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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第53話 これから

 あの日から、およそ二週間。

 エリカは、リリアーナやアルベルトと、時折レオンも交えながら、これから先の在り方について何度も話し合いを重ねていた。


 一度決意したとはいえ、それを現実としてどう形にしていくかは、まったく別の問題だった。話し合いは、思っていた以上に細かく、そして現実的なものになった。


 まず最初に決まったのは、エリカ自身の立場についてだった。

「メイドではなく、正式に妹として迎えるべきね。」

そう言ったのは、リリアーナだった。

「あなたは、アルディス公爵家の次女として生きるべきよ。」

アルディス公爵家。リリアーナとエリカの実家の名だった。その言葉に、エリカはゆっくりと頷く。この選択には、感情だけでなく、はっきりとした理由があった。


 ひとつは、もしまた影が現れたときにメイドである自分が狙われた場合、周囲の執事やメイドたちを巻き込んでしまう可能性があるということ。そしてもうひとつは、公爵家の次女という立場であれば、自然と守られる範囲が広がるという現実的な利点だった。その結論に至るまでに、大きな反対は出なかった。

アルベルトは静かに頷きながら言った。

「合理的だな。」

そしてレオンもまた、軽く肩をすくめる。

「むしろ、その方が自然でしょうね。」


 こうして、エリカはメイドとしての自分に一区切りをつける決意を固めた。


 次に問題となったのは、その事実を、どう周囲に浸透させるかだった。そこで浮上したのが、魔法使いである母の記憶の書き換えだった。数日かけて話し合った末、エリカは母へと依頼の手紙を書いた。

だが、その返事は、思いもよらないものだった。


「……え?」

 手紙を読みながら、エリカは思わず声を漏らす。そこに書かれていたのは、記憶の書き換えに関する重大な制約だった。


 ――記憶の書き換えには、非常に大きな負担がかかること。

 ――一度使用すると、およそ半年はその力を使うことができなくなること。


「そんな......。」

 思わず呟く。さらに、追い打ちをかけるように続きが書かれていた。


 エリカを日本へ転生させた際、唯一その影響を受けなかった「何者か」。その存在に対して、母はこれまで何度も記憶の書き換えを試みてきたという。だが、いまだ、一度も成功していない。そして現在、その影響で力は使用不可の状態にあり、次に使えるのは約三か月後になるとのことだった。


「つまり、今は頼れないってことか。」

アルベルトが短くまとめる。エリカは静かに頷いた。

ただ、手紙にはそれだけで終わらない一文が添えられていた。


 ――“次女なのだし、いっそのことメイドとして修行していた、ということにしてしまえばいいのでは?”


 エリカは、その一文を何度も読み返す。

「そんな、うまくいくかな。」

半信半疑で呟く。だが、それを聞いた三人の反応は意外なものだった。

「……まあ、いけるな。」

アルベルトが、あっさりと言い切る。

「貴族の中には、身分を伏せて修行に出る者もいるわ。」

リリアーナも納得したように頷く。

そしてレオンが、どこか楽しそうに口を挟む。

「変に取り繕うより、よほど説得力があります。」

三人の反応を見て、エリカはしばらく考えたあと、小さく息を吐いた。

「……じゃあ、それでいきます。」


 こうして、メイドとして修行していた公爵家の次女という立場が確定し、エリカは正式に貴族としての道を歩むことになった。


 そして、もうひとつの問題。それは、どこで暮らすかだった。当然ながら、アルディス公爵家の本邸へ戻るという選択肢もある。

「しかし、影が現れたとき、対処できない可能性がある。」

アルベルトが冷静に指摘する。アルベルトのいう通りで、現状、戦闘に対応できる人員が整っているのは、このローゼンベルク家の方だ。

「俺と部下がいれば、少なくとも迎撃はできる。」


 最終的に、アルベルトの両親にだけ事情を説明し、しばらくのあいだ、この屋敷に滞在することが決まった。彼らの理解は早く、そして温かかった。


 最後に、レオンの立場についても整理された。

「俺はヴァルディエ家の次期当主ですからね。」

軽く言いながらも、その裏には責任の重さがある。

「正直、常に動けるわけではありません。」

ふっと視線をエリカへ向ける。

「ですが、可能な範囲で関わらせてもらいます。」

その言葉に、エリカはしっかりと頷いた。すべてが、少しずつ決まっていく。それは、ようやくスタートラインに立ったというだけに過ぎない。


 エリカは静かに息を吸い込む。

 これは、自分が書き、そして向き合うと決めた物語だ。これから動き、変えていくのは、その自分自身だ。

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