第4羽「竜の国」
――静かだった。
どこか遠くから、機械が動くような低い音が聞こえている。
「…………」
スウィッシュは、ゆっくりと目を開けた。
見知らぬ天井。
白く淡い光が、視界に入る。
「……ここは……?」
身体を起こそうとした瞬間、
「っ……!」
胸に痛みが走った。
「無理しないで!」
声がした。
振り向くと、そこには一人の少年がいた。
心配そうな顔でこちらを見ている。
「……あなたは?」
「僕? アキト」
少年――アキトは、ほっとしたように笑った。
「よかった……目が覚めた」
スウィッシュは周囲を見渡す。
見覚えのない部屋。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
「ここは……どこなのですか?」
「ここは天狼館だよ」
「……天狼館?」
その名前を聞いた瞬間。
スウィッシュの表情が、ほんの少し変わった。
「……天狼館……」
「知ってるの?」
アキトが尋ねる。
「……いえ」
スウィッシュは首を横に振った。
「名前を……聞いたことがあるような気がしただけです」
その時だった。
「おい、アキト」
部屋の入口から声がした。
アキトが振り向く。
「アーク」
そこに立っていたのは、アキトによく似た少年だった。
けれど、その雰囲気はまるで違う。
スウィッシュがじっとアークを見る。
「……あなたは?」
「俺はアーク」
アークは短く答えた。
「こいつの……まあ、相棒みたいなもんだ」
「相棒?」
「ちょっと! 勝手に決めないでよ!」
アキトが抗議する。
「じゃあ何だよ」
「……」
「ほら」
「……もういいよ」
アキトは呆れたように笑った。
スウィッシュも、思わず小さく笑う。
「ふふ……」
その笑顔を見て、アキトは少し安心した。
「スウィッシュ」
「……はい?」
「君は……どこから来たの?」
その質問に、スウィッシュは少し黙った。
そして、
「私は……」
ゆっくりと言葉を探す。
「竜の国から来ました」
「竜の国?」
「はい」
スウィッシュは窓の外を見る。
「私たちの国は、遥か遠くにあります」
「どんなところなの?」
アキトが興味津々に尋ねる。
スウィッシュは少しだけ笑った。
「……美しい国ですよ」
「空には大きな龍が飛び、山々には古い遺跡があります」
「そして、長い年月を生きる者たちもいる」
「なんだか……すごいな」
「ええ」
スウィッシュの表情が柔らかくなる。
「私は、あの国が好きでした」
「……でした?」
アキトが気づく。
スウィッシュは答えない。
しばらくして、
「私は……そこに帰らなければなりません」
「どうして?」
「それは……」
スウィッシュは目を閉じる。
「…………」
何かを思い出そうとしている。
すると――
頭の中に、突然映像が流れ込んできた。
――赤い空。
――燃える街。
――遠くで響く警報。
「スウィッシュ様!」
誰かが叫んでいる。
「早くこちらへ!」
「何が起きているのですか!?」
「分かりません!」
轟音。
大地が揺れる。
何か巨大なものが、空から落ちてくる。
「……っ!」
スウィッシュは頭を抱えた。
「スウィッシュ!?」
アキトが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……あ……」
息が荒くなる。
「……国が……」
「国?」
「竜の国が……」
スウィッシュの目に、恐怖が浮かぶ。
「何かに……襲われて……」
「誰に?」
アークが低い声で聞く。
「……分かりません」
スウィッシュは首を振る。
「私は……逃がされたのです」
「逃がされた?」
「誰かが……私を……」
その先が思い出せない。
「……私は、何もできなかった」
スウィッシュが拳を握る。
「ただ……逃げることしか……」
アキトは静かに言った。
「それなら、今は無理に思い出さなくてもいいよ」
「……ですが」
「大丈夫」
アキトはスウィッシュの目を見る。
「君がここに来たってことは、きっと何か理由があるんだと思う」
「……」
「だったら、僕たちが一緒に探せばいい」
スウィッシュが驚いたようにアキトを見る。
「……一緒に?」
「うん」
アキトは迷いなく答えた。
「君の国で何が起きたのか、確かめに行こう」
アークがため息をつく。
「……お前、本当にそういうところは変わらねぇな」
「え?」
「いや、何でもねぇ」
その時――
ゴゴゴゴゴ……。
天狼館全体が、低く唸った。
「……?」
三人が顔を見合わせる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
壁に淡い光が走る。
「な、何これ!?」
アキトが驚く。
天狼館の奥から、巨大な機械音が響き始める。
そして空中に、一つの表示が浮かび上がった。
――DESTINATION――
その下に、文字が現れる。
《竜の国》
スウィッシュは目を見開いた。
「……天狼館が……」
アークも驚きを隠せない。
「行き先を……認識した?」
アキトは表示を見つめる。
そして、静かに笑った。
「……行こう」
スウィッシュがアキトを見る。
「アキト……」
「君の国へ」
天狼館が大きく震える。
轟音とともに、周囲の景色が光へと変わっていく。
そして――
天狼館は、竜の国へ向けて動き始めた。
その先に待つものが何なのか。
まだ、誰も知らない。
――第4羽・了




