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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第52話 交わる記憶と真実 3

 すべての話を聞き終えたあと、四人はしばらくその場を動くことができなかった。

あまりにも多くの真実が一度に明かされ、それぞれの中で整理しきれないまま、ただ時間だけが静かに流れていく。


 やがて、誰からともなく立ち上がり、自然と屋敷の外へと足を向けていた。扉をくぐり、外の空気に触れた瞬間、張り詰めていたものがほんのわずかに緩む。振り返ると、そこには先ほどまで魔法使い”して対峙していた女性が、穏やかな表情で立っていた。


「また、いつでもいらっしゃい。」

 その声音は、どこまでも優しく、あたたかい。以前とは違う、距離の近さを感じさせる見送りだった。

エリカは小さく頷き、リリアーナもまた静かに微笑み返す。そうして四人は、屋敷を後にした。


 帰りの馬車に乗り込むと、しばらくのあいだ誰も口を開かなかった。車輪の音と馬の足音だけが響く中、それぞれが胸の内で情報と感情を整理していた。


「……エリカ。」

アルベルトが静かに口を開く。

「お前は、今後どうしたい?」

その問いに、エリカはすぐには答えられない。だがその前に、リリアーナが言葉を重ねた。

「あなたが私の妹だったなんて、嬉しいわ。でも、正直驚きの方がずっと大きいの。」

その率直な気持ちに、エリカは小さく頷く。立場が逆だとしても同じ思いだろう。アルベルトが続けた。

「今まで誰も知らなかったとはいえ、お前はメイドとして生活してきた。」

淡々としながらも、現実を突きつける声音。

「だがこれからは、公爵家の次女として生きることもできる。」

 一瞬、空気が変わる。

「ただ……姉夫婦の家、つまり俺の一家であるローゼンベルク家にそのままいるとなると、多少の違和感はあるだろうな。俺個人は、全く構わないが。」

エリカはその言葉を受け止めながら、思考を巡らせる。


 日本での、ごく普通の生活。そして今のメイドとしての日々。どちらも、自分にとっては当たり前だった。だから、公爵家の娘として生きる未来は、まだ現実味を持っていない。それに、これまで関わってきた執事やメイドたち、顔見知りの貴族たちに、どう説明すればいいのか。その問題も、決して小さくはなかった。


 そのとき、リリアーナがふと思い出したように言う。

「お母様に、記憶を書き換えてもらうことはできないのかしら。」

 その可能性に、エリカは一瞬考える。たしかに、それならすべてを自然な形に整えられる。


「でも、もし書き換えるなら。」

 エリカはゆっくりと口を開いた。

「ちゃんと、これからどう生きるか決めてからにしたいです。」

 視線をまっすぐ前へ向ける。

「中途半端なまま変えてしまったら、きっと後悔すると思うから。」


その言葉に、リリアーナは静かに頷いた。

「そうね。」

アルベルトもまた、小さく息を吐く。

「なら、急ぐ必要はないな。」

レオンも賛同する。

「むしろ、その方が賢明でしょうね。」


 馬車の中の空気が、わずかに落ち着きを取り戻したそのときだった。アルベルトが、改めて口を開く。

「エリカが今後の生活を決めるとして、物語の方はどうする。」

 その問いに、再び視線がエリカへと集まる。


 黒い影。壊された物語。そして、自分を狙う「何者か」。

 すべてを知った今、逃げるという選択も、確かにある。


 エリカはゆっくりと息を吸い込み、迷いを振り払うように顔を上げた。その瞳には、はっきりとした意志が宿っていた。

「私は、ちゃんと向き合いたいです。」

静かで、それでいて揺るがない声。

「自分が書いた物語と、その責任と、全部。」

その言葉は、馬車の中に静かに、しかし確かに響いた。レオンがわずかに口元を緩める。

「なんか、かっこいいですね。」

軽く言いながらも、その声にはどこか満足げな響きがあった。アルベルトもまた、小さく頷く。

「なら、やることは一つだな。」

その目が鋭くなる。短く、力強い言葉。

「原因を突き止めて、止める。」

エリカはしっかりと頷いた。


 馬車は、静かに進み続ける。それぞれの想いと、まだ決まりきらない未来を乗せながら。

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