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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第54話 穏やかな時間

 これからの方向性が定まってからというもの、不気味に現れていた黒い影は、嘘のように姿を見せなくなり、屋敷には久しく穏やかな時間が流れていた。張り詰めていた空気がほどけたことで、日常のひとつひとつが、どこかありがたく感じられる。

 とはいえ、すべてが元通り、というわけではなかった。


 エリカとリリアーナの関係も、そのひとつだ。


 姉妹であると判明してからしばらくのあいだ、二人の会話にはどこかぎこちなさが残っていた。互いにどう接するべきかを探るような、わずかな距離感。ふとした瞬間に言葉が詰まり、妙に意識してしまう。

そんな、少しだけくすぐったいような、何かつかえているような空気が流れていた。

 だがそれも、時間とともにゆっくりとほぐれていった。

「エリカ、そこはそうじゃないでしょう?」

以前と変わらない調子で、リリアーナが軽く笑いながら指摘する。

「え、そうですか? ちゃんとできてると思ったんですけど。」

エリカが困ったように返すと、くすりと楽しそうに笑う。その様子は、徐々に元の気さくさを取り戻していた。

 一方で、アルベルトはというと、特に何も変わらなかった。相変わらず無駄のない言動で、淡々と日々を過ごしている。だがその変わらなさが、逆に安心感を与えてくれていた。

 そしてレオンもまた、変わらず屋敷に顔を出していた。アルベルトの朝の稽古に付き合うため、定期的に訪れるその姿はすっかり日常の一部になっている。

「今日もやりますか?」

 軽い口調で言いながらも、稽古中の彼の動きには一切の隙がない。飄々とした態度と、確かな実力のギャップは相変わらずだった。以前は少し苦手意識を抱いていたはずなのに、今はそれがほとんどない。

その距離感に慣れたのか、それとも彼の人柄を理解したからなのか。理由ははっきりしないが、少なくとも警戒はしていなかった。


 そんな中で――

 最も大きく変わったのは、屋敷で働くメイドや執事たちの態度だった。

 エリカの正体が明らかになったとき、その反応は予想以上のものだった。

 驚き、戸惑い、そして、恐縮。

「も、申し訳ございませんでした……!」

 深く頭を下げるメイドや執事たち。中には、これまで敬語を使っていなかったことや、仕事の指示を出していたことに対して、平謝りする者までいた。

「いや、そんな……!」

 エリカは慌てて手を振る。

「本当に気にしないでください! 今まで通りで大丈夫ですから!」

 必死にそう伝える。彼らはこれまでずっと親切で、面倒見がよくて、自分にとって大切な存在だった。

その関係が変わってしまうのは、どこか寂しい。

「……承知いたしました。」

 メイドたちはそう答えながらも、どこか一歩引いた態度になっているのは否めなかった。

(やっぱり、すぐには難しいよね……)

そう思いながらも、少しずつでも以前と同じ距離感で話ができる関係になれたらいいと、エリカは願っていた。


 そんなある日のこと。

 自室で本を読んでいると、扉が軽くノックされる。

「エリカ、入ってもいいかしら?」

聞き慣れた声に、エリカは顔を上げた。

「はい、どうぞ。」

扉が開き、リリアーナが姿を見せる。どこか楽しげな表情だった。

「少し、いいかしら?」

「はい、もちろんです。」

本を閉じながら答えると、リリアーナはにこりと微笑んだ。

「実はね、サラが遊びに来るの。」

「サラ様が?」

思わず声が弾む。あの明るくて笑うとふわっと周りに花が咲くような柔らかいサラの表情を思い出す。

「ええ。」

リリアーナは頷く。

「あなたのことも話したいし、せっかくだから三人でお茶でもどうかと思って。」

その提案に、エリカは迷うことなく頷いた。

「ぜひ、お願いします!」

自然と笑顔になる。こうして、少しずつ広がっていく関係もまた、今の自分にとって大切なものだと感じていた。リリアーナは満足そうに微笑むと、「日時はまた伝えるわね」と言って部屋を後にする。

 扉が閉まったあと、エリカはもう一度本を開こうとして、ふと手を止めた。

(……楽しみだな。)

 自然と、そんな気持ちが浮かぶ。


 穏やかな日常。新しい関係。そして、まだ見えないこれから。そのすべてを抱えながら、エリカは先ほどまで読んでいた本を再び手に取り、静かにページをめくった。


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