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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第51話 交わる記憶と真実 2

 暖炉の火が穏やかに揺れる中、誰もすぐには言葉を発することができずにいた。ただそれぞれが胸の内に押し寄せる現実を、必死に受け止めようとしていた。

 その沈黙を、最初に破ったのはリリアーナだった。

「……私が、覚えていなかったのも、記憶が書き換えられていたから、なのですね」

 ゆっくりと顔を上げ、その視線を母へと向ける。確かめるような、けれどどこか納得した響きを含んだ声音だった。

 魔法使いは、その言葉に対して静かに頷く。

「ええ、そうよ。」

 穏やかな肯定。

「目に見えたものも、聞こえたものも、すべてを正確に記憶できるあなたが、妹の存在を知らなかった理由。それは、私があなたの記憶を書き換えたから。」

 リリアーナの指先が、わずかに震える。

「あなたたちを別々にしてしまったこと……本当に、申し訳なく思っているわ。」

 静かに告げられたその謝罪は、暖炉の火よりも温かく、それでいてどこか痛みを伴って、部屋の中に落ちていった。リリアーナはすぐには言葉を返せず、ただ小さく視線を伏せる。

 その沈黙を見届けると、魔法使いは再びゆっくりと口を開いた。

「……話を戻しましょうか。」

 その一言で、空気がわずかに引き締まる。

「エリカの物語通りに進まなくなった理由について。」

 エリカが、無意識に背筋を伸ばす。

「もちろん一つは、あなた自身の行動や、周囲の人間の選択が変わったことによるもの。」

 視線が、アルベルトやレオンにも向けられる。

「けれど、それだけではないわ。」

 一拍の間。

「前にも話したように、この世界には、他にも物語を書いている者がいる。」

 その言葉に、場の空気が一気に張り詰めた。そして、魔法使いはわずかに目を細める。

「正確に言うと、エリカの物語を現実にする力に気づいた何者かが、それに対して必死に抵抗しているの。」

 エリカの鼓動が、強くなる。

「その人物が、自分たちの存在を物語の中のものだと理解しているかどうかは分からない。」

 ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。

「ただ、物語という概念そのものには、気づいている可能性が高いわ。」

 アルベルトが低く問いかける。

「なぜ、そう言い切れる?」

 魔法使いは、わずかに視線を伏せた。

「本来なら、あり得ないからよ。」

 そして顔を上げる。

「私の記憶を書き換える魔法が、効かなかった。」

 その一言は、これまでのどんな説明よりも重かった。レオンが、静かに目を細める。

「つまり、その相手は、あなたの魔法の影響を受けない存在、ということですか。」

「ええ。」

 短く、しかし確信を持って頷く。

「だから、私にも誰なのかが分からない。」

 その言葉に、アルベルトがさらに問いを重ねる。

「いったい、誰がそんなことを。」

 だが、返ってきたのは静かな否定だった。

「それが、分からないの。」

 はっきりとした答えは、同時に不確定な脅威の存在を4人にも実感させるものだった。

 重たい空気が落ちる中、魔法使いは続ける。

「ただ、一つ確かなことがあるわ。」

 その声音が、わずかに低くなる。

「エリカの物語は、一度壊された。」

 エリカの指先が、ぴくりと動く。

「その影響で、あなたが書いたノートはばらばらになり、影となった。」

 あの黒い存在が、脳裏に蘇る。

「そして今、人を襲う存在になっている。」

 冷たい現実が、静かに突きつけられる。

「考えられるのは――」

 魔法使いはゆっくりと四人を見渡した。

「エリカの物語を別の形に変えたい人物がいるということ。」

 言葉を重ねるごとに、輪郭が浮かび上がっていく。

「そして、ばらばらになったノートの断片に魂を宿らせて動かしている……あるいは。」

 わずかに視線がエリカへと向けられる。

「作者であるあなたを見つけ出し、自分のもとへ連れて行こうとしているのかもしれない。」

 その可能性に、空気が一瞬で冷えた。


 沈黙が落ちる。

 誰も、軽々しく言葉を発することができない。


 やがて魔法使いは、ゆっくりと視線をアルベルトとレオンへと移した。

 その瞳には、これまでとは異なる、はっきりとした願いが宿っている。

「お願いがあるの。」

 静かな、しかし確かな声で魔法使いは続ける。

「私の娘たちを、守ってほしい。」

 アルベルトの表情が、わずかに引き締まる。

「あなたは、この国を守ってきた一族の息子。」

 まっすぐに見据える。

「この国の民とリリアーナを、どうかお願いね。」

 その言葉に、アルベルトは短く、しかし力強く頷いた。

 そして次に、レオンへと視線が移る。

「そして、レオン。」

 その呼び方には、どこか深い信頼が滲んでいた。

「あなたの一族は、先祖代々、私たちをずっと守ってきてくれた。」

 静かに、しかしはっきりと告げる。

「あなた方なしでは、生きていけないと思えるほど、大切なパートナーの一族よ。」

 レオンは一瞬だけ目を細め、それからふっと小さく息を吐くように笑った。

「重いですね、それは。」

 だが、その声音には拒絶はない。むしろ、どこか覚悟を決めたような響きがあった。

「エリカのことも、よろしくね。」

 その一言に、レオンはゆっくりと視線をエリカへ向ける。

 ほんの一瞬、目が合う。

「任せてください。」

 静かに、しかし迷いなく答えた。その言葉は、暖炉の火のように確かな温もりを持って、空間に広がっていった。


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