第5羽「竜の国へ」
――天狼館は、光の中を進んでいた。
窓の外には、見たこともない星々が流れていく。
アキトは窓に近づき、外を眺めていた。
「……本当に、竜の国へ向かってるんだ」
「そのようです」
スウィッシュが答える。
その声は、どこか懐かしそうだった。
「もうすぐ……帰れる」
「スウィッシュ……」
アキトが振り返る。
「竜の国って、どんなところなの?」
「……美しい国です」
スウィッシュは微笑んだ。
「空には巨大な竜が飛び、山々には古い遺跡があります」
「人々と竜が共に暮らし、長い歴史を受け継いできました」
「へえ……」
アキトは目を輝かせる。
「一度、見てみたいな」
「きっと……気に入っていただけると思います」
スウィッシュも笑った。
けれど、その笑顔はほんの少しだけ寂しかった。
「……本当なら」
「え?」
「今も、そうであるはずなのですが」
スウィッシュは窓の外へ視線を戻した。
「…………」
アークが黙ってスウィッシュを見る。
「何か、気になることがあるのか?」
「……分かりません」
スウィッシュは首を振った。
「ただ……胸騒ぎがするのです」
その瞬間だった。
――ピッ。
天狼館のモニターに、映像が映し出された。
「ん?」
アキトが画面を見る。
遠くに、一つの惑星が映っている。
青く、美しい星。
その周囲を、大きな雲が覆っていた。
「これが……竜の国?」
「はい」
スウィッシュは答えた。
しかし――
「……おかしい」
「どうしたの?」
「生命反応が……少なすぎます」
スウィッシュの顔から、笑顔が消えた。
アークもモニターを見る。
「都市の反応もほとんどねぇな」
「そんな……」
アキトが画面を見つめる。
「本当に、ここが竜の国なの?」
「……間違いありません」
スウィッシュは静かに答えた。
「私の故郷です」
――その瞬間。
スウィッシュの脳裏に、あの光景が蘇った。
赤く染まった空。
燃える街。
逃げ惑う人々。
そして――
何か巨大なもの。
「……っ!」
スウィッシュが胸元を押さえる。
「スウィッシュ!」
アキトが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……はい……」
スウィッシュは息を整える。
「大丈夫です……」
だが、その声は震えていた。
その時――
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
天狼館が大きく揺れた。
「うわっ!」
アキトが壁に手をつく。
「何だ!?」
アークが周囲を見回す。
天狼館のモニターに、赤い文字が浮かび上がった。
――WARNING――
「警告……?」
アキトが呟く。
「敵か?」
アークが身構える。
しかし、モニターには敵の姿は映らない。
ただ、
《進行を停止します》
という表示だけが出ている。
「なんで止まるの?」
アキトが尋ねる。
その時――
スウィッシュの胸元が淡く光った。
「……え?」
ペンダントだった。
スウィッシュが取り出す。
古いペンダントが、まるで天狼館に呼応するように輝いている。
「これは……」
アキトが近づく。
「そのペンダント、何なの?」
「……代々、受け継がれてきたものです」
スウィッシュはペンダントを見つめる。
「私も、詳しいことまでは知りません」
すると――
天狼館のモニターに新たな文字が浮かび上がった。
《認証情報を確認》
「認証……?」
アークが眉をひそめる。
「この天狼館がお前のペンダントを認識したってことか?」
「……分かりません」
スウィッシュも困惑している。
「ですが……」
ペンダントを握りしめる。
「この光を見たのは、初めてです」
しばらく、誰も言葉を発しなかった。
やがて天狼館が再び動き始める。
「……動いた」
アキトが呟く。
そして――
窓の外に、巨大な惑星が近づいてきた。
竜の国。
スウィッシュの故郷。
その姿が、はっきりと見えてくる。
しかし――
「…………」
スウィッシュは言葉を失った。
かつて美しかったはずの国。
その空は暗く、厚い雲に覆われている。
都市の明かりも、ほとんど見えない。
「……そんな……」
スウィッシュの声が震える。
「スウィッシュ……」
アキトがそっと名前を呼ぶ。
スウィッシュは窓に手を添えた。
「……帰ってきました」
その目には、喜びと悲しみが入り混じっていた。
「私の……故郷に」
その時だった。
――ドン。
遠くの空で、何かが動いた。
巨大な影。
雲の向こうを横切っていく。
「……今の、何?」
アキトが目を凝らす。
アークも影を追う。
「……見えなかったな」
スウィッシュだけが、凍りついたようにその場所を見つめていた。
「……まさか……」
「スウィッシュ?」
スウィッシュは答えない。
ただ、震える声で呟いた。
「……あれが……」
そして――
天狼館は、竜の国へと近づいていく。
誰も知らない。
この国で何が起きたのか。
そして――
あの巨大な影が何なのか。
――第5羽・了




