれません」


アキトが頷く。


「まずそこを拠点にするんだな」


「その通りです」


スウィッシュは地図をしまう。


「王都へ向かうのは、それからです」


アークがニヤッと笑った。


「なるほどな」


「おまえ、結構頭いいじゃねぇか」


「ありがとうございます」


スウィッシュは小さく笑った。


「私は王都で、騎士たちと共に国を守るための訓練を受けていました」


「こういう状況で、焦って動くことがどれほど危険なのかは分かります」


アキトは少し驚いた。


「騎士だったのか?」


「正式な騎士というわけではありません」


「ですが、王都ではそういった人々と行動することが多かったです」


アキトは納得した。


だから、あれほど戦い慣れていたのか。


アークも笑う。


「なるほどな」


「そりゃ、戦い方が違うわけだ」


三人は、叔父の領地へ向かって歩き始めた。


しばらく進むと、森の向こうに町が見えてきた。


大きな王都ではない。


山と森に囲まれた、静かな町だった。


「……ここです」


スウィッシュが足を止める。


「私の叔父が治めている町です」


アキトは町を見つめた。


「思ったより、無事そうだな」


「はい」


スウィッシュも少しだけ安心した表情を見せる。


だが――


「……待ってください」


スウィッシュが突然立ち止まった。


アークが振り返る。


「どうした?」


「静かすぎます」


三人は周囲を見渡した。


風が木々を揺らす音。


それ以外には、ほとんど音がない。


スウィッシュは槍を構えた。


「警戒してください」


その瞬間――


森の奥から人影が飛び出してきた。


敵兵だった。


「来ます!」


スウィッシュが叫ぶ。


敵兵が一斉に三人へ向かってくる。


「アーク!」


「任せろ!」


アークが前へ飛び出す。


剣を振り抜く。


そして腕の天狼牙装が展開した。


狼の牙のような刃が伸び、敵の武器を弾き飛ばす。


「へっ!」


スウィッシュが目を細める。


「あなたも、やりますね」


「おまえこそな!」


スウィッシュは槍を構え、敵の動きを読む。


「左!」


アキトへ向かってきた敵を、スウィッシュが素早く牽制する。


「アキトさん、今です!」


「分かった!」


アキトが剣を振る。


しかし――


「くっ……!」


敵の攻撃を受け止めた瞬間、腕が痺れた。


「重い……!」


アキトは後ろへ下がる。


アークとスウィッシュは、次々と敵を倒していく。


二人には戦いの経験がある。


だが、アキトにとっては違った。


これが、本当の戦いだった。


「アキ!」


アークが叫ぶ。


「焦るな!」


「相手をよく見ろ!」


アキトは息を整えた。


敵を見る。


肩。


足。


剣を握る手。


次の動き。


「……見える」


敵が踏み込んできた。


アキトは一歩下がる。


攻撃をかわす。


そして――


剣を振り抜いた。


敵が倒れる。


「……!」


アキト自身が驚いた。


「やった……」


アークが笑う。


「おっ!」


「やるじゃねぇか、アキ!」


スウィッシュも微笑んだ。


「あなたも、やりますね」


「……二人みたいには、まだ全然だけどな」


「それでも十分です」


スウィッシュは答えた。


「今の一撃は、あなた自身が掴んだものです」


三人は再び敵へ向き直る。


アークが正面から敵を崩す。


スウィッシュが敵の動きを読み、指示を出す。


そしてアキトが、その隙を狙う。


少しずつ。


三人の動きが噛み合っていく。


やがて――


最後の敵が倒れた。


静寂が戻った。


アキトは荒い息を吐く。


「……終わった?」


アークが剣を肩に乗せる。


「今のところはな」


しかし、スウィッシュは敵が来た方向を見つめていた。


「……違います」


「これは、始まりです」


アキトが振り返る。


「始まり?」


「敵は、ここまで来ています」


スウィッシュは町を見る。


「この町も、いずれ狙われるでしょう」


「なら――」


アキトが拳を握る。


「守らないとな」


スウィッシュはアキトを見る。


そして、静かに頷いた。


「はい」


「まずは、この町を守ります」


「そして、ここを拠点に情報を集める」


「その上で、周辺の町を一つずつ取り戻していきましょう」


アークが笑う。


「いいじゃねぇか」


「やっと俺たちの冒険らしくなってきたな」


三人は町へ向かって歩き出した。


そのとき――


町の入り口から、一人の男がこちらへ走ってくる。


「……スウィッシュ様!」


スウィッシュが足を止めた。


「……!」


男はスウィッシュの前まで来ると、深く頭を下げた。


「ご無事だったのですね……!」


アキトが首を傾げる。


「様……?」


アークも不思議そうに男を見る。


「おい、スウィッシュ」


「今の『様』って――」


スウィッシュは答えなかった。


男は三人を見る。


そして、驚いたように目を見開く。


「……まさか」


「こちらのお二人は?」


そのとき、町の奥から別の男が現れた。


落ち着いた雰囲気を持つ、年配の龍人だった。


スウィッシュは、その姿を見た瞬間に表情を変えた。


「……叔父上」


男はスウィッシュを見つめる。


そして、アキトとアークへ視線を移した。


「よく戻ったな、スウィッシュ」


「はい」


スウィッシュは頭を下げる。


「叔父上、お話があります」


「分かっている」


叔父は静かに答えた。


「まずは中へ入りなさい」


アキトはアークの顔を見る。


「……叔父上?」


アークも首を傾げる。


「なんか、話がでけぇな」


そして叔父は、二人へ向き直った。


「あなた方には、まだ伝えていないのだな」


スウィッシュは黙っている。


叔父は静かに告げた。


「この方は――」


「我が兄、竜王の息子」


「この国の王子、スウィッシュです」


「…………え?」


アキトの目が大きく開く。


「……王子?」


アークも固まった。


「お、おい……」


スウィッシュは静かに目を伏せる。


「……申し訳ありません」


「今は、自分の身分を明かすべきではないと判断しました」


アキトはしばらくスウィッシュを見つめた。


そして――


「えええええっ!?」


町に、アキトの声が響き渡った。


こうして――


三人の旅は、新たな事実とともに動き始めた。


そして竜の国を取り戻す戦いもまた、ここから始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。