第7話 宇崎百花は身バレしてる可能性に気づく
「さっきの優勝イラスト、ちょっと見せてくれない?」
配信終了と同時に「今から会える?」と、くるから連絡がきた。
珍しいと思いながら、隣の部屋だからすぐだし「おっけ」と返したら、速攻でインターフォンが鳴った。そんな大急ぎ案件なの?
「イカ焼き屋さんの? これ?」
パソコンの壁紙を指さすと「早くない?」とツッコまれた。なんならロック画面も変えたし。
本当はスマホの壁紙にもしたいけど、それはちょっと身バレリスクあがるんじゃ? と我に返ってやめた。
くるが壁紙をまじまじと見てから、盛大な溜息をついた。
「もかに確認したいんだけどさ」
「おう?」
なんかくるの視線が「なんでこいつ気づかないんだ」って言ってる気がする。たぶん気のせいじゃないんだろうけど、何のことか身に覚えがない。
くるが呆れたような声で言う。
「これと同じ服、持ってなかった?」
「んおう?」
イラストの可愛さに夢中で服装まで見てなかった。
デニムジャケットは、まあ、ありがちなアイテムだよね、うん、かわいい。レーストップスも、まあ、あるある。紺のショートパンツもそうだね、かわいい。うん、
でも、なんだろう、細かいポイントと着方が、私に似てる気がするな……気のせいかな? って顔でくるを見ると首を横に振られた。解せぬ。
「もかのコーデとまるきり同じなのよ」
「偶然、では」
視線が泳ぐ。いや、うん、わかってる、わかってるのよ。
「帽子と靴も同じで?」
お気に入りのワインレッドのハイカットスニーカーと黒のキャップまでかぶるのはなー。しかもロゴおなじだしー。
まるいねこのクッションを抱えながら「ぐぬー」と唸る。
気のせいで終わらせたいんだけど、くるが容赦ない。
「……言って良い?」
「もうちょっとまって……!」
もう少しその答えを待ってほしい。もう少し言い訳をさせてほしい。
「たまたま、イカ焼き屋さんと私の服の好みが似ていて……」
「それでこんな一致する?」
「いや、でも、たまたまどっかでこの服着てた私を見かけて『お、可愛いからこれ描こう』ってなったのかも」
「それよりも身バレしてるほうが可能性高くない?」
「いやー! まだ言わないでって言ったのにー!」
推しに配信バレてるのもつらいのに、そこから身バレすらしてるのはヤバすぎる!
「イラスト描いてもらって浮かれてる場合じゃなくない?」
「だってだってだってー! 推しの新規絵だもん!」
「いや、銀杏先生と全然絵柄違うじゃん」
「違ってもわかるもん! オタクだから!」
「まあ、もかの推しかどうかは大事じゃないのよ。問題は身バレのほう」
それはそうなんだけどー!
でも推しかどうかは大事なんですー!
そんな現実見ろって目をされても!
「……どうしようか」
「やっと頭冷えたか」
ふらふらしながら台所に行って、冷たいお茶の入ったグラスを二つ持ってくる。
片方くるに渡して、ため息をつく。
「まずいよねー……」
「住所バレしてないと良いけど」
住所はまずいなー。
推しとはいえ住所はまずい気がするなー。
推しじゃなかったらもっとまずいけど。
「ちょっと配信控えたほうが良いかな?」
「配信でバレるようなことはしてないはずだけど、まあ念のため?」
「救急車とかのサイレンの音で位置がバレるとかあるらしいじゃん?」
「可能性は低いけど、まああるね」
私もそんなよくある話だとは思わないけど、うっかり外の音を拾って住所バレすることはあるらしいし。
雑談楽しいのになあ。
「夜、たまに電話してもいい?」
「……長電話じゃなければ許す」
誰かとしゃべりたい夜にやってた配信だから、しゃべりたくなったらちょっとだけ付き合って。
そう頼むと、クールな親友は渋々了解してくれた。やさしー。
「あと私生活で何気を付けたら良いんだろうね」
「大学で配信の話はやめたほうがいいんじゃない?」
「……周りに人がいるときはやめる……」
はー、身バレこわいなーやだなー
せっかく楽しい気分だったのに、こんな一気に冷めちゃうんだ。
どのくらい配信お休みすればいいのかなーみんなになんて言おうかなー。




